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その7 グレースの正体とソレルの野望

マーリンの母グレースは、男爵にこう言われていた。



「この町の一つくらい、税金を上げたり物資を止めて潰せるんだ。お前さえ言うことを聞けば、今まで通りに暮らせるんだぞ」と。



世間知らずのグレースは、この町の為に犠牲を選んだ。側にいた友人はそう言った。


それは半分本当で、半分は別の理由だった。


『彼女はエルフの王女だった』


グレースはとても呑気な女性だった。

彼女の住んでいた所には、伴侶となる男性エルフが少なかった。それは長寿の種族であり、すぐに子を作ることがなかったのも一因で、人口自体が極端に少ないせいもあった。


彼女は若い頃から別種族とも交わり、子供を1000人以上生んでおり、その子達も既に成人していた。

それでもそれぞれが、他国に旅に行って戻らなかったり、研究に時間を費やすことに集中していたので、婚姻しない子が多かった。


彼女は思った。

「これ以上人口が減ると、誰もいなくなるんじゃない? それは困るわよね」


亜麻色の髪と黄緑の瞳の妖精のような美しさを持っていた彼女は、さらに子を産んでく。そして単身で国を出て、人間国の下町で暮らし始めたのだ。性格が穏やかなので、みんなに愛されてのんびり暮らしていた。


そしてある時思い出した。

「あ、私、彼氏を見つけに来たんだったわ。すっかり忘れてた」


そう言って、下町で何人かと付き合ったが、子は出来なかった。あくまでも彼女の目的は子を産むことなので、婚姻はしない状態だった。


それでもお付き合いは真剣に、一対一で過ごしていたが。幸福ではあったも、彼女は「もう年なので子供が欲しいの」と言い、ある程度すると円満に別れていった。


彼女は若く美しかったが既に900歳を越えており、残り寿命は幾ばくかだった。最後の子供を得たいと、この国に来たのだ。


婚姻をせずに子を産んでいたので、身分は未だに王女だった。

彼女の国では未婚が多く、長い人世を婚姻で結ぶ者は少なかった。


唯一の(つがい)が見つかった者だけが生涯を共にし、その中から国王が選ばれていた。ただ人口が少なくなれば番も生まれなくなる為、研究や趣味に盲目的な者以外は、子を産むように心がけていたのだ。


彼女はエルフ以外にも、精霊や妖精達と子を成し、次代の国王達の為に頑張った。子供が好きだったし、肉体の構成も人間とは違うので、人間ほど苦痛なくスルッと産んでいけた。


そして最後に、一人くらい人間との子も欲しいわと考えたのだ。普通エルフは、長い生涯で10人も子を産まない。グレースが特殊なのだっだ。


人間の国に来たけれど、なかなか孕む気配はない。

やはり、生体構成が違う人間とは子が出来づらいようだった。


そんな時、マリーンの父となる男爵に出会ったのだ。

彼女が彼に感じたのは、人間に混じった精霊の気配だった。

(もしかしたら、子が出来るかもしれない)


男爵はグレースを強引に脅すように囲ったが、彼女にも打算があったのだ。

そうして見事、妊娠したグレース。


彼女は下町での労働するのも、物珍しく楽しいので苦痛ではなかった。マリーンのことも自分に似て、可愛らしくて愛していた。

ただマリーンがエルフの能力である、魔法を使えるのかは解らなかった。ゆっくり様子を見てから、何が出来るか一緒に考えていこうと思っていた時、寿命が尽きてしまったのだ。


エルフは生体になってから姿は変化しないが、その生体構造から弱っているとか老化していることが自覚しづらい。

なので自分でも、まさかこの瞬間に寿命が尽きると思っていなかった。

「あと100年はイケると思ったのに…………」


そう、彼女の死は寿命だった。

過労死とか、どこかに病があったのに無理をしたのではと言われるも、見当違いなのだ。


だがマリーンは、何も知らずに母を失い、義母達に虐げられてしまった。運良くバージルに会わなかったら、どうなっていたことか。


そして番の国王達から生まれた母グレースの亡骸は、本来エルフ国の静謐な場所で永遠に安置されるはずだったのだ。死しても神秘の力が強く宿っているからだ。

グレースを探しているのは、他者に悪用されることを防ぐ目的でもあった。


今の国王ナッカスは、彼女の生んだ子の一人だ。

年齢は300才で、まだ若手ではある。

エルフ国の為に、たくさんの子を産み育てたグレースを尊敬していた。


そんなナッカスが彼女の最期を知れば、どうなるのか予想もつかない。

せめて墓所にあるだろう亡骸だけは、無事に戻したいと願うエルフ達だった。


ただ野心溢れるソレル・アルカネット侯爵は、亡骸を利用して難しい錬金術を試したいと息巻いている。幸いなのは、グレースがエルフだと気づかれていないことだ。



マリーンの平和の為にも、何もないことを願うばかりだ。



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