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その4 バージル家事修行

 「お爺ちゃん、この芋どうなってるの? 皮が厚すぎて食べるとこなくなるわよ」


 「………獲物を捌く時はこんなもんだ。この芋が小さすぎるのが悪い」


「何言ってるの? 大きい方よ、この芋。文句言う前に丁寧にやるの。もうこの世の中に、それしか食べ物がないと思って剥いてみて」


 「芋がなければ、肉を食べれば良い」


 「馬鹿なこと言わないで。肉がどれだけ高額だと思ってるの? 普通の人が、自力で動物を狩る機会なんてないんだから。全く常識のない。もしかして冗談なの?」



仲が良いんだなぁ。

(マーリン)も手伝いたいのだけど、バージルのお孫さんに止められ、厨房の椅子に座り様子を見守っている。


赤髪のお孫さんは、学園の講師をしているミントさん。

既に結婚もしており、6歳の子供さんのいるお母さんだそう。


ここで多めにお料理を作って、自宅にも持っていくと言う。



バージルは料理は買うからしないと反論していたが、外食や調理済みのもののカロリーの高さや、野菜の少なさを力説される。


何より臨時とは言え、当主のマーリン様に安全性のハッキリしないものを食べさせて良いのかと責められたバージル。


「ぐぬぬ。ミントめ」


恨めしそうな顔でミントさんを見るが、へへんとした感じで何にもダメージはないようだ。


「それに外食は高くつくわ。経済的にも自炊しなきゃ。お爺ちゃんが料理人を見つけるまでは、頑張ってよ。別に家から1人連れてきても良いのに」


どうやら、バージルの家には料理をする人がいるみたい。

だとすれば、尚更料理する機会なんてないよね。



そんな様子を眺めていると、バージルが言う。

「お嬢様には、きちんと貴族らしい作法を身に着けてから呼ぶつもりだ。初手で舐められて、お嬢様が辛くなるのは避けねばならん」


「そんなこと、………ないとは言えないか。まあちゃんと考えてたのね。偉いわ」


バージルったら、そんな風に考えてくれたのね。

嬉しいけど、申し訳ないなぁ。


そうと解れば、私も勉強頑張らないとね。



そしてミントさん監修の下、バージルの初めての料理ができた。

カレーライスと、コンソメスープ。


皮むきの指導と何度も味見を重ねたせいで、3時間ぐらい経過。玉葱にも格闘し涙していた。

ミントさんもバージルも、ぐったりだ。


「はー、はー。初日にしては、頑張ったわね。良いできよ、お爺ちゃん」


「ふーふー。余裕だ、この程度。ご苦労様だったな、ミント」



バージルが食卓にお料理を並べて、準備をしている間にミントさんは帰っていった。



「遅くまでありがとうございました、ミントさん」

深々と頭を下げる(マーリン)に、ミントさんは言う。


「このくらい何てことないわ、私も楽しかったし。ただ私は平民でマーリンさんは貴族なんだから、そんなに頭を下げては駄目よ。………それにね、今までお爺ちゃんと関わることがあんまりなくて、急にずっと家にいるから母もお婆ちゃんも何となく戸惑っていたみたいなのよ。仕事ばかりで、家に帰ることも少なかったしね。だから今、なんだか良い感じなのよ」


てへへと笑って、バージルと作ったカレーを持っていくミントさん。


私はその姿を見送っていた。

どうしてこんなに優しいんだろう。


そんな私に声が届いた。

「おーい、お嬢様。さっさと座れ、ご飯冷めるぞー」


家令としては丁寧さに欠ける言葉なのだが、私は全然気にならない。バージルは、家令等を雇う側の人だと薄々解ってしまったし。


「今、行きます」

大きな声で返答すると、「お嬢様は大声は出さない」と窘められた。

ははっと笑って誤魔化すと、しょうがないなと言う顔をしていたバージルも僅か微笑んでいた。


いただきますをして二人で夕食を食べ始める。

私が美味しいと伝えれば、このくらい余裕でできると返してくれた。

あの頑張りを知っているから、微笑んで今まで一番美味しいと言うと、彼の口角が上がっているのを見ることができた。


それを気づかれたのか、コホンと咳払いされ食べ進めていくバージル。

会話は少ないけれど、とても穏やかに過ごせた。



食後に入れてくれた紅茶の香りを楽しんでいれば、バージルの体が揺れていた。

どうやら居眠りをしているらしい。

私は彼に膝掛けをして、食器を洗ってから声を掛けた。


「バージル、お部屋で眠って。片付けはしたから」


彼ははっとして、申し訳ありませんと謝罪してくれる。

私は首を左右に振り、「いつもありがとう」と伝えて部屋に行くように促した。


朝早くから、猫散歩や家事で頑張ってくれていたのだ。

本当にありがたいことだ。


私は早く教育を身に付けて、バージルを楽にしてあげなければと思うのだった。



でもこの男爵家のお金って、いったいどうなっているのだろう?

私も眠くて、それ以上の思考を手放した。


男爵家の爵位はバージルが保有しているので、次期当主のマーリンを育成するのは、義務でも責務でもある。



そうバージルは、家令でもあり当主でもあるのだった。


ミントさんの旦那さんは家具職人。自宅が職場です。

息子さんは旦那さんと、おやつを食べて待っててくれてます。


レモングラスさんは未亡人で、数年前に生家に戻ってきました。現在、バージルの奥さんとレモングラスさんが二人で暮らしています。

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