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その2 バージルはお爺ちゃん?

 「私の可愛い使い魔達、この家で思うまま暴れるが良い」



黒いタキシードのモノクルを掛けた初老の家令が、物騒なことを言っていますが、使い魔?は6頭の子猫達(亜麻色、黒、三毛猫、白、茶トラ、キジトラ)です。


みゃー、みゃー

にゃーにゃーと、可愛い声で鳴いて邸の階段を登っていきます。



「そして女の使い魔は、掃除をするがいい」


その言葉の先にいるのは、この家の臨時当主となった私マーリンより少し年上の女性でした。



「何言ってんのお爺ちゃん、仕事に行く前に態々寄ったのに。掃除しないで行くわよ!」


「ちょっと待て。お前がしないと困るんだ。お小遣い上乗せするから頼むよ」


「本当にもう。最初からそう言いなさいよ。


ウナムールンーリクルスコクチトイナシクヤハ!」


やれやれと、呆れた素振りの彼女が何か唱えると、ゴミ袋に埃や野菜の皮等がポイポイと入っていく。


途端に邸がピカピカになった。

すごい!


「はい終わり。お爺ちゃん、後で好きな物買って貰うからね。じゃあ、仕事行くね」


赤髪のモスグリーンスーツを着たお姉さんは、黒いハイヒールを響かせて出ていった。


私は気まずそうにしている家令のバージルに、何と声を掛けて良いか解らず、子猫を褒めた。


「可愛いこ、ゲフン、使い魔ですね。バージルが飼っているのですか? もしかして、元人間ですか?」


するとバージルは、ちょっと憤って、

「人間がこんなに可愛いわけあるか! 全部捨てられていたのだ。だらしない人間が、子猫が産まれたら捨ておる。産まれる子が飼えないなら、避妊手術してやるのも愛だろうに。「えー手術なんて、そんなの可哀想」とか言って、結果ゴミのように命を捨てる屑達。死ねば良い」


エキサイトしちゃったよ。

昨日と違いすぎる変貌振りだ。 


6匹の子猫をよく見ると、一匹だけ僅かに床から浮いているようだ。

「もしかして、この子?」

「そうだ。もう肉体が朽ちておった」


寂しそうに小声で答えるバージルは、切なそうにその子を見つめていた。


「飢えて辛い思いをするなら、大事にしてくれる家に生まれた方が幸せだろ?」

か細い声で独り言のように、続いた言葉。



子猫のことなのに、何故だが私に言われている気分になって、麻痺していた心が疼いて苦しくなる。


それに気づいたのか、バージルが話し始めた。

「お嬢様。事後報告で申し訳ないのですが、この猫達をここで飼っていいですか? 飼えなければ殺します」



なんて極端なんだろう?

でもきっと、野良でひもじく生きたり死ぬのは、辛いと思っているのかもしれない。


バージルの足に纏わりついている、浮いている子猫は幸せそうにしているもの。


眠るように命を消して、一緒に行動しようとしているのかもしれない。覚悟して連れてきたんだろう。最期まで寄り添うつもりで。



でも心配しないで良いよ。

「バージル、ここで飼いましょう。幸い此処には私達しかいなくて寂しいもの。使い魔や猫が増えても構わないわ。一緒に育てましょう」


「はい。ありがとうございます。お嬢様」



表情の崩れない家令は、安心したのか目を細めて優しく笑った。


子猫はまだ1kgにも満たないから、生後3か月経っていないのだろう。

バージルは子猫を抱き上げ、発情期の前に避妊手術をさせますと言っていた。本当は傷つけたくないのだと思う。


だってすごく可愛いのだもの。

私も屈むと、子猫が寄ってくる。

撫でさせてくれたので、なんとか認定されたのだろうか?



バージルは闇の魔法は得意だが、生活魔法は苦手だと言う。

何かに夢中になると食事もせず過ごす為、時々奥さんや娘さんが手料理を差し入れてくれるみたいで、昨日のサンドイッチや果実水も時の進まない空間に保存していたらしい。


鮮度は十分で、時々はバージルも食べてたみたい。


身長のわりには細身なので、食にはあまり興味がないのだろう。



ただ事務仕事は、国王にこき使われて慣れたそうで、安心しろとのこと。


国王?

不穏な言葉が聞こえたが、今のは聞かなかったことにしよう。



私は使用人のように暮らしていたので、掃除も食事も作れる。

バージルに言うと、お嬢様にさせるわけにはいきませんと言う。



没落したと見られているこの男爵家に人は雇えませんので、使い魔にさせますと。


でも怪しいんだよな、朝もお孫さん呼んでたし。

私なら働くのに。



立ち尽くす私の亜麻色の髪に、使い魔の子猫がジャンプしてきた。

「ビックリした」

思わず口にでると、


その子猫が、「ご主人様は、人間を使い魔にしないから仕方ない」と言う。


「ん? 喋った? 子猫が?」

「そうだよ。使い魔は話せるんだよ」


おおー、すごいね。


でも人間を使い魔にしないって、じゃあやっぱり私が掃除するよ。


なんて思っていたら、40代くらいの水色の髪をアップにした、日傘をさした優雅なご婦人が訪ねてきた。

「初めましてマーリン様。バージルの娘でレモングラスと申します。本日より貴女様の教育係になりました。よろしくお願いします」


そう言ってカーテシーをしてくれた。


「教育?」

「はい。今後男爵家を継ぐための教育です。給金は前払いで、父に頂いておりますので、心配ございません」


バージルは、私に頷いている。


急展開にポカンとしていると。

「父が教育しても良いのですが、家令の仕事とメイドの仕事も仕込まないといけませんので。当分私が担当しますわ」



どうやら、バージルが家令とメイドの仕事を熟なすつもりらしい。

できないと言ってたのに。

「そろそろ娘も帰ってきますので、大丈夫ですよ」


今朝来たお孫さんが、バージルに仕込んでくれるらしい。

大丈夫かな?


心配をよそに、ご婦人が笑う。

「大丈夫です。父は猫さえいれば頑張れますから」



よく解らないけど、家族仲が良いみたい。

私は部屋に連れられて、教育を受ける日々が始まったのだった。




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