新たな謎
土曜日の朝、僕は早めに目を覚まして制服を着る。
僕らの高校は私立であり、イカれているので土曜日にも学校があるのだ。
月~金までギリギリの登校する僕だが、高2になってからは土曜日だけはこうする必要がある。
「行ってきます」
そう寝ている両親に言ってから、僕は玄関の扉を開けた。
一軒家の自宅の外には塀があり、僕が出てきたのを見て大型犬のように近づいて来る奴がいた。
「おはよう、相棒」
「ホームズ、おはよう」
「さぁ、学校へ行こうか」
「うん」
土曜日にはこいつと登校することが決まっている。
それは前の部長に言われた命令であり、僕はそれに従っているという訳だ。
登校するために電車に乗る。僕とホームズは隣同士に並ぶ。
つり革より高く、電車広告を邪魔そうにしているホームズに対して、僕は背伸びをしてつり革まで手を伸ばしていた。
地下鉄の窓に反射して僕とホームズの対比が写る。
僕の地味な髪型と比べて、ホームズはボーイッシュなシースルーマッシュだ。
また、僕の目つきの悪い顔に比べて、ホームズは綺麗な瞳に右の涙黒子が印象的に見える。
そんな悲しい対比をしていると、ホームズが話しかけてきた。
「そういえば、まだ新入部員が探偵部には来ていないな。悲しいことだ」
「それは探偵部の入部条件が面倒なせいだろう?」
「面倒と言われても……。考えたのは私ではなく、明智前部長な訳で」
「条件を変えようとは思わないのか?そもそも、面白い謎を持って来いなんて条件……。
今時の高校生はそんなことをしないのに」
「そんなことはないよ。友人のことを『ホームズ』や『相棒』なんて呼ぶ痛い高校生がここにいるんだから」
「……」
何も言い返せない……。確かに表立ってホームズなんて呼んでるのは僕だけだ。
ホームズはあくまでも、家永の裏で呼ばれている通称に過ぎないわけで……。
痛い高校生か……。ホームズは自分のことと、僕のことをそんな風に俯瞰出来るタイプなんだな。
そう考えていると、電車のアナウンスから最寄り駅の名前が聞こえて来る。
僕らは降りるために近い扉に移動した。
放課後、僕とホームズは部室で向かい合って座っている。
「なあ、前の事件、どうしてタイトルが『そして巨乳はいなくなった』なんだい?」
僕が書いた小説原稿を見てホームズはそう言う。
「何故って……。それはホームズが解決した訳じゃないからな」
「えぇ。でも私が出てくるのだから『赤毛連盟』をもじった『巨乳連盟』の方がよくないかい?
そしたらタイトルの回収も鮮やかだ」
「いや、ダメだね。ホームズが解決してこそ、そのタイトルに意味が出てくる」
「……そういうものかい?」
「ああ、そういうものだよ」
納得しきれないようにホームズは少し雑に原稿を机に置いた。
それを見て、僕はペンを持ち、睨み合っていた原稿に文字を書こうとする。
その時、ガラッと部室の扉が開いた。
「失礼します」
「しまーす」
入って来たのは二人で、長身の七三分け男と彼と丁度いい身長差があるサイドテールの女の子。
ホームズはそんな彼らを見て
「何か依頼かな?」
そう聞いた。
「いえ、そうではなく……」
長身の男は言葉を続ける。
「新入部員として入りたいのです」
その言葉を聞いてホームズはニヤッと口角を上げて、お決まりのシャーロックポーズをした。
僕はいつも通り、「はぁ」とため息を返すのだった。