そして巨乳はいなくなった 2
「全員に断られた」
翌日の放課後、部室にて彼女は作戦の失敗を僕に伝える。
「……ああ。見てたから知ってるよ」
「上手いことやったつもりだったんだけどなぁ」
「……そうかそうか。お前の上手いことやるは誤用だと認識するよ」
「うん?どうしたんだい?何か怒っているように見えるが」
その言葉に怒りを感じて彼女を睨みつけた。ただ、ホームズは僕の睨みを屁でもないようにして首を傾げる。
「……いいか。俺は怒っている。そして、お前にも分かりやすいようにその理由を説明するから聞けよ」
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僕のクラスはホームズとは別の2-2である。
昼休みに教室で僕はクラスメイトが机を繋げる中、一人で弁当を食べていた。
いつもなら部室で食べるのだが、ホームズが作戦を実行するのだろうと思い様子を見るため、教室で待機をしていたのだ。
「お邪魔します」
礼儀正しくホームズが教室へとやって来る。そして、お目当ての巨乳女子二人を見つけると彼女は一人ずつにこう言った。
「探偵部の肝津からの命令で、君の胸を私が揉んでもいいかな?」
その瞬間、辺りの視線が僕に集中した。
最悪の二文字では表せない状況だったと思う。
そうしてホームズの行動により、全ての作戦は失敗へと終わり、僕は「キモいやつ」として学年の生徒に認知された。それが怒っている理由である。
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「えー、でも中川君のことは話せないだろう?だから、私なりに考えて……」
「言い訳はいい!お前のせいで僕は……。僕は!友達のいない学園生活を送ることになるんだぞ!」
「それは元から……」
「はぁ。最悪過ぎる。何でこんなことになるんだ。くっそ」
「……」
僕の激怒に対して、ホームズは口を尖らせる。子供のような表情をする彼女に対して、僕は更に怒りの感情をぶつけようとした……その瞬間、部室の扉が開いた。
「ねぇ。ちょっといい?」
そう言って来たのは例の巨乳女子達6人だった。
狭い部室の中で、女子7人と男子1人。何も起きないはずがなく……。
「マジでキモい」
「有り得ない」
「頭おかしいんじゃないの?」
罵声を浴びせられていた。
「家永さんもこんな奴と関わるの辞めなよ。明らかにヤバい顔してるよ」
「いやぁ、それはなんというか、誤解が皆さんにはあって……」
ホームズが話すとややこしいことになるのは分かり切っていたので、
「本当に申し訳ない!」
そう声を出した。
「うるさっ」
大声だったらしく、そう煙たがられる。しかし、言葉を止める訳にはいかない。
「あの、その件については事情があって。事件の解決に必要で」
「事件?胸を揉むのが?」
「あー、えっと」
中川のことを話すのは最終手段だ。事件の内容を……。
「そう……。えっと、匿名の依頼があったんです。ヌーブラを返したいという依頼が……」
咄嗟に思いついたその噓は実に上出来だった。
この噓なら、偽乳をしている女子が真っ先に反応するはず……。
「どういうことだい?」
何故だ!何故お前が返答をするんだ、ホームズ!
「……」
「説明してくれ、相棒」
一番の敵は無能な味方とはよく言ったものだ。
「渦ちゃん、事件の概要を忘れないでくれ。いいか?僕らは匿名の人物から健康診断の時に落ちていたヌーブラを返す依頼を受けているんだ。思い出したか?」
僕の言葉に彼女は、首を縦に振る。
恐らく、「相棒は何を言っているんだ?」と思っていることだろう。
後で説明はするから喋るなよ。渦ちゃん。
「それが私らとどう関係するの?」
「いや、大きいヌーブラだったみたいだから、ふくよかな人の物だろうって匿名の依頼主が言っていて……」
僕のその発言に対して、「は?」とドスの聞いた声を出したのは、
同じクラスの太っている巨乳女子の矢沢だった。
「あ、いや……胸が、って意味ですよ」
「何も言ってないけど?」
「……」
おい、最悪だ。助けてくれ。ホームズ!
そう思い視線をホームズにやると、奴はボッーと上を見上げていた。
恐らく、壁のシミで迷路をしているのだろう。最悪である。
「はぁ……。もういい、とにかく私らは関係ないってその匿名の依頼主に言っておいて。
じゃあね、キモい探偵さん」
僕が困って黙っていると、矢沢はそう言って巨乳女子達を引き連れて外へと出て言った。
とりあえずどうにかなったらしい。
いや、最悪であることに変わりはないのだが……。
「ふっ!またゴールしてしまった」
天井のシミ迷路が終わったらしい。ホームズのその言葉に僕は怒りよりも悲しさが湧き出て来ていた。
「あれ?相棒、皆は?」
「ホームズ、僕が噓を吐く時の合図を考えた。君を『苗字で呼ぶこと』だ。名前で呼ぶ時は今まで通り黙って頷く。覚えたか?」
「え?ああ、分かったよ。後でメモして渡してくれ。それで皆はどこに行ったんだ?」
「……」
僕は黙って、頭を抱えた。