そして巨乳はいなくなった 1
「なるほどね。えっと、それで君の名前は?」
事件の概要が終わるとホームズは依頼人にそう聞いた。
「俺は中川 陽。一応ホームズと同じ2-1なんだけど……」
「あー、どこかで見たことはあると思ったんだ。セクハラの中川君だよね。ああ、それで、その事件についてなんだけど」
「ああ」
「先生に報告させて貰うね。明らかに犯罪っぽいし」
ホームズはそう言うと席を立ち上がり、廊下に出ようとする。
それを止めるように中川は部室の扉前に立ち
「ま、待ってくれ!頼む!ただ知るだけでいいんだ」
「……いや、それでも偽乳をしている人を探せだなんて。セクハラだよ?」
「それは……。でも!情報の入手手段は犯罪じゃないし……。本当に知るだけでいいんだ」
彼はそう言うと膝をついてホームズへと願いのポーズをした。
涙目になってまでそう言う彼に「はぁ」と、僕は呆れてため息を吐いた。
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4月の始まりにあった健康診断。それがこの事件というか、セクハラ依頼の始まりらしい。
この学年、つまり2年生のクラスは3つある。2-1と2-2と2-3だ。
そしてクラスにはそれぞれ巨乳を持った女性が2人ずついる。
ちなみに僕たちの高校はクラス替えのシステムがないから、高校1年生の頃からこの話は男子の間で有名である。
中川はそんな女子達の正確なサイズを知るために、ブラを確認するよう保健委員の女友達に依頼したらしい。うちの高校の健康診断にはレントゲン撮影があるから、女子は一度ブラジャーを外して更衣室に置く必要がある。そしてその更衣室の開閉は保健委員の仕事だ。
そのせいで保健委員は健康診断の時間がずれることになっている。
その時に確認をしたのだろう。それで、そこから中川にとって衝撃の事実が判明する。
「ヌーブラを付けて胸を盛っている女子が一人いる」
僕にとっては衝撃って程でもないが……。それで、保健委員の女友達も短い時間のチェックだったから、誰の物かまでは確認出来なかったらしく、中川はその胸を盛っている女子を判明させて欲しいというのが依頼だ。
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「そう懇願されてもね。これは普通に事件ではないよ。というか、事件を中川君が起こす前に、先生から指導を……」
ホームズはもっともらしい説教を垂れており、中川はそれに対して「お願いします」と懇願の言葉を返し続けていた。
埒が明きそうにないと思った僕は、
「ホームズ、その依頼受けようじゃないか」
そう言った。
「どうして?これはセクハラ行為への加担だよ?」
「ああ、だから条件を出そう。中川、依頼を達成したらお前には……」
中川はゴクッと唾を飲む。
「これから先、探偵部に来るボランティア活動の全てに参加して貰う。それと、もうセクハラ行為はしない。それでどうだろう?」
「……分かった」
「相棒!そんな口約束じゃ意味がないだろう?」
「ああ。だから、約束を破ったら保健委員の女子についてホームズが話せばいい。そしたら、その女子はいじめられる対象になるかもしれない。不登校になるかもな」
「な、なるほど?」
ホームズは分かっていないような返答をしたが、後で話せばいいと思いその場は放置した。
「中川、それならボランティア活動の話も今回のようなセクハラ行為を辞める事も納得するよな?」
「ああ、もちろん」
中川は真剣な顔でそう言った。これでもう事件は解決と言ってもいい気がする。
「よし、じゃあ調査方法についてホームズと話し合うから帰ってくれ」
「ああ。頼んだぜ。約束は守るから」
中川はそう言って部室を後にする。狭い教室に、また僕とホームズだけとなった。
「ねぇ、さっきのさ、保健委員の女の子について話すってどういうことだい?私はその子の名前を知らないから話すことは出来ないと思うのだが……」
「あのな、ホームズ。保健委員の女子は各クラス一人ずつだ。だから、保険教員の名前を確認すれば報告は出来るんだよ」
「え?実行犯って3人もいるのかい?」
「実行犯って……。まあ、協力者は各クラスの保健委員の女子だろう。クラスごとに健康診断の時間は別れているし、更衣室の時間帯も同様だ。つまり中川は各クラスの保健委員の女子に頭を下げて回ったってことになる」
「……なっ。おかしいんじゃないのか?彼は?」
「そんなことは依頼内容からして分かり切っているだろ」
「そうだな。まあ、なんにしても謎を解かないといけない訳だが……」
ホームズは困った顔でこちらを見る。
「はぁ。方法は簡単だろ。お前が各クラスの巨乳女子達に『胸をもませて』と頼めばいい。それで偽乳が分かるはずだ」
「あー、え?それはどうやって分かるんだ?」
「他の女子達と違う感触を感じたらそいつが偽乳だろ。もしくは極端に胸を触られるのを嫌がる奴だ」
「うーん。それは私もセクハラ行為をしているのと変わらないのではないか?」
「……」
こいつ、たまに正しいことを言うんだよなぁ。
「未来の犯罪者を減らすためだ。今回は我慢してくれ」
「……うーん。まあ、分かったよ、相棒」
彼女は首を傾げながらも、そう言った。
この時はこれで解決すると思っていたが、この謎はそう一筋縄ではいかなかった。