ホームズとキモい探偵
僕の学園にはホームズと呼ばれる奴がいる。そいつは185cmの長身を持ち、運動神経がいい。
加えて容姿端麗であり、学園内の女子は奴に夢中である。
中学校のバレンタインでは段ボール4箱程チョコを貰ったらしい。
そんな奴がホームズと呼ばれるのは、この高校で探偵部という部活をやっていることが由来だ。
無論殺人事件を解くなんて大層なことはしない。
学園内で起こる困りごとを解決する程度であり、それは部活の助っ人や、ボランティア活動において人を集めるとかそんなものが依頼だ。ただ、時には学園内の謎を解くように奴が言われることがある。
そうなると奴はうろたえてしまう。何故なら奴の頭の出来は全くもってホームズとは真逆だからだ。
奴は補習の常連であり、誰もがその事実を知っている。
では何故、奴に学園内の謎を解くことが依頼されるのか?
それは奴に協力する優しくてイケメンな相棒、つまり僕が居るからだ。
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「優しくてイケメンな相棒は間違いじゃないかな?私としては、キモくて友達の少ない文芸部員に見えるけど」
僕の原稿を覗き込んでいたホームズは僕にそう言った。
「ホームズ、いいか?小説はキャラクターが大事なんだ。こういう噓は必要なんだよ」
「えー。イケメンキャラは私だけで間に合っているんじゃないかな?」
「……いや、二人いた方がいい。そっちの方がうけるんだ」
「ふーん。まあいいよ。私がイケメンとして扱われるならそれで」
そう言うとホームズは僕の隣から離れて、向かいの席に腰を下ろした。足を組み、開けてある窓から心地良い風に吹かれているホームズに僕は見惚れてしまう。
「……ん?何か用事かい?」
見惚れていたのを気にしてか、奴はそう聞いてきた。
「いや、何でもない」
視線を原稿用紙に移して、僕はペンを持つ。
「ふーん。てっきり私に見惚れたのかと思ったよ。
君にはまだ、女の子に私は映るかな?」
頭は冴えないのにこういう時だけ勘が鋭い。
「男にとってお前は女の子だ、ホームズ」
ホームズと呼ばれるこいつは女性である。本名を家永 渦という。
容姿や武術に長けていて探偵部という部活をやっていることだけでなく、苗字に入る家から「ホーム」、そして「渦」を掛けているのもホームズと呼ばれる理由だ。
「じゃあ、君にとっても女の子に写っているんだね」
先ほどまでの男を意識した話し方とは違い、トーンの上がった声色で彼女はそう言った。
「どうでもいいだろ、そんなの。それより、今日は何もないのかよ」
「そうだな。今のところは特に事件はないよ。それより、君も探偵部員っぽくなってきたじゃないか」
男性を意識した喋り方へと戻し彼女はそう言った。
「違う。お前がいない方が集中出来るだけだ。それに、探偵部に入ってるのは文芸部の存続をするためだからな」
「そう言う割には、事件に君は首を突っ込むけど?ほら、私達の出会った事件だって……」
彼女が続きの言葉を言おうとしたその瞬間、扉が勢い良く開いた。
「おい!ホームズと助手!事件を解いてくれないか?」
入って来た男は僕らに唐突にそう言う。
「ふっ。相棒、仕事の時間だ」
そう言うと彼女は両手を合わせて依頼人の方を見る。
彼女がシャーロックポーズをしたということは面倒な事件に巻き込まれる前兆だ。
僕はペンを置いて、
「僕は助手じゃない。肝津 命だ」
そう彼に早口で訂正をした。
「お、おう?じゃあ、キモい探偵とホームズ!事件を解決してくれ」
早口で上手く聞き取れなかったのだろう。彼に変な誤解をされて、妙なあだ名で呼ばれた。
聞き取れた場所が「キモ」で無ければ……。
そんなことを考えている間にも彼は事件の詳細を話し出す。
高校2年生の5月、僕がキモい探偵と呼ばれる原因となる事件の始まりである。