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白い雪に青い夏を教えて  作者: かみお
8/9

第8話 魔法の訓練

 


 俺と葵は長い廊下と無限にも感じられる螺旋階段を抜けて、途中で何故か「最初からいました」と言わんばかりの勢いで立つファンタジーに不釣り合いな自動販売機でジュースを買い、()()()まで来た。



 ……いや分かる、俺も最初は体育館!? ナンデ!? と思った。



 しかしこれにも理由があって葵によると、外を見ても白銀の世界が広がるばかりで到底授業ができる環境ではないということで、第二校庭というメインの校庭とは別にある二つ目の校庭に屋根を付けて改造した施設らしい。



 ただし、「体育館」という名前とは裏腹に内装は俺が今まで見てきた学校の体育館ではなく、お城にある舞踏会とか開催されていそうなホールを、自分たちが小人になったのではないかと錯覚するほど広くした施設と言った方が近い。



 そのため、外の猛吹雪のせいで気温は冷蔵庫。



 しかし人が多くいるせいか歩いてきた廊下よりはマシだ。



 さっきの研究室のように温めてほしいものだが、魔法の使えない俺でもこの広さを温めるのはマナとやらが大量に必要そうだというのは分かる。俺が向こうの世界で使っていた体育館もそうだったから。



 壁や天井は魔法がはねても大丈夫なように補強がされているのだが、その補強も木の板を張り付けるとかコンクリートで固めるとかではなく、この学校に貼られている守護魔法と同じものを張っているらしい。



 葵によると生徒の一部から「景観を守って欲しい」という要望があったらしく、それを聞いたとある教師が今までの強化された土壁から透明で強固な魔法結界に自分で変更したらしい。



 景観がどう、というならこんな1億人が身に来たら2億人が世界遺産に登録しようとするレベルのファンタジックなお城に、世界中の学校で使われている道具だったり保温マグカップだったりパイプ椅子を置くのをやめればいいと言ったのだが葵たちは違うと言う。



 どうやら葵によると「そういう派閥がいる」という話で、この学校にはハリー・〇ッタ―でいう純血至上主義みたいな連中がいて、実際に彼らがテリトリーにしている研究室付近は完璧にファンタジックなお城にふさわしい雰囲気で、本当に世界遺産がとれるんじゃないかと言われるくらいに景観を守ることに徹底ぶりなんだとか。



 噂によると、今も虎視眈々と結衣たちの研究室のような景観ぶち壊しの部屋や物などをファンタジックに元に戻そうと画策しているという……怖い怖い。



「何個か授業してるグループがあるみたいだけど、どこに結衣がいるんだ?」



 広さは向こうの世界のリレー走で使う楕円のトラックを思い浮かべてほしい、それが四つ正方形に近い形で入る広さと言えば分かりやすいだろうか。



 そんな控えめに言ってバカ広い体育館の二階から見下ろすように見ているとはいえ、複数のグループが授業と訓練をしているせいで結衣がどこにいるか分からない。



 運動会でかけっこをする子供を走り出す前に探し出したい親の気持ちがよく分かるな。



「結衣はね、まあ見てればすぐ分かるよ」



「ほう、じゃあ座って待ってるか……ん?」



 ……なんだか、変な気分だ。



 でもなんというか、この感覚には覚えがあるな。



「どうしたんだい?」



「……なーんか視線を感じる気がして」



「ドラゴンかな? 一応さっきのは諦めて帰っていったみたいだけど」



 ……そうだ、この感覚はドラゴンに睨まれているときの、あの感覚に近いな。



 でも葵の言う通りここからドラゴンが見えないし、何と言ってもドラゴンに()()()()だけでさっきの感覚とは少し違う気がする。



「沙雪の勘が鋭いのはさっきのドラゴンで知ってるけど……何だろうね、結衣でもないみたいだし」



「結衣がこんなおぞましい視線を向けてたら俺は内臓吐き出して死ぬ」



「カエルみたいだね……でもこの体育館の中にいる人だ」



「え? 分かるのか?」



「うん、これは結構な使い手だね、僕たち見られてたんだ、沙雪が気付かなきゃ僕も分からなかった」



「でも……体育館の二階で訓練を偉そうに見てるの俺らしかいないみたいだし、気になりはするんじゃないか?」



 葵は体育館で訓練している大勢を見渡しながら頷く。



「そうなんだけど、これは魔法なんだ、大げさに言ってしまえば今僕たちは魔法攻撃を受けている、普通に見るだけならこんな悪意のある魔法は使わないよ」



「えっ、アブナイじゃん、いきなり脳が破裂して死ぬなんて嫌だぞ」



「その心配はないね……これは威嚇に近い攻撃力のない魔法だ、でも油断しないでね」



 葵は体育館を天井まで隈なく見渡し続けるが遂に「う~ん」と唸ってしまった。



「誰がやってるのか分かりそうか?」



「恥ずかしいけど分からないよ……魔法自体、マナを辿れないように道を乱してあるし、殺意を向けられているわけでもないから、特定が難しい」



「ば、バレたのかな、俺が特殊な人だってこと」



「どうだろうね……心配だけど、とりあえずは僕が付いてるから大丈夫だ、結衣も近くにいるしね」



「いやだ、葵さんかっこいい」



 とは言ってはみるものの、本当は自分も身一つも守れないことを嫌に思っている。



 とまあそんなトラブルがありながらも俺たちは訓練を見学し続けた。



 しばらくすると、左の奥にいたグループの教師らしきローブの男が何かを叫んだ。

 すると他のグループの連中がわらわらと体育館の端の方へ寄っていった。



 グループが退避を終えるとすぐに、ホールの中央に俺が今までに見たどんな宝石よりもきれいな魔法陣の円環が浮かび上がった。



 飲んでいた缶ジュースを吹き出しそうになりながら尋ねる。



「あ、あれは魔法陣ってやつ!?」



「そうだよ、綺麗だよね……あれは多分ゴーレムを召喚する陣かな」



「ごーれむ!?!?」



 何重にも重なった黄金の円環が複雑に、縦横斜めに回転し淡く輝いていた光が強く眩しくなっていく。



 やがて魔法陣が静止、そしてホールの床が陣の中心に引っ張られていくのが見えた。



 布の中心に紐をつけてそのまま上に引っ張ったように床が剥がれていき、それを追いかけるように新しい床が当たり前のように自動で張られていく。



 集まった床は陣の中心でみるみる人型に形成されていき、あっという間に人の5,6倍の高さのある腕の長い筋肉質なゴーレムへ変わった。



 ……なんっか、思ってたんとちゃう気がするねんなぁ。



「なんというか、もっとゴツゴツしてるの想像してたんだけどな……」



「分かるよ、どこぞの汎用人型決戦兵器みたいだよね」



 葵に言われて、俺は紫と黄緑の外郭に覆われた生き物を想像した。



「……確かに……似てるな」



 召喚されたゴーレムが腕を動かして歩き始める。



 一歩一歩で体育館が軽く揺れる。



 苔や盆栽の育成のように、召喚して眺めて愛でてというホンワカ空間になるのかと思っていたら、今度はせっかく召喚した歩いているゴーレムに向かっていろんな魔法を当て始めた。



 魔法おなじみの火の玉から水の塊、そして床をまた引っ張り出して円錐にして発射したりと様々だ。



 しかしゴーレムは攻撃されているのを気にする様子もなく、ホールを歩き回る。



「へ~、ああいう魔法っぽい魔法もちゃんとあるんだな」



「うん、でも結衣のグループっぽいけど威力がないね……多分だけど、人それぞれ得意な魔法は違うから、今回は苦手な魔法を訓練してるみたいだね」



「CMD使えば誰でもなんでも魔法が使えるってわけじゃないのか」



 てっきり「火の玉」とか書いてあるボタンを押したら発動できるのかと思っていた。



「魔法はああ見えて複雑で結構難しいんだよ、結衣なんかは先祖代々魔法を扱っているからいつも簡単そうに発動するけど……まあ、結衣は先祖が引き継いできたオリジナルの魔法もあるくらいだからね」



 皆が苦戦する中颯爽と魔法を繰り出す結衣……

 そんなかっこいい結衣さん早く見てみたいな。



「ためになります、葵先生」



「お、結衣の順番みたいだよ、気を付けてね」



「え? どこにい――――」



 結衣の場所を聞いた次の半瞬、目の前が真っ白になり、ぶ厚い音の壁が飛んできた。



 そして残りの半瞬、ぶ厚い空気の壁が飛んできて俺たちは後ろの壁にたたきつけられた。



 たたきつけられる俺たちを拒絶し、壁の守護魔法が背中の形に光る。



「な、なんだよ今の!? ってか……いってぇ……」



「いてて……あ、ほら見てみなよ、ゴーレムが粉々だ」



 粉々? 見間違いじゃないのか? 



 背中の痛みに耐えながら目をこすり、柵に手をかけてホールを見下ろす。



 粉埃が落ち着いてくると、あんなに大きかったゴーレムは、破片の全てがこぶし大の塊になって放射状に散らばってしまっていた。



 その収束点に一人の女子生徒が仁王立ちで、髪についた土埃を落としている。



 もちろんその女子生徒とは結衣だ。



「あれ、葵、結衣たちは苦手な魔法練習してるんだよな?」



「そうだよ」



「結衣の苦手な魔法って?」



「今見たやつだね、マナをいい感じに圧縮して一気に放つ魔法『へーレス』、僕が結衣が凄いって言った理由分かっただろう?」



「…………凄いのレベルが違いませんかね」



 呆気に取られて口を開けたまま見ていることしかできなかった俺と、結衣に向かって軽く手を振る葵。


 それを見つけた結衣は前髪をくるくる指で触って、恥ずかしがる仕草を見せながらも手を振り返してきた。







『白い雪に青い夏を教えて』をお読みいただきありがとうございます!

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