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白い雪に青い夏を教えて  作者: かみお
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第6話 伊佐矢 葵

 



 結衣に連れられるまま俺は学校の中を案内してもらった。



 ────魔法と魔術の学舎、マルクト。



 大体の場所を見て回ったが、俺が今日も行くはずだった学校と違うところと言えば、そもそもの校舎の形が違うので、教室が大学の講堂のように階段状のバウムクーヘン状の教室になっていたところか。



 他にも魔法を扱うということでダミー人形が置いてある部屋、魔法道具を扱う部屋、薬を調合しそうな大釜の置いてある部屋、走って反対側まで1時間はかかりそうな広さの校庭があったのだが……



 高校というより北海道にいたときに遊びに行った広大な敷地を持つ大学にも似ている。



 いやまあ、さすがの試される大地でも薬を混ぜる大釜は無かったかな。



 そういえば、このバチクソにデカい校舎を案内してもらったのはありがたいのだが、気になったのは結衣の友人はこの学校にいるんだろうかということ。



 向こうの世界での友人の話は最近会っていないせいもあってあまり聞いていないが、この世界にはいるんだろうか。



「結衣はここに友人はいるのか?」



 仲間はいるとは言っていたけど、彼女の場合それは見知っている人全員なんだよな。



「そりゃもちろん、これから行くところにいるからとりあえず来て」



 まあ俺とは違うんだ、心配いらないみたいだな。



 結衣に連れられるまま、映画のセットのようなお城の中を何度も曲がったり階段を上ったり中庭に出たりして着いたのは大きめの部屋の前。



 城の中を歩いていて思ったのは、俺が元居た世界から持ってきたと思われる不釣り合いな家具や小物がが数多く置かれていたことだ。



 やっぱり日本の学校に近いものを感じる。



 辿り着いた部屋の前にも例外なく小さなホワイトボードが置いてあった。



 そこには「マナ研究所」という部屋の名前らしき文字と、3、4人の名前が書いてあってその中には結衣の名前もあった。



「ただいま~」



 入ると、ドラマやCMでしかみないような美青年がパイプ椅子に座っていて、まずはそれが真っ先に視界に入った。

 お城の中にパイプ椅子のような見覚えのある物ばかりが並んでいて、なんだか芸能人がいる楽屋に迷い込んだ気分だ。



「おかえり、その人が沙雪君?」



 柔らかい笑顔と手に載せたらすぐに溶けてしまいそうな声で、俺の存在を結衣に尋ねる。



 どこかで見たような顔と、聞いたような声。



 どこだったか。



「そ、仲良くしてね! 私沙雪のCMDのこと先生に報告してくるからお話ししてて!」



 結衣は部屋に入らずに行ってしまった。

 CMDってなんだよ……CDとかDVDの仲間か?



「やあ、初めましてだね、伊佐矢葵(いざやあおい)、葵でもなんでもいいよ」



「俺は新渡(あらと)|沙雪だ、俺も好きに呼んでくれ」



「サユキか……なんというか皮肉な名前だね」



「えッ」



「ごめん、なんでもない、とりあえず好きなところ座りなよ」



「あ、ありがとう」



 部屋はなんというか、例えるなら日本の高校でよく見る部室と言えば分かりやすいんじゃないか。



 我らが部室のお供のパイプ椅子、中身は謎だが段ボールの箱の山積み、文字の完全に消えていない黒板サイズでキャスターの付いているホワイトボードに、普通の学校にあるものよりかなり大きい掃除用具入れ。


 部屋のサイズも少し使われていない教室より大きいくらいだが、壁や窓などの内装はお城のままなので、錯覚の絵が載っている本を読んでいるときみたいな感覚になるな。



 会議室のような、コの字に並べられた長机で向かい合うように座る。



 葵と名乗った美青年がスマホをいじると、部屋が暖かくなった気がした。



 すごいな~、エアコンとかストーブのリモコンをスマホに組み込んでるのかな。



 自動で家具のスイッチを入れたり、操作して人の負担を減らすAI家電みたいなの最近流行ってるからなぁ。



「「…………」」



 なんだこの、互いに見つめあう時間は。

 何か……葵さんの俺を見る目が怖い気がするんですけど。



「お、俺ドラゴンなんて生き物初めて見たよ」



 スタートダッシュはこれしかない。

 このまま突っ走ってゴールテープを切る。



「そうなんだ、ドラゴンは好きになれそう?」



「うーん、今のところは無理だな、なぜかずっとにらまれてる気がするし」



「勘がいいんだね、にらまれているのは本当だよ、君の膨大なマナはドラゴンにとってどんな5ツ星レストランの料理よりも御馳走だからね」



 俺やっぱにらまれてたんだ。

 う~ん、恐怖で気絶しそうだからブレーキかけておこうかな……



「結衣もそんなこと言ってたな、俺の体が特殊とかなんとか」



「そうか、詳しいことは聞いてないんだね」



「さっきこの世界とやらに来たばかりだからな、とりあえず身を守れるように訓練するって話にはなったんだけど」



「なるほどね、僕はそんなにできる魔法使いじゃないけど、少しだけ授業してあげるよ」



「え、いいのか!」



「最初はみんな、魔法を使ってみたいだろ?」



 めちゃくちゃいい人だ~~~~~~~~~!



 はいそこ、チョロいとか言わない。



 神を信仰したことは無いが、神様のように光り輝いて見える葵を俺は両手を合わせて拝む。



 聞きたいことはたくさんあるが、やっぱり魔法を使えるなら魔法を使えるようになるのが最優先だよな!



「葵先生と、お呼びしますね」



「あ、ありがとう? じゃあまずマナというのが何か、沙雪君分かるかな」



「はい! 魔法を使うために必要なもの、だと思います!」



「半分正解! もちろん魔法を使うために必要なエネルギーではあるんだけど、マナっていうのはこの世に存在する物全てに流れる大事なエネルギーのことなんだ、だから空になれば人間なら死んでしまう」



「この世の全てってことは空気にもあるのか? 向こうの世界にも?」



「空気、というか分子たちにもマナは含まれているし、向こうの世界、沙雪が元居た世界もここと同じようにマナがある、でも向こうの世界の人が魔法を扱えないのは、マナの生成量の少なさと器の小ささにあるんだ」



「へ~、つまり、一応みんな魔法を使う準備はできてるってことか」



「後でCMDが来たら話すけど、厳密には条件がある、でもまあその認識で合っているね」



「その、ずっと気になってるんですけどCMDって何なんですか!」



「CMDっていうのはCast Magic Deviceの略で、ハリー・〇ッタ―でいう杖のことだ、魔法使いならみんな持ってるもので今じゃスマホの形にして携帯しているんだ」



「けいたいだけに……」



「うちの校長はいまだにガラケーを使っているんだけど、元を辿ると杖を使っていた時代もあるみたいだね」



 俺の捧腹絶倒必須のギャグはスルーされた。



「結衣がやたらとスマホをいじってたのはそういうことか、そのスマホ型のCMDで魔法を発動してたんだな」



「スマホ型って言っても元はスマホだったものに杖の要素を組み込んでいるだけだから、普通にスマホとして使えるし、向こうの人間に対していいカモフラージュになるだろ?」



「じゃあ俺のスマホも魔法の杖になるってことか! 楽しみだな」



 俺がワクワクしてスマホを出すと、それを見た葵が「なるほどね」と頷いた。



「そのスマホはもうCMDになってるよ」



「え? ど、どこら辺が?」



「CMDになったからと言って見た目は変わらないさ、その白いモバイルバッテリーは結衣に貸してもらったものだろ?」



「そうだけど……あ、もしかしてこれが」



「そのまさかだよ、結衣は君にモバイルバッテリーというカモフラージュを使ってCMDのインストールを済ませていたわけ」



「結衣さん、恐ろしい」



 今回だけでなく今までにも何度かモバイルバッテリーを借りていたが、葵によるとそれはCMDのアップデートをするためらしい。


 ……このモバイルバッテリー、初めて借りたのいつだっけな。

 俺がこの最新機種にしてからな気がするんだけど……



 ……待てよ? リンゴの有名企業のスマホよりこのスマホを買うように勧めたのって確か……



 いやまあ、考えすぎか。



 …………待て待て、確かこのスマホ、結衣と同じ機種だよな。



 ああ、ああ、脳の記憶をつかさどる部分がスッキリした気がする。

 モヤっとボールは溜まらずだな、良かったね伊藤さん。



「結衣はね、君も知っているんだろうけれど、本当にすごいんだよ」



「それについては俺20人分くらいの同意をしたいが、やっぱりこの世界でもすごいのか……」



「結衣はこの学校でも珍しい2等級魔法使いなんだけど……ってそうか、その説明もしないとね、この世界では魔法使いのレベルに合わせて等級を与えられるんだ、星の明るさと同じで1等級が一番上、6等級がその逆だね」



「お~、結衣と葵は何等級なんだ?」



「僕は3等級、我らが結衣様は2等級だね、ちなみに言っておくけど、1等級じゃないからと舐めちゃだめだよ、1等級はこの世に5人しかいないんだ、それで2等級は12人ね」



「マジか!! え、日本人だけじゃないよな」



「そうだよ、全世界……これは文字通り君のいた世界と今いる世界すべて合わせてってことだ、魔法を使える種族は人間だけじゃないからそれも合わせてだね」



 人間だけじゃないってことはつまり人間以外の種族がいるってことか。



「す、すごいな結衣……っても評価基準が分からないな」



 言っちゃ悪いが、俺の知っている結衣が表彰されていたのは県大会優勝とか最優秀賞だったせいで、いきなり全世界の魔法使いの中でトップ17に入る! と言われてもどのくらいの凄さなんだろうか。



 やっぱり、水晶に手をかざすとか、スマホにマナを込めるとかなんだろうか。



 魔物を討伐する試験とか、同じ等級の仲間で競い合うとか?



「そうだな、評価基準は沙雪の等級が決まるときに話そうか、とりあえず僕が見てきた魔法使いの中でもかなりの上位で結衣が凄いってことだけ覚えてもらえればいいかな」



「暗記しときます! ……それにしても、結衣に葵みたいな友人がいてよかったな~」



「君の世界ではいないのかい? 君以外に」



「あんまし聞かないんだよな、そもそも高校生になってから最近話してないし」



「なるほどね……君らは幼馴染だろ? 僕らくらいの年代のあるあるだなと思ってさ、甘酸っぱいね」



「そういうんじゃないやいっ」



「結衣はこの世界でかなりの有名人だからね、ぼうっとしてたらすぐにどっか行っちゃうよ」



「そ、そういうんじゃないやいっ」



「またまた、そうやって気が付かないふりしてたら結…………」



 突然、葵の顔色が変わった。オバケでも見たように真っ青だ。



 例えるなら、正月にお雑煮の餅を食べてのどに詰まらせたときのような……



「ど、どうしたんだよ」



 見ているのは俺たちが入ってきた扉。



 まさかドラゴンが無音で入ってきてしまったのだろうか。



 いやいや答えは単純、俺たちの話をいつからか聞いていた結衣だった。



「ぎゃー! いつからそこに!」



「暗記してるとこから……それで? 葵? 私と沙雪がなんだって?」



 ……すまない葵。



 そんな、ドキュメンタリーでよく見る、トラに追いかけられている時の鹿のような目をしたって俺は助けられない。



 俺が魔法を覚えていたらな、人を守るための魔法を……南無南無。






『白い雪に青い夏を教えて』をお読みいただきありがとうございます!

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