第1話 初雪
何年ぶりだろうか!
久しぶりだね、新作だよ。
ファンタジーな世界が、現実の世界に本当に存在したら?
を緩くやっていこうかなと。
魔法バトルしたり、たまには現実的なちょっぴりラブコメしたり。
それにしても、雪に夏を教える……
なんだか暑くて溶けてしまいそうですね!
2024 2/10、2/11は二話ずつ投稿されます!
北海道某所の古い病院屋上に、なぜかこの大雪の中、とある形に雪の積もらない場所がある。
まるでそこに何かがあるかのように。
その病院の中、静かな空間に二人の男女が立っている。
ガラスの向こうには生まれたばかりの赤ん坊たちが暖かい毛布の上に並べられ、初めて扱う四肢を動かしたり寝てみたり、初めての人生を謳歌している。
周りに医師たちの往来があるにもかかわらず不思議と、その時間この場所にいてはいけない二人を認識する人間はいない。
「……この子が例の?」
「そうっすよ、可愛いっすよね」
女がその赤ん坊を探すのに時間は要らなかった。
明らかに産まれたばかりの子供の持つべき量ではないマナがその子から漏れ出していたからだ。
いや、と違和感にきづいた女はその子をもう一度よく見る。
最初は年齢による器の小ささで、体質的に多く生成されてしまうマナが漏れ出しているのかと思っていた。
それは違った。
彼の器を測ったとき、その底の深さに目を疑った。
「この子の器、底が……」
「おかしいっすよね、産まれたばかりの人間の子がこのレベルの器を持っているなんて」
2人もまだ人間として数十年程度しか生きていない、しかし向こうの世界で学舎の長として生きている以上、数多くの人間を見てきた自信はある。
それでもこれだけの大きさの器を持つ人間は見たことがない。
一体大人何百人分、いや、何万人分なのか……
しかもこの大きさは年齢に合わせて成長するのだ。
女はその底の見えない器に冷や汗を流す。
「し、しかし、いくら器が大きくても守る術を持っていなければ意味がないんです、この一般人しかいないような場所に置いて行かなくても……」
「いろいろ考えた結果っす、木を隠すなら森っすよ」
「あのですね……」
不安な女は腕を組み、うーんとうなりながら歩き始めた。
赤ん坊は別にずっとここにいるわけではない、女はそのことを言っているのではなく、
「私が心配なのは、一般人の下で生活させるということです。魔法が目覚めたらどうするんですか、あんな量のマナを用いた魔法なんて何が起こるか……」
「読んだことないすか? ハリポタ。魔法の使えない叔父叔母に預けられた主人公が悪の魔法使いをいずれは倒すんすよ」
「それは作られた物語ですよ、現実はそう甘くないんです。第一この子のご両親だって英雄でも何でもないんですよ?」
「僕結構好きなんすよねそういう物語、この子がきっと……」
「…………」
どうなっても知らないと、いつもなら諦めることができるが、人の命、それもこの子のだけでなく世界中の人の命がかかっているとなるとそんな一言では片づけることはできないのだ。
この男はそれを本当に分かっているのか? 不安が募りに募って苛立ちに変わり始める。
呆れた様子で女はポケットから懐中時計を出して時間を確認した。
その針は院内の壁に掛けられている時計とは進みが違う。
「そろそろ行かないと間に合いませんよ! この子のお話はまた後でしっかりしますからね、とりあえずこの後すぐにでも護衛はつけますよ」
男はめんどくさそうにハイハイと頷く。
女はポケットからスマホを取り出し、二、三文字を打ち込む。
その隣で男はガラケーを取り出して文字を打ち込む。
それを見た女はえっ!? と驚きの声を上げた。
「まだCMDの更新してなかったんですか?!」
「あ~~、面倒くさくてしてないんすよね」
「マルクトの校長がこれなんて……ここの校長が見たらなんて言われるか……」
それぞれが最後の入力を終えると、二人の体の周りの空間が色ズレしたかのように乱れ、次の瞬間には病院の屋上にいた。
二人は雪の積もっていない場所へ手を突っ込み、透明なモノに触れた。
その途端、再び色ズレが起こり透明だったモノが箒に変わる。
透明な箒の影になって、雪の積もっていなかった場所をふと見て男は言う。
「魔法だって、完全じゃないんすよ」
「完全じゃない?」
「なんでもないっすよ、行きましょ」
2人は箒に跨り、雪を降らせる鼠色の雲の中へ消えていった。
────君たちは「魔法」と言われて何を思い浮かべるだろうか。
炎の球を打ち出したり、ドラゴンと戦ったり?
はたまた箒に乗って空を飛んだり、とんがり帽子にローブを着込んだシワシワのオバさんとか?
森の奥の小さな小屋で大釜をグツグツかき混ぜるとかもあるかもな。
他にも宅急便とかメガネの青年とか、色んな「魔法」を思いつくと思う。
俺はそういう物語を観て、読んで、小さい頃はできるかもというおバカな考えを持っていたし、数年前まではとあるものを発症して力があると思っていた。
しかし今では、それらは創作物であって実際には存在しないファンタジーだと今では分かりきっているし、そういう作品を鑑賞するときはそういう気持ちで楽しんでいる。
いや、楽しんでいた。
────あの日までは。
至って普通の高校生の俺が、至って一般的な高校生活を送っていただけなのに、あんなことに巻き込まれていくとは思わなかった。
『白い雪に青い夏を教えて』をお読みいただきありがとうございます!
頑張って更新していくので、ブックマーク・評価で応援して頂けたらとても嬉しいです!
ブックマーク・評価・誤字脱字お待ちしてます!