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白髪の少年、アインス&ノイン現る!



「よいしょ、っと」


 ベッドに座っていた少年はそう言って身軽な動きで立ち上がった。

 彼は真白な布地に金の飾緒しょくしょの付いた軍服に軍帽、そして手にはアサルトライフルを持っている。もう1人の少年も同様の格好に、腰には一本の刀を差していた。


(あれは⋯⋯軍でも使われているライフルじゃないか? 何でそんな物をこんな子どもが⋯⋯?)



 ベッドから立ち上がった少年は桜河と誠司の顔をじっくりと交互に眺めてから、おもむろに口を開いた。


「⋯⋯初めまして、反逆者のお2人さん。オレの読み通りに動いてくれてどうもありがとう♡オレの名前はアインス。こっちの弱そうなのはノイン。そして、コイツが裏切り者だよ♡」

「た、助けて⋯⋯!!」

「ねぇ、今オレが喋ってるんだけど? 煩い奴は殺しちゃうよ?」


 アインスと名乗った少年は途端に冷ややかな顔付きになり、使用人の女性にライフルの銃口を突きつけた。


「ヒッ!!」

「ア、アインス⋯⋯そんなに脅さなくても⋯⋯⋯⋯」

「煩いなあ、ノインはオレに従ってればいいの!」


 ノインと呼ばれた少年は怯える女性を庇う姿勢を見せるが、虚しくもそれをアインスに阻まれてしまう。


「あ、因みに前野さんはここには居ないよ。残念でしたァ♡オレたちがここに残っているのは、キミたちを殲滅せんめつするため。そして、本日のメインイベント————裏切り者の処刑ショーを間近で見てもらおうと思ってね! ⋯⋯九頭龍《お父》様を裏切った奴の末路を見せてあげるよ」

「い、嫌⋯⋯! 殺さないで⋯⋯!!」


 アインスは桜河と誠司の方へと向き直り、悪戯っぽい笑みを浮かべた。




 ————自分とそう年の変わらない少年が、面白可笑しそうに人に銃を突きつけている。


 これまで平穏に暮らして来た桜河は、余りの衝撃に氷のように身体が冷え切り、足に根が生えたように一歩たりともその場から身動きが取れなくなってしまう。

 しかし、そんな中でも誠司は怯む事なく、スラリと腰に差した刀の一本————加州清光を鞘から抜いた。


「待て!!」

「そんなに怖い顔しないでよ~」


 凄む誠司に対し、戯けたようすを見せるアインス。その事が一層誠司の神経を逆撫でする。


「ふざけるな⋯⋯! 今すぐその女性を離せ」


 中段の構えを取った誠司が一歩踏み込む。それを見たアインスは、怯える女性の頭にグリグリと銃口をめり込ませる。

 その光景に、傍らのノインは苦痛の表情で唇を噛み締めていた。



「動けば殺すよ? ⋯⋯⋯⋯まァ、動かなくても殺すけどっ♡」


 そう言って心底愉快そうにニヤリと笑うアインス。言うが早いか、彼は引鉄に手を掛けて躊躇ためらいもなくそれを引いた。



 ————パァン⋯⋯!!



 静まり返った室内に鋭い銃声が響くと同時に上がる血飛沫。

 ビシャリと勢い良く噴き出したそれは、シーツや壁、そして彼女を撃ったアインスの顔や衣服を赤く染める。



「あー⋯⋯もう、サイアクっ! せっかくセットした髪が汚れちゃったじゃん!」


 アインスがそう言って胸ポケットから鏡とハンカチを取り出すと同時に、至近距離でライフルの銃弾を受けた女性がドサリと床に倒れた。

 倒れた衝撃でこちらを向いた女性の目は大きく見開かれており、その瞳からはツウっと一筋の涙が流れ落ちる。


 穴の空いた女性の額から流れ出た血で、床には血溜まりが出来ていた。



「くそっ⋯⋯!」


 その光景を目の当たりにした誠司は悔しそうにそう吐き捨てる。

 手鏡から顔を上げたアインスは、女性の亡骸の髪を掴んで乱暴に持ち上げた。


「九頭龍《お父》様に逆らった奴はこうなる訳。分かった?」

「⋯⋯⋯⋯っ!」


 桜河は生まれて初めて感じる生々しい死の恐怖に、ブルブルと身体の震えが止まらなかった。手からは力が抜け、持っていたアタッシュケースを床に落としてしまう。


「こ、こんなのどうすれば⋯⋯⋯⋯お、俺には無理⋯⋯だ」


 思わず桜河の口から弱気な言葉がついて出る。それを聴いた誠司は前を向いたまま口早に言った。


「⋯⋯アンタは坂本さんに連絡して、応援を呼んで! ここは僕が何とかするから!」

「な、何とかって⋯⋯お前一人でどうするんだよ!」

「僕は沖田総司だよ? 雑魚が何人束になって掛かって来ようが、こんな奴らは僕の敵じゃない」

「⋯⋯⋯⋯!」

「僕のことは良いから、アンタはアンタに出来る事をして」


 そう言って振り向いた誠司はニッと口角を上げて見せる。

 一見、傲慢とも思える物言いであったが、その実は己を鼓舞する目的で言ったのだろうと桜河は思った。実際、彼の顔には微かに汗が滲んでいたからだ。


 桜河から見ても、この状況が劣勢である事は明らかだった。実戦経験の無い桜河を庇いながら、恐らく相当な実力を持つであろう2人を誠司一人で相手取るのだ。

 しかし、誠司は弱気になる事無く真っ直ぐに敵を見据えている。



「わ、分かった!!」


 今の桜河は勇敢な誠司の背中にそう返事をするだけで精一杯だった。








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