今一度日本を洗濯するぜよ!龍馬の野望!
部屋の入り口にはスリッパが用意してあり、それに履き替えてから室内へと足を踏み入れる。
桜河の通う高校の教室よりもずっと広いその部屋にはいくつものデスクが並べられ、その上には対称的に並べられた2つのモニターにキーボード、マウスなどが置いてあった。そのどれもが最新式であり、オンラインゲームを嗜む桜河が憧れているものばかりだ。
さらには、ロッカーや休憩スペースのような区画もあり、その部屋はまるで何処ぞのオフィスのようであった。
(すげえ⋯⋯うちの高校のパソコン室でも見たことねえよ! もしかして、あれがデュアルモニターってやつか?)
桜河にとっては非現実的な光景に目を輝かせていると、それまで後ろでようすを見守っていた龍馬が口を開いた。
「確か⋯⋯おまんは桜河言うたか。おまんは自分が何者か分かっちゅーのか?」
「いや⋯⋯俺は⋯⋯分からない、です。そもそも俺が本当に偉人の生まれ変わりなのかも怪しいというか⋯⋯」
自信なさげに答える桜河を見た誠司はため息を吐く。
「きっと何かの間違いですよ。こんな浅慮で馬鹿な人間が僕らと同じ筈がない」
「何だと⋯⋯!? それなら俺だって、お前があの沖田総司の生まれ変わりだなんて信じてねえからな!!」
「アンタに信じて貰えなくたって僕が沖田総司である事実は変わらないから、どうぞご勝手に」
べーっと舌を出して挑発する誠司に、桜河は怒りでブルブルと肩を震わせる。
今にも喧嘩が始まりそうな一触即発の雰囲気の中、龍馬はにこにこと人好きのする笑みを浮かべて口を開いた。
「まあまあ、おまんらぁ落ち着きーや。これからは命を預ける仲になるがやき、ちっくとは歩み寄らんと」
「「絶対無理!!」」
龍馬の宥める言葉に、皮肉にも2人は声を揃えて答えたのだった。
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「それで、おまんも不思議に思うたかもしれんが、わしが徳川についちゅうのにはマリアナ海溝よりも深~い理由があるがよ」
「理由って⋯⋯?」
桜河が尋ねると、龍馬はズイッと距離を詰めて、内緒話をするみたいに声を潜めた。
「⋯⋯ほりゃあな、今一度この日本を変える為じゃ」
「っ!!」
「おまんも知っちゅうかもしれんが、わしゃ日本をよりええ国にするために薩摩と長州に協力を仰ぎ、維新を起こしたんじゃ。けんど、今の政府はどうじゃ。国民の血税で私腹を肥やし、民を顧みることなく己の保身ばっかりしゆう。こりゃあ、わしの作りたかった日本やない。どうにかしてもう一度変える必要がある、と思うちょったところを若様に拾われたんじゃ」
拳を握り締め熱く語る龍馬。
ふと誠司を見ると、かつての敵が今は味方であるのが本心では受け入れられないのか、複雑そうな表情をしていた。
(記憶のない俺にとっては教科書に書かれている坂本龍馬が全てだけど、コイツにとっては違うんだよな⋯⋯)
出会ってからというもの、憎たらしい表情ばかりを見せられてきた桜河だったが、らしくもなく覇気のない誠司に僅かばかりの同情の視線を向ける。
しかし、そんな桜河の心情を知ってか知らずか、誠司からは蔑みの視線と共に「何見てんの、変態」という言葉が飛んできて、ついに堪忍袋の緒が切れた桜河は彼の胸ぐらを掴んだ。
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ぎゃあぎゃあと騒がしく言い合いをしながら本部の扉をくぐる2人の後ろ姿を、龍馬は目を細めて見ていた。
「勝てば官軍負ければ賊軍、か。新政府軍は幕府に反旗を翻した裏切り者じゃったが、勝利したきこそそれが正義となった。やけんど、今じゃ当時の志など忘れ去り、目先の欲に囚われるばっかりじゃ。そして、敗者はただ苦汁を飲み耐えるのみ。こう着状態の戦況を変えるべく若様はあの2人を組ませることにしたようじゃが⋯⋯果たして、それがどう転がるがか⋯⋯。面白くなってきたのう」
クツクツと心底可笑しそうに笑う龍馬の瞳は、獲物を狩る獰猛な獅子のようにギラリと鋭い光を帯びていた。
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