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【3章】帰れない楽園  作者: 結糸
第1章 異世界召喚
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クラークの背中

 クラークの屋敷へ戻り、二人で夕食をとってから一葉はベッドの上でカインを呼んだ。


「…どうしよう。戦場だって。どんな感じになるのかな」

「殺し合いになるでしょうね」

 相変わらず背中合わせでぼそぼそと話しながら一葉はカインの背中によりかかる。


「いやだな…。コルディアもレスタントも人が死ぬのは見たくない」

「そんな覚悟もなくて、ラスティを王にすると言っていたんですか?」

「それは…」

 一葉が否定しようとして振り返ると、カインは背中を向けている。一葉は向き直った。


「…そうだね。覚悟はなかったかも」

「自分の願いをかなえるためにここにいるんでしょう。なら、受け入れるべきだ」

「…そうかもね。覚悟か…」

 一葉はため息を吐いた。クラークたちが殺されるのも見たくないが、クラークたちが誰かを殺すのも見たくないと思った。それがアーウィンだったら。

「アーウィンは来るのかな。みちるも…」

「来るんじゃないですか。超獣使いということになっているなら、シリウスの力を使うのはみちるという立場でしょうから」

「…だよね。オスカーは来ないよね」

「国王が前線に出ると言うのはあまり聞いたことがありませんね」

「だよね。…アーウィンは私が超獣使いだったわかったかな」

「…おそらく」


 オスカーはきっとアーウィンに言っただろう。

 一葉がレスタントの超獣使いであると。

ジャックたちから聞いたはずだ。アーウィンと戦いたくはなかった。もちろん、みちるとも。


「…ちょっと、考えてみる。ありがとう。戻って」

「はい」

 カインはずるりと一葉の背中からもとへ戻った。そういえば、と一葉は思う。カインはあまり正面切って私と話さない。何か理由があるんだろうか。


 一葉はベッドから下りて、クラークの部屋をノックした。

「どうぞ」

 部屋へ入ると、クラークはベッドの上で本を読みながらグラスをナイトテーブルの上に置いていた。

「こんばんは。…お酒、飲んでるの?」

「少しね」

「夕食の時も飲んでたのに」

「寝酒だよ。眠れないか?」

「うん…。少し」

 一葉クラークのベッドのそばに行く。


「クラークって、お酒好きだよね」

「そうだな。…座ればいい」

 クラークがベッドの隣を手で指すので、一葉はクラークの隣に腰かけた。


「うん。…明日は、戦場に行くんだよね」

「緊張して目がさえてるんだろう。それが普通だ」

 クラークは本を閉じて、グラスの残りのワインを飲んだ。

「私が初めて戦場へ行ったのは、18の時だった。高学を卒業した年だ。国境沿いでコルディアの兵士と戦った。まだ下っ端の兵士だったから、とにかく目の前の敵と戦うのに精いっぱいだった」

「そうなんだ。…人を、殺したの?」

 じっと一葉にみつめられ、クラークは苦い笑みを浮かべて顔をそらした。


「殺さなければ、私が殺されるからな」

「…そうだよね」

 一葉は下を向いた。軍人であるということはそういうことなのだろう。


「…アーウィンも、殺すの?」

 一葉は微かに震える声で聞いた。

 クラークは一葉をみつめる。

「そうか。コルディアで世話になったと言っていたな。フレッチャーとは昔から因縁がある。奴の額に消えない傷をつけたのも私だから、向こうもさぞかし私を殺したがっているだろう」

「クラークが殺されるのはいやだよ」

 不意にクラークは一葉の手をとった。


「怖いか? 怖いなら、戦場に出ることはない。私たち軍人の仕事だから、一葉が前に出ることはないんだ」

「でも…」

 触れられた手が妙に熱い。クラークがお酒を飲んでいるからだろうか。

 一葉はどぎまぎした。


「人を殺す覚悟のないものが、戦場にいても足手まといなだけだ。誰の目にも触れないように隠れていなさい」

 クラークは一葉の手を離した。一葉ははっとする。突き放したような言い方だが、それが事実なのだろう。


「…でも私、クラークが殺されるのはいやだし、見たくない。みちるのことも守りたい」

「そうならないようにする準備を今日会議でしたのは、一緒にいてわかっただろう」

「聞いてたけど…。あの大臣? の人たち、なんかあんまり好きになれないな」

「彼らには彼らの領分がある。立場が違えば、ああいう輩も出てくる。自分たちの既得権益を守るために必死なんだよ」

「でも…なんか、やな感じだった」

 一葉が唇を尖らせる。


「そう言うなら、一葉も私の立場がわかるということだ。若輩者はいろいろ立場が弱くて大変なんだ」

「確かに、クラーク以外の偉い人はじさんばっかりだったね。あ、イヴァンもいるけど」

 クラークは笑みを浮かべて、一葉の頭に手をおいた。


「さあ、もう休みなさい。明日は速いんだ。起きられなくなる」

「うん…」

 クラークが立ち上がり、本を机の上に置く。

 一葉もベッドから下りて、クラークに背中から抱き着いた。


「っ…」

 クラークが息を飲んだのが分かった。驚いたのだろう。鍛えられた身体は胸板が厚い。

 一葉にクラークの体温が伝わる。彼の匂いがした。

「クラーク、いつも迷惑かけてごめんね。今日、それがよくわかった。私のせいでいっぱい嫌な思いしたよね。…ごめんなさい」

「…そう思ってくれるなら、ありがたいな。私もいろいろ苦心したかいがあったというものだ」

 クラークが笑ったのがわかった。一葉はほっとして、クラークを抱きしめる腕に力を込めた。クラークが一葉の手に自分の手を重ねる。


「私なら平気だ。言っただろう、私の仕事だと」

「うん。…でも、ありがとう」

 一葉はそう言って、ばっとクラークから離れた。

 そしてドアに向かって駆け出し、「おやすみなさい」と言ってクラークの部屋を出た。


「…やれやれ。慌ただしいな」

 クラークは苦笑しながらドアを見る。


 一葉は自分がしたことを恥ずかしく思いながら、部屋へ戻って体を動かして眠りにつくまでの時間をやり過ごした。


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