テスト
「うわ、待って…」
一葉が言うより早く、いぬくんが前の3人と後ろの兵士を突風を起こして彼らを壁に突き飛ばした。
「あ、ありがとう、いぬくん…」
「くるる」
いぬくんがドアを見る。一葉は急いでドアを開けようとするが、開かない。
「え、なんで…」
立ち上がった兵士の一人が一葉に襲い掛かるのを、いぬくんが氷の塊を口から出して壁に氷漬けにした。
「ぐあっ…」
「これはどうだ!」
二人の兵士がいぬくんと一葉に同時に剣を向ける。さらに後ろからもう一人の兵士が向かってきた。一葉は思わずしゃがんで、いぬくんが地面から土の塊を隆起させて三人を天井にはりつけにした。
「うぐっ…」
「く…」
「はあっ…」
4人は動けなくなって、うめくことしかできなくなった。
「な、なんなの、一体…」
「結構結構」
部屋の中の隣の部屋への続きのドアが開いて、中年の髭の男が入ってきた。その後ろには白髪の年老いた男性がいる。
「だ、誰…?」
一葉はいぬくんを抱き上げて後ろへ下がる。
「これは失礼。我らはこの国の将軍だ。私はファラデー。こちらはヒースコート将軍だ。君が超獣使いの娘だろう?」
「そうだけど…」
近づいてくる彼らから逃げるように、一葉はじりじり後ろへ下がる。
「警戒されてしまったな。我らは別に君に危害をくわえようと言うのではない。ただ、君の力がいかほどのものが見せてもらいたかったのだよ」
「…私を戦争へ連れていくかどうか、テストしたわけ?」
「そういうことになるかな」
「結果は?」
一葉はドアに背がぶつかった。これ以上下がれない。どうする。
「想像以上だ。素晴らしい」
ファラデーは髭を撫でてうなずく。
「どういう意味…」
「…一葉!」
「いたあ!」
どん、と背中のドアが開いて一葉はドアにぶつかって前によろけた。ドアを開けたのはクラークだった。後ろにブラッドもいる。
「クラーク、ブラッド…」
一葉は頭をさすりながら振り返る。二人の姿を見て、一葉はほっとした。不覚にも泣きそうになった。
「…お二人とも。私を抜きにしてお遊びが過ぎますよ」
クラークは部屋の様子を見て、すべて察したようだった。一葉の前に立ち、ブラッドは一葉の横に立って礼をした。
「何? 何が起こってるの?」
「黙ってろ」
ブラッドが小声で言う。
「申し訳ない。しかし、クラーク。君にも反省すべき点はあるのではないかな。超獣の力を独り占めするのはよくない」
「私にそんなつもりは…」
「だから我々が見極める材料として、少し試させてもらったのだよ。実に興味深い。その犬のような獣は主人を守るために手段を選ばないのだね」
一葉は困惑していぬくんをみつめる。ファラデーが愉快そうに笑った。
「少々やりすぎでは? 私を追い払った理由をお聞かせ願いたい」
「これは申し訳ない。君がなかなか超獣使いを紹介してくれないものだからね。まさか、封印されていてこれほどとは。確かに属性を様々使えるし、威力も魔法使いと並ぶか、状況によってはそれ以上だろう」
「…超獣使いの娘よ。そろそろ我らの部下を自由にしてくれまいか。できることなら。彼らは私たちの命に従っただけなのだよ。許してほしい」
ずっと黙っていたヒースコートが言う。一葉はいぬくんと彼を見る。
「…もう攻撃してこないなら」
「もちろんだ」
一葉はうなずいて、「いぬくん、あの人たちを助けてあげて」と言った。
「くるるる」
いぬくんが小さく鳴くと、隆起した土が地面に戻り、氷の塊が溶けてなくなった。兵士たちは床にたたきつけられて、それでもなんとか立ち上がった。命に別状はないようだ。4人は将軍二人の後ろに控える。
「素晴らしい。超獣使いの命令に忠実なのだね」
ファラデーが満足したようにうなずく。床にも壁にも大穴が開いていた。
「もう十分でしょう。彼女を見世物にしないでいただきたい」
「確かに。超獣の力のほどはわかった。君がずいぶんとその娘を大事にしていることもね。おまえたちはけがの手当てをしてもらいなさい」
4人の兵士たちは「申し訳ございません」と言って礼をとった。
「…では、会議へ戻ろうか。陛下がお待ちだ」
「…承知しました」
クラークは一礼して彼らが部屋を出て行くのを見送った。
「すまなかったな、来るのが遅くなって」
「おまえも悪いんだぞ。ラスティ殿下に止められたら、知らないやつについて行くんじゃねーよ」
ブラッドに軽く拳をあてられ、「はいはい、ごめんね」と一葉は応えた。
「なんか怪しいなとは思ったんだけど、ここお城だし。絶対クラークたちは来てくれると思ったから」
一葉が真顔で二人をみつめる。
「…そういうことか」
「まったく」
クラークは苦笑して、ブラッドは肩をすくめた。
「あの人たちは私の超獣使いの力…というか、いぬくんの力を見たかったんだね。クラークと同じ将軍なんだ?」
「ああ。ブラッドにラスティ殿下のもとへ一葉を迎えに行かせたらいないと言うので、急いで探しに来たんだ。二人が会議に遅れてくるなんて珍しいと思ったら、私をのけ者にしていたんだな」
クラークは複雑な表情で髪をかきあげる。
「出し抜かれたんだ。クラーク、間抜け」
「はは…。まあ、そういうことになるか。それでも一葉が無事ならよかった」
「うん…。ありがとう」
そう言われて、一葉は顔をそらしてうなずいた。なんだか急に気恥ずかしくなったのだ。
「けど、ひどい有様だ。陛下に報告するのが憂鬱だな」
ブラッドが部屋の惨状を見てつぶやいた。