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【3章】帰れない楽園  作者: 結糸
第1章 異世界召喚
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戻ってきた日常

「やあ、遅いご出勤で。その様子だと超獣使いは今のところおとなしくしてるんだね」


 本に囲まれた執務室でイヴァンは机の上にあげていた足を下した。

「ああ。今は家にいる。今日は家から出るなと言っておいた」

「言うこと聞くの?」

 イヴァンが茶化して笑う。


「風邪引いてるんだから寝てるしかないだろう。今、陛下と話をしてきた。マーティン・ホワイトを唆した連中がコルディア国王のオスカーと繋がっていたことも。アシュリーの調べたとおりだったというわけだな」

「そうみたいだね。陛下もそう一葉から聞いたみたいだ。オスカーはやはり陛下を亡き者をしたがっているということだね」

 イヴァンは眼鏡を外して本の上においた。


「連中の少年…ジャックがおそらくレスタントの誰かとつながっているはずだ」

「ロス男爵…元男爵か。彼がすべての罪をかぶったせいでわかりづらくはなったけど、アシュリーはおそらくライアン枢機卿だろうと」

「証拠がないな」

 クラークは本の表紙を指ではじく。


「ないね。証拠を残すような男じゃない。ロス男爵は女神教の保守派の心棒者だから、ライアン枢機卿の言うことならなんでも聞くだろうからね」

 クラークは顎に手をあてて考える。

「今、一葉にジャックを見られてあちらもおそらく動揺しているはずだ。動きはあるだろうか」

「あるだろうね。ただ、どういう手で来るかはなんとも…様子を見ないと」

 イヴァンも頭を押さえた。


「アシュリーに様子を見てもらってるから、近々わかると思うよ」

「相変わらずアシュリーは優秀だな」

 クラークは苦笑する。

「アシュリーは東方の忍者だからね。まったく、東方の国にはすごい職業の人間がいるものだよ」

「頼りになる。では、私は行くよ」

「そう。ブラッドによろしく」


 クラークはイヴァンの部屋を出て、兵士たちの訓練所へ行く。そこで部下たちと伝達事項を確認し、クラーク自身も訓練をして昼食をとった。

 その後、訓練を見ているとラスティがやってきた。

 兵士たちはいったん、動きを止めて礼をとる。


「これは、殿下」

 クラークが礼をとると「かまうな」とラスティは片手を上げて制した。クラークは立ち上がる。ほかの兵士たちも訓練をすぐに再開した。


「いかがなさいました? 訓練に参加されますか?」

「ん…そうだな」ラスティはちらりと周りを見てから「一葉は来ていないのか?」と尋ねる。

「一葉は昨日、戻ってから熱を出しまして。本日は休んでおります。御用がおありでしたか?」

「別に…。ただ、いつもだと俺のもとへ来るから、今日はどうしたか気になっただけだ」

「殿下が気にかけていらしたと一葉には伝えておきましょう」

 クラークが微笑むと、ラスティは「別に気にかけてなどいない」とそっぽを向いた。


「左様でございますか」クラークは苦笑する。「では、どうなさいます?」

「俺の相手をしろ」

「かしこまりました」

 クラークは壁にたてかけられた木刀をとり、ラスティに渡す。クラークも木刀を構えた。


「では、お相手仕ります」

「行くぞ」

 それからしばらく、クラークはラスティの相手をした。ラスティが汗だくになり、「もう疲れた」と言うまでそれは続いた。


 夕方になり、クラークは与えられた執務室へ行き、陳情や書類を見てサインをする。秘書官のビリーを呼んで、書類を整理させた。

「では、私は戻る。続きは明日」

「はい。クラーク様、超獣使いの娘がお戻りになられて大変ですね」

 ビリーがいたわるように言うので、「もう慣れた」とクラークは笑った。

 訓練所へ顔を出し、各所の命令の確認をしてクラークは解散を命じた。その後、馬車に乗って家へ帰った。




「おかえりなさいませ、ご主人様」

 ヴァレンタインがいつものように出迎えてくれる。クラークは「ただいま。一葉はどうしてる?」と聞いた。

「起きてご主人様のおかえりをお待ちですよ。もう体調も良くなられたようで…」


「クラーク、おかえり」

 一葉が屋敷の中からひょいと顔を出した。既に動きやすいブラウスとパンツに着替えている。いぬくんも一緒に顔を出す。

「…一葉」

 クラークが渋い表情をする。


「今日は一日寝ていなさい、と私は言わなかったか?」

「お昼過ぎまで寝てたんだよ。でもなんか、寝てるのもいやになっちゃって。シルビアのこと思い出すし。さっき起きて着替えたところ」

「まったく。…夕食は?」

「クラークを待ってた」

「では、一緒にとろうか。食べられないものは?」

「お腹はそんなに空いてないから、適当に」

 一葉はクラークにくっついて後を追った。


 先に食堂へ行っているように言われ、一葉はおとなしく食堂へ行った。クラークは私室で着替えて食堂へ入る。一葉がクラークの脇の席に座って待っていた。それがひどく懐かしいものにクラークには感じられた。

「今日はお嬢様の胃に負担がかからないように、スープを野菜たっぷりで。ご主人様にはお魚をご用意しましたが、お嬢様はいかがなさいますか?」

 ヴァレンタインが食卓に料理を運びながら言う。


「私、今日はずっと寝てたからお腹空いてないんだ。あと、パンがあればそれで」

「かしこまりました」

 ヴァレンタインはスープとパンを一葉の前に運び、クラークには料理を順に出した。いぬくんにはいつものミルクだ。

「そういえばヴァレンタインさん、私が着てきた…あそこの侍女服ってどうしたっけ?」

 コルディアの、と言いかけて一葉は言い直した。


「侍女服?」

 クラークがスープを飲みながら聞く。

「侍女として雇われていたのですよね」

 ヴァレンタインが補足する。

「そういえば、そうだったな」

「一応、洗濯させていただいております。必要であればお持ちしますが」

「うーん…。クラーク、あれって使うかな」

「…別にここではいらないんじゃないか?」

 魚を食べながらクラークは首をひねる。


「でも、また行くかもしれないし」

「馬鹿なことを。何のために」

 クラークが呆れたようにパンをちぎって食べる。

「ほら、スパイとして行くのにいいんじゃない?」

「顔を知られているのに行っても役に立たないだろう。命を狙われれるのがオチだ」

「…ですよねー」

 一葉はパンをスープにつけて食べた。やっぱりここの料理長の味はおいしいな、と思った。


「そういえば、今日はラスティ様が一葉が来ないことを残念に思っていらしたみたいだな」

 クラークはふと思い出したように話題を変えた。

「えー。ラスティが? そんなかわいいやつだっけ?」

「かわいいお方だよ。ラスティ様は」

「まあ、そこまで言うなら、行ってやらないこともないけど」

「それは助かる」とクラークは笑った。


 一葉はデザートを食べて、食後の紅茶を飲んだ。コルディアでの侍女の宿舎の食事より、やっぱりここで食べるほうが落ち着くな、と一葉は思った。




 翌日、シアンにコルディアの話をしたいと一葉が言うので、メアリアンに付き添わせて午前中は教会へ向かった。いぬくんを抱いて教会に入る。


「あら、一葉。久しぶりね。しばらくどうしてたの?」

 セシリアは食堂で子供たちに本を読んでいた。

「久しぶり、セシリア。みんな元気そうだね」

「こんにちは」メアリアンが挨拶をする。

 一葉が来たことに気づいた子供たちが、そばに寄ってきた。


「かずはだー」

「どうして来なかったの?」

「どこいってたの?」

 子供たちは口々に疑問を発する。

「えっとね…」

「まあまあ、みんな。一気に質問したら一葉も困るよ。俺に話をさせて」


 一葉たちに気づいたシアンがにこにこと笑いながら畑から室内へやってきた。手袋をはずして一葉の隣の食堂の椅子に座る。

「シアン、この前はありがとう」

「どういたしまして。俺はクラークに呼ばれたから行っただけだよ。お礼ならクラークにね」

「うん」

「…シアン、クラークのところへ行ってたの?」

 セシリアが初耳だと言うようにシアンに尋ねる。


「うん。この前俺、出かけたことがあったでしょ。一葉が熱を出したからクラークにみてやってってカラスに伝言が来たんだよ」

「…そう、だったの」

 セシリアはしばらく黙り込んでから、「紅茶をいれるわね」と笑顔で台所へ行った。


 ほかの修道女たちは畑に水や肥料をまいたり、子供たちの面倒を見ている。一葉はそれを見ながら、ほっとした気持ちになった。

「なんであのとき急に俺と握手したのかと思ったら、遠くへ行ったからなんだね。いぬくんも久しぶり」

 シアンがいぬくんを撫でて意味深に笑う。一葉はうなずいた。


「うん。誰にも言わないで言ったから。シアンにも言うわけにはいかなかったんだ」

「一葉さま、結局どこへ行っていたんですか?」

 ずっと気になっていただろうことをメアリアンがようやく口にする。

「内緒」

「内緒だね」

 一葉とシアンは笑って答えた。


 メアリアンは「では、もう聞きません」と言って笑った。

「お待たせ。一葉、どこか行ってたの?」

 セシリアがみんなにお茶を持ってきた。自分もメアリアンの隣に座ってお茶を飲む。


「うん。ちょっとお仕事に。みちると一緒にね。みちるは今もそこで働いてる。私はみちるが大丈夫になるまで様子見してたの」

「ああ、それで侍女服を着てきたんですね」

 メアリアンが納得したように言う。


「そんなところ。侍女をちょうど募集してたんだよね」

「運がよかったわね。でも一葉、侍女の仕事なんてできるの?」

 セシリアが心配そうに聞く。

「教えてくれるおばあちゃんが親切だったから大丈夫。私を雇ってくれた人もやさしかったよ」

 言いながら、一葉はコルディアの人々を思い出す。みちるは大丈夫だろうか。アーウィンは私がいきなりいなくなって、怒ってないかな…。メリッサさんも困るよね…。


「こっちへ戻ってくるまで、ずっと侍女の仕事を?」

「そうだね。それでね…」

 一葉はコルディアの名前を伏せて、オスカーやアーウィンの名前も誤魔化していろいろあったことを伝えた。シアンたちは楽しそうにそれを聞いた。

 話終わって紅茶を飲み終わると、昼食をごちそうになってから一葉とメアリアンは城へ向かった。


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