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【3章】帰れない楽園  作者: 結糸
第1章 異世界召喚
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ただいま

「うわっと」


 一葉が現れた場所は、クラークの家。そしていつも一葉が寝泊まりしていた部屋だった。

「…ここ」

「戻ります」

 背中に何かが入る違和感とともに、一葉は膝をついた。


「うわ、そうか、戻ってきたんだ…」

 数日間度離れていた場所。ひどく懐かしく感じた。かぎなれた部屋の匂い。一葉は立ち上がって深呼吸する。

「ふう…」

 一葉はとりあえずみんなに挨拶しようと部屋を出た。廊下を見ると、メアリアンが掃除機をかけていた。


「ああ、こっちにも掃除機あるんだ…」

「!?」

 一葉が声をかける前に、掃除機を止めて振り返ったメアリアンが固まった。

「メアリアン、ただいま…」

「………」

 一葉が恐る恐る声をかけても、メアリアンはぽかんと口を開けたまま、一葉を見ている。


 どうしたものかと一葉が逡巡していると、「一葉さま!」と一葉に駆け寄って手を取った。

「もう、どこに行ってたんですか! ご主人様も全然何も話してくれないし、ここ数日機嫌が悪いしでヴァレンタインさんも私たちも大変だったんですよ!」

「あー…。やっぱりクラーク、怒ってるよね…」

 一葉は視線をそらして頬をかいた。


「どうしたんですか?」

「何かあったの?」

 ほかの侍女たちがメアリアンの声に反応してあちこちから集まってきた。そして一葉を見ると、「おかえりなさい!」「どこへ行っていたんですか!」と口々に言う。


「それにしても、なんで侍女の恰好なんですか?」

「ああ、これ。ちょっといろいろ事情が…」

 白いエプロンに黒いワンピース。レスタントの侍女も多少の違いはあれど、似たような格好をしている。


「お嬢様。おかえりなさいませ」

 背後に気配を感じさせずにヴァレンタインが立っていた。

「ヴァ、ヴァレンタインさん! ただいま戻りました」

 一葉はぺこりと頭を下げる。


「ご無事で何よりです。ご主人様もお嬢様のお帰りをお待ちしておりましたよ」

 ヴァレンタインは微笑んだ。

「…クラーク、怒ってない?」

 一葉は恐る恐る聞く。


「お嬢様のご無事をお喜びになるでしょう。その恰好、お着替えになられたらいかがですか?」

「あ…そうだね。ちょっと着替えてくる。クラークはまだお城だよね?」

「左様でございます」

「じゃ、着替えたらすぐお城へ行くよ。いぬくんも迎えに行かなきゃ。ヴァレンタインさん、つきあってくれる?」

「もちろんでございます」


 一葉は急いで部屋で着替えて、アーウィンにもらった髪留めを外した。道具袋の中へ入れておく。ヴァレンタインとともに馬車で城へ向かった。着たのはもちろん、制服だ。


「ヴァレンタインさん、私、どこへ行ってたかクラークから聞いてる?」

 馬車に揺られながら、一葉はヴァレンタインに尋ねる。

「はい。コルディアへご友人を預けても大丈夫かどうかを確認しに、と」

「ヴァレンタインさんにはなんでも話してるんだね」

「私は執事でございますので」

 白髪まじりの執事はそう言って笑った。


「執事って、ご主人様のことはなんでも把握してるんだっけ」

「ご主人様が隠したい事以外は、でございますね。よろしければ、コルディアのお話など」

「うん。あのね、あっちはみちるが異世界の人間て話をして、シリウスと一緒に行ったんだよ。あ、シリウスって人間の言葉をしゃべる狼なんだけど、この話したっけ?」

「ご主人様とのご夕食の席でうかがっております」


「そうだったね。それでね、オスカーってコルディアの王様が侍女を募集してるって聞いて、そこでなんとかお城へもぐりこめないかと思って行ってみたんだけどね…」

 城へ着くまでの間、一葉はコルディアでの出来事をしゃべり続けた。


 ヴァレンタインに付き添ってもらい、一葉はどこへ行くのが先か優先順位を考えた。

「そういえば、王様に会うのって申請とかいるんだっけ?」

「では、私が確認してまいりましょう。お嬢様はご主人様のところへ」

「ありがとう。行ってくる」


 ヴァレンタインが国王の玉座へ向かい、一葉はクラークがどこへいるのか探すことにした。

 歩いているうちに、なんだか怒られそうなので、先にラスティに会うことに方針転換をする。


 城の中を走っていると、なんだか頭が重いなと一葉は思い始めた。コルディアで侍女の仕事をしてきて疲れているのだろうか。一葉は大して気にせず、ラスティの部屋をノックした。


「失礼します」

「………っ」

 返事を聞かずにドアを開けたので、中にブラッドがいることを知らなかった一葉は、やばい、と思った。


「一葉…」


 ラスティとブライアン、ブラッドも呆気に取られて一葉を見ている。

「おまえ…」

「た、ただいま…」

 ブラッドは無言で一葉に歩み寄り、正面に立った。

「えっと」

 一葉が何か言う前に、頭にブラッドのげんこつが降ってきた。


「いたあい!」

 一葉は頭を押さえた。

「そして何故か懐かしい…」

 涙目になりながら、一葉はブラッドを見上げる。


「馬鹿かおまえは! 勝手にいなくなって勝手に戻ってきて! どれだけ周りに迷惑かければ気が済むんだ!」

「だって、」

「だってもくそもあるか! 大体、超獣使いが超獣を置いていくとかわけわかんねーことすんな! 何かあったらどうすんだ! 素性がバレたら殺されるんだぞ! みんなどれだけ心配したと思ってやがんだ、この馬鹿が!」

「痛い痛い痛い!」

 こめかみにぐりぐりと拳をあてられ、一葉は悲鳴をあげた。


「もう、それくらいにしておけ、ブラッド」

 ラスティが笑いを込み上げてくるのをなんとかこらえながらブラッドに声をかける。ブラッドは一葉から手を離した。

「は、ですが…」

「あ、頭くらくらする…」

 一葉はよろめいて壁によりかかった。


「自業自得だ」

 ブラッドはふん、と鼻息を荒くして腕組みした。

「俺も一葉に会ったらいろいろ言ってやろうと思っていたのだが、ブラッドが全部言ってくれたからまあ後は言わないことにする。クラークには会ったか?」

「まだだよ。あと、国王様にもいろいろ報告しないとだね」

 一葉はこめかみを自分で撫でながら壁から離れた。


「まったく、おまえがいないせいで、俺はさっぱり城から抜け出す口実が作れなくて困っていたんだ。閉じこもって勉強ばかりさせられて、うんざりだ」

「そんなに褒められると…」

 一葉は自分の頭を撫でた。


「褒めてない」

 ラスティは即座に切り捨てた。

「どういう勘違いだ。とにかく、クラークと陛下にまだ会っていないなら挨拶に行くぞ。殿下、それではまいりましょう」

「そうだな」

 ブラッドが一葉の背を押して部屋を出ようとすると、ブライアンが「一葉さま」と微笑んで言う。


「おかえりなさい」

 ブライアンがそういうと、ラスティとブラッドははっとして一葉を見た。

「…ああ、おかえり、一葉」

「よく帰ってきたな」

 ブラッドは一葉の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。


「うん。…ただいま」

 一葉は一葉はほっとしたように微笑んだ。


「兄上もエリザベスも心配していたぞ。後で顔を見せてやるといい」

「えーあの二人が? 意外」

 一葉は目を丸くした。


 ブラッドとラスティの部屋を出て廊下を歩いていると、ヴァレンタインがこちらに気づいて駆け寄ってきた。

「お嬢様、こちらでしたか。国王陛下がすぐにお会いしたいとのことです」

「そうですか。じゃ、すぐ行かなくちゃ。…クラークにはまだ会ってないんだけど」

 一葉がブラッドを見上げると、「俺が伝えておく」と言って一葉と別れて階段を降りた。


「あー…なんか緊張する」

 ヴァレンタインと玉座を歩きながら、一葉は自分の腕をさすった。

「久しぶりですからね」

「そうだね。それもあるし、なんか…」

 体の節々が痛くなってきた気がした。

 でもこれくらいなら我慢できる。そう思って、一葉は玉座の間の兵士に挨拶をして、中へ入った。ヴァレンタインもついてきてくれた。


「ただいま戻りました」

「よく戻った」

 一葉とヴァレンタインは国王の前に出て、両手を組んで膝をついた。


「あの娘と狼は、コルディアにいるのだな」

「はい。彼女たちはなんとか無事に過ごせそうだったので、私はこちらへ戻りました」

「コルディア国王は息災であったか?」

「はい。…彼は普段はとても穏やかでやさしい方ですが、怖い人です」

「顔をあげるがよい。話を聞こう」

「はい」

 一葉はコルディアで過ごした日々をかいつまんで話し、ジャックたちがオスカーのもとにいたことを報告した。


「ほう。私を殺そうとした少年たちの一味がオスカーとつながっていたか」

「はい。彼らとつながっている人たちがいると思います」

「なるほど…」


「お話し中、失礼いたします」

 国王が顎に手をあてて考えていると、玉座の扉が開いて誰かが入ってきた。

 一葉が振り返ると、そこにはクラークがいた。クラークは礼をとり、一葉に歩み寄る。いぬくんも後からとてとてもついてきた。


「…クラーク」

「…一葉」


 一葉はクラークを見上げる。

 何を言ったらいいだろうか。

 そうだ、まず、勝手にいなくなったことを謝って…。


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