クラークの苦労
「一葉はまだ戻らないのか?」
ラスティが剣をおいて、タオルで汗を拭いた。クラークと剣の稽古をしていたのだ。
「はい。まだ」
クラークもタオルで汗を拭く。ブライアンが持ってきた水を飲んだ。
「無事でいるんだろうな?」
そう言ってから、「あいつのことだからしぶとく生きてるだろうな」とラスティはひとりごつ。
「そのようです。アシュリーの配下の報告によると、フレッチャーの侍女として宮殿で働いているようです。みちるは超獣使いだと名乗って、国王の側室候補となったとか」
「よく潜り込めたな」
ラスティは呆れとも感心ともつかない声をあげた。
「あちらはオスカーが無類の女好きですからね。側室探し兼侍女候補として採用されたようです」
「フレッチャーとは顔見知りだったか?」
「ええ。何か初対面からずいぶんと打ち解けたようでしたね」
「まったく。クラークといいフレッチャーといい、女の趣味が悪すぎるよ」
へらへらと笑いながら、イヴァンが訓練所へやってきた。ほかの兵士たちが軽く会釈する。
「イヴァン。もう時間か?」
ラスティはブライアンの持っている水を飲んだ。
「大丈夫ですよ。殿下の様子を見に来ただけですから」
「見ていたのか? 気づかなかったな」
ラスティは憮然とする。
「イヴァンは気配を消すのは得意ですから」
「なんだか褒められてる気がしないねえ。で、超獣は…」
クラークのそばからさほど離れないところにいぬくんはいた。座ったまま、じっとこちらを見ている。
「ねえ、あれに命令して何ができるか試してみてよ」
「もうした」
クラークはタオルを置いて木の剣を壁に立てかけた。
「そうなのか?」
「ええ。一葉はほとんど超獣の力を使うことをしませんでしたからね。どの程度の力が使えるのか、私のほうで確かめました。一葉以外でも命令は聞くようですね。もっとも、うちの使用人のいうことは聞きませんでしたが」
「どうだったんだ?」
ラスティが興味深げに聞く。
「私が確かめたのは、大地の力と炎の力をどの程度使えるかです。あまり派手にやると周りに知られるので、うちの屋敷の庭でやりましたが…魔法使い十人程度の力はありますね。一葉の命令なら、もっとすごいことができるのかもしれません」
「じゃあ、ヒースコート将軍とファラデー将軍に見せなきゃ」
「それはしない」
イヴァンの提案をクラークは拒否した。
「どうして? ずっと前から言われてたでしょ? 一葉の力を見せろって」
「超獣の力を知ったら、すぐに一葉は利用される。それこそ、コルディアに狙われるのは避けられない」
「それは大きい力を持つ者の代償だよ。それに、一葉の力ではなく超獣の力だ」
「クラーク、一葉を慮ってやってるんだな」
ラスティが微笑む。
「…どうでしょうね」
クラークは口の端をあげて笑った。
「ふん。相変わらずあの小娘に甘いことで。でも一葉が戻ったらどうなるかね」
「…なんとかするさ」
クラークは大きく息を吐いた。
「ああ、そう。殿下、そろそろまいりましょう。お時間ですよ」
「わかった。クラーク、俺は行く。また頼むぞ」
「承知いたしました」
クラークはラスティたちを見送って頭を下げた。いぬくんはじっとクラークを見ていた。
「召喚獣狩り?」
アーウィンの部屋を掃除していると、今から出かけると告げられた。
「そう。まあ魔物退治なんだけどね。オスカー様が今日は元老院との議会がないから、行きたいとおっしゃってね」
「元老院?」
「嫌だよ、この子は。そんなことも知らないのかい」
メリッサが呆れたように言う。
「レスタントは貴族議員と平民議員で議会を開くんだったね」
「ああ、そう…だったかな?」
知らないので一葉は適当に答えた。もっと勉強しておくんだった。本を読んでばかりでも、世情にうといのでは役に立たない。
「元老院は貴族院と似ているね。貴族のいわゆる隠居生活を送る方々が国王と政治の会議をする。政治経験を積んだ方たちから知恵を借りると言う名目でね」
「うーん…。それって、貴族だけが得することにはならないの?」
「そうならないようにするのが我らが国王の腕の見せ所だよ。もしよければ、一葉も一緒に狩りへ行く?」
「え、いいの?」
どんなふうに召喚獣にするのか一葉も気になっていた。
「アーウィン様、この娘を甘やかしすぎですよ」
メリッサがため息交じりに言う。
「いいじゃないか。コルディアに来たばかりで息抜きも必要だろう? 仕事も頑張って覚えているし」
「息抜きさせすぎですよ」
「行きたい! どうやって魔物が召喚獣になるのか見てみたい!」
一葉が興奮気味に言うので、話はすぐ決まった。
アーウィンについて宮殿の外へ出て厩舎へ行くと、みちるもシリウスと一緒にいた。みちるは身軽な服装にブーツのようなものを履いていた。
「あれ、みちるも?」
「一葉も来たのね。よかった」
「待ってたよ。一葉も連れてきてくれてよかった」
オスカーはやさしく微笑む。
「お待たせしました。では、馬で行きますか?」
「そうしよう。シリウスはついてこられるかな?」
「えっと…ついてこいって言えば、来ると思います」
みちるがそう言うと<無論>とシリウスから返事が来た。
「じゃあ、行こうか。みちるは私の馬に乗るといいよ」
「ありがとうございます」
オスカーは白馬を厩舎から出した。
「一葉は私と一緒に」
アーウィンは茶色い馬を厩舎から出す。
「うん。オスカーの馬って白馬なんだね」
「ちょっと一葉、オスカー様でしょ」
「あ、そっか」
みちるに言われて一葉は頬をかく。
「はははは! 別にかまわないよ。呼び捨てされるなんて久しぶりだ。いいね」
「よろしいのですか?」
アーウィンが困惑したように聞く。
「私がいいと言ってるじゃないか。ああ、でもこの面子でいるときだけだね。下の者に示しがつかないから」
「はあ、どうも」
「オスカー様がそれでよろしいなら」
アーウィンは苦笑した。
一葉とみちるは馬に乗せてもらい、城から近くの山へ馬を走らせた。
ちょっと…私事でいろいろありすぎて、頭はげそうです。
評価などしていただけると喜びます。




