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【3章】帰れない楽園  作者: 結糸
第1章 異世界召喚
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ニワトリ娘の逆襲

 翌朝、一葉は侍女服に着替えて髪を結い、朝食をとる。メリッサに言われてアーウィンの部屋のテーブルクロスやシーツ類を交換する。


「この時間、アーウィンて何してるんですか?」

 部屋にいないアーウィンが気になって、一葉は椅子に座って一葉を見張っているメリッサに聞く。

「まあ、日によっていろいろだよ。オスカー様が会議の時は一緒だし、オスカー様がお出かけの時も一緒だ。書類の確認なんかで部屋にいることもあるしね。…アーウィン様だよ」


「そうでした。いつもオスカー…様と一緒なんですね」

「幼いころからあのお二方はそうなんだよ。さ、次は家具を拭いて」

「昨日も拭いたのに、また拭くんですか?」

「当然だよ。毎日磨くんだ」

「はーい」


 午前中の仕事はそれで終わり、侍女の宿舎で昼食をメリッサととる。そこにはエレイン達3人もいた。一緒のテーブルに集まって話を始めた。


「一葉、よかった」

「アーウィン様のところはどう?」

「私たちもなんとか侍女になれたわ」

 3人は元気そうに声をかけてくる。同じ侍女服を着ていた。


「うん。メリッサさんに仕事教えてもらってなんとか。アーウィンはやさしいよ」

「いいわねえ。こっちは先輩が厳しくて…」

「ほら、みんなオスカー様の側室候補で来た人たちでしょ?」

「隙あらばのし上がろうって人たちばっかりで、きついのなんのって…」

「そりゃあ、あんたたちも人のこと言えないだろうよ」

 メリッサは豪快に笑った。


「仕事を覚えるまではおとなしくしてるといいさ。オスカー様の目に留まるかは、それからだね。頑張りな」

 メリッサにそう言われて、3人は仕方なくうなずいた。アーウィンに拾われたのは運がよかったのかな…と一葉は思いながら、肉と野菜のスープを食べた。


 午後からは掃除機をかけた。部屋だけでなく、長い廊下もだ。腰が痛いといいながら、メリッサは細かく一葉の仕事をチェックした。

「ふむ。まあ及第点だね。調度品は壊さないように拭くんだよ」

「はい」

 なんとか一葉がやり終えたころ、「そろそろお茶の時間だ」とメリッサが言った。

「台所はわかるね。取りに行っておいで。あたしは待ってるから」

「はーい」

 一葉はトレイを持って台所へ行く。料理人たちは一葉にはかまわず、準備をしている。

 ほかに二人の一葉より年上の侍女が何か話していた。

 一葉に気づいてじっとこっちを見る。台所のキッチン台の上には、スコーンが用意されていた。


「…あなた、アーウィン様の新しいおつき?」

「そうだけど」

「…みすぼらしい娘ね。どうやって取り入ったの?」

「どうやってって…」

「いやだ、鶏の真似したんでしょう? 恥も外聞もないわね」

 侍女二人は小ばかにして笑う。一葉は無言で紅茶の用意をする。


「鳴いてみなさいよ、鶏の声で」

「そうそう。まるで道化師ね。アーウィン様も哀れんで侍女にしたんでしょうね」

 一葉が無視してお湯を紅茶のポットに注ぐと、「ちょっと!」と侍女の一人が一葉の腕をつかむ。

「…何?」

 一葉は露骨に面倒くさそうに侍女を見る。


「新入りが無視していいと思ってるの?」

「生意気ね!」

「別にあなたたちの相手をするために侍女になったわけじゃない」

「…!」

 侍女たちの顔色が変わった。そして、キッチン台の上のマフィンを床に投げ捨てた。


「ちょっ…!」

「あら、ごめんなさい。手が滑ったわ」

「鶏は床にはいつくばって拾いなさいよ」

「………」

 嘲るように笑う侍女二人を、一葉はにらみつけた。


「…で、代わりにこれを持ってきたわけか」

 アーウィンはくすくす笑いながら、一葉が持ってきたクレープを食べる。バナナと生クリームをトッピングしているものだ。チョコクリームはなかったので、乗せられなかった。


「マフィンを作る時間がなかったから、台所ちょっと借りて簡単に作れるものをと思って」

「へえ、クレープねえ。初めて食べるよ、こんなもの」

 メリッサが物珍しそうにクレープを食べる。

「ガレットに似ているね」

「ああ、そうかも」

 この国にはクレープはなかったんだな…と一葉は一応インプットしておく。レスタントにもないんだろうか。だとしたら。


「ガレットからヒントをもらって作ってみたの。そば粉じゃなくて小麦粉でね。名前は適当…。おいしいかな?」

「おいしいよ。一葉は料理の才能もあるみたいだね」

「しかし、鶏の真似してほかの侍女を蹴り飛ばすなんて、やっちゃいけないよ。アーウィン様の恥になるからね」

「はあ…。すみません」

 一葉はクレープをもぐもぐ食べる。


「ははは。一葉がいると面白いことが起きるね。まったく、飽きないよ」

「褒められてるんじゃないよ。呆れられてるんだよ」

 メリッサが一葉に釘をさした。


「だって、鶏鶏いうから、リクエストに応えようかと」

「挑発に乗ってどうするんだい。あんたは冷静さを覚えるべきだね」

 メリッサはクレープを平らげて紅茶を飲んだ。

「はあ、そうします」


「マフィンを落とされたから怒ったんだろう? 仕方ないよ。まあ、彼女たちにはそういうことはしないように言っておくから」

 アーウィンもクレープを食べ終えてお茶を飲んだ。


「そうしてくれると嬉しいけど。アーウィンの侍女ってそんなみんななりたがるの?」

「オスカー様はあのとおり、気が多いし側室を何人もお持ちだろう。それよりもアーウィン様に取り入ってあわよくば…というのが若い娘の考えなのさ。アーウィン様はこのとおり、見目も麗しくておやさしいからね」

 自分の息子のように自慢するな…と一葉はメリッサの話を聞きながら思った。


「持ち上げすぎだよ、メリッサ。一葉には嫌な思いをさせたね」

「別にいいよ。これも仕事のうちだし」

「有名税だと思っておきな」

 メリッサがお茶を飲み終えて、「そろそろ仕事だよ」と言った。


「では、私も行くかな。一葉、また嫌な思いをしたら私かメリッサに言うんだよ」

「あ…うん。ありがとう」

 アーウィンは微笑んで部屋を出て行った。


「あんた、ずいぶんアーウィン様に気に入られたんだね」

「私が? そうかなあ?」

 わからないならいいよ、とメリッサは食器をワゴンに乗せる。


「さあ、もとに戻してきな」

「はーい」

 台所へ食器を片付け、部屋へ戻ってアーウィンの部屋の埃を払い、夕方になるとメリッサは「会いたいなら行っておいで」とみちるの部屋へ行かせてくれた。


「みちる、いる?」


 一葉がドアをノックすると、「一葉? どうぞ」とみちるの声がした。中へ入ると、みちるがテーブルの上に突っ伏していた。コリンが部屋の片隅で本を読んでいた。


「どうしたの? 大丈夫?」

「うん…。あのね、今日は側室の方々とお茶会したの。それがもう疲れて…」


 みちるは顔をあげて、一葉に今日の出来事を話す。侍女が来てあれこれ着る服を世話してくれて、コリンとシリウスを連れて庭園で始まったオスカーを含めたお茶会で個人的なことを聞かれて、ごまかすのに必死だったことと。

 オスカーは一切助け舟を出さず、知らん顔だったという。

 異世界の人間なんて言ったらどうなるかわからないので、微笑んで「とりたてて申し上げることでは…」と繰り返してやり過ごしたらしい。


「異世界の人間て言っちゃだめなの?」

「オスカー様がそれは隠しておけって。どうしても目立つでしょう。何かあるといけないからって」

「あ、コリンも知らないんだっけ?」

 部屋の隅にいたコリンはふるふると首を振った。


「コリンはいいって。話ができないし、事情を知っている人間が一人はいたほうがいいって」

「そういえば、コリンて学校には行ってないの? レスタントだと、このくらいの子は学校行ってたんだよね」

 コリンはふるふると首を振る。

「ああ、そっか。えっと…文字は書ける?」


 一葉は部屋の隅にあった鉛筆と紙を彼に差し出した。コリンはそれを受け取って、ふるふると首を横に振った。本を一葉に向って開いてみせる。それは絵ばかりの本だった。

「あー…そっか。この国では学校に通うのは義務じゃないのかな?」

 コリンはうなずいた。


「そっか。文字が読めれば便利だったんだけど」

「え、何、一葉この国の文字読めるの?」

 みちるが意外そうに言う。

「ああ、こっち来てから教えてもらった。…そういえば、この部屋って本があるね。借りていってもいい?」

「いいよ。どうせ私、読めないし。そうだ、一葉、時間あるとき字を教えてよ」

「おっけー。といっても、私も習いたてだからそんなに書けるわけじゃないけどね。私も教えてもらいたいくらい」

「わかる範囲でいいよ」


 それから一葉はさっきの出来事を話し、みちるとコリンを驚かせたのだった。

 シリウスは大きなあくびをした。



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