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【3章】帰れない楽園  作者: 結糸
第1章 異世界召喚
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側室候補

 一葉は台所へワゴンを運んで、食器洗い担当だと言う侍女に渡した。

 ここでは役割分担がきっちり決まっているらしい。次に洗濯室へ行き、さっき洗った洗濯物を乾燥機の中へ入れた。


「乾燥機と洗濯機は別なんですね」

「そりゃそうだよ。どうやって一緒にするんだい」

「えっと…」

 メリッサの発言に一葉は首をひねった。


「確かにそうですね」

「じゃあ、次はアーウィン様に言われたからそのみちるって側室に会いに行こうかね。側室の部屋はこっちだよ」

「あ、はい」

 メリッサに続いて一葉は廊下をとって階段を上る。


 みちるはもう側室になったのか…。展開の速さに一葉がついていけなくなりそうだ。

「広いですね。迷子になりそう」

「似たようなつくりをしているからね。でも、置いてある美術品なんかで区別はつくんだよ。しかし、腰が痛いと階段が上るのが辛いね。もう階段上りはこれきりにしてもらいたいね」

「すみません。今日で覚えます」

 一葉は石膏像や植物の絵などを覚えてきょろきょろと周りを見渡しながらみちるの部屋へ向かった。


「たぶんこの部屋だよ。ノックしてみな」

 メリッサに言われて、一葉はドアをノックした。


「みちる、いる?」

「一葉?」

 声をかけると、みちるはドアを開けた。


「みちる、よかった。無事?」

「なんとか。一葉も大丈夫?」

「こっちもなんとか。あ、こちらメリッサさん。アーウィンの侍女なんだって」

 メリッサはうなずいて、「アーウィン様、だよ」と訂正した。


「そうでした。彼女がみちるです。今、いろいろ教えてもらってるんだ」

「アーウィンさんね。やさしそうな人だよね。一葉と知り合いだったなんて、知らなかった」

「私もここで会えるとは思わなかったし…。でも、こんな偉い人だとは知らなかったんだけど」

 一葉はみちるの部屋へ入って中に人がいるのに気づいてぎょっとした。


「えっと、どちら様?」

「あ、この子は口がきけないの。でも耳は聞こえるから。コリン、この子が一葉。私の友達よ」

 まだ十歳にも満たない少年のように見えた。緑の髪で茶色い目をしたおかっぱの彼はこくりとうなずいて、右手を胸にあててお辞儀をした。


「コリンていうのね。私は一葉。よろしくね」

 一葉もコリンの真似をしてお辞儀して見せた。彼は微笑んだ。


「おやまあ、コリンがみちるのお付きなったのかい。侍女は着かないのかね」

「いるんですけど、今は私の服やらなにやら準備しに行ってます。この格好はだめなんだって」

「ああ…確かにここじゃ目立つもんね」

 一葉はうなずいた。

「今まで何してたの?」

「それがね、オスカー様の側室のみなさんにご挨拶に行ってたの。私の身の上のことは話したら、私は一応、側室候補ってことにしようってオスカー様が」

「ああ…うん。いいんじゃない? そのほうが」

 一葉はうなずいた。戻の世界には彼氏もいることだし。


「側室のみなさんはきれいで親切な人ばっかりだよ。…表面上は」

 みちるは笑って見せる。

「女同士って、表はともかく裏でどうなのかわかんないから怖いよね」

「そうなのよ。とりあえず、当たらず触らずでいこうとは思ってる」

 ひそひそと一葉とみちるは囁きあう。


「まったく。そりゃあ女同士なんだからいろいろあるだろうけど、オスカー様の側室は本当にいい方ばかりだよ。まあ多少はやっかみやねたみそねみがあるかもしれないけど、本人が気にしなければ大丈夫なくらいだ」

「…だって」一葉がメリッサさんの言葉をつなぐ。

「はあ、まあ、そうだといいんですけど」

 みちるはメリッサに曖昧に笑って見せた。十三人もいる側室に笑顔で挨拶することの恐ろしさは、相手が一葉一人でなければみちるには言えない。笑顔がひきつっているのをバレないようにするので精いっぱいだった。

「さて、そろそろ乾燥機も終わる頃だろう。戻るよ」

「ああ、はい。じゃ、みちる。また時間空いたら来るね」

「うん。私も行けそうなときは行くから」

 一葉は部屋を出ようとして、急いで中へ戻った。


「コリン、みちるのことよろしくね」と彼の頭を撫でた。

 一葉に言われて、コリンはこくりとうなずいた。

「じゃあね」

「またね」

 二人は手を振って別れた。一葉はほっとして廊下をとおって階段を下りる。


 とりあえずみちるの居場所は保障されたみたいだ。あとは数日いて、みちるの身の安全が保障されたら帰ろう。一葉はそう決めて乾燥機からシーツを取り出した。

「本当なら、もっと早くこれは終わってるんだけどね。あんたが遅いからこんな時間になっちまった。さあ、これをしまって。つぎはアーウィン様のお部屋の木製家具をすべて拭くんだよ」

「はい、頑張ります」

 一葉はシーツをシーツ置き場にしまって、アーウィンの部屋へ戻る。

 水を汲んできて雑巾で家具を拭くと、「今日はこんなもんで勘弁してやるよ」とメリッサが言った。

「アーウィン様は常にオスカー様のそばにいるから、食事も家へは帰らずこの部屋でとるんだよ」

「オスカーと一緒じゃないの?」

「あんたは、陛下まで呼び捨てかい」

 メリッサは呆れて腰をさする。

「あ、すみません」

 一葉は頭をかいた。

「まったく、あんたは大物だよ。オスカー様は側室と一緒に食事をとられる。それもその日気が向いた方とね」

「なるほど」

 一葉はうんうんとうなずいた。


「さて、あたしらは侍女の宿舎へ戻るよ。明日も朝から仕事だからね」

「はい」

 一葉は雑巾を片付けて、メリッサに言われるままに侍女の宿舎へ戻って粗末な食事をとった。クラークの家の料理人の味が恋しいなあ…と思いながら一葉は部屋へ戻った。


 侍女の宿舎へ戻る道すがら、レスタントにいた自分がどんなに甘やかされていたかを思い知った。

 朝起きて食事を用意してもらい、勉強して、ラスティたちと過ごして、帰れば食事と寝床が用意されている。

それが今はしがない使用人だ。正直、疲れた。でも何日かみちるの様子をみれば、と一葉は思い直した。少しの間だ。そしたら帰ろう。


 クラークは怒っているかな。…怒ってるよね。勝手なことして、後で何を言われるか。そもそもあの家へ入れてもらえるだろうか。ラスティも怒ってるだろうな。ブラッドも…。シアンなら心配してくれるかもしれないけど。

 使用人用の風呂を借りた宿舎への帰り道。

 月明りに照らされた夜道を一人で歩いていると、ふと何か物音が聞こえた。着替えを持ったまま、一葉は物音のするほうへ足を運ぶ。


 建物の陰からそっと覗くと、そこにはアーウィンが熊と対峙していた。アーウィンはナイフで熊相手に応戦している。一葉は目を見開いてその光景をみつめる。

 熊は鋭い爪でアーウィンに襲い掛かる。アーウィンは右に左にと避けるが、ナイフを熊に弾き飛ばされた。


「くっ…」

「アーウィン、危ない!」

 一葉が叫んでアーウィンに駆け寄ろうとしたが、熊がアーウィンに襲い掛かろうとした瞬間、「戻れ」とアーウィンが言うと熊はぱっと消えてしまった。


「えっ…消えた?」

「はは、驚かせたみたいだね」

 アーウィンは苦笑しながら落ちたナイフを拾い上げて懐にしまった。


「あの熊は…?」

「あれはグリズリーだよ。私が召喚した魔物だ」

「召喚…」

「私は召喚士なんだ」

 アーウィンは袖口の汚れを払う。

「召喚士…」


「会うのは初めてかな。まあ召喚士は数自体が少ないしね」

「そういえば…初めて会った時も、蛇を…」

「そうだったね。召喚士は魔物を倒して契約して、自分の配下にするんだよ。そして必要なときに召喚して、自分の代わりに戦ってもらう。それが召喚士だ」

「へえ、便利だね」

 一葉は素直に感心する。


「ただ、召喚している間に集中力を欠くと、こっちが寝首をかかれる場合もあるから結構大変なんだよ。魔物を倒すのも強い魔物ほど苦労するしね。だから、召喚士はあまりなり手がいない」

「じゃあ、あのでかい蛇もアーウィンが倒したの?」

「そう。あれも倒すのはなかなか骨を折ったよ」

 アーウィンは思い出して目を細める。


「強いんだね、アーウィンて」

「簡単ではなかったかな」

 アーウィンは苦笑した。

「さっきの熊…グリズリーも?」

「そうだよ。たまに召喚して、腕がなまっていないか私の相手をしてもらうんだ」


 アーウィンは笑顔だが、それって結構命がけなのでは…と一葉は少しばかり心配になった。

「だったら邪魔しちゃったね。ごめん」

「いや、そろそろ終わりにしようと思っていたところだよ。…今日は疲れただろう? 慣れないことをして」

 アーウィンにやさしく聞かれ、一葉は不覚にも泣きそうになってしまった。だから、思い切り笑顔を作った。


「朝から鶏の真似したから、大変だったよ」

「…っふふ、あはは、そうだったね」

 アーウィンは思い出して笑い出した。


「もう、思い出すの禁止って言ったでしょ」

「だって、一葉のほうから…はははっ」

 アーウィンは笑いが止まらないようだった。一葉はむっとして、空を見上げた。

「あーねえ、アーウィン。見て。月がきれいだよ」

「はは…。ああ、本当だ。もう少しで満月だね」

 レスタントのみんなもこの月を見ているのだろうか。一葉はふと懐かしさがこみ上げた。


「アーウィンと一緒にいると、ほっとする」

「そう? それは光栄だね」

 何故ほっとするのか。その理由は一葉には言えなかった。

「今日はゆっくり休むといいよ。宿舎はどこだったかな。送っていくよ」

「いいよ、そんな…」

「いいから。そうしたいんだ」

「…ありがとう」


 宿舎まで送ってもらい、アーウィンがメリッサに挨拶すると「まああああ!」とメリッサは恐縮していた。

「まったく、アーウィン様に送ってもらうなんて贅沢な子だよ。ほら、明日も早いんだからさっさと寝ちまいな」

「はい。おやすみなさい」

 メリッサは腰が痛いと言って、早々に休んだ。


 一葉は本が読みたいなと思ったが、メリッサが眠るのでは明かりがつけられないし部屋には本がないので、スマホをこっそり使って日記を書いて眠った。



今日は夜更新できないので、こんな時間です。

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