みちるの駆け引き
「あの、実は私、異世界から来た人間なんです」
「…なんだって?」
みちる以外のほかの3人もなんとか侍女になることができた。
どういうわけかみちる一人だけはオスカーに「今日からここが君の部屋だよ」と城の一角へ案内された。
ベッドや机やクローゼットなどが置いてある。侍女というにはずいぶん整った部屋だ。
これはチャンスだとばかりにシリウスとみちるとオスカーの三人になったとき、みちるはすぐに告白した。
「信じてもらえないかもしれないんですけど、本当なんです。数日前ここに来たばかりで」
「うーん…。どういうことなのかな」
オスカーは顎に手をあてて考える。
「えっと、説明しますとレスタントに超獣使いが現れたじゃないですか。それで青の賢者が世界の均衡を保つためにコルディアにも私を異世界から召喚したんです」
「へえ…。あの伝説の七賢者の一人、青の賢者か。ということは、君も超獣使いということ?」
「そういうことになるでしょうか」
みちるは慎重に答える。
もしそう聞かれたら、一葉から相手の話を肯定もせず、否定しないこと、という話をすることにしていた。
「でも、証拠は? もしかして、その犬が超獣なの?」
オスカーに聞かれ、みちるはシリウスの頭を触る。
「実はさっきの芸も、彼の力で見せたものです」
「もしかして…」
「風の力です」
「…今、ここでも見せられる?」
オスカーが言うので、みちるは少し考えて「何か傷つけてもいいものありますか?」と聞いた。
「そうだね。では、これを」
オスカーは観葉植物の枝を一本切って手に取る。
「シリウス、お願い」
<よかろう>
みちるにだけ聞こえるように返事をして、シリウスはオスカーの手の枝を風ですぱっと切った。はらりと切られた枝が落ちる。
「…なるほど。威力はこの程度?」
「もっと力を使えますが、ここを荒らすわけにはいかないので」
「確か、精霊の力すべてを使えるんだとか」
「封印されているので、今はこれだけです」
超獣は火、土、水、風の力を使えるが、シリウスは風の力しか使えないのでそれは封印されているせいにしよう、という話を一葉とみちるはしていた。
「そう…。ということは、東方の出身と言うのは嘘なんだね? あの一葉と言う娘も?」
「あの、彼女とはここへ来る途中で知り合って。私と同じような顔立ちをしていたし、職を探しているというので一緒にお城へ来たんです。話も合うし、すぐ友達になりました」
そういう話にしておこう、とこれもまた一葉と口裏を合わせることにしていた。
「へえ、そう。…あの子、なかなか面白いよね」
オスカーは思い出して笑い出す。
「ニワトリのものまねなんて私の前でした人間は初めて見たよ」
「あ、あはは…。そうですか。そうですね」
みちるはなんとフォローしていいかわからず、愛想笑いを浮かべる。
「俺の侍女になる気が本気であったのかなあ?」
「でも面白いことをしてみせろって言ったのはオスカー様じゃないですか。彼女なりに必死で頑張ったんですよ」
みちるが必死にフォローする。
「まあ、そうかもね。急に言ったからね。…それで、みちるは俺に庇護してほしい。そしてコルディアの役に立ってくれるという交換条件ということでいいのかな?」
「そうしていただけると嬉しいです」
みちるはぎゅっと手を合わせた。オスカーをそれを見て、少しの間考えていたが「…まあ、いいよ」とあっさり受け入れた。
「いいんですか?」
「そうだね。…いろいろ不審な点がないわけじゃないけど、嘘を言って君が抱える危険のほうが大きいのにそういうことを言うというのは、何かしらその根拠となるものがあるとしよう。…それになにより、面白そうだ」
「お、面白い?」
「そうだよ。面白い。アーウィンに言ったら怒られそうだけど、身近に不穏分子を抱えるのは好きなんだ」
オスカーに微笑まれ、みちるは戸惑う。
「私、不穏分子ですか?」
「可能性としてはなくはないよね。…ところで、なんで私が君を侍女の部屋でもない城の一部屋へ連れてきたかわかる?」
「えっと…なんで、ですか?」
「侍女と言うのは表向き。私の側室になるというのが条件だということは、知らないわけじゃないだろう?」
オスカーはみちるの長い髪をひと房手に取る。
「あ、あの、そ、それは…」
みちるはまさかの展開に焦る。どうしよう、ここは受け入れるべきなんだろうか。でも。みちるの頭には彼氏の克己の顔が浮かんだ。
「東方の顔立ちと言うのは、私にもなじみが深くてね」
「あ…あ、いやあ!」
みちるは顔を近づけてくるオスカーを突き飛ばした。オスカーはきょとんとしてみちるを見ている。
「ご、ごめんなさい! でもあの私、実は元の世界に彼氏がいて、ほかの人とそういうことはちょっと…」
みちるはパニクってわたわたと言い訳をする。オスカーは呆気に取られていたが、笑い出した。
「ふふ、あはは…。わかった。恋人がいるんだね。無理強いは私の主義ではないから、ここはおとなしく退こう」
「は、あの、すみません…」
みちるは申し訳なくて頭を下げた。
「へえ、異世界では頭を下げるのが謝罪の方法なの?」
「え、ああ、これは…国にもよりますけど。異世界もいろんな国があるので」
「ふうん。この国ではね、挨拶のお辞儀はこうするんだよ」
オスカーは右手を胸にあたてて頭を下げた。
「そうなんですね。レスタントともまた違うんだ」
「…レスタントのお辞儀の仕方を知っているの?」
みちるはさっと血の気が引いた。知っているのはおかしいのだ。
「あの、一葉に聞いたんです。レスタントではそうやるんだよって。いろいろ話の中で。コルディアはどうするんだろうねって話してました」
「へえ、そう。彼女はレスタントで侍女として働いていたのかな?」
「あの、なんか食べ物屋さんの店員て言ってました」
みちるは冷や汗をかきながら答えた。
「なんで辞めてきたのかな。ま、いいけど。後で君には侍女をつけよう。大切なお客様だからね」
「あの、それなら!」みちるは急いで付け加える。「一葉を私の侍女にしてもらえませんか?」
「一葉を?」
オスカーは首をひねる。
「ううーん。彼女はアーウィンの侍女だからねえ」
「えっと…じゃあ、仕事の合間に私に会いに来て、お話しするとか、だめですか?」
オスカーはじっとみちるを見て、微笑んだ。
「それくらいならいいんじゃない? アーウィンには言っておくよ。でも、よっぽど一葉が気に入ったんだね」
「あ、はい。その…異世界で初めて仲良くなった子なので」
みちるは笑顔でそう言った。これで一応、話のつじつまはあった…はず。
「では、私はここで失礼するよ。侍女も後で来るから」
「はい、ありがとうございます」
オスカーが部屋を出て行くと、みちるは部屋にある椅子に座り込んだ。
「はああ…」
みちるは机の上に突っ伏した。
<大丈夫か?>
シリウスがみちるに身を寄せる。
「ありがとう、大丈夫。…でもすごく疲れたあ…」
<これからが本番だぞ>
「だね。…一葉、うまくやってるかな…」
みちるは窓の景色を眺めて、親友に思いをはせた。




