思わぬ再会
「ははははは! あはは、ははははは!」
突然、静まり返った部屋の中に笑い声が響いた。
一葉はその笑い声の主を見て、言葉を無くした。
「…おまえが声をあげて笑うとは珍しい」
男は笑い声の主を振り返る。彼は審査員の男の兵士の後ろに立っていて、一葉は彼がいたことに気づかなかったのだ。
「申し訳ありません…」
彼は肩を揺らして笑っている。
「この娘が気に入ったのか?」
「ええ、とても。もしお許しいただければ、彼女は私の侍女として雇っていただいてもよろしいでしょうか?」
彼は必死で笑いをこらえながら言う。
「まあ、おまえがそうしたいならいいよ」
「感謝いたします、陛下」
「陛下…って」
一葉はあんぐりと口を開ける。恐る恐る審査員の男を指さす。
「まさか、この人が国王…」
「国王陛下のオスカー様だよ、一葉」
彼の言葉に、娘たちは動揺を隠せずざわめいた。まさか、国王本人に審査されていたとは。一葉とみちるの想像では、腹の出た中年のすけべ親父だと思っていたのに、まさかこんなに若いイケメンの男だとは。そして何より。
「…アーウィン」
「しばらくだね、一葉」
国王の後ろに控えていたのは、数日前レスタントで出会ったアーウィンだった。
「はあ…」
一葉はずんと落ち込みながら部屋の壁に頭を押し付けていた。
「まったく、どうしたんだい。アーウィン様のおつきの侍女なんて、みんな羨ましがるんだよ。もっと嬉しそうな顔をしなよ」
年配の侍女に一葉は肩をたたかれた。
「見られた…」
「は?」
「鶏の真似してるのをアーウィンに見られるとは、もう無理だ。無理ゲーすぎる。知ってる人が誰もいないと思ってたからできたのに。絶対無理。あの女頭おかしいとか思われた。絶対」
「何をぶつぶつ言ってるんだ。ほら、さっさとこれに着替えるんだよ。あたしは腰が痛いんだから、無理できないんだからね」
「あ、はい…」
一葉は仕方なく壁から顔を離した。
メリッサと言う名のこの女性は、アーウィンのお付きの侍女で長年彼の世話をしているらしい。道すがら、困ったことはなんでも彼女に聞くように、とアーウィンに言われたのだった。
メリッサから侍女服を受け取り、とりあえず一葉は着替えた。
「よし、まあ見れるようになったね。それにしても、アーウィン様と知り合いなんてどこで知り合ったんだい?」
「レスタントです」
「レスタント? っていったら、敵国じゃないか。なんでそんなところで」
「えっと…」
なんて説明しようか一葉は迷った。すると、メリッサは何か察したようだった。
「まあ言いたくないなら聞かないよ。でも、アーウィン様と会ったことはあまり他人に言うんじゃないよ。それでなくてもあんた、アーウィン様のおつきってのは妬まれる対象だからね」
「どうしてですか?」
メリッサはゴムを一葉に渡した。
「それで髪を結いな。仕事の邪魔だからね。オスカー様がああいうお方だろう。そしてアーウィン様はオスカー様の腹心だ。身分は低いけど、あのお二方は長い付き合いだからね。アーウィン様とお近づきになろうって輩はやまほどいるのさ」
一葉は話を聞きながら肩まである髪を結い上げた。
「そうなんですか。じゃあ、メリッサさんも?」
「あたしは古株だからね。ものを言うやつなんか、黙らせてきたよ。若い子もあたしの体調が悪い時に雇ったりしたんだけど、やっかみに耐えられなくて辞めてったよ。あんたも長持ちするかねえ」
メリッサはじろじろと一葉を上から下まで見る。
「そんな細い体で侍女が務まるかどうか」
「頑張ります。…それで、私と一緒に来たみちるがどうなったか、わかりますか?」
「知るわけないだろ。オスカー様の侍女になったんなら、そのうち情報が来るだろうよ。あんたは他人の心配より、自分の心配することだね。まず、今日からあんたのすることを教えるよ」
「わ、わかりました。メモとってもいいですか?」
「鉛筆と紙ならそこだよ」
一葉は机の上から鉛筆とメモ帳をとった。
アーウィンから一葉が案内されたのは、侍女たちの寝泊まりする部屋だ。
アーウィン付きの侍女はメリッサだけで、一葉は相部屋を使わせてもらうことになった。ベッドは二段ベッドなので、上を使うようにと言われた。
「じゃあ行こうか」
「はい」
みちる、うまくやってるかな…と思いながら、一葉はメリッサの後に続いた。




