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【3章】帰れない楽園  作者: 結糸
第1章 異世界召喚
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コルディアの王都

「うわっと」

「まぶしい」

「ここがコルディアの王都です」


 カインがそう言うと、すぐに一葉と同化して姿を消した。


 一葉たちが立っていたのは、大通りの露店が並ぶ通りだった。一瞬で現れた一葉たちに多少驚いた人たちはいたが、見間違いかとすぐにほかに興味を移して行ってしまった。ただ、シリウスだけは注目されているようだ。


<…異国か。我も来るのは初めてだ>

 シリウスがぐるぐると喉を鳴らす。

「へえ…ちょっと街並みはレスタントと違うね。なんというか…」

「そうだね。同じ石造りだけど、こっちはちょっと南国風と言うか…」

 すでに夕暮れの時刻で、太陽が沈みかかっていた。西日がまぶしい。


<ここからどこへ行くのだ?>

「そうだね。…まずは王様に会わないといけないかな」

「え、待って。王様ってそんな簡単に会えるものなの?」

 みちるがもっともなことを言う。


「簡単には無理だと思うけど…一つはここで何か目立つことをして、王様の興味を引く。あとは正攻法でお城へ直接行って、一般人でも面会可能か門番にでも聞く」

「そうするしかないかあ。…あ、すみません」

 みちるは道行く親切そうなおばさんに声をかけた。


「王様に会いに行くには、お城ってどっちですか?」

「やだ、ずいぶん田舎から出てきたんだねえ。お城はほら」

 おばさんは東のほうを指した。

「向こうの大きな宮殿だよ。でも、今日はもう遅いから会ってくれるかどうか」

「ということは、一般人も会えるんですか?」

 一葉が確認する。


「もちろんだよ。何しろ、陛下は若い娘が大好きだからね。側室も確か12…13人だったかな。ほかにも恋人が何人か。下働きも若い娘をどんどん募集してるから、頑張りなさい」

「あ…」

「そういう…」

<………>

 二人と一匹は黙り込んだ。まさかそういう国王だったとは。


「えーそうなんだ。知らなかったなあ」

 顔をそらして一葉は頬をかく。

「もう、ここへ来るんだからちゃんと情報収集しておいてよ。どんなすけべ親父なんだか。私の貞操の危機じゃない」

 みちるはぞっとして両腕をさすった。


「ごめん。こっちに来る前にそうするべきだったね。情報収集はRPGの基本だったわ」

 一葉は片手をあげて謝る。

「何言ってんだい。王様はそれはいい男だって話だよ。たいていの娘はいちころって噂だしね」

 おばさんが一葉とみちるの話を聞いて笑う。

「へえ…。イケメンなんだ。よかったじゃん」

「そういう問題じゃないわよ」

 みちるは肩をすくめる。


「まあ、気張りなよ。あんたたちにも機会はあるだろうから」

「どうも…」

「ありがとうございます」

 おばさんは豪快に笑って去っていった。


「でも逆にチャンスだよね。いくらでも王様に近づけるなんて」

「それはそうかもね。じゃあ最初は、下働きってことで雇ってもらう?」

「んー…。最初から異世界の人間ですって言って保護してもらったほうがいいんじゃない? シリウスもいるし、そのほうがお手付きになる確率が低いのでは? あ、王様がどういうのが好みのタイプかにもよるけどさ」

「私、かわいいから狙われちゃうなー」

 みちるが両手を頬でつつんだ。


「はいはい。お城って結構遠いなあ。そういえば、レスタントのお城も山のほうにあったよね」

「ちょっとツッコんでよ。…もしかして、お城に泊まれなかったら野宿なの?」

 みちるは嫌な顔をして両手を組んだ。

「この国のお金持ってないしね。たぶん、ここにも教会はあると思うからそこで空きがあれば泊めてもらおうよ」

<…我を連れてか?>

 のそのそとついてきているシリウスのささやかな疑問に、一葉とみちるは顔を見合わせる。


「そうか、狼…。なんか街の人たちもこっち見てるもんね」

「街中に狼がいたら、目立つよね」

 城へ街道を歩みながら、二人はため息を吐いた。


「なんかシリウスが話してるの、みんなあんまり驚かないね」

<我はおまえたちのみに魔力で直接話している。ほかの人間には聞こえないのだ>

「へえ、便利ね」

 みちるは感心してうなずいた。


「でもどうしようかな…。どっか目立たないところに隠れててもらう?」

「そういえば、シリウスってご飯が食べるの? 封印されている間は大丈夫だったみたいだけど」

<もちろん、食べるぞ。狩をして獲物を食す>

「だと、シリウスの分のごはんも必要か…」

「あれ、さっきレスタントで道具袋にご飯買ってたよね?」

 みちるが袋からパンを取り出す。ほかにもジュースやドライフルーツ、干し肉などを買っていた。


「それ、一応こっち来て食べるのに困ってもしばらくは大丈夫なように買っておいたんだ。ヴァレンタインさんにはおやつって言っておいた」

「じゃあ、今日の分のごはんは大丈夫ね」

 みちるがほっとして道具袋にしまう。


「シリウスは肉食だよね?」

<野菜など食わんぞ>

「了解」

 二人と一匹はどんどん近くなってくる巨大な城を見上げる。

 そこはレスタントの城とは違い、どちらかと言えば宮殿のようだった。宮殿の周りにもいくつか建物が連なっている。


「…さて、門番がいるよ。なんて話そうか」

 一葉はふう、とため息を吐いて城の前の門番に話しかける。


「あの、すみません」

「なんだ?」

「また陛下への面会か?」

 一葉とみちるはうなずきあう。


「そうなんです」

「ぜひ陛下に会わせていただきたくて」

「残念だな、面会時間は終わっているんだ。明日の朝にまたな」

 すげなく断られ、一葉は食い下がる。


「待ってください。私たち、泊まるところもないんです。この季節に野宿なんて辛すぎます!」

「お願いします、城の隅でもいいので置いていただけませんか?」

 さらにみちるもそれに乗っかった。門番の二人も気の毒に思ったのか、「…ちょっと確認してくる」と言って一人が中へ入って行った。


「ありがとうございます!」

「…ところで、二人のその後ろの犬だか狼だかはなんだ?」

 門番が訝し気に聞く。

「あ、犬です、犬!」

「大きいですけど、人を襲ったりしない賢い犬なんですよ」


 二人はシリウスに抱き着いて誤魔化す。シリウスも黙ってされるままになっている。

「ふーん。まあ人を襲わないならいいか。でかいし餌代も馬鹿にならないだろう」

「あはは…」

 これでもだいぶ小さくなったのに、と一葉は内心つぶやいた。


 門番の一人が戻ってきて「侍女たちの待機部屋に空きがあるそうだから、二人くらいならいいそうだ」と言った。

「やったあ、ありがとうございます」

「お願いします」

「…その狼? だか犬だかも一緒か?」

「犬です、犬」

「かわいいでしょう」

 二人はシリウスの頭を撫でて再び必死でごまかした。


「…まあいい。おとなしくさせるんだぞ」

「もちろんです」

「行きましょう、行きましょう」

 二人は門番を急かして門の中へ入った。城の中へ入れてもらえるのかと思ったら、脇にある2階の建物へ案内された。


「じゃあマライア夫人、お願いします」

 門番に中へ入るよう促されると、中には一人の女性がこちらを見て立っていた。ベッドが並んであるだけの粗末な部屋だ。

「はい、2人増えたわね。あなたたち、名前は?」

「一葉です」

「みちるです」

「そう。変わった名前ね。東方から来たのかしら。私はマライアよ」

 眼鏡をかけて髪を結い上げたいかにもきつそうな中年女性だったが、にこやかに微笑まれた。二人は少しほっとする。


「あの、この犬も一緒に」

「すごくおとなしい犬なんです」

 マライアは眼鏡の奥でじっとシリウスを見る。


 シリウスが媚びるような鳴き声を出すと、「まあいいでしょう。ただし、ひもでつなぎなさい」と許可してくれた。


「ようこそ。ここはオスカー陛下の侍女になりたい娘たちが集まる部屋よ。今日は全部で5人ね」

 簡素はベッドの周りにはほかに3人の娘がいた。みんな一葉やみちると同じか少し年上に見えた。

「こちらは一葉とみちるだそうよ」

 マライア夫人が二人を手短に紹介する。

「はじめまして。私はイザベラ」

「私はエレインよ」

「私はデイジーね」

「よろしく…」

「あの、みんな王様の侍女に…?」

 みちるが恐々確認する。


「もちろん。そしてあわよくば、側室に」

「あなたたちもそれが目当てなんでしょう?」

「え、あ、はあ、まあ…」

 若い娘ばかりを選ぶ変態親父の側室になりたいのか…と一葉は呆れながら、適当に相槌をうつ。


「でも、全員が侍女になれるとは限りませんからね。まずは国王陛下に面談します。見た目で陛下の好みでなければ、即退場ですよ」

「ああ、そうなんですか…」

 意外と厳しいんだな、と一葉はうなずいた。


「その犬はこちらに。ああ、でも犬は何を食べるのかしら」

「少しなら自分たちが持ってきたものがあります」

 みちるは渡された紐をシリウスの首輪につけて、ベッドの足につないだ。シリウスはおとなしく従っている。


「ならいいわ。あなたたちの夕食なんだけど、今日は台所番に言っていなかったから、余分があるかどうか…。聞いてくるわね」

 マライアは部屋から出て行った。若い娘たちは「それでね」とおしゃべりを始める。


「あなたたち、どこから来たの?」

「その顔立ちって、海の向こうの東方の国じゃない?」

「よく知ってるわね、デイジー」

 一葉とみちるはとりあえず話を合わせることにした。


「ええ、東方から…」

「こっちへ働きに…」

「私とエレインは同じロペタ村の出身なの。何もない村なの」

 イザベラが微笑む。

「そうそう。畑と田んぼばっかりでね。それがいい人はいいんでしょうけど、私たちはここでいい暮らしをするために来たのよ」

「はあ、そうなんだ…」

「夢は大きくなくちゃね」

 一葉とみちるはとりあえず同意する。


「私は王都出身よ。オスカー様の側室になれなくても、恋人になれればある程度のお金はもらえるんだって。私、そのお金で勉強して看護師の資格をとって弟妹の面倒を見るの。うち、8人兄弟だから大変なのよ」

「たくましいね」

 一葉は割り切っているデイジーに感心する。


「オスカー様は女性にはとても紳士的なんですって。だからあんなに側室がいてもみんな幸せだっていう噂なのね」

「紳士的…」

「へえ…」

 紳士的なすけべ親父ってどんなかな…と一葉とみちるは想像してみたが、うまく描けなかった。


「オスカー様、過去にあんなことがあったのにお心の広い方よね」

「本当に。立派な王になられて、尊敬するわ」

「あんなことって?」


「みなさん、ドアを開けて頂戴」

「あ、はい」

 マライアの声を聴いてイザベラがドアを開けると、彼女はお盆の上にパンとスープを5人分持ってきてくれたのだった。一葉の質問はそのまま忘れられた。


「少なくて申し訳ないけど、今夜はこれで我慢してね。あと、使用人用のお風呂は夜になると空くから、そのとき急いで入ってくれるといいわ」

 みんなは返事をして、スープとパンの食事を終えて交代で風呂に入った。シリウスには持ってきた干し肉を食べて我慢してもらった。


 エレイン達3人に先に風呂に入ってもらい、一葉とみちるは二人で本当に入って体を洗うだけの風呂に入った。シリウスも体を洗ってやった。


 風呂から部屋へ戻るまで、一葉とみちるはシリウスとどうやってオスカーと話をするかを考え、口裏を合わせてなんとか王様に取り入る方法を対策した。

 部屋へ戻ると「遅かったね」と3人が待っていた。側室になったらどんな暮らしができるかな、と楽しそうに夢を話す彼女たちを横目に一葉とみちるは眠れない夜を過ごした。


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