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【3章】帰れない楽園  作者: 結糸
第1章 異世界召喚
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国王陛下へお願いを

「へえ…! 本当にヨーロッパのお城みたいねえ」


 馬車で門を通過して城の前に来たみちるが感動して見上げる。

「でしょ。すごい広いんだよ。中に本当に王様と王子様とお姫様がいるんだ」

「城へ参るのは久しぶりですね」

 ヴァレンタインは門番に礼をして一葉とみちると城の兵士たちの訓練所へ歩き出す。


「で、どこへ行くの?」

「クラークのところかな。待っててくれてるんだよね?」

「ええ。まいりましょう」

 ヴァレンタインについて兵士たちの訓練所へ庭園を通って行った。みちるは庭の美しさに目を奪われて眺めながら通り過ぎていく。いぬくんも置いていかれないようについてくる。


「あ、あそこ? へー鎧着た人がいっぱいだねえ」

「そう。本当に中世ヨーロッパの人たちみたいなんだよね。恰好とか」

「ご主人様、お待たせしました」

 ヴァレンタインが鎧を着た兵士たちの前にいたクラークに声をかける。クラークはこちらに気づいて、「少し出てくる」と兵士たちに行ってブラッドと一緒に来た。

「わークラークさん、かっこいい」

 みちるが歓声をあげる。鎧を着た姿は見ていなかったのだ。


「ありがとう。買い物は終わったのか?」

「うん。終わった」

「そっちが異世界から来たっていう…」

 ブラッドがみちるを見る。

「みちるだよ。こっちがブラッド。さっきの教会のセシリアに絶賛片思い中の…」

「おまえは! 余計なことを言うな!」 

 ブラッドは一葉の頭をつかんでぐりぐりと拳をあてて力を入れる。


「痛い痛い痛い!」

「あはは! 面白いー!」

 みちるはけたけたと笑った。

「ちょっと、見てないでなんとかしてよ、もう!」

 一葉はブラッドから頭をさすって逃げた。


「おまえが悪いんだろ」

「あの、はじめまして。尾上みちるです。一葉がお世話になってるみたいで」

「ああ。俺はブラッドだ。…意外と礼儀正しいんだな」

 ブラッドは一葉を見る。


「誰かさんと違って」

「私のどこが礼儀正しくないと?」

「初対面で俺の足を蹴りつけたような記憶があるな」

「記憶にございません」

 視線をそらして一葉はつぶやいた。


「一葉、そんなことしたの?」

 みちるは目を丸くする。そして屈託なく笑った。

「やるわね」


「まあ、挨拶はそのくらいにして。陛下にみちるを会わせたいんだろう。すぐに行こう。陛下もお忙しい方だから、誰にも彼にも時間はさけないんだ」

 クラークに言われ、一葉は「はーい」と返事をする。


「うわ、私、王様に会うなんて初めて。緊張するなあ」

 みちるが胸に手をあてた。

「そのくらいが普通だ。異世界の人間といっても、いろいろいるんだな。一葉みたいのばかりかと」

「ちょっと、何その評価。私が異世界の変人代表みたいじゃん」

「違うのか?」

「違うわ!」

 ブラッドに一葉が噛みつくのを、みちるもクラークも苦笑して見ていた。


「そういえば、みちるにもこの国での礼の取り方を教えておこう。両手をこう組んで、陛下の前で片膝をついて頭を下げるんだ」

 クラークが道すがら説明する。

「へえ、そうなんですね。ありがとうございます」

「こいつは陛下の前で礼もとらなかったけどな」

 ブラッドが一葉の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。


「あれは、いろいろ事情があってね…。おかげで青の賢者まで出てきた。まったく、迷惑な話だわ」

「どっちがだ」

 一葉が肩をすくめると、ブラッドがため息を吐いた。


「城はここから入る。みちるは入るのが初めてだろう」

「はい。うわ、生のお城って初めて」

 みちるはきょろきょろしながら城の階段を上る。

「一葉も初めてここへ来たときは、目移りしていたな」

 クラークが笑って階段の手すりを撫でる。


「だって、私もお城なんて来るの初めてだったし。重厚感ていうの? 立派だもん」

「その割にずいぶん王族の前で態度は大きかったな」

「ああ、まあ…」

 一葉は頭をかいた。

「いろいろね」

「一葉、大物だもんね」

 みちるがくすくすと笑った。


 廊下を通る侍女が一礼して通り過ぎる。一行は玉座の前に来た。

「さあ、ここが玉座だ」

「陛下がお待ちです」

 玉座の扉の前にいる兵士がクラークに頭を下げる。


「ご苦労。では、失礼する」

 扉を開けて中へ入る。玉座には大臣らしき人と何やら話している国王がいた。


「よく来たな。異世界の娘たちよ」

「御前を失礼いたします」

 クラークが先頭に立ち、礼をとる。ブラッドが続き、みちるが、そして一葉も礼をとった。いぬくんも一葉の隣で足を止める。

意外そうに国王が目を細める。


「ほう。一葉、夜会の時だけでなく、礼をとることを覚えたか」

「はい。陛下の御前ですので」

 一葉は頭を下げたままそう答えてた。


「頭をあげるがよい。クラークからだいたいの話は聞いている。それで、そのみちるという娘は世界の均衡を保つために、青の賢者の命でコルディアへ向かうそうだな。何故、我が国へ連れてきた?」

 クラークたちは立ち上がった。クラークから話がいっているようなので、一葉は多少安心して話をする。


「彼女は私の友人です。一度コルディアへ行かせますが、私たちのいた世界へ帰るために私のもとへ戻ってきてもらわなくてはなりません。そのために、彼女をこちらへ受け入れてもらうためです」

「…ふむ。一葉の願いは理解した。しかし、一葉はジョージを王にするのだろう。今はセオドールがいるし、それが果たさすためにはしばらく時間がかかる。その間、みちるがコルディアにいてあちらに情が移り、こちらの情報を流すという可能性もあるな」

「間者になる、ということですか?」

 もっともな意見だ。と一葉は思った。おそらく、言わないだけでクラークもそう思っていたに違いない。


「みちるはそこまで頭が回りません」

「それ,、結構失礼じゃない?」

 みちるは顔を引きつらせた。


「それに、彼女をこちらへ戻すのは超獣に願いをかなえてもらうときです。コルディアへ情報を流すような場合ではありません。もしみちるがスパイとして何らかの行動を起こした時は」

 一葉は自分の首に手刀をあてる。

「私を殺してください」

「ちょ、ちょっと…」

 みちるはおろおろとして国王と一葉を交互に見る。


「…なるほど。一葉の覚悟は見せてもらった。その娘はコルディアへ行くことを許可しよう。こちらへ戻すことも一応認めよう」

「ありがとうございます」

「寛大なご配慮、感謝いたします」

 感謝を述べた一葉に続いてクラークがそう付け加えた。


「しかし、どうやって連れて行くつもりだ? コルディアへ超獣使いだと言って連れていくのか?」

「商人まぎれてならこちらからコルディアに行くのも難しくありません。コルディアの王都へついてしまえば、あの狼の魔力を多少なりとも見せれば体裁は整うかと」

「…なるほど。みちるはそれでよいのだな」

「はい」

「よかろう」

 クラークの説明に国王はうなずいた。


「話はそれでよいな。下がりなさい」

「はい」

 一葉以外の3人が国王に背を向けて歩き出したが、一葉はじっとその場にとどまっている。


「どうした?」

 国王が怪訝そうに尋ねる。

「すみません。私だけでお話があります。すぐ済みますので」

「一葉…」

「よかろう。皆、下がるがよい」


「しかし」

 クラークは渋ったが、国王が「かまわぬ」というので仕方なく皆は玉座を退室した。

「一体どんな用件だ?」

「はい。さらにさきほどの件に加えて、もう一つお願いがございます」


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