表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【3章】帰れない楽園  作者: 結糸
第1章 異世界召喚
50/292

杖の用途

<まったく、物好きなことだ>


 シリウスは相変わらずベーコンを持ってきたラスティからそれを食べると、苦笑した。

 来ないかと思ったセオドールは、今日も黙ってついてきた。ブラッドとニールも一緒だ。いぬくんはシリウスをじっと見上げている。


「少しは話してくれないか? 自分のことを」

<…そうだな>

 シリウスは金の目を細めた。

<おまえの持ってくるベーコンは味がいい。少し話してやってもいいぞ>

「本当か?」

 ラスティはぱっと顔を輝かせた。


<つまらん話だ。聞いても退屈だろうがな>

「それは俺が決めることだ」

 何故か威張って言うラスティに、シリウスは喉の奥で笑った。


<三百年以上前、我はこの世界に誕生した。そのときはこんな姿ではなく、どこにでもいる狼の一匹だった>

「どんな犯罪者も天才も、生まれた時は子供だったってやつね」

 一葉が一人でうなずいた。

「それが何故こんな姿に?」

 ラスティは一葉を無視してシリウスに尋ねる。


<魔法実験の結果だ>

 シリウスはぐるりと首を回した。

「魔法実験だと? 野生の獣には禁止されているはずだ」

 ブラッドが言うと、シリウスは<例外はどこにでもいる>と低く笑った。


<あまりに巨大化した我を魔法実験者たちは棄ておいたのよ。我も生きるためには食わねばならぬ。身体の成長するとともに様々な生き物を食った。食えばそれだけ成長し、人間は我を目の敵にした。人間も食ったからな。人間の追ってから逃げ、気づけばこの山近くまで来ていた。生まれはもっと北の大地だ。国もおそらくこことは違うであろうな…>

 懐かしむようにシリウスは喉を鳴らした。


「逃げて…この国にたどり着いたのが、三百年前か。人を襲ったから、封印されたのか?」

<人間の理屈で言えばそうだろう。だが、おまえの祖先と前の超獣使いは我を謀り、友になりたいと申し出た。我は人間と対等に扱われたことなどなかったから…>

「嬉しかったんだな」

 ラスティの言葉を肯定するように、シリウスは深い息を吐いた。


「でも、三百年前の人たちはあんたを裏切って、ここへ封印したのね」

 一葉が続きを補足する。

<我は忘れていたのだ。人間は平気で他者を欺く生き物であることを>


 シリウスは金の目を閉じた。その場にいた誰も何も言わなかった。長い沈黙を破ったのは、ラスティだった。

「…俺には、何が真実なのかはわからない。ただ、おまえを殺すのではなく、封印したのだからおまえを殺したくない理由があったんじゃないのか」

<…どのような理由だ?>

「俺の祖先と超獣使いは、おまえと本当に友になりたかったのかもしれない。でも、それができない理由が…」


<黙れ!>


 ごお、と風が吹いた。一葉は立っていられなくて、洞窟の壁にしがみついた。いぬくんは風を受けても平気で立っている。ブラッドはセオドールを守るように覆いかぶさり、ニールはラスティの前に立った。

<我を三百年も封じておいて、そんな言い訳が通用すると思うか>


「…でも俺は、おまえと友達になりたいと思った。俺の祖先がそう思ったっておかしくない。おまえは賢いし、話しているととても楽しいんだ。もし可能なら、俺はおまえの封印を解いてやりたい」

「殿下?」

 ブラッドが困惑したように声をかける。

「以前の杖があれば、おまえは今みたいな巨大な魔法が使えないだろう。それなら、少し大きな狼として…」

「無茶でしょ、それ」

 一葉が呆れてかぶりを振る。


「こーんな馬鹿でっかい狼、いたら即発見で通報されるわよ」

「そうだよ、ラスティ。僕だってここを出られたら怖いよ」

 存在薄いな、と思いつつ一葉はセオドールを見た。

「む…。そうか、大きさか…。わかった。調べてみよう。魔法実験で大きくなったなら、小さくする方法だってあるはずだ。後は封印か…」


「封印を解くなら、司祭さまに聞いてみてはいかがでしょう?」

 ニールが控えめに提案する。

「それはいいかもしれませんよ。封印解除なら司祭の守備範囲です」

「そんな勝手なことをしていいのかな…」

 セオドールがぼそりと言う。


「兄上は心配してくださるのですね。ありがとうございます。では、一度父上に…」

「こいつはねえ、あんたがシリウスと仲良くなるのが気にぐわっ」

 一葉の話はブラッドに口を塞がれて言葉にならなかった。

「イヴァンにも聞いてみましょう。いろいろ文献を調べてるし」


「むぐぐ…」

 一葉は口を塞がれたまま、引っ張られる。

「ほら、行くぞ」

「はいはい。余計なことは言いませんよ」

 ブラッドが手を放したので、一葉はいぬくんを抱き上げて歩き出す。そして後ろから歩いてくるセオドールに近づいた。


「王様に告げ口でもする気? ラスティがおかしなことしようとしてますって」

「…そんなことしない。僕はそんな人間じゃないよ」

 セオドールは内心、むっとしたように一葉をにらみつけた。

「ふーん。あんた、乗り気じゃないみたいだからそう思っただけ」

「僕は、別に…」

 セオドールは一葉から顔を背ける。


「一葉、兄上に失礼なことを言うなよ」

 ラスティが一葉たちを振り返る。

「へいへい。わかってまーす」

 一葉はセオドールから離れてすたすたと歩き出した。セオドールは何か言おうとしたが、結局何も言えず黙って城へ戻った。


「無害な狼に戻るなら、封印を解除しても問題ないだろうけどね」

 イヴァンは相変わらず本に囲まれた執務室で、うーん、と唸った。

 洞窟へ行った面々が集まる。

 セオドールは部屋へ戻るかと思ったら、一緒に部屋へ来た。仲間外れにされる気がしたのだろうかと思ったが、一葉は口に出さないでおいた。


「そうなるとこの杖をまたあの狼に刺さなきゃいけないくなるだろうね」

 イヴァンは部屋の隅に置かれた大きな杖を指す。

「これさ、持ってるだけで魔力のある人は影響あるんでしょ? じゃあ、何か身に付けるだけでも効果あるんじゃない? 刺さないで持ってるだけとかさ」

「うーん…そうだね。ブラッド、手袋付けてちょっとあの杖持ってみてよ」


 イヴァンは綿の手袋をブラッドに渡す。

「俺が?」

「だって、俺持ちたくないし」

「あのな…」

 ブラッドはため息を吐いた。

「しょうがないな。貸してみろ」

 手袋をはめて一葉から杖を受けると、ブラッドは床に落としそうになったのをかろうじて堪える。


「ううっ…そうだな。手袋してても魔力は吸われるみたいだ」

「おっけー。だと、紐とかでシリウスにつけるのはどうかな」

 一葉が杖を受け取って壁にたてかける。


「まあ、それでも大丈夫かもしれないな。シリウスが嫌がらなければいいが…」

 じっと一葉を見上げていたいぬくんが、徐に杖のそばに行き杖に頭をこすりつけた。

「どうしたの? いぬくん」

「くるるる」

 いぬくんは突然、がぶっと杖に噛みついた。


「え、ちょっ…」

「どうした?」

 じゅーじゅーと何かを吸うような音がして、杖はみるみる縮んでいき三十センチ程度の大きさになった。それを見ていたほかの連中もぽかんとしている。


「くるるる」

 いぬくんが杖をくわえてじっと一葉を見上げている。

「え、えっと…よくわかんないけど、いぬくんがこれに噛みついたら縮んだ」

 一葉は小さくなった杖を持ち上げる。さっきより縮んだ分、かなり軽くなった。


「ん~…」イヴァンは眼鏡を押し上げた。「それ、シリウスにも使えるんじゃない?」

「それって…いぬくんの今のやつ?」

「そう。その杖は魔力を吸い上げるのが役割の魔道具だ。超獣が魔道具にできることなら、魔物のシリウスにも可能なんじゃない?」

「できる? いぬくん」


 一葉は杖を置いていぬくんを抱き上げる。いぬくんは「くるる」としか鳴かないので、なんと言っているかはわからなかった。


「ちょっと何言ってるかわかんない」

「超獣使いなんだから、わかんねーのかよ」

「無茶言うな。でも、明日行ってみればわかるんじゃない? そうだ、シアンにも封印を解いてもらうなら連絡しておこうよ」

「そうだな。連絡しておくか」

 ブラッドがうなずくと、イヴァンは「んー…。そう。じゃあ本当に自由にしてやるつもりなんだね」と考えながら言った。


「何か問題があるか?」

「いいえ。殿下のお望みに沿うように手を尽くしましょう」

 イヴァンが眼鏡を外して微笑んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ