表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【3章】帰れない楽園  作者: 結糸
第1章 異世界召喚
48/292

こじらせ皇太子

 午前中はメアリアンにつきあってもらい、一葉は教会へ行ってシアンに本を読ませてもらった。教会には寄付された絵本や子供向けの本がいくつも置いてある。


「女神さまって、神さまの娘なんだね?」

 教会の子供向けの神話を読みながら、一葉はシアンに聞く。


「そうだね。神さまが女神さまを生み出し、女神さまがこの世界をつくったと考えられている」

「私たちはその女神さまを信じているのよ」

 セシリアが本の破れたところをのりで補修しながら説明する。

「それが女神教。この世界のすべての生物は女神さまがおつくりになったの」

「だから、食事も女神さまに感謝を述べるんですよ」

 メアリアンが本の補修を手伝いながら言った。


「でもさ、女神さまをつくったのが神さまなら、神さまのほうが偉いんじゃないの?」

「そう考えているのが、隣国のコルディアだね。俺たちは俺たちをつくってくれた女神様を崇めているんだ」

「そうかあ…。女神さまは七日間で世界を作ったって話、私の世界にもあるよ。でも、女神さまじゃなくて神さまだったかな」

 一葉はぼんやりした知識を思い出す。旧約聖書だとヤハウェが世界をつくったとあった気がする。一応、父の仏壇を置いてあるから、自分は仏教徒だとは思うが、クリスマスにはケーキを食べるし、お正月は初詣に行ったこともあるし、多宗教なのか無宗教というのか。

 日本人て本当におおらかだ。


「そうだ、天使とかはいないの?」

「てんし?」

「何、それ?」

 メアリアンもセシリアもきょとんとして一葉を見る。


「えーっと、神さまのお使いって言うか…その部下みたいなもの。この絵本には、人間と魔物と動物と神さまと女神さましか出てこないよね?」

「そういうのはいないなあ。こちらでは、人間が神の子だからね」

「ううーん。そうなんだあ。うちの世界にある宗教の一つでは、人間の背中に羽が生えたかっこうの天使っていうのが想像上の生き物として出てくるんだよ」


「背中に羽が生えているの?」

「じゃあ、空を飛べたりもするんですか?」

 メアリアンもセシリアも興味津々と言った感じで聞いてくる。一葉はキリスト教について知っている知識を話した後、ふと思い出したように尋ねる。


「そういえば、キリスト教だと修道女って、顔以外の上から下まで隠すような格好してるんだけど、こっちの世界の修道女は露出高いよね?」

 一葉はまじまじとセシリアの恰好を見る。薄手のチュニックにカーディガンにミニスカートにエプロンをつけているのだ。


「上から下まで…そんな恰好で動きにくくないの?」

 セシリアに逆に問われて、一葉は「言われてみればそうかも…」とうなずいた。しかし、メアリアンはメイド服でてきぱきと仕事をしている。


 教会で本を読みながら、子供たちが汚した本を補修したり、片づけをしたりして、昼食をごちそうになって一葉はメアリアンと馬車で城へ向かった。


「では、私はお屋敷へ戻ります。一葉さま、ちゃんとセオドール様のお世話してくださいね」

「いや、わかってるって…」

 一葉は信用無いなあ、と苦笑いしつつ城のグリフォンの厩舎へ向かった。遠目から、ブラッドとニールとセオドールがいたのが見えた。一葉は手を振る。


「お待たせ―」

「おう」

「お待ちしてました」

「遅かったね…」

 セオドールがぼそりと言ったのを、一葉はスルーした。


「さあ、行こうか。…あれ? そもそも、なんで行くんだっけ?」

 一葉がセオドールを振り返ると、セオドールは戸惑ったように息を飲んだ。

「あ…」

「…まあ、いいけど。皇太子さまが行きたいって言うから行くだけだし。じゃあ、乗せてよ。ブラッド…じゃなくて、ニールだね」

「ええ。よろしくお願いします」

 ニールは微笑んで一葉をグリフォンに乗せる。前から思ってたけど、ブラッドより爽やかなイケメンだな…と思いながら、一葉はいぬくんを胸に抱いた。

 セオドールもブラッドにグリフォンに乗せてもらい、シリウスのもとへ飛んだ。




<…今日は、おまえたちだけか>

 シリウスが寝そべったまま、金色の目を動かす。

<あの小僧はどうした?>


「ラスティのこと? 今日はなんか用事あるって。でも、今日は皇太子さまが用があるみたいよ」

「あ…」

 一葉に話を振られて、セオドールは一歩足を引いた。背後にいたブラッドにぶつかる。

「ごめ…」

「お気になさらず」ブラッドは一歩下がる。


<皇太子が我に用とは。如何した>

 シリウスは喉の奥で笑ったようだった。

「僕は、その…あの」セオドールは視線をさ迷わせながら、「…君と、親しくなりたいって思って」

「嘘だあ」

<信じられんな>


 一葉とシリウスは同時に言葉にした。セオドールは困惑した表情で顔を上げる。

「あんた、昨日もさっさと逃げ出したくせに」

<おまえは我に興味など持っていない。それとも、親しくなるふりをしてまた我を罠にはめようという人間らしい魂胆か>

「ち、違うよ。僕は、その…」セオドールは胸の前で手を握りしめる。「…僕にだって、友達をつくるくらい…」

<何を言っているのだ?>


「親しくなりたいなら、手土産くらい持ってきなさいよ。昨日のラスティみたいに」

 一葉に言われて、セオドールは俯いた。考えも及ばなかったのだろう。周りからなんでも準備してもらうのが当たり前の皇太子なのだから、当然と言えば当然だ。


「僕のほうが、身体も弱いし、一人でいる気持ちはわかるし…だから、僕のほうが君の友達にふさわしいと…」

「ああ、そういうこと」

 一葉はあごに手をあててうなずいた。

「あんた、ラスティには友達いるけど、自分に友達いないからラスティが仲良くなろうとしてる相手を先にとっちゃおうってこと?」

「……!」

 セオドールは白い顔を真っ赤にして一葉をにらみつけた。


「一葉さま、そういう言い方は…」

 ニールが一葉をそっとたしなめる。

「まあ、無理だと思うけど」

 一葉が容赦なく言う。


<弟に劣等感を持っているのか。…残念だが、我はおまえに興味はない>

「僕と…僕とラスティの何が違うって言うんだ…」

「全然違う」

<別物だ>


 一葉とシリウスに言い切られ、セオドールはそれを聞いた途端、シリウスに背を向けて走り出した。

「殿下!」

 ブラッドが急いでセオドールを追いかける。

「あーあ。面倒くさいなあ、もう」

 一葉はお手上げとばかりに両手をあげる。


「一葉さま、追いかけましょう」

 ニールが洞窟の入り口を指す。

「しょうがないなあ。行くよ、いぬくん」

「くるるる」足元のいぬくんが鳴いた。

「またね、シリウス。明日はラスティが来ると思うよ」

<期待はしないでおこう>

 シリウスは金の目を閉じた。


 洞窟を出ると、ブラッドとセオドールの姿はなかった。

「えー。ちょっと、どこ行ったのよ?」一葉はきょろきょろと周りを見渡す。

「そう遠くへは行っていないと思いますが…」

 ニールもあたりを見回す。

「くるる」


 いぬくんはとてとてと走り出した。「待ってよ、いぬくん!」と一葉とニールもその後を追った。山のけもの道を進んでいくと、洞窟からさほど離れていないところにセオドールとブラッドはいた。


「ですから、殿下、お気になさらず…」

「君だって本当は、僕よりもラスティのほうが皇太子にふさわしいって思ってるんだろう!」

 ブラッド相手にセオドールが大声でわめいている。

 一葉はため息を吐いて「そう思ってるけど」とブラッドの代わりに大声で答えてやった。


「…!」

 近づいてきた一葉に気づいて、セオドールは思わず身を震わせた。

「な、なんで…」

「なんでって、あんたが急にいなくなるから追いかけてきたんでしょうが。このかまってちゃんが。なんなのよ、あんた。結局何がしたいの?」

「僕は…」


「無理してシリウスと仲良くなりたいとかさ…。あんたはラスティに自分が劣ってると思ってんの?」

 セオドールはますます顔を赤くして、一葉から顔をそらした。首まで真っ赤だ。

「ま、自分でそう思ってるなら、そうなんだろうけど」

「………い」

「え?」

「うるさい、うるさい、うるさい! 君なんかに、何がわかるんだ!」


 唐突に叫びだしたセオドールに、一葉だけでなくブラッドもニールもぎょっとして彼をみつめる。普段おとなしい皇太子が、こんなふうに叫び声をあげるのは今まで誰も見たことがなかったのだ。

「いつだってそうだ、皇太子だからって僕に近づいてきたやつは、みんなラスティのほうがいいってあいつの許へ行くんだ! 僕は何も、何もないって!」

「私、あんたに近づこうとした覚えないけど…」

「僕なんかちっとも面白くない、ラスティといるほうがずっと楽しいって…。どうせ僕には、小学を卒業しても会いたいって言ってくれる友達なんかいない…」


「ふーん」

「ふーんて…」

「何よ。私にそんなことないよ、とか言ってほしいわけ? 残念だけどまったくそんな気ないからね。そもそも、そんなこと言えるほど私はあんたのこと知らないし」

 セオドールは顔を赤くして一葉をにらみつけた。一葉は黙ってセオドールを見ている。


「…母上だって本当は、僕よりラスティのほうがかわいかったんだ…」

「えー…」

 一葉は意外な発言に目をぱちくりさせた。

「母上って、あんたの死んじゃったおかあさんだっけ?」

「そうだよ」

 セオドールは力なく答えた。


「でもラスティは、あんたを国王にするためにその母上様があんたに従うように洗脳したとかなんとか…。あれ、それは私が言ったんだっけ?」

 一葉の頭ではすでに曖昧になっていた。


「それは…確かに母上は僕を国王にさせたがってた。でも、かわいがっていたのはラスティのほうだ。いつも僕よりラスティを気にかけていたんだ。それくらい、僕が鈍くてもわかってる…」

「めんどくせ」一葉は肩をすくめた。「あんたのためにラスティを気にかけてたんでしょ」

「そんなんじゃない。僕は自分の子だからかわいがっていただけだ…。本当は、僕よりラスティのほうがずっとずっと母上に愛されてた…」

「こじらせてんのね」

 一葉ははあっとため息をついた。


「別にあんたが母上様に愛されてようが愛されてまいがどうでもいいけど。ラスティがあんたを大好きなのは事実なんじゃないの?」

「! っ…」

 セオドールは顔をそらして唇をかみしめた。一葉は「やれやれ」と髪をかきあげる。

「もう帰ろうよ。ここにいても仕方ないし」

「…そうですね」

「戻りましょう、殿下」


 ニールとブラッドに促され、セオドールは黙って歩き出す。グリフォンに乗って城へ戻る間も、ずっと無言でいた。いぬくんは一葉の腕の中で、眠そうにあくびをした。


 グリフォンを厩舎に戻して城へ戻りながら、一葉はセオドールに向かって言った。

「あんたって、意外といい性格してるのね」

「え?」

 セオドールは目を見開いて一葉を見返す。


「性格いいんじゃないよ。いい性格。あんたは素のほうが私は面白いと思うけどね」

「………」

 セオドールはなんと返したらいいか分からず、その場に立ち尽くした。一葉はセオドールを置いてさっさと城へ歩いて行った。セオドールはじっと一葉の後ろ姿を見送った。


いつもサブタイトルで悩みます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ