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【3章】帰れない楽園  作者: 結糸
第1章 異世界召喚
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どっちなの?

「…遅かったね。何、話してたの?」


 不満げなセオドールが洞窟から出てきたラスティに尋ねる。

「お待たせして申し訳ありません、兄上。彼が封印されている理由です。でも、結局教えてはもらえませんでしたけど…」

「無駄な時間だったね」


「無駄じゃないわよ」

 一葉がセオドールに言い返した。

「ちょっとずつでもシリウスとラスティは仲良くなってるわよ。諦めてさっさと逃げ出した誰かさんよりはね」

 セオドールは黙ってうつむいた。


「兄上にそう言う言い方をするな」

「はいはい、ごめんよ。…ところで、明日は来れないって言ってたわね。なんで?」

「明日は小学の時の友人と会うんだ。そういうわけで、俺は城にはいないから別に来なくてもいいぞ」

「そういうことね。わかった。ブライアンも一緒に行くの?」

「おまえが文字の勉強をしたいと言うなら、おいて行ってもいいぞ」

「いや、いいよ。本業はあんたのお付きでしょ。だったら、…そうだ。教会に行こうよ」

 一葉が唐突に思いついたように手をたたいた。


「今からか?」

「もちろん。まだジェフリーに会ってないし。あれから」

「…そうだな。行くか」

 ラスティはセオドールを見る。

「兄上はどうなさいますか?」


「…僕は」セオドールは一葉とラスティを交互に見てから「…僕はいいよ」と小さく答えた。

「まあ、そういうだろうと思ったけど。ブラッド、教会まで送ってよ」

「いや、俺はセオドール様を…」

「ニール、セオドールをお願い。いいでしょ?」

「俺は構いませんよ、隊長。城へ戻るだけですから」

 したり顔でブラッドに笑いかける一葉をにらんでから、ブラッドは「セオドール様がよろしいのでしたら」と言った。


「僕は構わないよ。ニール、頼む」

「かしこまりました」

「よかったねえ」

「うるさい」

 ブラッドは一葉の頭を小突いた。

「痛い!」

 一葉はおおげさにわめいた。


 一葉とブラッドとラスティはグリフォンで教会へ向かう。ニールはセオドールとともにグリフォンで城へ飛んだ。


「よろしかったのですか?」

 空中でニールがセオドールに尋ねる。

「何が?」

「本当はセオドール様もご一緒したかったのでは?」

「僕は…」セオドールは少しの間の後「僕はいいんだ。人の多いところへ行くのは苦手だから」

「それならいいんです」

 ニールはそれ以上、何も言わなかった。セオドールはそれに少し安堵し、少し失望した。




「いやああああああああああ! グリフォン連れてきちゃったの!」


 教会の畑の前で、シアンは絶叫をあげた。グリフォンは畑の作物をばくばくと食い散らかし始めたのだった。

「やだ、ホントにグリフォンてよく食べるのねえ」

「だから言っただろ」

 いぬくんを抱いて感心する一葉にブラッドは渋い顔をする。


「女神よ、あなたのお力で彼のものを眠りにいざない給え、スリープ」

 シアンが呪文を唱えてグリフォン2頭に手をかざすと、柔らかい光が彼らを包んだ。彼らはゆっくりと目を閉じ、その場に眠り込んだ。

「うわ、すごい! シアンて魔法使えるんだ!」

「まあ、一応…。司祭だからね」

 感動する一葉にシアンは苦笑いで答えた。


「あれ? でも、街中で魔法って使っちゃ悪いんじゃなかったっけ?」

「司祭以上の補助魔法使いは別だ。攻撃魔法使いは処罰の対象になるけどな」ブラッドが補足する。

「まったく、こういうのは連れてきちゃだめだよ」

 シアンは眠り込んだグリフォンの頭を撫でた。


「シアン、なにそれー」

「さわっていい?」

「さわりたい!」


 教会の中からわらわらと子供たちが出てきて、遠巻きにグリフォンを指さす。

「眠っているからいいけど、起こしちゃだめだよ。そうっとね。でないと、みんなのごはんを食べられちゃうから」

「はーい」

「やったー」

 子供たちは喜んでグリフォンに近づいて、撫でたりだきついたりしてはしゃいでいる。


「ジェフリーはいるか?」

「さっき貧民街から帰ってきたところだよ」


 シアンが教会の食堂へ促して、一葉とラスティとジェフリーとシアンの4人でお茶をすることにした。

 ブラッドは相変わらずセシリアと嬉しそうに話をしている。お互いの近況をは話し合った後、落ち着いてお茶を飲んだ。いぬくんは足元でミルクを舐めている。


「そうなんだ。大きな狼ねえ。超獣の封印とは関係ないんだ」

 お茶を飲んでシアンはお茶請けのクッキーをかじる。

「ラスティはそいつと友達になりたいんだって。変わってるよね」

「おまえに変わってるとか言われたくないな。…ジェフリーも元気そうでよかった」

「おまえら二人とも変わってるよ。…なんとかやってる」

 ジェフリーはお茶を飲んで小さく笑った。


「近所の子たちはハリーのこと、何か言ってた?」

「…母さんが病気だから、親戚に預けたってことにしたよ」

 ジェフリーはじっとお茶のカップをみつめる。

「…ハリーは俺のことは早く忘れて、幸せになってくれればいい」


「忘れないよ」

 一葉がはっきりとした口調で言った。

「…え」

 ジェフリーがきょとんとして一葉を見る。


「自分のことを一所懸命守ろうとしてくれた人のこと、忘れるわけないよ。ハリーはずっとジェフリーに会いたいと思ってるよ、きっと」

 ジェフリーはじっと一葉を見て、手元に視線を落とした。

「…そう、かな」

「そうだよ」

「俺もそう思う。おまえが会いに行ったって、ちっとも悪くないと思うぞ」

「…どうだろうな」

 ジェフリーがぽつりとつぶやいた。


 3人の様子を見守りながら、シアンは微笑んだ。

「いいねえ、君たち」


 それから一葉たちはグリフォンを起こして城へ戻り、ラスティは自分の部屋へ帰った。

 一葉はブラッドとイヴァンの部屋へ行き、大きな杖をイヴァンに渡した。


「おっと…確かに、これは魔力を吸う杖だね」

 イヴァンは受け取った杖を床に置いた。それ以上触りたくないというように。

「そうなんだ。私、さっぱりわかんないけど」


「異世界には魔素を持った人間はいないんだな」

「いないよ。そもそも、うちの世界じゃ魔法を使える人はいないもん」

「超獣が超獣使いを守るためにいるのも、それと関係があるのかもねえ」

 イヴァンはえんぴつをくるりと指で回す。


「その狼、殿下が臣下に迎えられたらいいんだけど」イヴァンはにやりと笑う。「すごい魔力を持ってるんでしょ?」

「臣下? 友達でしょ」

 一葉が言うとイヴァンは笑った。


「まあそういうことにしておこうか。この杖は俺が預かっておくよ。いいね?」

「いいけど…。私、使い道とかわかんないし」

 一葉がうなずいた。そのとき、ドアがノックされた。

「どうぞー」


「失礼。一葉、ここにいたのか」

 顔をのぞかせたのはクラークだった。

「うん。さっき戻ってきたとこ」

「そうか。私はイヴァンと話があるから、部屋の外で待っていてくれるか。すぐに済むから一緒に帰ろう」

「いいよ」

 一葉はいぬくんを抱いて部屋の外へ出た。5分も経ったころ、クラークが「お待たせ」と部屋から出てきた。


「早かったね」

「すぐに済む話だから」

「居候、ちょっとはクラークの役にたちなよ」

 開いた扉の向こうからイヴァンが声をかけてきた。


「失礼な! 居候…では…あるけど」

 一葉は途中で認めた。

「行こうか」


 クラークは扉を閉めて歩き出す。いぬくんを撫でて一葉も歩き出すと、向こうからセオドールがジョンを伴って歩いてきた。

「ああ、皇太子さま。じゃあね」

「失礼します、殿下」

「あ…」

 目の前を素通りするクラークと一葉にセオドールは足を止め、「あの…」と小さく声を出す。


「なんでしょう?」

「うわっと」

 足を止めたクラークの背中に、一葉が激突した。


「ああ、すまない」

「いいけど…」

 一葉は鼻をさすりながら答える。

「どうなさいました? セオドール様」

 クラークがやさしく尋ねる。


「…明日」

「あした?」

「…ラスティは行かないって言ってたけど…」

「ああ、シリウスのところ?」

「僕は、あの…」

「何よ」

「…行ってもいいかなって…」

「はあ?」

 一葉は顔を引きつらせる。


「なんですか、あなた。その態度は」

 ジョンがにらむのを一葉はスルーする。

「だから、僕は…ラスティが行かなくても行ってもいいかなって」

「…だったら、行けば?」

 一葉は突き放したように言う。


「いや、だから…」セオドールは震えて声で言う。「…君が来てもいいけど」

「私に一緒に来てほしいの?」

「そ…いや、えっと」

 セオドールは胸元で手を組む。

「皇太子殿下のお言葉が聞こえないのですか?」


「私はセオドールに聞いてるの! 私と一緒に行きたいの、行きたくないの、どっち!?」

「い、行きたい!」

 セオドールは顔を上げて叫んだ。

「いいけど。別に」

 一葉はあっさりと答えた。クラークはその様子を見ながら、微かな笑みを浮かべる。


「…いいの?」

 セオドールは恐々尋ねる。

「あんたが来てくれっと言ったんじゃない」

 何故か偉そうに一葉が答えた。

「そうだけど…」

「じゃあ、明日ね。昼食べたら、グリフォンのところにいるから」

「…うん」セオドールはようよううなずく。


「あ、ブラッドに伝えておいてね」

「…わかった」

「行こ、クラーク」

「では失礼します、殿下」

 クラークが一礼してセオドールから離れた。


「まったく、なんでそんなに偉そうなんだか」

 クラークは苦笑する。

「えーそうかな?」

「皇太子さまにそんな態度が取れるのは、一葉くらいなものだ」

 クラークは一葉の頭をぽんぽんとたたいた。その手はやさしかった。


 セオドールは2人の姿が見えなくなってから、ふう、と息を吐いた。

「殿下、あのような無礼者を供にしなくてもこのジョンが…」

「…僕は、ラスティに負けたくないんだ」

 セオドールはきゅっとこぶしを握った。


「殿下がジョージ様に負けているところなど、一つもありません」

 胸を張って言うジョンに、セオドールは苦い笑みを浮かべた。

「そんなふうに思っているのは、ジョンだけだよ」

「そんなことはありません」

 ジョンは真顔で断言した。


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