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【3章】帰れない楽園  作者: 結糸
第1章 異世界召喚
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王子様の意思

「うーん。超獣の封印じゃなかったか。残念」


 本に囲まれた部屋で一葉たちの報告を聞いたイヴァンが、かけていた眼鏡を外して自分の頬を撫でた。3人は本をのけて空いている椅子に座っている。


「いぬくんが近づいても何も起こらなかったよ。…あ、そういえば、あのでかい狼にささってた杖ってどうしたっけ?」

「持ってきてないぞ。瓦礫の下だろうな」

「あそこにおきっぱかあ。でも、別に実害ないからいいよね」

 一葉が適当に流そうとすると「どうだか…」とブラッドが微妙な表情をした。


「まあ三百年ほど前の文献だから、関係があるかどうかは微妙だったけどね。ただ、そのときあの獣を封印したのはどこからともなく現れた異世界の人間だったってことなんだけど…」

「異世界の人間てことは、超獣使い?」

 一葉が身を乗り出して聞く。


「それが、文献にはそうだとは明確に書かれていない。千年前に異世界から来たのは超獣使いだとはっきり書かれているんだけど、どういうわけか三百年前のほうが曖昧なんだよね。どういうことかわからないんだ」

「もう。関係ないなら、行く必要ないじゃん」

 一葉は頬をふくらませた。


「そもそもなんであいつはあそこに封印されたんだ?」

「なんでも、もとは普通の狼だったらしいんだけど、ある魔法使いに今のようにされたとも、突然変異でなったとも…諸説あり。ただ、あるときから人間を襲うようになり、それを封印されたらしいね。殺さずに封印されたということろが何かあるかと思ったけど、違ったか」

 ブラッドの問いにイヴァンが本をめくりながら答える。


「過去の話って、なんでも諸説ありだよね」

 一葉が本の角をなでる。いぬくんは本を踏まないようにうろうろしている。

「超獣が反応しないなら、やはり超獣の封印ではないんだろうね」

「でもあの狼のところへ連れて行ったのは、いぬくんなんだよ」

 一葉は部屋の中をうろうろしているいぬくんを抱き上げた。


「魔力も強い狼だ。あれが外へ出て人を襲ったら、被害が大きいだろうな」

 ブラッドが読む気のない本をぱらぱらとめくる。

「杖で魔法の力が封印されてたんだよね。杖、取っちゃってよかったのかな」

「しかし、なんで一葉が触っただけで杖の封印が解けたんだか…。超獣とは本当に関わりないのかなあ?」

 イヴァンはぺらぺらと文献をめくる。


「何故か私が触ったら簡単に狼から抜けたんだけど、ブラッドとラスティが押しても引いても抜けなかったんだよ」

「ふーむ…」イヴァンは少し考えこんでから「それ、明日持ってきてよ」と言った。

「いいよ」

 一葉はあっさり請け負った。


「俺はあいつがただ凶暴なだけの狼とは思えない。おそらくあいつの魔力をもってすれば、あの洞窟も吹き飛ばせたはずだ。でもそれをしなかった。人語を話すことといい、どういう過去があるのか知りたい」

「好奇心旺盛だよね、ラスティって。超獣と関係ないことなんか放っておけばいいのに」

「…おまえは結構自分に関係ないことには無関心だな」

 ブラッドが呆れたように言う。


「だって、封じられてるってことは悪いやつかもしれないじゃん。放したら、こっちが被害を受けるかもしれないでしょ」

「それは、まあ…」

「フツーでしょ、それが。と言っても、杖の封印をそのままにしておくのも心配だしねえ。様子見に行くべきだよね。よろしく、3人とも」


 イヴァンが文献を読みながら、さらっと押し付けてくる。

「まあ、いいけど…」一葉はいぬくんを撫でながら窓の外を向いた。

 そこへ部屋のドアがノックされた。


「どうぞ」

「殿下、お戻りだと伺いました」

 ブライアンがイヴァンの執務室へ入ってきた。ラスティは椅子から立ち上がる。

「今日は久しぶりに山登りしたから疲れたな。俺は戻るぞ」

「ああ、うん。明日ね」

「おまえもゆっくり休め」

「はーい」

 一葉はそう返事をして、ラスティが出て行くのを見送った


「にしても、すごい量の本だね。いつもここで仕事してるの?」

 一葉が本棚に入りきらない机の上の本を眺めて言う。

「古い歴史の中にはいくつもの新しい発見があるものだよ。読みたかったから貸してもいいけど」

 イヴァンが薄い本を一冊取り上げてみせる。


「うーん。今はまだいいや。私、絵本がやっと読めるくらいのレベルだから。もうちょっと難しい字が読めるようになったら借りるよ」

「そう。…それにしても、超獣の封印と言うのはこの国にあるのかもわからないわけだよね」

 イヴァンはふっとため息を吐いた。


「青の賢者は自分で探せって言って、教えてくれないんだよ。いぬくんがわかるかと思ったけど、そうでもないみたいだし」

「くるるる」

 一葉の腕の中でいぬくんが鳴いた。


「…超獣の封印をラスティ様がみつけたとなれば、動くやつもいるだろう。まあ逆によかったのかもね」

「動くって? 誰が?」

「…いずれおまえにもわかる。もう遅くなったし、今日は帰れよ。クラークもそろそろ屋敷へ帰る時間だ」

 ブラッドがイヴァンの代わりに答えた。


「そういえばそうだね。クラークってどこにいるの?」

 一緒に帰るつもりで一葉がそう言うと、「今日は一人で帰りなよ」とイヴァンが言った。

「なんで?」

「ちょっとクラークはお出かけ。居候の一葉の面倒をいつもいつも見てるほど暇じゃないわけ」

「居候…」反論しようとして、それもそうかと妙に一葉は納得してうなずいた。

「まあそうだよね」

「物分かりがいいな」

「いいよ。帰るよ。でも、別に一人で…」

「送らせるから待ってろ」


 ブラッドに言われて一葉はブラッドの部下に馬車に乗って送ってもらった。

 彼の話を聞くに、時折ブラッドとイヴァンの3人は一緒に出掛けることがあるらしい。

 今夜がその日らしく一葉は夕食を一人で食べた。ヴァレンタインやメアリアンに一緒に食べようと言ったら、やんわり断られた。


「超獣の封印て結局どんなものなのよ? いぬくんが行ったからそうだと思ったのに、空振りとか」


 ありえないんだけど、と一葉はベッドの上で背中合わせで座るカインにぶつぶつ文句を言う。


「さあ…。俺にはわかりませんけど、超獣はあの洞窟に何かいると思ったから行っただけでは?」

 カインの適当な受け答えに一葉は、はあ、とため息を吐く。

「封印が生物なのか無生物なのかもわかんないのがなー。この国にあるのかもわかんないんでしょ?」

「そうですね」

「もう…。でも、あの狼ってなんであそこに封印されてるの?」

「それを調べるために行くんでしょう?」

「そうだけど…。青の賢者はそこらへんも知ってるんじゃないの?」

「必要であれば話すのでは?」

「ああ、そう…。いいよ、もう。寝る」

 カインの要領を得ない受け答えに、一葉はさじを投げた。


「おやすみなさい」

「おやすみ」

 背中がぞわりとしたかと思うと、それはすぐに馴染んだ。一葉はいぬくんをベッドに入れて眠った。




「昨日はすまなかったな。一人にして」


 朝食のときにクラークが一葉に謝罪した。

「いいよ。なんかときどきブラッドたちと一緒に出掛けるんだって聞いた。飲み会みたいなもの?」

「ある貴族に夜会に誘われてね。便宜上断れなくて」

 クラークは紅茶を飲み終えて苦笑する。

「私のことは気にしないで、いつでも行っていいよ」

 一葉は皮付きのりんごを食べ終えてフォークを皿の上に置いた。


「物分かりがいいな」

「いつもクラークは私に気を使ってくれてるから、いいよ」

「それはありがとう」

 クラークは微笑んだ。


 いつものように馬車に乗って城へ向かう。一葉は馬車の中で昨日の出来事をクラークに話す。と言っても、だいたいの話はイヴァンとブラッドから聞いていたようだ。

「この世界ってあんなおっきい狼がいるんだね」

「珍しい…というか、まずいないな。超獣の封印とは関係ないとは残念だ」

「まったくだよ。なのに、ラスティってばまた会いに行くとか言うし。意味わかんないよ」

「ラスティ様は目の前の興味を惹かれるものを放っておけない性格なんだ。先日のジェフリーの件でわかってるだろう?」

「ああ、まあ…。うん」

 一葉は膝の上のいぬくんを撫でながらうなずいた。




 城へ着いていつものようにラスティの部屋へ向かうと、バルコニーの扉のところでセオドールが立っていた。

 一葉は無視しようかと思ったが、じっとこっちを見ているので仕方なく近づいて話しかける。


「おはよう、セオドール」

「…おはよう」

 セオドールは一葉を見て、顔をそらす。そして何か言いたげな表情をして、結局何も言わずに下を向いた。


「何?」

「…昨日」

「え?」

「昨日、巨大な狼を見に行ったって…」

 セオドールは下を向いたまま、独り言のようにぶつぶつ言う。


「ああ、ラスティから聞いたの? そう。超獣の封印かもしれないって言うから行ったけど、違ったみたい。でもまた会いに行くけどね」

「そう。…また行くんだ」

「うん。じゃあね」

 一葉が背を向けると、「…あのっ」とセオドールが声をかけてくる。


「何?」

 一葉は足を止めて振り返る。いぬくんもそれに倣う。

「珍しいよね、人語を話す狼なんて…」

「はあ。まあ、そうね」

「だから、その…」

「何?」

「…興味があるんだ」


「あのさあ」一葉は腕組みをした。「一緒に行きたいの? なら、そうはっきり言いなさいよ。面倒くさいなあ」

「面倒くさいって…」

「おまえ、兄上を面倒くさいなんて言うな!」


 後ろからものすごい勢いでラスティが走ってきた。一葉はうるさいのが来たな…と内心思ったが、口には出さないでおいた。


「どうなされたのですか、兄上」

 ラスティが心配そうにセオドールに話しかける。

「なんでも…」


「こいつがまたラスティと一緒にお出かけしたいみたいだから、はっきり言えって言ったのよ」

「こいつとはなんだ!」とラスティが一葉に食って掛かった後、「そうなのですか、兄上?」とラスティは驚きと喜びが混ざった声で聴いた。

「えっと…その、行きたい気もしないでもないっていうか…」

 うざい。と思ったが、一葉は口に出さずにいた。


「…不服そうだな?」

 ラスティが一葉の顔を見て言う。

「顔に出てた?」一葉は自分の顔を撫でた。「行きたいって言ったのはラスティだし、あんたがいいならいんじゃない?」


「もちろん、俺は歓迎しますよ、兄上。では、昼食後に行きましょう」

「…いいよ。そうしよう」

 セオドールがほっとしたようにうなずいた。

「いいけどさー。またあんたのお付きのジョンがついてくるの?」

 一葉がうんざりしたように尋ねる。


「…なんとか説得するよ。ついて来ないように」

「できんの? あんたに」

「兄上がされるというなら、できるんだ」

 期待しない一葉の言い方に、ラスティが言い返した。


「そうかなあ…」

「兄上、俺も一緒に説得に行きましょうか?」

「…一人でいいよ」

 セオドールはラスティから離れて歩き出した。そのまま通路をとおって階段を上っていく。彼がこちらを振り返ることはなかった。向こうから、ジョンの悲鳴に似た声が聞こえてきた。


「本当に連れてくの?」

「…嫌そうだな」

「勝手についてきた挙句にまた明日になったら熱出したとか言うんじゃない?」

「兄上は身体が弱いのだから仕方ない。ほら、行くぞ。ブライアンが待っている。おまえが来ないから呼びに来てやったんだぞ」

「そりゃどうも」


 一葉はいぬくんを連れてラスティの部屋へ向かった。といっても、一葉はラスティと同じ部屋で勉強するわけではなく、隣の部屋でブライアンに文字を教えてもらうのだ。

 そこそこ字を読むのにも慣れてきたが、日本語と比較してしまうと、一葉にはまだ記号にしか見えないのだった。



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