グリフォンに乗って
壁を越えて教会へついてから馬を降りる。馬をつないで3人は教会の中へ入った。ブラッドはセシリアに挨拶をして、一葉とラスティはシアンのそばへ行く。
「やあ、二人とも。こんにちは」
「こんにちは」
「シアン、ジェフリーはどうしてる?」
「今は貧民街へ行ってるよ。家の管理と、子供たちの面倒を見に行くって。ガキ大将気質は変わらないみたい」
シアンは楽しそうに笑って「今紅茶をいれるよ」と言って、二人を食堂へ連れ立った。食堂には、子供たちが修道女に面倒を見てもらっている。
「ジェフリーは元気か?」
紅茶をいれてくれたシアンにラスティは心配そうに尋ねる。
「表面上は元気だよ。ハリーの話も一切しない」
「…そうか」
ラスティはカップを受け取り、神妙な面持ちで息を吐いた。
一葉は足元のいぬくんを抱き上げて膝の上に乗せる。
「教会の子たちとはうまくやってる?」
「やってるよ。もともとが面倒見のいい性格みたいだしね。最初は貧民街の子だっていうことでジェフリーと距離を置いてる子もいたけど、子供の扱いに慣れてるせいかすぐに子供たちも懐いた」
「…そうか」
ラスティは紅茶を飲んで、ほっと安心したように息を吐いた。
「じゃあ、ずっと教会で暮らすんだね?」
「中学を卒業するまではね。本人は大学にはいかず、中学を卒業したら冒険者になるって言ってる。そうしたら、ここを出て一人で暮らすって。こっちは別にいてもいいんだけどね」
「だって…ジェフリーっていくつ? ラスティとそんな変わらないんでしょ? なのに一人暮らしするの?」
「中学を卒業すると、一応一人前として扱われるんだよ。その後大学へ行くかは本人の希望や家庭の環境もあるしね。中学を出てすぐ一人暮らしする子は珍しいかな。たいていは働きながら住み込みや下宿が多いよ」
「ふうん…。結構シビアな世界ね」
一葉は自分のいる国がいかにぬるま湯の中にいるのか聞かされている気がした。
「そうだ、聞いてよ。シアン。昨日と一昨日のことなんだけどね…」
一葉は興奮気味にエリザベスのことやアーウィンのことを話した。シアンは微笑んで、ラスティは呆れて話を聞いていた。
「まったく、おまえは災難を引っ張り込む天才だな。クラークの苦労がしれる」
ラスティは空になったティーカップにシアンから紅茶をいれてもらった。
「あはは、一葉にかかればエリザベス様も本性が出るなあ。普段はお姫様らしいお姫様なのにね」
「エリザベスってすごい気が強いよね」
一葉が聞くと、シアンとラスティは顔を見合わせて微妙な表情を浮かべてうなずきあった。
「まあ…王族だから。いろいろ精神的に重圧がかかることもある」
「ふうん?」
「あいつにもいろいろあるということだ」
ラスティがどこか同情めいた声で言った。
「ジェフリーには君たちが来たことは伝えておくよ。それとも彼が帰るまで待ってる?」
「あ、そういうわけにもいかないんだ。私たち、超獣の封印を探しに来たんだよ」
「そうなんだ?」
「情報を集めるなら、冒険者ギルドに行ったほうがいいのかな」
「そうだねえ。そのほうがいいと思うよ」
シアンはおかわりのお茶を飲んで、ほうっとため息を吐いた。
「そういえば、一葉は今日はいつもと違う服だね」
「ああ、言われてみればそうだな」
今更のようにラスティが一葉を見る。
「ラスティは私に興味ないよね。シアンに言われたお店で、クラークに買ってもらったんだよ」
「似合ってるよ。一葉らしいね」
シアンはにっこり微笑んだ。
「ありがとう」
一葉はなんだか気恥ずかしくて照れたように自分の髪を撫でた。
教会へ出て冒険者ギルドへ行くと、受付嬢が難しい顔で「超獣の封印ですか…」と小さなスマホほどの緑色の魔石を取り出して、それを片手で操作すると目の前にパソコンの画面のように情報が出てきた。
まだ字を覚えたての一葉には、なんとなく見覚えのある字がわかる程度だ。
「どこかに手がかりはないかな?」
「そうですね…。何しろ、以前超獣が現れたのが千年以上も前のことですから、はっきりした資料が残っていないんですよね」
「そもそも、封印てのはどういう代物なんだ?」
「それが分かれば、私だって苦労しないよ」
一葉は肩をすくめた。
「超獣使いなんだから、わかるもんじゃないのか?」
「そんな難しいこと言うな。それなら最初からここに来ないし」
「そりゃそうだな」
ブラッドがふとグラハムに気づいて声をかけた。
「よう。グラハム、どうだ? 調子は」
「よう、ブラッド。…ジェフリー、いろいろあったらしいな。司祭さまから聞いたよ」
グラハムは苦い表情を浮かべた。
「…そうだな。ここに来ているのか?」
「忙しいんだろう。しばらく来てない。あんたらは何してんだ?」
グラハムが受付にいる一葉たちを見る。
「超獣の封印に関して何か情報がないかと思って来てみたんだ」
「そういうことか。何しろ、超獣使い自体が伝説みたいなもんだからなあ…」
グラハムが考え込むと、一人の冒険者がギルドのドアを開けて入ってくるのと同時に、ばさばさと飛んでニワトリが中へ入ってきてブラッドの肩にとまった。
「あれ、これって…」
一葉はニワトリを見上げる。
「イヴァンからブラッドへ。超獣の封印と思わしき場所をみつけたよ。アストリー山中腹を調べてみな」とイヴァンの声で鳴いた。
「ブラッドからイヴァンへ。了解だ。今から行く」
ブラッドが腰から下げた袋から穀物を与えてそう言うと、ニワトリは開いているドアから再び飛び立った。
「イヴァンが調べてくれたんだ。そういえば、クラークに今朝言ったんだっけ。ずいぶんあっさりみつかったね」
「そうじゃないと思うぜ。前から調べてたんだろうな。おまえがたまたまみつかった日にあたっただけだろ」
「なるほど、そういうこと」
イヴァンは意外といいやつなのかも。と一葉は思い直した
。
「アストリー山か。そう遠くはないが、馬では時間がかかるな。グリフォンを呼んだほうがよくないか?」
「そうですね。一度、城へ戻りましょう」
「グリフォン? て、あのなんかいろんな動物が混ざったっぽいグリフォン?」
一葉は興奮気味に聞く。ブラッドはううーん、とうなって考えてから答えた。
「まあそうともいえるかな…」
「うわ、見たい見たい! 早く行こうよ!」
「待て待て。そんな恰好で行く気か?」
ブラッドがギルドを出ながら、冷静に言う。
「え? えっと…」
「山の中だし、肌が出ているようなものはだめだ。殿下も来られるおつもりなら、一度支度を整えましょう」
「む…。そうだな」
二人はブラッドに連れられて、山登り用の丈のある服や靴を買ってもらった。
飲み物や携帯食料も念のため準備して城へ戻る。城にいるグリフォンを世話している厩舎へ向かった。
「わあ、グリフォンだ! 初めて見たよ!」
一葉ははしゃいでグリフォンの周りをうろうろする。わしの頭と翼、身体は獅子のようだった。
「まあグリフォンはそう多くないからな…」
「私の世界では、グリフォンて想像上に生き物なんだよ! 実際にはいないんだから!」
「変な世界だな…」
「私に言わせれば、こっちのほうがよっぽど変な世界だけどね。ねえ、乗っていいの? いいの?」
世話係の青年が「乗り方はご存知ですか?」と尋ねる。
「ああ、俺と一緒に乗るから大丈夫だ。ラスティ様は乗り方はご存知ですね?」
「もちろんだ」
「えー…私、馬もブラッドと一緒だし、一人で乗りたいとか…」一葉がぶつぶつ言うと、ブラッドが一葉をじろりとにらみつける。「…いや、いいけどさ」
リードのついたグリフォンに、ブラッドに助けられて一葉はいぬくんを抱いて恐々乗る。背中は馬のようにあたたかく、毛並みはもっとふわふわしていた。
「わあ、いい感じ。これ、空飛べるんだよね?」
「グリフォンだからな」
「早く早く!」
「わかったわかった。…行くぞ」
ブラッドはリードを引く。グリフォンは羽をばたつかせて、駆けると同時に空へ上っていく。
「お気をつけてー」と世話係の彼が下からこちらに手を振った。
「うわあ…。本当に飛んでるよ」
一葉はどんどん小さくなっていく城や森、街の景色を感動しながら眺めた。




