表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【3章】帰れない楽園  作者: 結糸
第3章 王と女王
307/308

交渉材料

「おはようございます、陛下」

「おはよう、スタイナー侯爵」


 おや、とライオネルは思った。

 昨日と少年の顔つきが違う。


 それぞれ席につき、侍女が運んでくる朝食を待った。

「フレデリックは今日も別か?」

「ええ。小屋に居ますよ。私たちは滅多に食事をともにしませんし、同じ家にいても顔を合わせることもほとんどありません」」

 ライオネルは微笑む。

 ベーコンエッグとミネストローネとパンの朝食を食べながら、ライオネルは話をする。


「それで、陛下は今日はどうされますか? 私は小麦の成長を見に街の外へ行きますが…」

「おまえの兄の研究だが、あれをギルドと交渉して、魔石の使用方法を全国民に知らしめたいと思う」

 そう来たか、とライオネルは思った。

 本当に昨日のまるで人形のような少年とは大違いだ。

 ライオネルはちらりとクラークとハリントンを見る。この二人かどちらかに、入れ知恵されたのだろうか。


「昨日、フレデリックに聞いた話だと、魔石同士の純度が高く、限りなく同じ純度であれば通信が可能だということだった。それができれば、国民の利便性は一気にあがる。ニワトリやペンギンを使う必要も少なくなるだろう。何せ、直接相手と話ができるんだからな」

「なるほど。ですが、魔石は高価なものです。庶民には手が回らないのでは?」

「そうだ。だから、安く手に入るようにこの発明の特許は取らないでほしい」

「面白いことをおっしゃいますね」

 ライオネルは苦笑する。


「兄の発明なのに、特許をとるなと。では、陛下は見返りに何をくださるんですか?」

「何が欲しいんだ?」

「大金を積めと言われれば、くださいますか?」

「俺はレスタントの王だが、現状では半分だけの王だ。いくらでも積めるわけではない」

「特許はとるな。金はない。では、こちらも陛下のご要望に応えることはできませんね」

 ライオネルはデザートのグレープフルーツを食べる。


「それはそうだろう。だから、こちらで提案できるものを用意する」

「それは何でしょう?」

 ライオネルは興味深げに尋ねる。


「超獣使いを観察対象として貸そう。ただし、1日だけ」


「ほう」

 ライオネルはクラークの隣にいる一葉に視線を向ける。

 クラークは黙って一葉に視線を向け、ハリントンは「ええ?」と声をあげた。

「いいのですか?」

「ええ…まあ、1日くらいなら」

 そう言って一葉は紅茶を飲む。


「兄は喜ぶでしょうが、何をされるか分かりませんよ?」

「言っただろう。実験対象ではない。観察対象だ。彼女に危害を加えるようなことは、俺が許さない」

 ラスティは強い口調で言う。


「ふむ…。兄に聞いてみないと分かりませんが、おそらく大丈夫でしょう。彼にとっては異世界の人間なんて、興味の対象でしかないでしょうからね。でも、本当にいいのですか?」

 ライオネルは含んだ笑みで一葉を見る。

「はあ、まあ」

 一葉は歯切れの悪い返事をした。


「では、私は出かけますが…」

 食事を終えて、ライオネルは席を立つ。

「私も同行してよろしいですか?」

 食事を終えて席を立とうとするライオネルに、クラークが声をかける。


「畑の視察ですよ」

「ええ。これから協力関係を築くのですから、ぜひ」

「私もご同行願いたい」

 ハリントンが申し出る。


「…分かりました。では、ともに参りましょう。陛下もご一緒されますか?」

「俺はギルドに用がある。一葉も一緒に来い」

「わかった。いいよ」

 一葉はうなずいた。






「俺は今回のフレデリックの研究は、独占するのではなく皆に恩恵を与えるためにあると思う」

「というと?」

 一葉はラスティの言葉に首をひねる。

 スタイナー侯爵にこちらについてもらうには、という話になった。


「ギルドが今は魔石の通信では独占的に市場を牛耳っている。冒険者としての情報や、個人情報の指輪もだ。しかし、フレデリックの研究があれば、皆が魔石によって通信できる。革命的な発見だ。しかし、フレデリックにはその功労の対価を与えなければならないだろう」

「ああ…そうね」

 一葉はうなずく。足元のいぬくんがあくびをした。


「金が一番手っ取り早いが、俺は国の半分の王でしかないし、財政は正直なところ余裕がない。何か、代わりにフレデリックに差し出せるものがあれば、ギルドに対抗することができるんだが…」

「対価ね…」

 一葉もラスティもうーんと腕組みをする。


「…あ」

「どうした?」


「あるよ、一つだけ」

 一葉は人差し指を立てて、自分を指さした。


「…おまえ?」

「そう。私が超獣使いだって言ったら、フレデリックはすごい興味津々だったじゃない」

「それは…そうだが」

 ラスティは渋い表情を浮かべる。


「何をされるかわからないぞ。危険な目に遭うかもしれない。それでもいいのか?」

「だから、研究じゃなくて、観察くらいならいいよ」

「観察か…なるほど」

 ラスティは、あごに手をあてた。

「では、俺も一緒についていよう」






「あれ? フレデリックは?」

 小屋へ彼を探しに行ったが、いくらノックしても出てこず、ローナに聞くと、小屋の中で寝ているということだ。

「研究に没頭すると、小屋の中から出てこないんですよ。それが続くと、しばらく眠りこけてしまってやっぱり出てこないんです」

「なんだあ。がっかりだね」

「そうだな。彼の許可を得てからギルドに話に行くつもりだったが…」

「陛下、どうされます?」


 ブラッドが尋ねると、ラスティは少し考えてから、「冒険者ギルドへ行こう」と言った。

「よろしいのですか?」

「ギルドの幹部に会う。ここは王都と違って支部だが、上の人間なら魔石の件についてはある程度知っているはずだ。昨日、嫌になるほど聞かされたフレデリックの話をしてやろう」

 ラスティはにやりと笑った。




「まさか、陛下がおいでになられるとは」

 頭の禿げた老年の男性が出迎えてくれた。彼はこのギルドの所長だということだった。

 ギルドの受付嬢に小声で「魔石の件で上のものに会いたい。国王のジョージだと言ってくれれば分かる」と伝えたところ、すぐに対応してもらえた。

 ラスティの持っている指輪で彼の情報を見せたことが功をそうしたようだった。

 所長室のソファに彼と向かい合わせに一葉とラスティが座り、ブラッドは扉の近くに立つ。

 受付嬢が紅茶を持ってきて、すぐに下がった。


「単刀直入に言おう。ギルドでは、今、独占的に魔石の通信を使用しているだろう」

「…ほう。それは、どういう意味ですかな?」

「おまえたちが冒険者たちのレベルや状況などを知るのに使っている指輪だ。あれは、そうした情報だけではなく、指輪を持っている者同士もお互いに通信できるんだろう?」

「まさか、そんな」

 所長は大げさに驚いて見せる。


「ブラッド」

「はい」

 ラスティは首から下げた指輪を取り出し、ブラッドも取り出す。

「部屋から出て、俺に声をかけろ」

「承知しました」

 所長室から出て、ブラッドは指輪に声をかける。


『ラスティ様、いかがですか?』

 すると、指輪から三十センチ四方のブラッドの映像が出てきた。声も顔をはっきりしている。

「ああ、ブラッドの姿が分かるし、声を聞こえる。俺の顔が見られるか?」

『はい。見えます』

「もういいぞ。戻って来い」

『御意』

 ブラッドは部屋へ戻ってきた。

 所長は息を吐く。


「どうやってお気づきに?」

「俺が発見したわけではない。スタイナー侯爵の兄が研究の末、発見したとのことだ。高純度の魔石同士で通信ができると」

「さようでしたか…」

 所長は自分の頭を撫でる。


「確かに、その技術は我がギルドが昔から知っておりました。それで冒険者たちの情報を取り扱っていたのです」

「何故、隠していた?」

「隠していた…というと、語弊がありますね」

 所長は紅茶を飲む。


「我々は混乱を避けるためにその事実をあえて公表しませんでした。これが知れれば、人々はこの魔石の効果を使いたがるでしょう。それによって、秘密の通信や悪事などに使われることを防いでいたのです」

「…なるほど。一理ある」

 ラスティはうなずいた。


「それに、純度の高い魔石ほど高価です。魔石の価値が増々上がり、争奪戦になるかもしれませんよ。我々はそれも危惧しておりました」

「そうか。庶民へは行き渡らなくなるということか」

「ええ。ご理解いただけましたか?」

 所長は前のめりに言う。


「だが…それ以上に、この発見は利益があると思う」

「陛下…」

 所長は光る頭を撫でる。


「俺はこの研究を大々的に発表しようと思う。スタイナー侯爵の兄の許可がとれれば、の話だが」

「まだ許可はとられていない?」

「ああ。だが、俺が許可をとらずとも彼が発表すれば、特許をとるかもしれない。それは、ギルドとしても望むところではないだろう?」

「…そうですね」

 所長はうなずく。


「冒険者ギルドが情報を流すことを秘匿していたのは、我々の利益のためだけではないことをご理解いただければ」

「分かった。だが、ギルドはずっと前からこのことを知っていただろう。いつの時点で気づいていたんだ?」

「それは…」

 所長はきまり悪そうに顔をそらす。


「いつから、というのは正確には我々も知らないのです。ただ、冒険者ギルドでは上のものしか知らせない情報でした」

「そうか…」

 ラスティはしばらく考え込む。そして顔をあげた。


「では、これからギルド長と話をさせてくれ」

「今…ですか?」

「俺たちには時間がない」

 一葉は黙って膝の上のいぬくんを撫でる。

 とりあえず余計なことは言わないほうがいいだろうと、口を挟まないでおいた。


「連絡をとってみます。少し、お待ちを」

 所長は立ち上がり、胸元にネックレスで下げた指輪を取り出し、「ギルド長、お願いします」と言った。

 すると、指輪から30センチ四方の画面に映った40代前半に見える男性だった。

『どうしました?』


「この人がギルド長?」

「…のようだな。俺も会ったことはない」

 一葉とラスティは小声で話す。


 所長は手短に今の状況を話し、ラスティに指輪を向ける。

「どうぞ、お話しください」

「分かった。いきさつは今所長が話した通りだ。俺は国民の利益のために、魔石同士で会話ができることを知らしめたい。今、この指輪はギルドから一方的に情報を得ることができるが、それだけでなく国民に通信の自由を与えたいのだ」


『では、何故特許をおとりにならないのですか? 莫大な利益を得られますよ?』

「俺は王だ。すでに国民から搾取している。これ以上搾取しようとは思わない」

『欲のない方だ』

 ギルド長はくすりと笑った。


『レスタントの若き王は、人好きのする方だと聞いておりましたが、噂に違わぬようですね』

「…そうか?」

 ラスティは首をひねる。


『人たらしとでもいいましょうか。ですが、とても重要な才能だ。大事にされるといい』

「褒められているのか?」

『もちろんです。ギルドは全面的にあなたの意思に従いましょう』

 ギルド長は微笑んだ。


「いいのか?」

『ええ。ただし、それはスタイナー侯爵が特許をとらないことが大前提です。ギルドがこの魔石の使用方法を広めることが条件ですよ』

「…なるほど」

 ラスティはうなずく。


「スタイナー侯爵に話してみよう。確約が取れれば、早いうちにこのことをギルドから世界に広めてほしい」

『かしこまりました』

 ギルド長は笑みを浮かべた。


「…これでよかったの?」

 一葉はラスティの様子を伺う。

「ああ。冒険者ギルドと手を結ぶことは重要だ。あとは、スタイナー侯爵がハリントン公爵を受け入れて、彼を州都へ戻せるといい。そう簡単にうまくいくかはわからないが…」


「フレデリックが起きているかもしれませんし、スタイナー邸へ戻りましょうか?」

「…いや、街の様子を見たい。それから戻ろう」

「御意」

 ブラッドは胸に手をあてた。




「ここが麦畑ですね」

 クラークとハリントンはまだ青い麦畑を見渡す。

「秋になれば、黄金の麦が収穫できますね」

「ええ。我が領地自慢の麦ですよ」

 ライオネルは得意げに笑う。


「州都はコルディアに占領されている。ハリントン公爵を戻すよう、お力を借りことは可能ですか?」

「…オスカーからあなた方が来たら、すぐに追い返すようには言われているのですよ」

 ライオネルは苦笑する。

「やはりそうでしたか」

 クラークはうなずく。


「何故我々を受け入れたのですか?」

 ハリントンが聞くと、ライオネルは麦畑を見る。

「どちらが得かを考えていたのです」

「陛下をとるか、オスカーをとるか…ですね」


「あなた方とオスカーを天秤にかけるような真似をして、申し訳ありません。ですが、私も領主ですので、選ばなければいけないのです」

「結論は出ましたか?」

「そうですね…」

 ライオネルはもったいつけて笑う。

「昨日の様子では、陛下につくのはあまり得策とは思えませんでしたが、今日はまるで別人のようで…」


「領主さま!」

「ライオネル様!」

 そこへ、領民たちがやってきた。彼らは親し気に声をかけてくる。


「いらっしゃってたんですね」

「連絡をくれれば」

「お客様が麦畑の様子を見たいと言ってね。公爵様たちだよ」

「それはすごいお客様ですね」

 領民他たちがどよめく。

 その中にいる一人の女性を見て、クラークは目を見張った。


「どちらの公爵様ですか?」

 女性は興味津々といったように、クラークとハリントンに近づく。

「私はハリントンだ」


 クラークはじっと女性をみつめる。

「…私に、何か?」

「ああ、いや…その」

 クラークは笑みをつくって見せた。


「あなたが知人に似ている気がして…」

「私がですか?」

 女性は目をぱちくりさせる。

「でも…気のせいだったようだ」

「そうですか」

 女性は特に気にした様子もなく、微笑んだ。


「私はスペンサー公爵だ」

「あなたがあの…そうでしたか。どおりで」

 女性は納得してうなずく。


「お噂は聞いております。あなたに会うと、誰もが夢中になるって」

「噂は噂だ。私はそんな人間ではないよ」

「ご謙遜を。私もあなたは魅力的な方だと思いますよ」

「それは光栄だ。…スタイナー侯爵、彼女は?」

 クラークがライオネルを振り返ると、彼は中年の男性を呼び寄せる。


「はじめまして、公爵様方。私はここら一体の畑を管理しておりますボウヤーと申します。あれは娘のジャニスですよ」

「ジャニスか。よろしく」

「よろしくお願いします、スペンサー公爵様」

「クラークで構わないよ」

 そういうと、ジャニスは嬉しそうに笑った。


「ではクラーク様、ご案内いたします」

「ありがとう。ハリントン公爵もご一緒に」

「ああ。まったく、君の前では私は霞んでしまうな」

 ハリントンは苦笑した。


 ジャニスは、褐色肌に銀色の髪、青緑色の目をしていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ