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【3章】帰れない楽園  作者: 結糸
第3章 王と女王
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空に光るもの

「何話してるのかなあ、クラークとラスティ」

「さあな」

 ラスティの客室の前で、一葉とブラッドは二人が出てくるのを並んで、壁によりかかって待っていた。

「クラーク、怒ってるのかな。ラスティがなんか変だから」

「どうだろうな。本当に怒ってると、クラークは無口になるだろ」

「あ、そうそう! そうだよね。何考えてるからわかんないし、こっちすごく怖いんだよ!」


「誰が怖いって?」

「きゃあ!」

 客室から突然出てきたクラークに、一葉は悲鳴をあげる。


「び、びっくりしたあ…」

「クラーク、もういいのか?」

「ああ。ブラッド、陛下を頼む」

「…分かった」

 ブラッドはうなずいて、ラスティの部屋をノックした。


「行こうか」

「うん。…あの、怖いって言ったのは、その」

「人は怒ると誰でも怖いだろう?」

「うん。…そうですね」

 一葉は同意するしかなかった。


「あの…クラーク」

「どうした?」

 部屋に戻った一葉は、クラークに問いかける。


「どうして私と同じ部屋にしたの?」

「そうしておけば、最初から周りに説明することもないだろう」

「あ…あ、そう」

 一葉はそれだけ言って、ソファに座る。妙にどぎまぎした。


「クラーク、右手は?」

「いつもどおり。痛みはないよ。それなりに動くし」

 クラークは黒い手袋をした右腕を振って見せる。

「それならいいけど」

 一葉は隣に腰を下ろしたクラークの右手を握る。


「…クラークは」

「うん?」

「どうして、いつも同じ部屋で眠るのに、何もしないの?」

「何かしてほしい?」

 頬を撫でられ、一葉は顔を赤くする。


「だ、だって…恋人同士ってその…いろいろ、するものかなって…思っただけで…」

「私のものになるというのは、一葉がもう元の世界へ帰らないということを意味する。それは分かっている?」

 一葉は思考が停止した。


「それは…」

「その覚悟ができていないのに、私に何かされてもいい?」

「あの…えっと」


「待つよ。そのときまで」

 クラークは一葉の唇にキスをした。

 触れるだけで、一葉は全身が痺れそうだった。


「…お風呂、入ってくる」

 顔を真っ赤にしたまま、一葉はいぬくんを抱いてぎこちなく歩き出す。

「ゆっくり入っておいで」

「うん」


 一葉が部屋を出て歩き出すと、ラスティがブラッドと一緒に部屋から出てくるのが見えた。


 すると、ローナがやってきて、ラスティたちを「こちらです」と案内した。一葉はいぬくんを抱いて、こっそりとついていった。




 ローナが案内してくれたのは、3階にあるバルコニーだった。ラスティたちを連れてくると、ローナは下がって一葉のほうへ歩いてきた。

 あ、やばい。

 と思ったが、遅かった。


「あら、一葉さまもご一緒に?」

「あ、あはは、えーっと…」

「なんだ、おまえ」

「ついてきてたのか」

 ラスティとブラッドがあきれ顔でそう言った。


 バルコニーに出て、ラスティは手すりにつかまって空を見上げた。ブラッドは出入り口に下がって黙って立っている。


「星がきれいだね」

「そうだな」

 月の周りに星がいくつもきらめいている。今日はいい夜空だ。


「なんか、最近元気ないね」

 一葉はラスティの隣に立つ。

「…そうか?」

「うん。いろいろあったけど、そのせい?」

「いろいろ…そうだな」

 ラスティはため息を吐く。


「…おまえは、俺が王にふさわしいと思うか?」

「へ?」


 唐突に聞かれ、一葉はきょとんとしてラスティをみつめる。

「もし、俺が王族の子ではなく、父上の血を引いていないとしても、それでも王にふさわさしいと思うか?」

「どうしたの? 急に」

「いいから。答えてくれ」

 うーん、と一葉は首をひねってしばらく考えてから、こう言った。


「ラスティは王様にならなきゃいけないよ」


「何故だ?」

「今までそうなろうとして、頑張ってきたのに。全部投げ出すなんてできないでしょ、今更。セオドールもそう思うよ。王様になれって」

「兄上は俺を…」

「うん。なってほしくなかったと思うけど、たぶん、それと同じくらい王様になってほしかったと思うよ。だから、どうしたらいいか分かんなくなって、ラスティのことを避けてたんでしょ」


「それは…」

 そうだろうか。兄は幼い頃はかまってくれたが、年を重ねるごとに疎んじられていた自覚はある。

 ラスティはもう兄に問うことも、答えを聞くこともできないことが辛かった。


「それに、貴族じゃない人も登用するって言っちゃったじゃん。ちゃんとそれも守らなきゃ」

「それは、少しずつやっているし…」

「あと、エルザにもいつでもおいでって言ったじゃん。居場所作ってあげなきゃ」

「言ったなあ…」


「それから、ロビンもグレンも仲間にするって言ったんだから、ちゃんと面倒見なきゃ」

「言ったか…?」

「そうそう。それに、グレースとフェリシアもどうすんの。あとリリアーナも。王様にならなきゃ外交問題だよ?」

「ううーん…」

 ラスティは腕組みをする。


「それに、ブライアンはあんたのためにずっと犠牲になってくれたし。期待に応えなきゃ」

「そう…だな」

「それから、クラークやブラッドやイヴァンや…」

「わかった、もういい」

 ラスティは頭を抱えた。そして、髪をかきあげてから、顔をあげる。


「…俺には、責任があるんだな」

「そうだよ」

 一葉はさらりと肯定する。


「言ったことの責任取らなきゃ。エリザベスのこともオスカーから守るんでしょ?」

「ああ…そうだ」

 ラスティはうなずく。

「そのとおりだ」


「王様にふさわしくないって思って、悩んでたの? 捕虜のことで? ベッキーのことで? それとも、別のこと?」

「…それも、あるが」

 ラスティは大きく息を吐く。


「王様でいるの、いやになったの? 全部投げ出して、逃げ出したい?」

「…俺に賭けてくれた人たちを、裏切ることになる」

「まだ14歳だもんね。人生、やりなおしたい?」

「もうじき15になる」

 ラスティは口の端をあげて笑う。


「もう、いい。…いいんだ。おまえのおかげで、迷いが吹っ切れた」

「そう? よくわかんないけど…それなら、よかった」

 ラスティは手すりから手を放して、同じく手すりをつかんでいた一葉の手に、自分の手を重ねる。一葉は少し驚いた。


「これからも、俺を見ていてくれ。何度迷っても…俺が道を間違えないように」

「うん。分かった」

 一葉はうなずく。

「ずいぶんあっさり言うんだな」


「だって、ラスティが王様になるまで一緒にいるって言ったじゃん」

「王になるまで…か。今のところ、俺はレスタントの半分の王だからな」

「うん。レスタントの全部の王様になるまで、ちゃんと見てるよ」

「ああ。…頼む」

 ラスティは一葉の手をぎゅっと握る。

 一葉は気恥ずかしくなって、空を見上げた。


「あ、ほら。あの星みて」

 月の周りにある一つの星を一葉は指さす。


「もし私がそばにいなくても、あの星を見たら、私がラスティを見てるって思ってよ」

「そうか…じゃあ、俺はその隣の星だ」

 ラスティはその隣にある輝く星を指さす。


「きょうだいの星みたいだね。お互いをずっと見てるの」

「いつもそこにありつづけるといいな」

 ラスティは目を細めた。


「ありがとうな、一葉」

「何が?」


「兄上が亡くなってからずっと、おまえ、俺に気を使っていただろう」

「え…いや、そんなことはないけど…」

 一葉はきまり悪そうに顔をそらす。


「もっとも、みちるやシアンが死んで、それどころでなくなったようだが…それでも、おまえの心遣いは嬉しかった」

「うう…なんか、恥ずかしいなあ」

 一葉は髪をかきあげた。

 少し満月からかけた月が、二人を照らしている。


「ふう…」

 ブラッドは二人の様子を見ながら、安堵のため息を吐いた。



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