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【3章】帰れない楽園  作者: 結糸
第3章 王と女王
305/308

失望

「では陛下、準備ができ次第出発を」

「…ああ」

 どこかぼんやりした表情でクラークの話を聞いて、ラスティは答えた。


「俺が行っても意味はあるのか?」

「もちろんです。あなたがいなければ、スタイナー侯爵は動かないでしょう」

「…形ばかりの王だがな」

 ラスティが皮肉気に笑う。


「陛下、どうされたんですか」

 ブラッドが心配する。

「そんなにあの侍女のことに責任を感じられているんですか?」

「…なんでもない。話は分かった。下がってくれ」

「…はい。失礼いたします」

 その場にいた一葉も、クラークとブラッドについて黙ってラスティの私室を出た。




「捕虜のことと、ベッキーのことが重なって、あんなに落ち込んでるのかな?」

 一葉はクラークの手を握る。

「それもあるし、…陛下にもいろいろあるんだろう」

 クラークはそれだけ言って、一葉の手を握り返した。

「ラザフォードに行って、少し気分が変わればいいけどな」

 ブラッドはちらりとラスティの私室を振り返った。




 ラザフォードにはラスティとハリントン公爵と一葉、クラークとブラッド、それにニールが同行することになった。

「私もご一緒したいのですが…」

「体調が万全じゃないんだ。気にするな」

 ラスティはブライアンの肩をたたく。

「俺が行って、どうなるものではないかもしれないな」

 ラスティは自嘲気味に笑う。


「何をおっしゃるのです。陛下がいらっしゃるのとそうでないとでは、大きな差がありますよ」

「…どうかな」

「陛下、まだあの侍女のことを…」


「まいりましょう、陛下」

 クラークが話を遮る。

「お気をつけて」

「…ああ」

 ラスティは歩き出した。




「最近、夜会を頻繁にひらいていらっしゃいますね」

 アーサーがエリザベスの元を訪れた。

「そうね。いけない?」

「…いいえ。エリザベス様が女王陛下ですから」

 アーサーは礼をとる。


「ブラックウェル伯爵の指示ですか?」

「…不本意だけど、仕方ないわ」

 エリザベスは部屋に活けられたガーベラを撫でる。

「シモンズ伯爵もオスカーの行状を貴族たちが不満に思っているのを把握できるし、情報収集もできるっていうから…」

「なんだか僕よりも彼のほうを頼りにされているようですね」


「ち、違うわ!」

 エリザベスは慌てて否定する。

「形だけの夫だから、一応顔を立てているだけよ。あんな男、どうとも思ってないわ」

 

 それに、お母様と関係を持っているんだもの。

 エリザベスはその言葉を飲み込んだ。

 なんだか胸が苦しい。喉に何か突っかかっているようだ。


「そんなにムキになって否定されなくても」

 アーサーは苦笑する。

「別に…むきになんて」

「ラスティは軟禁されていた公爵たちを助け出して、ダドリーを奪還したようですね」

「…そう、みたいね。やればできるのね」

 エリザベスはぷいとそっぽを向いた。


「これでソーンヒルとリダを取り戻せば、きっとエリザベス様を迎えにくるでしょう」

「…そう、かしら?」

 エリザベスは兄を思った。

 迎えに…。いつも彼を下に見ていたエリザベスを、ラスティは受け入れてくれるのだろうか。


「ラスティは、あなたを妹として大切に思っていますよ」

「アーサー…」

 エリザベスは振り返る。


「だから、そんな顔をしないでください」

 アーサーはエリザベスの頭を撫でた。

「もう…子供扱いしないで」

「これは失礼しました」

 アーサーは手を放して頭を下げた。




 ラザフォード市の周りは、豊かな田園風景が広がっていた。

「穀倉地帯だとは聞いていたが、見事だな」

 ワイバーンの背に乗りながら、クラークは小麦畑を見下ろす。


「そうだね。秋になったら、一面黄金色だね」

 いぬくんを胸に抱いて、一葉が後ろにいるクラークを見上げた。

「さぞかし美しいだろうな」

「そうだね。ねえ、ラスティもそう思うよね?」

 ワイバーンでブラッドと一緒に飛んでいるラスティに一葉が大声で話しかける。


「ん? ああ…そうだな」

「聞こえない!」

「そうだなって言ったんだ!」

 ラスティは大声で返した。そして、前を見る。


「陛下、あまり気落ちしていては、スタイナー侯爵に見くびられますよ」

 ブラッドが心配していう。

「…そうだな」

 ラスティはさっきと同じ答えを繰り返した。




「よくおいでくださいました」

 スタイナー侯爵邸へ着くと、白髪交じりの執事が出迎えてくれた。

 どことなくヴァレンタインに似ている気がして、一葉は礼儀正しい彼に好感を持った。

 ワイバーンも預かってくれるということで、世話を任せることにした。

「いえ、こちらこそ押しかけて申し訳ありません」

 クラークが頭を下げる。


「お手紙は頂戴しました。主人は陛下を歓迎される準備をしておりますよ」

「スタイナー侯爵は、どちらに?」

「申し訳ありませんが、現在、主人のライオネル様は外出中なのです。先に、双子の兄のフレデリック様にお会いください」


「お兄さんが侯爵じゃないんだ?」

 一葉が聞くと、執事はうなずく。

「ええ。兄君は魔法の研究に没頭したいからと、爵位を弟君に譲られたのです。どちらも、とても優秀な方ですよ」

 執事は侍女を呼んで、一葉たちに屋敷の一角にあるフレデリックの魔法研究室へ案内させた。


「こちらになります」

「ここが…」

 一葉たちは建物を見上げた。

 窓が一つと、扉が一つ。中の様子は外からはわからないような造りだ。

 煙突上がり、白い煙が上がっている。小さな小屋だった。


「あの、先に言っておきますけど、中を見てもあまり驚かないでくださいね」

 侍女は前置きするということは、よほどひどい部屋なのだろうか。

「では、フレデリック様、失礼します----」

 侍女がドアを開けようとしたのと同時に、ドアが開いて人が出てきた。


「うわ!」

「ちょっ…」

 ドアから出てきたのは、ぼさぼさ頭の眼鏡をかけた白衣の背の高い男性だった。年は二十代後半か三十代前半に見える。


「やったぞ、ついにみつけた!」

「フレデリック様…」

「ローナ、来てたのか!」

 フレデリックらしき男性は、ローナと呼んだ侍女の手を取る。


「世紀の大発見だよ! 僕はついに、魔石同士が反応する純度を発見したんだ! これで人間は、劇的に生活水準をあげることができるよ! もうギルドの連中に搾取されることもなくなるんだ!」

「あの…」

 ニールが恐る恐る声をかけると、フレデリックは今気づいたように顔をあげた。


「おや、お客さん? 君たちも僕の大発見を見に来たの?」

「いえ…」

「違うのかい。だったら、帰ってくれ。さ、ローナ。まずは理論を説明するよ」


「ま、待ってください、フレデリック様。こちらは、ジョージ陛下ですよ」

「ジョージ陛下?」

 フレデリックは首をひねる。

「どなたが?」

 フレデリックは眼鏡を押し上げて、クラークを見上げる。


「あなたが?」

「違います。私ではなく、こちらの方ですよ」

 クラークはラスティを示す。

「ほう、このおちびさんがレスタントの半分を治める国王陛下か」


 あ、やば。


 一葉はそう思ったが、ラスティは激高することも罵倒することもなく、「…そうだ」と冷静に答えた。

「はは、怒らないんだ。このくらいの年齢なら、まだまだ身長も伸びるだろうし、心配ないよ」

「別に心配などしていない」

 どことなく不機嫌そうにいうラスティに、一葉はなんとなくほっとした。

 身長のことを気にしているのは、変わらないんだ。


「フレデリック。実は、火急の用があるんだ。コルディアが我が国を侵略しているのは知っているだろう?」

「ああ、その件ですか」

 ハリントンに詰め寄られ、フレデリックは眼鏡を押し上げてため息を吐く。

「それで、陛下は国を取り戻そうとしているんでしたね。でも、正直僕はどうでもいいんですよ」

「どうでも…いい?」

 ハリントンは耳を疑った。


「上に立つ人間がどうであろうと、下々には関係ないってこと。別にオスカーが王だろうが、ジョージ陛下が王だろうが、世の中はたいして変わらないでしょ」

「そんなことはありません。ジョージ陛下は、民を守るために戦っているんです」

 ニールはラスティの前に立つ。

「そんなことはあるんだよ。民を守るって言ったって、ジョージ陛下が王になったら、オスカーの代わりに民から搾取するんだよ。量の多かれ少なかれは別として」


「…そう、かもしれないな」

「でしょ?」

 ラスティがぽつりとつぶやくと、フレデリックは得意げにうなずく。

「ちょっと、何納得してるのよ! ラスティとオスカーは全然違うからね!」

 一葉はラスティの肩をゆさぶる。


「しっかりしてよ、ラスティ! あいつは捕虜を殺したり、街の人から略奪したりしてるけど、ラスティはそんなことしない! それくらいの違いは分かってるでしょ!」

「ふーん…。なるほど」

 フレデリックは一葉をみつめる。

「君が超獣使い?」


「そうだけど…」

 頭のてっぺんからつま先までじろじろと値踏みするように見られ、一葉はクラークの後ろに隠れた。

「その角の生えたいぬみたいなのだ超獣なんだね?」

「そう…だよ」

 一葉は足元のいぬくんを抱き上げる。


「くるるる」

「実に興味深いね。僕の実験に協力してくれない?」

「え…」


「申し訳ありませんが、それはまたの機会に」

 クラークが一葉の前に出てにっこりと微笑む。

「今はあなた方ご兄弟の協力が必要なのです。そのお話を」

「うーん。世紀の大発見を前にして、そんな話したくないなあ」

 フレデリックは腕組みをする。


「あの、ここはフレデリック様のお話を一度聞かれたほうがいいですよ」

 ローナは小声で提案する。

 クラークとハリントンは目配せして、「それではそちらをお聞きしましょう」とフレデリックに答えた。


 フレデリックの小屋は、中は雑然としていた。

 理科の実験で使うような実験器具、乱れた本棚、何かのメモ書き、魔石のかけら、様々なものが散乱していて、人の立ち入れるような場所ではなかった。

「そういえば、来客用の椅子なんてないなあ。陛下、とりあえず床に座って」

「陛下にそのような…」

「いい。気にするな」

 ニールに言って、ラスティは空いている場所に立つ。


「世紀の大発見というのは?」

「そうそう。ギルドから支給されている指輪から、自分たちの情報が見られるのは知っているよね。で、考えたんだ。情報通信が魔石同士でできるんじゃないかってね。どくらいの魔石でどのくらいの純度でできるのか。これを証明するのが一番難しかった。何度も魔石を加工して、ようやくその回答を導き出したんだ」

「それなら、カタレラにいたときもできたよね?」

 一葉はラスティを振り返る。


「そうだったな。一葉たちと連絡をとるために、カタレラの魔石の鉱山から一瞬だけ通信することができた」

「へえ、僕と同じように魔石と通信できると?」

「私も同じこと思って、エルビドにいるときに試したんだけど、そのときはうまくいかなかったの」

「異世界から来た人間はやはり観点が違うね。もしかして、君の世界にもそういうものがあるのかい?」

 一葉はポケットから携帯電話を取り出した。


「これ、携帯電話って言うんだけど、お互いにこれを持ってると話ができるの。ただ、それには基地局がないとだめだけどね」

「借りても?」

「どうぞ」

 一葉はスマートフォンをフレデリックに渡す。


「これはどうやって使うんだい?」

「ええと、まず暗証番号を押して…」

 一葉は使い方を教えたが、ネット環境が使えない状態では、簡単な操作しかできなかった。

「それで、電気で充電するんだけど、私はこの世界の人じゃないから自分では充電できなくて、いつもはクラークにやってもらってるんだけど…」

「ほう。君は精霊の加護が受けられないんだね。なるほど。実に興味深いね。それで、他にはどんな特性があるのかな? そうそう、よかったら君の…」

「魔石の話じゃなかったんですか?」

 ブラッドがフレデリックを止めに入る。


「そうだった、そうだった。すぐに話を脱線するのは僕の悪い癖でね。魔石の話に戻ろうか。まず、魔石同士が通信するのは、同じ純度の魔石でないとだめなんだよ。君たちはギルドからもらった指輪を持っていたりする? そう、それはよかった。これから僕が実践してみるけどね」

 フレデリックは指輪を出し、ラスティにも指輪を出すように言う。そして、指輪に話しかけるとラスティにも通信ができた。

「どう? こうやって相互通信できるんだ。普通なら、ギルドから一方的にくるものを受信するだけだけどね」


「確かに、それはこの前カタレラで試した」

「では、陛下。そのときの魔石の純度はどんなものか覚えていらっしゃいますか?」

「純度…までは分からない。ただ、かなり澄んでいて、純度は高そうだった」

「どうも僕が何度も実験した結果によると、純度の高い魔石からだと一方的に受信できるようです。しかし、純度の低い魔石同士だと、近場でしか通信できないようです。それに、魔石を持っている者の魔素の素質にもよるようなのですが…」


 こうして、フレデリックの講釈が始まった。

 30分以上立ったまま、一葉たちはフレデリックの話を聞くことになった。




「はあ~…疲れた」

 屋敷へ戻った一葉たちは、ぐったりとして通された客間のソファに座った。

「申し訳ございません」

 執事は礼儀正しく会釈する。


「フレデリックさんて、いつもああなの?」

「普段はあまり喋らない方なんですよ」

 ローナは紅茶を入れてくれた。


「ただ、研究熱心ですので、研究の成果があらわれたときには、ああやって饒舌になられるんです」

「へえ…」

 一葉は紅茶を飲んだ。


「おいしいです」

「ありがとうございます」

 ローナは微笑む。

 一葉はメアリアンのことを思い出した。

 彼女の紅茶を久しぶりに飲みたいな、と思った。


「しかし、魔石で通信するなんてよくすごい発見ですね」

 ハリントン公爵は感心する。

「フレデリック様は素晴らしい方なのですよ。ただ、この発見をギルドがどう思うか…ですね。独占的な事業ですし、せっかくの研究が無駄にならなければ良いのですが」

「執事さんも大変ですね」

 ニールが労わる。


「とんでもございません。ただ、フレデリック様には自由でいていただきたいと思うのですよ」

 執事は笑みを浮かべた。

「それで、スタイナー侯爵はいつごろお戻りに?」

「それが、夕食まではお戻りになられないのです。しかし、陛下たちを歓迎されておりますので、客室へご案内いたします。今夜はそちらでお休みください」


 追い出されたりしなくてよかった、と一葉は思いながら、案内してくれるローナの後に続く。


「彼女と私は同じ部屋に」

 クラークが一葉の肩に手を置く。

「えっ…」

「まあ、そうですか。では、こちらの寝室をお使いください」

 ローナは心得たように、ダブルベッドの部屋へ一葉とクラークを案内した。なんだか一葉は恥ずかしくて、顔を赤くした。

 他の皆もそれぞれ部屋を案内されて、夕食までスタイナー侯爵を待つことにした。




「ラスティ、やっぱり変だね」

「そうか?」

 一葉はいぬくんを抱いてソファに座る。


「だって、身長のこといわれても全然怒らないし。前だと、食って掛かってたのに」

「それは気にしなくなったんじゃないか?」

「そうかなあ。確かに、この何か月かで少し身長伸びた感じだけど…そういうんじゃなくて」

 一葉はいぬくんの頭を撫でる。


「何かぼうっとしてるっていうか…他に気になることがあるのか…」

「気になるなら、直接ラスティ様に聞いたらどうだ?」

 クラークは剣を置いて一葉と向かい合って座る。

「うーん…。聞いても素直に言うかな?」

「一葉と喧嘩する元気があるなら、それでいいだろう」

 クラークは苦笑した。


「遅くなって申し訳ありません」

 スタイナー侯爵であるライオネルが夕食の席に現れたのは、夜の7時を回ってからだった。

「いいえ。こちらこそ、押しかけて申し訳ない」

 クラークがにこりと微笑んだ。


「こちらがジョージ陛下。そしてスペンサー公爵、ハリントン公爵、超獣使いの一葉さまです」

 執事がこの場にいる全員を紹介する。ブラッドとニールは、別の席を用意されていた。

「はじめまして、皆さま。スタイナー侯爵ライオネルです」

 双子の兄だというフレデリックとは違い、身なりもきちんとして、長い髪をまとめて微笑むライオネルは人好きのする印象を与えた。

 眼鏡を外して、髪をきちんとセットすればあのフレデリックもこうなるのかな…と一葉は考えた。が、うまく想像できなかった。


「兄と会われたそうですね」

「ええ。兄君は、一緒に食事をとられないのですか?」

「兄は自由な人ですから。食べたいときに食事をとり、好きな時に眠るんです。あなた方にお会いできたのも、偶然という奇跡みたいなものですよ」

 ハリントンが聞くと、ライオネルは苦笑した。


「魔石の研究をされていましたね」

「今はそうですね。ほかにも、石化病の研究やニワトリの研究もしていたり、とにかくいろんなことに興味を持って、手当たり次第に研究するんです。おかげで、こちらは資金や研究材料の準備に懐が痛みます」

「ご苦労されているのですね」

 クラークが労わった。


 食事は前菜、コンソメスープ、メカジキのバターソテー、牛肉のグリル、ラズベリーのシャーベットと胃も舌も満足させるものが提供された。

 その間、ライオネルはラスティに今後のコルディアとの関係についていくつか質問をしたが、ラスティらしくなく歯切れの悪い返答しかなかった。


「どうやら、陛下はお疲れのようですね」

 ライオネルは苦笑する。

「いや…すまない」

「いいのです。明日、私は朝食後に出掛けますが、またお話しましょう」

「…わかった」

 ラスティはそう答えるので精いっぱいだった。




「陛下」

 食堂を出て、クラークはラスティに声をかける。

「少し、お話をしましょう。二人で」

「話? …何を?」

 ラスティはクラークをにらむように見上げた。


「何が言いたい。どうせ、俺が王なんだからなんとかしろと言いたいんだろう」

「いいえ」

 クラークに否定され、ラスティは目を瞬かせる。

「すぐ済みます。どうぞ、お部屋へ」

 クラークはラスティの客室へ二人で入った。


「陛下は、どうされるおつもりですか?」

「どう、とはどういうことだ?」

 ドアを閉めて、クラークは静かに問いかける。


「あの侍女に何を言われたか存じませんが、王でいることも放棄するおつもりですか?」

「…だったらどうする?」

 ラスティは皮肉気に笑う。


「おまえが王になるか? それもいいだろうな。おまえには、正当な血が流れている俺と違って。人望もあるし、皆もそれを望んでいるんじゃないか?」

「本気でおっしゃっているのですか?」


 低い声で言われ、ラスティは顔をあげる。

「これまであなたについてきた我々を、ただの愚か者にするというのですね」

「…俺、は」


「失望しましたよ」


 クラークは淡々とそう告げた。

 ラスティは、呆然とする。

「…クラーク」

「いつまで甘えているんですか。明日、皆に王であることをやめるとおっしゃればいい。何もかも放棄する気なら、止めませんよ。子供の駄々につきあっている時間はないのです」


「ま、待って…」

「失礼いたします」

 クラークは振り返ることなく、客室を出て行った。

 ラスティは立ったまま、ドアをみつめていた。


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