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【3章】帰れない楽園  作者: 結糸
第3章 王と女王
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本気じゃない

「公爵、おかえりなさい!」

「よくご無事で!」

「待ってましたよ!」

 住人たちは、エヴァンズのの帰りを待ちわびていた。


「皆…よく耐えてくれたな。ありがとう」

 エヴァンズは感極まった表情を浮かべる。

「もうコルディアの連中には、うんざりです」

「勝手に家に入ってきて、家のものを持って行くんです。ひどかった」

「あいつらのせいで、女子供は隠れて暮らさなきゃならなかったんですよ」


「苦労かけたな。だが、もう大丈夫だ」

 住民は歓声をあげた。

 ひとしきり歓迎を受けてから、エヴァンズは屋敷へ戻った。


「エヴァンズ公爵、お戻りをお待ちしておりました」

「パーシヴァル!」

 エヴァンズは自分を出迎えた男を驚いてみつめる。


「何故、ここへ」

「実は、ラスティ様からお手紙をいただいておりました」

「陛下から?」

 エヴァンズはラスティを振り返る。


「おまえの領地を守るのに適任なのは、パーシヴァルしかいないと思ってな。いろいろ頼んでいた。ビクトリアも無事だそうだ」

「…そうでしたか」

 エヴァンズはため息を吐いた。

「…陛下、心より感謝を」

 エヴァンズはラスティに礼をとる。


「この戦争が終わるまで、と申し上げましたが、あなたが王であるために、私の忠誠をあなたに捧げます」

「…ありがとう、エヴァンズ」

 ラスティは微笑んだ。

 ただ、心からの笑みではなかった。


 エヴァンズは身を隠していたビクトリアと再会し、お互いの無事を確かめ合い喜んだ。


「私たちはイングラムへ帰ろう」

 クラークがその夜、ブラッドたちに告げる。

「そうだな。復興のための兵を残して、イングラムへ戻るべきだな。あそこが手薄なのは気にかかる。ドイル大佐、頼む」

「承知しました」

 ドイル大佐はすぐに受け入れた。


「エヴァンズ公爵を皆、待っていたようだな」

「ありがたいことです」

「エヴァンズ公爵はここで復興にあたるがいい」

「そうします。ありがとうございます」

 エヴァンズはうなずく。

「…そうするがいい。俺たちは、帰ろう」

 ラスティはどことなく疲れた表情でそう言った。


 イングラムへ戻る途中、一葉はアーウィンのことを考えていた。

 いぬくんの背に乗って移動し、夜は女性たちの集まりの中で寝袋にくるまって眠った。


「…眠れない」

 三日月の夜。一葉はテントから出て、空を見上げた。いぬくんもついてくる。

 まだ4月の夜は寒い。ぶるっと震えて、両腕をさすった。


「どうされました」

「…アシュリー」

 唐突に声をかけられて、一葉は振り返る。黒装束のアシュリーがいた。

「眠れないのですか?」

「アシュリーも?」

「私は一葉さまをお守りするのが仕事ですので」

「そう…ごめんね、つきあわせて」

「いいえ」

 アシュリーも空を見上げる。


「きれいな三日月だね」

「ええ。…フレッチャー大尉のことをお考えで?」

 アシュリーに聞かれ、一葉はどきんとした。

「…うん。アーウィンが、私を攻撃するなんて思わなかったから、びっくりした」

 一葉はため息を吐く。

「次会った時は、敵だ…って、言われてはいたんだけどね」

 実際、そう扱われると辛い。苦しい。


「彼は本気ではありませんでしたよ」

 アシュリーが淡々と告げる。

「…どうしてわかるの?」

「本気なら、召喚獣を呼んで、私たちを追いかけてきたはずです。短剣を投げたのも、わざと外していた気がします。あなたに逃げてほしいからに見えました」

「…そう、なのかな」

 一葉は一葉は足元のいぬくんを抱き上げて、抱きしめた。


「そうだったら嬉しいな」

「あなたもフレッチャー大尉を敵だとは思えないんでしょう」

「うん。…たぶん、これから先も」

「厄介な相手を気に入ったものですね」

「あはは…。でも、やさしいんだよ。アーウィンは」

 一葉はまた空を見上げた。


「アーウィンがコルディアの人じゃなかったら良かったのに」

「もし、は起こらないから、もしなんですよ」

「…そう、だね」

 アシュリーの言葉に、一葉はうなずくしかできなかった。




 イングラムへ戻っても、ラスティはどこなく覇気がなかった。

「なんか、元気ないね」

「そうか?」

 フェリシアのシーツの取り換えの仕事を手伝い、食堂で一息ついているロビンと一葉のところへ、同じく訓練を終えて一息つきにきたラスティに一葉が声をかけた。

 ブライアンとブラッドが一緒に隣に腰かける。


「ラスティ様、今紅茶をお入れしますわね」

 フェリシアがいそいそと厨房へ戻り、新しい紅茶を持ってきた。

「ありがとう。…仕事は大変か?」

「もちろん、大変なこともありますけど、やりがいがありますわ。みなさん、喜んでくれますもの」

「…そうか」

 ラスティは紅茶を飲む。


「クッキーでも食うか?」

「手づかみでラスティ様に渡すな」

 ブラッドがロビンをたしなめる。

「そうか、悪いな」

 悪びれた様子もなく、ロビンはクッキーをつまんだ。


「ダドリーから帰ってから、なんかおとなしいよね」

「…捕虜のことですか?」

 ブライアンにそう言われ、ラスティは苦笑する。

「…やれやれ。おまえには敵わないな」

「捕虜がコルディア軍に利用されたことですね」

「どういうことですか?」


 フェリシアが聞くと、ブラッドがオスカーは捕虜を利用して、ラスティを狙わせたのだと手短に説明する。

「なんてひどいことを…!」

 フェリシアは怒りのあまり、ぶるぶると震える。

「結局、捕虜もイングラムの兵もひどい目に遭わせた。俺の選択は間違っていたんだろうな…」

 ラスティはぎゅっと紅茶のカップを両手で握りしめる。

「俺は、上に立つものとしてこれでいいのか…」

「ごめん、私が余計なこと言ったから…」

 一葉はつい謝罪する。


「おまえのせいじゃない。俺が選んだことだ」

「でも、あんなところに捕虜を連れて行くイヴァンだって、おかしいよ」

「それも俺が許可したことだ。…もっと、他にやりようがあったはずなんだ」

「陛下…」

 ブライアンは彼の肩に手を置く。


「そうだ、気晴らしにさ、パジーニ一座を呼んだらどうだ?」

 ロビンは急に思い立って周りを見る。

「パジーニ一座って?」

「カタレラにいたとき、ちょっとお世話になった旅芸人だよ」

 フェリシアの疑問に一葉が答える。


「…そうだな。悪くないかもしれない」

 ラスティが微笑む。

「いいのか?」

「ああ。おまえにしては、いい考えだ」

「しては、は余計だ」

 ロビンが唇を尖らせる。


「でも、そうだね。すごい大道芸が見られるかも」

「カタレラで見たのもすごかったよな。みんなにもみせてやろうぜ」

「わかった。ブライアンに言っておこう」


 ラスティはブライアンに頼んで、パジーニ一座を呼んだことを皆に伝えた。

「旅芸人の一座、ですか」

 ガードナーは複雑な表情だ。

「そうだ。カタレラで出会った連中だ。いろいろ協力してくれたし、礼もかねて皆を景気づける助けになればと思ってな」

 クラークは肩をすくめる。


「お気持ちはありがたいですが…」

「そんな場合じゃねえんだろ?」

 グレンもあまり乗り気ではないようだった。

「なんだ…。グレンも反対か? 喜ぶかと思ったのに」

「いや、俺は…ま、王様がそういうならいいんじゃね?」

 グレンは腕組みをして壁によりかかった。


「あの有様を見たのだから、確かに気晴らしは必要かもしれません」

 カスバート公爵がラスティに賛同する。

「どんな一座なのですか?」

「いろいろな出し物をしてくれる。カタレラの女王も気に入ったようだったし、広場で兵士たちを喜ばせてくれるだろう」

 イヴァンから、数日中にこちらへくると返事が来たとのことだった。




「久しぶりだな」

「ええ。まさか、レスタントの陛下であったとは」

 パジーニは帽子をとってラスティに頭を下げる。

 他の団員たちも、緊張した面持ちで礼をとった。

「カタレラでは事情があってな。来てくれて助かった。レスタントもいろいろあって、少しでも兵士たちの気晴らしになればと思って、おまえたちを呼んだんだ」

「光栄です」

 こうして、パジーニ一座が滞在することになった。


「ちょっとぶりだね」

「まさか、あなたが超獣使いだったとは」

 いぬくんを抱いた一葉を見て、パジーニはため息を吐く。


「黙っててごめん」

「いいんですよ。でも、それなら我々にお力をお借りしても?」

「あー…えっと」

 一葉は視線をそらして、いぬくんを撫でる。

「あんまり余計なことに超獣の力を使わないように言われてるんだ」

「それは残念ですが、そういうものでしょうね」

 パジーニはうなずいて笑った。


「そういえば、角の生えた犬のような生き物を連れてるって、いわれてたものね」

 パメラがいぬくんをまじまじと見る。いぬくんはじっとパメラを見上げた。

「どんな興行を見せてくれるんだ?」

 ロビンが待ちきれないといったふうに尋ねる。

「それはお楽しみにお待ちください。種明かしはできません」

 パジーニは白い手袋をした人差し指を立てる。


「場所はあの広場でやるんだって」

 ジャンが訓練所の広場を指した。

「下見に行かせていただいても?」

「そうだね、ショーを見せるならいろいろ仕込みとかもあるよね」


 一葉が訓練所にいたブラッドに聞くと、ニールに案内役を任せるとのことだった。

 ニールがパジーニ一座を案内している間、一葉とロビンはフェリシアの仕事を手伝うことにした。今日の仕事は、兵舎のシーツの交換だ。

「そう。旅芸人の一座の興業がみられるのね。楽しみだわ」

 フェリシアは古いシーツをたたんで、袋にしまう。


「レスタントでもそういう人たちはいるの?」

「そうね。特に、冬の間は回ってくるのを楽しみにしている人が多いのよ」

「なかなか外へ出られないからな」

 ロビンは新しいシーツをしいた。


「そういうことかあ。じゃあ、他の一座もいるんだね」

「そうね。街で呼んだりもするのよ。もちろん、夏も喜ばれるけどね」

 一葉はピローケースを交換する。

「フェリシア、だいぶ要領よくなったな」

 ロビンがフェリシアの仕事ぶりを見て感心する。


「貴族のお嬢様だったのに、すげーよ。慣れるまで大変だったろ」

「生きていくためですもの。当然よ」

 フェリシアは眉尻を下げて笑った。

「それに、こうすることでラスティ様のお役に立てるんだもの。頑張らなくちゃ」

 フェリシアの言葉に一葉はふと、グレースのことを思い出した。

 ラスティは彼女のことを嫌ってはいないようだし、何より国同士の結びつきを考えるなら、彼女との婚姻が重要視されるのだろう。


 今でも彼女とはペンギンやニワトリを使って、文通(?)をしているらしいし。

 それに、リリアーナもどうなんだろう。ラスティの相手としては、もうちょっと年齢を重ねれば、無理な相手ではない。彼女もラスティが気に入っているようだし、ラスティだってそうだろう。

 でも、と一葉は思いなおす。

「こんなにフェリシアが頑張ってるんだから、大丈夫だよ」

 一葉は一人でうなずいた。



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