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【3章開始】帰れない楽園  作者: 結糸
第2章 流浪の王子
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セシリア救出作戦

「明日、死刑執行!?」

「そうらしい」

 ジェフリーが貧民街の空き家に隠れていた一葉とブラッドに、詳細を伝えに来た。一葉は我が耳を疑った。

「なんだよ、それ…」

 ブラッドが拳を握る。

「急すぎる。いくらなんでもありえねえだろ…」

「シアンが言うには、ライアン枢機卿は最初から証拠を握ったセシリアを殺したかったんだって…。すぐにでも殺したいから、教会から圧力をかけたってのもあるらしい」

「ふざけやがって…」

 ブラッドは赤く塗った紙をぐしゃぐしゃとかきむしる。

「どこで執行するの?」

「ガネス監獄の前でやるらしい。絞首台が用意されてる」

「まるで見世物じゃない…」

「国王の暗殺に関わった魔女の死刑だからな。派手に演出して見せしめにするつもりだろうよ。…どうする?」

「どうするも何も」

 一葉はブラッドを見る。

「…やじ馬どもが集まるだろう。そこに紛れ込んで、死刑執行の前にセシリアをなんとか連れて逃げる」

「相手は教会のお偉いさんだぜ。国の兵士だけじゃなく、教会の護衛も連れてくるはずだ」

「構うもんか。どのみち、俺達を探してんだろう。こっちから出向いてやるぜ」

 ブラッドが冷ややかな笑みを浮かべる。

「…ブラッド」

 一葉はブラッドのマントを引っ張った。

「死にに行くんじゃないよ。セシリアを助けに行くんだよ?」

「当たり前だ。死ぬ気なんかねえよ」

「だったらいいけど…」

 そのとき、ドアがとんとんとノックされた。三人は顔を見合わせる。一葉とブラッドは物陰に隠れて、ジェフリーがそっとドア越しへ話しかける。

「…誰だ?」

「私はニールです」

「ニール?」

 ジェフリーが首を捻る。

「ニールって…」

「…まさか」

 一葉とブラッドはうなずきあう。

「ジェフリー、開けてくれ」

「けど…」

「大丈夫だ。俺の部下だ」

 ブラッドに言われて、ジェフリーは恐る恐るドアを開けた。ニワトリを手にしたニールは、空き家の中へ入ってきた。

「隊長!」

「ニール!」

 ブラッドとニールは抱き合った。

「よく、よくご無事で…!」

「おまえこそ、なんで…? どうしてここに」

「失礼ながら、その少年の後をつけてきました」

 悪びれることもなく言ってのけるニールに、ブラッドは外に目線を向ける。

「まさか、ほかにも…」

「いえ。私だけです。ほかにつけている者はいないようでした」

「ここは俺の庭だぜ。けど、つけられたなんて俺もまだまだだな」

 ジェフリーは片手をあげてかぶりを振った。

「ガキが生意気言うな。…俺たちが貧民街にいるって噂になってるのか?」

「いいえ。ただ、セシリアさんのことを助けようとした連中がいるとは噂になっています。もしかしたらと思ったんです。ただ、赤毛の男とバンダナを巻いた魔法使いだと聞いて、確信はもてなかったのですが、一か八かで変装してるのではないかと思い、司祭様に聞きに行ったんです。そうしたら、彼の跡をつけろと言われまして」

 ニールはジェフリーに視線を向ける。

「そうか…」

 ブラッドは大きく息を吐いた。

「悪かったな。黙っていなくなって」

「隊長のことですから、生きていらっしゃるとは思っていましたよ。ラスティ様は?」

「お元気だ。無実を証明するために今はマレッサに…いや、そのニワトリは?」

「実は、ラスティ様からきたらしいんですよ。司祭様が俺に預けてくれました。隊長の助けになるかもしれないと言って」

 ニワトリはニールがトサカを引っ張ると、ラスティの声で鳴きだした。

「ラスティからシアンへ。そちらの守備はどうだ? こちらはとある情報が入って、これからレスタントとエルビドとの国境へ向かう。セシリアを助けたら合流しようとブラッドに伝えてくれ」

 ブラッドはそれを聞いて、ニワトリに道具袋に入れていた穀類を与えた。ニワトリはコケーと鳴く。

「ねえ、ブラッド。これだと、ラスティたちはセシリアからニワトリが来たって言ってないね」

「そうだな…。結界石は外してくれって伝えたはずなんだけどな」

「セシリアは誰にニワトリを送ったんだろう…」

 一葉とブラッドが考えても、答えにはたどりつかなかった。

 見かねてジェフリーが声をかける。

「ニワトリになんて伝言する?」

「…そうだな。とりあえず、こっちの状況を伝えよう。ブラッドからクラークへ。王都へは着いたが、まずいことになってる。セシリアの死刑執行が明日に決まった。なんとか助けるつもりだ」

 ニワトリは再びコケーと鳴いた。

「外へ飛ばしてくるよ」

 ジェフリーがドアを開けて外へニワトリを飛ばした。ニワトリは東へ向かって飛んだ。

「兵士たちはどうなんだ? 殿下の無実を信じている者たちはいるのか?」

「もちろんです。我々の隊は皆、ラスティ様の無実を信じておりますよ。そうでなければ、スペンサー将軍や隊長がラスティ様をお守りして亡命する理由がありません」

 ニールは胸に手をあてて微笑んだ。

「そうか。ありがとう…。明日のセシリアの刑が執行されるときに、なんとかセシリアを助けだろうと思う」

「おそらく、その時しか好機はないと思われます。私たちもご協力できることがあれば、お力になりましょう」

 ジェフリーは口笛を吹いた。

「すげえじゃん、ブラッド。あんた、結構すごいやつだったんだな」

「茶化すな。ニール、おまえたちに迷惑はかけられない。これはあくまで俺が個人的にやることだ。だから、やじ馬どもに紛れるのに少しだけ、俺たちを見逃してくれればそれでいい」

「ですが…」

「命令だ」

 ニールは、ふう、と息を吐いた。

「承知しました。お望みどおりに。ほかには?」

「大丈夫だ。俺には超獣使いがいるからな」

 ブラッドは一葉の頭をぐしゃぐしゃとかき乱した。一葉はよろけながら笑う。

「まあ、そういうことなんで。大丈夫です」

「わかりました」

 ニールは微笑んでうなずいた。

 それから、どうやってセシリアを助け出すか4人で知恵を出し合った。

 結局のところ、セシリアが絞首台へ上がる前にブラッドと一葉で乗り込んで、大立ち回りをしてから、超獣に乗ってセシリアを助け出すしかないということになった。ブラッドはニール達の軍に紛れて逃げる手はずにした。

「いぬくん、本気出せばかなり早く走れるから大丈夫だと思うけど、ブラッドは?」

「偶然、兵士が馬を連れ込んで、偶然目を離した隙に…ということにしましょう。少し離れた場所に一番の早馬を用意します。それくらいならなんとか誤魔化せますよ」

 こうして明日、セシリア救出作戦を決行することになった。


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