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【3章】帰れない楽園  作者: 結糸
第1章 異世界召喚
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利害の一致

「勝手にうろうろするなよ。ここは一国の王がおられる城なんだからな」


 長い廊下をブラッドとクラークに挟まれて一葉といぬくんは歩く。

「ごめんてば。ちょっとセオドールがいたから、話してみようかなと…」

「何を殿下と話したんだ?」

「いやあ…」

 一葉は言いづらそうに頭をかいた。

「自分は王様に向いてない、ラスティのほうがずっとふさわしいっていうもんだから、じゃあそうしてくれという話を…」

「はあ?」

「なんでそんなことを…」

 ブラッドは顔をひきつらせ、クラークは額に手をあてた。


「だって、私、そのためにここにいるんだもの」

「…何?」

「なんだって?」

 ブラッドとクラークは歩みを止めた。それに合わせて一葉も足を止める。いぬくんだけが先に歩いていたが、気づいて戻ってきた。

「青の賢者が次の王にはラスティがふさわしいから、そうなるようにクラークたちに協力しろって言われてるんだ」

「青の賢者に?」

「そう」

 一葉はうなずいた。

「クラークたちもそれを望んでいるから、彼らの力を借りなさいって」

「…一葉」

「その話、誰かにしたか?」

「誰にも」真剣な表情で二人にみつめられ、一葉も真面目な顔で二人を見上げる。「余計なことは他人に言わないほうがいいかと思って」


「…一葉は私が将軍だということも最初から知っていたのか?」

「まあ、それであの場所に青の賢者に送られたんだけどね」

 けろりと言われ、「一葉は秘密が多いな」とクラークが笑う。「まだ私に言っていないこともあるだろう?」

「それはお互い様でしょ。でも」一葉は手を差し出す。「私たち、協力できると思うな。利害が一致してる」

「…そうかもな」

 ブラッドはクラークに問うように視線を送る。


「…そうだな。協力しよう。ただ、私たちにとって不利益になるようなことはしないでもらいたい」

「しないよ。私はあくまでできることをするだけ」

「…では、協力しよう。お互いのために」そしてクラークも手を差し出した。「手を握り合うんだろう?」

「そうそう」

 一葉はにやりと笑ってクラークと握手をかわす。「ブラッドも」と言って、手を重ねさせた。

「じゃ、シアンのところへ連れて行ってもらおうかな。聞きたいことがあるんだ」

「まったく、一葉には敵わないな。…ブラッド、頼むな」

「クラークのいうことには従うよ」

 ブラッドは苦笑して肩をすくめた。


 今度は勝手にいなくならないように、ブラッドは馬小屋まで一葉を連れて行き、自分の馬に乗せる。跳ね橋を超えて街まで馬を走らせた。兵士に挨拶して跳ね橋を渡る。


「俺も暇じゃないんだからな。おまえの使い走りじゃないんだぞ」

 一葉を前に乗せながら、ブラッドはため息交じりに言う。

「いいじゃん。セシリアにも会えるんだし」

「う…そ、それはだな…いや、別に俺はセシリアに会いたいわけでは…」

「えーまたまたあ。ブラッド、セシリアのこと大好きじゃん」

「なっ…なななな何を言ってやがるんだ、馬鹿か!」

 ブラッドは顔を真っ赤にして大声をあげた。

「え? もしかして、ばれてないつもり…」


「黙ってろ! 飛ばすからな!」

「ちょ、ま…うわああああ!」

 ものすごい勢いでブラッドは手綱をたたいて馬を走らせる。一葉は予想外の速さに絶叫した。胸にかかえたいぬくんもおとなしくなっていた。


 壁を越えて馬も疲れて歩みを遅くし始めたころ、ようやく教会近くまでたどりついた。クリバチ祭りで出ていた屋台がまだ出ている。

「クリバチ祭りって終わったんじゃないんだ?」

 馬から降りて教会の近くの宿の入り口にブラッドは馬をつないだ。

 一葉が周りを見渡すと、一葉のことを気にするような街の人は何人かいたが、特に冷やかな目で見られるということもなかった。


「意外だなあ…」

「何がだ?」

 ブラッドが問うと、「街の人だよ」と一葉は答えた。

「私は王様のことを殺そうとしたおじさんをかばったのに、みんな気にしてないみたいだから」


「あんなものうまくいくはずがないのは誰でもわかってる。陛下に忠誠をささげたものにとっては面白くないだろうが、街の連中も思ってるだろうよ。戦争の被害が出たのは、国王にも責任があるって。一種の不満回避にはなったってことだ」

「…そう」

 一葉は指で眼鏡を押し上げた。


「クリバチ祭りは三日は続く。昨日の件があったから、中止の話も出たが陛下が断固反対されたそうで続けることになった」

「そうなんだ…」

「もっとも、マーティンの裁判は近いうちに行われるだろう。おそらく極刑だ。実行されるのはしばらく先の話になるけどな」

「…ふうん」

 一葉は無表情のままつぶやいた。


 教会の扉を開けようとしたとき、いつものようにほうきを持ったセシリアが出てきたところだった。

「あら、おはよう、一葉、ブラッド。昨日は大変…」

「おはよう、セシリア!」

 ブラッドは全開の笑顔で教会の扉を開けた。


「いやあ、今日も無事クリバチ祭りが開催できてよかったよ。昨日の今日でどうなることかと思ったけど、これも女神さまのおかげだね」

「ふふ、そうね」

「おーい…」

 一葉は小さく声をかけたが、ブラッドの目にはセシリアしか見えていないようなので、彼の束ねた髪の毛を引っ張った。


「いてえ! 何すんだ!」

「もう、セシリアと話したいなら私を中へとおしてよ。邪魔なんだけど」

「あ、ああ。そうだな」

 一葉ににらまれ、ブラッドは一葉を中へ通すよう扉から離れた。一葉はセシリアに「入るね」といって中へ入る。いぬくんがそれに続く。


「昨日はクラークも大変だったんじゃないの?」

「そうだな。俺も聞いた話だけど…」

 一葉は二人を置いて聖堂の中へ入り、廊下をとおって教会内部の食堂へ行くと、シアンが子供たちに囲まれて絵本を読んでいるところだった。


「それで、ベンは女神さまのもとへいきました。おしまい」

「おしまい!」

「よかったー」

「シアン、次の本読んでー!」

「それより、外で遊びたいー!」

「はいはい、それじゃあね…」シアンが周りを見渡すと、一葉が入り口からこちらを見ているのがわかった。


「みんなは、ジェシカと畑のお世話をしようね。俺も後で行くから。ジェシカ、頼むよ」

「わかりました。みんな、こっちよ」本棚を整理していたジェシカが子供たちに声をかける。

 その中には、あの口のきけなかった少年もいた。一葉はその姿を確認して安堵の息を吐いた。

「えー」

「早く来てねー」

 子供たちは不満を声に出しながら、修道女のジェシカの後に続いて食堂から外へ出て行った。


「おはよう、一葉。昨日は大変だったね」

「あはは…。でも、シアンが止めてくれたから」

「俺は大したことはしてないよ。一葉が頑張ったから、マーティンは救われたんだよ」

「でも、おじさんは…」

 一葉は言い淀んでうつむいた。

「救うというのは、生きながらえることばかりじゃない。心が救われるということも同じだよ。一葉は彼の心を救ったと思うよ。そして、ジャックの命もね」


「ジャック?」

「マーティンの手伝いをした、あの口のきけない男の子だよ」

 ああ、と一葉は納得してうなずいた。

「あの子…大丈夫なんだ」

「一葉のおかげだよ」

「私でも何かできたならいいけど」

 一葉は複雑な表情で笑った。シアンもやさしく微笑みを返した。


「それで今日はどうしたの? 一葉も一緒に畑仕事する? それとも、文字の勉強する?」

「あのね…青の賢者が言ってたんだよ。困ったことがあったらシアンに聞きなさいって」

「俺に? 何を聞きたいの?」

 シアンはにこにこして首をかしげる。


「超獣の封印を解くためには、どうすればいいのか知らないかな…」

「俺が知ってると思う?」

 逆に質問されて、一葉は答えに窮した。伝説になっている獣について、わかる人は少数だろう。

「そうだよね…。ごめん。誰に聞けばいいか分かんなくて…」


 一葉が口ごもると、シアンは苦笑して「ギルドへ行ってみようか」と提案してくれた。

「ギルドへ?」

「そう。冒険者たちが集まる場所だから、超獣に関して何かわかるかもしれない。ギルドは世界中にある冒険者の登録所で、たまり場だからね」

「なるほどね。うん。行ってみる」

 一葉がシアンに賛同したとき、セシリアとブラッドが見知らぬ男を二人連れて食堂へ入ってきた。


「シアン、お客さんよ」

 セシリアが微笑む。

「いらっしゃい。今日はどうしました?」

 シアンは二人の男に両手を広げて微笑んだ。

「実は、職を失ってしまって。しばらくここへ滞在させてもらえませんか?」

 黒髪の男がシアンにすがるような声で訴える。


「もちろんです。女神さまはあなた方のような気の毒な方を決して見捨てたりはしませんよ。どうぞ、我が家と思って宿泊してください」

「助かります。よかったな、マイケル」

「ああ…」

 マイケルと呼ばれたフードをかぶった金髪の男は、一言だけ発した。

「俺はシアンといいます。お二人は、お名前は?」

「俺はゴードン。こっちの無口なのはマイケルです」

 ゴードンの紹介に、マイケルは小さくうなずいた。

「よろしく、ゴードン、マイケル。お腹は空いてない?」

 そのとき、一葉の感覚に何か引っかかるものがあった。

 けれどそれがなんなのか理解できず、一葉はなんとなく足元のいぬくんに目をやるが、いぬくんは一葉の足元をうろうろするだけだった。


「もし用意してもらえるなら、こんなありがたいことはないですがねえ…」

 ゴードンは伺うような目つきでシアンを見上げる。

「もちろん、大丈夫ですよ」

 シアンはセシリアに視線を向ける。「ちょっと待っていてくださいね」とセシリアは二人に微笑んで調理場のほうへ向かった。彼女は料理ができないと言っていたので、おそらくほかのシスターに頼むのだろう。


「ありがとうございます。…ところで、あの子たちは何をしているんですか?」

ゴードンは窓から見えるジェシカと子供たちを指さした。

「あれは教会で作っている畑を世話してるんですよ。見に行きますか?」

「良いんですか? マイケル、おまえも行くよな」

「ああ…」

 ゴードンにうなずいて、マイケルも食堂から出て畑へ向かう。子供たちが畑で遊んでいるのが見えた。

「なんだろう、何か…」引っ掛かる。一葉は頭の中でそれを考えたが、どうもうまく思い出せない。順を追って考えてみることにした。

 朝、クラークの家で朝食をとって、城へ向かった。そしておじさんに会って話をした。何を…。


「…ブラッド!」

 一葉は叫んでブラッドの腕をつかんだ。

「うわ、なんだ…」

「あいつらだよ、ブラッド! おじさんを、マーティンをけしかけて王様を襲わせようとした犯人!」

「何?」

 ブラッドは表情を険しくする。


「朝、私クラークとおじさんから直接聞いたんだ、名前はマイケルとゴードン、フードをかぶった金髪と黒髪って言ってた!」

「…よく思い出した。みんなはここから出るな」

 ブラッドはシアンたちにそう言いおいて、二人を追って食堂を出る。一葉といぬくんもそれに続いた。


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