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【3章】帰れない楽園  作者: 結糸
第1章 異世界召喚
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ラスティの決意

 一葉はラスティを市井へ誘った。

 セオドールがお見舞いの花のお返しをしたがっていたと告げたら、代わりに行くとすぐに承諾した。ニールにも護衛をしてもらい、服装も平民のものに着替えて貧民街のレナを探しに行った。


 教会にいたジェフリーと一緒にレナを探してもらうと、小学から帰ってきていた子供たちと一緒に遊んでいた。

「みつけた、レナ」

「あージェフリーだ。みんなしてどうしたの?」

 ぞろぞろと来たジェフリーたちに、貧民街の子供たちは興味津々で集まってきた。

「このまえのとんじる、おいしかった」

「またつくってー」

「いいよ。今度はまた違うのつくるよ」

「とんじる? なんだ、それは?」

 ラスティが首をひねる。


「この前、一葉がおまえからの厚意だって豚汁って異世界の料理をふるまってくれたんだ」

 ジェフリーの説明に、ラスティは驚きを隠さなかった。

「ということにして、あんたの名前を売っておいたのよ。スポンサーはクラークだけどね」

 一葉がにやりと笑った。

「頼んでない」

 ラスティが渋い表情を浮かべる。

「私がやりたくてやったからいいじゃん」

「勝手だな…。おまえのそういうところはある意味、すごいと思うぞ」

「まあそう褒められても」

「褒めてない」

 一葉はラスティを無視してレナに話しかける。


「この前来た、きれいな金髪の王子様みたいな男の子、覚えてる?」

「おぼえてるよ。ぐあいわるくなって、かえっちゃったひとでしょ?」

 レナがそう言うと、「お見舞いの花をもらったから、そのときのお礼を、彼から」と言ってラスティがダリアの花束をレナに差し出す。


「うわあ、きれい。もらっていいの?」

「そのために持ってきたんだ」

 レナは嬉しそうにそれを受け取った。周りの女の子たちも「いいなあ」「きれい」と口々に言う。

「あのひとはどうしたの? まだ、ぐあいわるいの?」

 花束を抱えて、レナは心配して聞く。


「彼は…」

「彼は、女神さまのもとへいったんだよ」

 ラスティの言葉に、レナははっとして悲しそうな顔をした。おそらく、それが死を意味することなんだろうな、と一葉はなんとなく理解した。


「そう。…じゃあ、もうくるしくないんだね」

「ああ。きっと」

「よかった。…めがみさまのもとでしあわせにって、わたしいのるよ」

「ありがとう」

 ラスティは微笑んだ。それから子供たちと一緒に遊んで、夕暮れになると教会へ行った。


 シアンとセシリアが紅茶を入れてくれた。そこでラスティはみんなの前で「決めたことがある」と言った。

「どうしたの?」

「俺は来年、大学へ行くことにする」

「決められたのですね」

「いいことです」

「殿下なら大丈夫ですよ」

 ブラッドたちは口々にラスティを肯定した。


「大学って、小学を卒業したら行くところだっけ?」

 一葉が自分の世界との違いを思い出しながら言う。

「中学を卒業したらだ。俺は兄上が大学へ行かなかったから、進学しなかった。…でも、大学でもっと学びたいことがあったんだ。本当は。だから受験して大学へ向かう。友人たちより1年遅れだがな」


「そんなの、お兄ちゃんに関係なく行けばよかったのに」

「おまえは、事情があるのを察しろ」

 ぐりぐりとブラッドに頭に拳をあてられ、「痛い痛い」と一葉はそれから頭を振って逃げた。


「皇太子が死んだってことは、おまえが名実ともに皇太子だろ。いいんじゃないか? いい王様になるには、もっといろいろ勉強したほうが」

 ジェフリーがラスティを応援する。

「ああ。今日、父上に話す」

「そっか。じゃあ、今までみたいに一緒にいろいろ行けなくなるね」

 一葉がどこか残念そうに言った。


「そういうことになるな。おまえのお守りしなくてせいせいする」

「ちょっと、お守りしてるのは私でしょ!」

「おまえが言うな」

 ブラッドがツッコんだ。シアンが楽しそうに笑う。


「まったく、君たちは面白いなあ。でもラスティ様なら、きっと素晴らしい王になられますよ。きっと」

「…そうだといい」

 ラスティが紅茶を飲んで笑った。

 城へ戻ろうとすると、セシリアが一葉を呼び止めた。

「一葉」

「何?」

 ブラッドたちは「先行ってるぞ」と言って教会の外へ出て行った。


「一葉はラスティ様を王様にするために来たんでしょう。ラスティ様が皇太子になられたら、役割は終わりなの?」

「んー…どうだろ。青の賢者がなんていうかにもよるんだけど。王様になるまでいろって言われるのかどうなのか」

「そう…」

 セシリアは複雑な表情で言った。

「でも一葉はずっと、クラークのそばにいるのね」

「え…っと」

 一葉はなんと返したらいいかわからず、困惑してセシリアをみつめる。


「うらやましいわ」

「あの…」

 微笑むセシリアに、何か言わなければ、と一葉は考える。

「…クラークは、セシリアは大事な妹だって言ってたよ」

 言ってから、しまった、と一葉は思った。これは余計な一言じゃないのか。

「…そう。でも、私は一人っ子よ。クラークにはそう伝えて」

「あー…うん。わかった」

「ブラッドにとっては、私は妹かもしれないけど」

「え?」

「じゃあね。気を付けて帰って」

「うん。…またね」

 一葉は手を振って教会を出た。ブラッドたちが馬に乗って一葉を待っていた。


 街の様子は喪に服しているだけあって、普段より活気がないように見えた。喪服を着ている人もいる。皇太子の死により自発的に喪に服しているのだろう。それでも生活をしていくために街に出ている人はいた。

「セシリアと何を話してたんだ?」

 馬に乗ったままブラッドが何気なく一葉に尋ねる。

「あー…えっと…。セシリアはブラッドにとって妹なの?」

「は? なんだそりゃ」

 ブラッドは首をひねる。


「セシリアはそう思ってるみたいだけど」

「俺はそうは思ってないけど…。俺の妹は俺が子供のころに死んだよ。コルディアとの戦争で、田舎のろくに食うものも無い村にいたから栄養状態が悪くて病気になって」

「あ…そう、なんだ」

 一葉はまずいことを言ったな、と思った。


「変なこと思い出させて、ごめん」

「別に、昔の話だ。…そういえば、一葉に似てたかもな」

 ブラッドが遠くを見るように視線を空へ向けた。

「それはさぞかしかわいくて、素直なやさしい子だったことと想像されるね」

 一葉は悦に入ってうなずいた。


「おまえ、馬から降りるか?」

 ブラッドが背中から冷たい声をかける。

「降ろしていいと思うぞ、ブラッド」

 ラスティが呆れて言った。

「まあまあお二人とも。冗談なんでしょうから」

 ニールがフォローした。


「おまえに似て、くそ生意気で自分勝手でわがままでどうしようもないガキだったよ。…けどいつも俺の後をくっついてきてたな。俺は妹から逃げて王都へ来たんだ。そしてシアンに拾ってもらった」

「…そっか。いろいろあったんだね」

「生きてりゃあるさ。いろいろな」

「うん…そうだよね」


 ブラッドは一言では言い表せない痛みをきっと背負っている。それは彼だけでなく、生きている人みんなそうなんだと一葉は思う。そして時間が少しずつ薄れていくようにしてくれるから、生きていける。

 痛みは緩やかになっていくのだ。傷跡が残っても、ずっとそれを思い続けることはしないし、できもしない。それでいいんだと思う。悲しみだけにとらわれた人は、すべてを呪うしかなくなってしまう。


 一葉はラスティたちと別れてそのままスペンサー邸へ送ってもらい、ブラッドは城へ戻った。

 ヴァレンタインに言って、ニワトリを借りてみちるへメッセージを送ることにした。

「一葉からみちるへ。…レスタントでは、皇太子が亡くなって喪に服しています。嫌いな奴から嫌がらせを受けました。すごく嫌な気分と変な気分でぐちゃぐちゃです。みちるのほうはどうですか? 近況聞かせてください」

 ニワトリの背をつついて空へ飛ばしてやった。


 クラークが帰ってきて、一葉は夕食で今日あった出来事を話した。セシリアとブラッドの話は何故かできなかった。


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