【後編】彼も命を落とすよりマシだろうと思い、拾いました。
「じゃあ気が紛れるかどうかわかりませんが…この腹部自分で刺しました?」
「いきなり紛れないような話題だな…うぅ…一番目を逸らしたい部分なのに…!」
「あ、やっぱり自傷ですよね?自殺はうちの山お断りなんですがねぇ」
「・・・むしろ自殺歓迎なんて山があるのか?」
「そりゃありますよ!」
人間に恨みを持っている生き物なんかいくらでもいるし、生きていないのも併せて待ち構えている山もある。
だから闇雲に死場所にしないでほしい。
こっちにだって土地の開拓計画や資源の運用計画がある。
そもそもなんで街にはルールがあって山には無いと思うのか。
山は無法地帯ではなく厳格な秩序と、それを守る義務で出来ている。
決められたルールを守れないから排除される。
想像してほしい、知らない他人が悪臭を漂わせてダイニングテーブルで排泄されるのを。
勝手に保管庫の食糧や服を漁られ持ち出すのを。
そして疲れて帰れば寝床を燃やされているのを。
あいつブッ殺すってなるだろう。
噂だってあっという間に出回って「あいつ」から「あいつの一族」になり、最終「人間全部」を敵認定している情熱的な集団もいる。
「若いっていいよねぇ…」と、思っているのが大多数だけど、ヤンチャな奴らが集う山に是非とも娯楽を提供して頂きたい。案内図作ろうか?
そうそう、ああいうタイプはモテないから春と秋の繁殖期にこっちにメスを探しに帰ってきてはフラれ、玉砕した腹いせと満足な食事量で夏と冬の始まりは結構手応えあるから勘違いしてそうな新兵の訓練所にもぴったりじゃない?どう?
と、まぁそんな話をしてみたが眉間のシワは深くなるばかり。何でだ?
「・・・気が紛れる話のチョイスがおかしくないか?」
「そうですか?でもこびりついた血とくっついたままのシャツは脱がせられましたよ」
「あ」
剥がせばそれなりに痛みを伴うものが、ちょっと話を聞いている間に終わったんだからひとまず成功じゃないだろうか。
「それにしても綺麗な体してますね」
「・・・は?」
「日常的にかな、陽に当たっていないきめ細かい肌に運動もそれほどしていない薄い筋肉…うわぁ濡れた布で拭ったら瑞々しさが増しますね」
うわぁ…持って帰って良かった良かった。
いいもん拾った。上物じゃないかこれ。
「知ってます?パフィーニップルって」
「・・・は?」
「あれ?ご存知ない?確か腫れたとか膨れたとかいう意味があるんですよ?これ名称やたら可愛すぎるだろとか思ってたけど名付け親に誠心誠意謝りたいですね」
「んあっ?!」
「感度もいいとかハイスペックすぎないですか流石王都のお役人様。ああ、身バレしたくないのなら白地に白糸とはいえハヤブサの刺繍入りの制服着ちゃダメですよ、てか山でその権威はほぼ無意味ですからね」
「ぁ、あ、あ、あ、あんっ…ふあぁっ!!」
「…すごいですね、まだプリプリに膨らむんです?張りがおかしくないですか?ここに神が宿っていそうですね信仰したいくらいの弾力ですよ恐ろしい」
「はぁああ…はぁっ…はぁっ…んんんっ…!!」
「指が止まらない止められない…永遠に触っていられるなコレ…しかも色もいい…桃色とか反則じゃないか…?」
「はぁっ、あ、あ、あ、も、もうだめ…ぇっ」
ゴンゴンゴン!
「リナちゃん居るかいの~」
「ちっ…もう来たか」
「はぁっ…はぁっ…」
鷹をやって呼んでいた医者がやってきたので仕方なく息を乱す男から離れた。
「爺さん悪かったな」
「物騒なことになっとんの~」
相変わらず小屋の周りはギャンギャンうるさい。
「まぁ村には下りて行かないだろうから安心して」
自分の首を親指でトントンと指した後小屋の中を指し、あの猪たちがしている首輪の標的は中だと伝える。
「ほうかほうか~ほいじゃあ患者さんも暫くは村に運べんの~」
「暫くどころかうちで飼いたいんだけどどうしよう?」
「先住犬らが嫌がらんなら良かろうよ」
うーん…どうだろう…
あいつらは飼ってるわけじゃあないんだけど…
うるさそうではあるな…
「まぁ何にせよ診てから診てから」
「ああそうだった、まだちょっと汚れを拭っただけなんだ、刺傷があるから縫ってやって」
「よしきた12年ぶりの縫合だの~」
「ちょっと…綺麗な身体してるんだから綺麗に縫ってよ」
「はぁっ…はぁっ…」
「ほぉ~ん、傷もそこまで深くなさそうだし元気そうだの?」
「爺さんのゲスい顔腹立つわぁ」
「ほっほっほ、こりゃリナちゃんより魅惑的な身体しとるな」
「うるせぇジジィ」
「おぉ怖い怖い」
爺さんが縫っている間に食事の準備と薬の準備をしておく。
もちろん怪我人はスープだけ。
小屋の外にまで香る頃にはローテーションで食事をするらしい狼が1頭戻ってきた。
「大したもんはないけど爺さんも良かったら食っていってくれ」と誘えば和やかな団らんとなった。
「ほいたらまた何かあったら呼んどくれ」
「ああ、ありがとう。護衛に1頭つけるから爺さんも気をつけてな」
「むふふふふ、暫く楽しそうだの~」
「まぁそれは否定しない」
爺さんを見送ったら、ようやく食える。
おあずけを食らってた晩飯以外のメインディッシュだ。
うとうとし始めている男から毛布を剥ぎ取る。
炎症の薬は傷口にも塗ったが、スープじゃ補えない滋養強壮薬を摂取させねばならない。
飲ませてもいいが、如何せん臭いも味も酷すぎるため、狼たちも爺さんが置いていった薬箱には近付かないでいる。
当然ムリであろう経口摂取、ならば非経口ルートを選ぶしかない。
ゆるゆるやわやわふわふわであろう大臀筋…
ああ!腹部に傷がなければ一晩中枕にしたいのに!
まぁゆくゆくはお願いするとして、当面はーーー
「お兄さーん、起きてくださーい」
「・・・んぅ?・・・えっと・・リナちゃん、だっけ?」
「そうですよーあなたの主治医リナちゃんですよー」
「…え?っえ?っえ?!何っで脱がされてんの?!」
「そりゃあこのクッサい薬が服に付着したら困るからですよ」
「えっえっ!?溢さなきゃいいだけだろ!?」
「そうですねー上を脱がせたのは私の趣味ですねー」
「はぁ!?」
「でも暴れられると飛び散って着くと思うんですよね」
「ちょっ…何で縛って…!?」
「もー、腕縛っても膝抱えられるスペース空けてるでしょーほら暴れない暴れない傷に響くでしょーが」
「っ!!?何で下っ!?」
「うわぁ!お尻まで完璧か!これはもう新雪!ありのままの姿最高!」
「~~~~~っ」
「あー泣かない泣かない、情けない格好かもですが別荘建てたいくらい絶景です!確実に溢さず汚さず注入しますよ!」
「~~~~~っ」
「あー、よしよし泣かない泣かない泣き止んでくださいよ」
「ーーーーーっして」
「ん?何です?」
「・・・・気が、紛れるよう…キスして、くれないか」
「・・・・・・」
「ちょっ、と…耐え難t」
「何このクソ可愛い生き物!うっわぁ!ご希望に答えたい気もしますが羞恥が爆発してる顔見ながら突っ込んであんあん言わせたいんでごめんなさい!」
「無慈悲すぎるだろ!!!!」
「後でいくらでもするんで!」
「言ったな?!」
「ええ!どんとこいやぁ!」
強めの眠くなる成分が入ってるのは黙っておこう。
あと、爺さんが悪趣味な薬…解熱鎮痛薬という名のほぼ媚薬を置いていったから有り難く使わせてもらおう。
「じゃあ…我慢できるイイ子だから、お注射しましょうね?」
マタギ聖女の話とか需要ありますかね。