約束
今、彼の目の前にはドラゴンがいた。
彼は、その巨大さ、圧倒的強者のオーラを肌で感じ、恐れを感じていた。
「グルル」
ドラゴンの威嚇の声だけでもすくみそうになる身体を何とか、気合で抑えつけて、目の前のドラゴン、いや、敵に対して、剣を両手で構える。
しばらく睨み合っていたが、敵がしびれを切らし此方に向けてブレスを吐いた。
俺はその攻撃を鍛えた速さで左にかわした。
それでもブレスが速かったのか俺の頬を擦った。
「っ!」
あまりの痛さに叫びそうになるのを堪えて、目の前の敵から目を反らさないようにして攻撃の瞬間を狙っていた。
またしばらくたったが、今度は此方から突撃した。
「ハァーー!」
敵に攻撃をする事に気付かれているからこそ、俺の勇気を出す為に叫んだ!
敵も、俺を攻撃に移行する前に殺すつもりなのか、爪を俺目掛けて左に振るった。
ギィィーン
「っ!」
俺はその攻撃を剣を盾にして防いだ。
しかし、衝撃は耐えられず吹き飛んだ。
「グハッ!」
背中を壁に打つつけ、壁を粉砕し、止まった。
ガラガラ ドサ!
強すぎる!
俺は、地面に倒れながら敵を見つめる。
油断なんかしてなかった。
だが、敵は想像以上だった。
その敵は油断なぞせず、俺を確実に殺すつもりだ。
ここで終わってしまうのか?
俺は何をしにここに来たんだ?
何故、こんなバカだと言える程、無謀の挑戦をしてるんだ?
俺は意識を失いかける中で考え、思い出していく……………
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「お前さんが前から探していたモンスターが見つかったぞ!」
「本当ですか!」
俺は、ギルドマスターにその事を伝えられて歓喜した!
やっと叶えられると思ったからだ。
「あぁ!しかし、あれに挑むのか?」
ギルドマスターの心配そうな声に、
「ギルドマスター、覚悟はとっくに出来ています」
俺はそう返事をした。
ギルドマスターは俺の覚悟を確かめる為に暫くの間、俺の目を見つめていた。
少しして、覚悟が出来ていると確かめたギルドマスターは、俺の若い頃の話をしてきた。
「ふっ、お前さんは昔からそうだったよな。決めたら達成するまで止まらない。あの問題児が立派になったな」
「なっ!いつの話をしてるんですか!」
今話されると、とっても恥ずかしいから止めて欲しい!
「三十年前の話をしてる」
何を言ってるんだお前さん?っと表情で語ってるギルドマスターに、
「くっ!間違いではないが。俺が言いたいのは今の話をしましょう!っと言いたいのです!」
反論しようと思ったが正論だったので、話の方向を変えた。
「だが、その諦めない精神でうちのギルドの受付嬢を射止めたんだから凄いぞ」
「それは、言い返せないですね。妻が居なかったら俺は心が折れていましたからね」
場に重い空気が漂っていることに言ってから気付いた俺は、慌てて話を変える。
「そ、それよりも!そのモンスターは何処にいるんですか?」
「それなんだが………」
ギルドマスターが言い淀むと同時に、場の空気がさらに重くなった。
「ギルドマスターの貴方が言い淀むと言うことは、そうとう危険な場所にいるんですね?」
ギルドマスターがこうまで、言い淀む場所に目的のモンスターがいる。
俺も覚悟は出来ていたが、より一層覚悟を決めないと行けないか。
「あぁ、その通りだ。目的のモンスターが居るのは深遠の森だ」
「はっ?!」
深遠の森だと!暗殺に長けたモンスターが出る森だぞ!何であんな所にいるんだ!
「一応言っとくが、間違いではないからな?」
「ギルドマスターの言葉を疑ってなどいませんよ」
本当に疑ってなどいませんとも、えぇ、本当に……
「お前さんが笑顔の時は誤魔化すときが多いよな?」
「はて?そうだったでしょうか?」
惚けてみるが、ギルドマスターには通じなかった。
「あぁ、だからいっぺん殴らせろ」
笑顔で青筋を立てて、ゆっくりと近づいてくるギルドマスターから後退りをして離れようとしたが、
「あ、あの、ギルドマスター、これでも俺、有名な冒険者ですよ?」
「それがどうした?」
「そんな有名な冒険者を攻撃したなんて噂が出回れば困るんじゃないでしょうか?」
こ、これなら、あのギルドマスターでも攻撃できないだろう。
そう高を括ったが、
「お前さんがなんて呼ばれてるか、教えようか?」
「何ですか?」
指をポキポキ折りながら近づいてくるギルドマスターにビビりつつも、好奇心で聞いた。
「破壊者。お前さんはそう呼ばれている」
「はぁ?!なんで物騒な二つ名なんですか!」
さらに近づいて来た、ギルドマスターは微笑み言った、
「お前さんが恋に落とした嫁さんが当時、幼かったからだよ」
「ぐっ!」
反論できなかった。
確かに、親のお手伝いで受付嬢を体験していた妻に一目惚れをしたのは俺だ。
しかし、破壊者は無いだろう!いったい誰が名付けたんだ!
「今だから言うが、当時の冒険者とギルド職員、全員の総意だからな?」
「はっ?」
全員の総意?嘘だろ……
「ふぅ、それよりも、重い空気が晴れたな」
「待ってください。まさか、仲間達も加わってないですよね?」
ギルドマスターが話を変えようとしたので、気になっていたことを聞いた。
「当たり前だろ?優しく、健気、可愛い、この3つが揃った存在だったんだぞ?当時のギルドは癒しの空気で満たされていた。その癒しを奪い破壊したお前さんを、たとえ仲間だとしても許せなくて同然だろう?思い出したら怒りが沸々と湧いてきたな……」
いきなり、とびっきりの笑顔になったギルドマスターは、一気に間合いを詰めて来た。
俺は回避しようとするが、
「へっ?嘘だろー!ゲボッー!」
俺は打ち上げられた………
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俺は死ね瞬間に何を思い出しているんだ。
でも、俺らしいと言えばそうだがな……
だが、約束は守れそうにないな……
何故なら、死ぬ瞬間が来てしまったのだから。
敵のブレスが、此方に向かって来る。
それを見て、死ぬ時は痛くないよう意識を失おうとした。
「ぐっ!」
だが、諦めを良しとしなかったのか、意識を完全に失おうとした瞬間、先程の比ではない、人生全ての記憶が巻き戻るかのように、全てが思い出された。
最後に見た、妻の悲しそうな記憶
大人になった子の旅立ちを、妻と一緒に見送った記憶
親友の死際に約束を達成すると誓った記憶
悪徳貴族に逆らえなかった記憶
親友との約束
子供が産まれた記憶
平和な国だった記憶
嫁との出会の記憶
正義を信じ、志していた記憶
やる気と勇気があった、若かりし頃の記憶
初恋の記憶
親友との出会った記憶
幼き頃、神に誓った記憶
最初の記憶、両親の優しい表情と温もりに満ちた家
どれもが大切で、俺と言う人を形成する大事な記憶。
俺は死にたくない、生きて帰り、約束を果たす!
覚悟が出来た俺は、立上がり、思いの丈を叫んだ!
「諦めて、たまるかー!」
ブレスはもう、正面にまで迫って来たが、遅く感じた。
それと同時に、内から力が湧いてきた。
理由は分からない。
でも、この力なら、あの敵を倒せる!
そう確信した俺は突撃した!
ブレスは横にかわし
尻尾の攻撃は切り落とし
グギャアアーー!
堪らず叫んだ敵は俺を見て、怒りの炎を灯した目を向けた。
「五月蠅いぞ」
俺の言葉が理解出来ていたのか、さらに怒りの炎を燃え上がらせた。
「グルル、ガァァーー!」
敵の咆哮は、俺にビクとも効かなかった。
その事実に驚いたのか、一瞬止まった敵の油断は俺に絶好の機会を与えた。
「ふっ!」
短く息を吐き出し一気に近づく。
敵も、自身に近付いている俺に気が付いたのか、爪で攻撃してきた。
しかし、遅かった。
攻撃するにも、速度にも、だから敵は気付かない…………
もう、自身が斬られていることに。
ブシューー!ドサドサドサドサ!
肉の塊になった敵に、俺は何の感情も抱かず。
ただ、死んだ事を確認する。
それから俺はその肉塊から目的の物を探した。
グチュグチュグチュ
暫くの間、不快な音を聞きながら目的の物を探し、発見した。
目的の物を発見した俺は、感慨深い気持ちで呟いた、
「やっと、親友との約束を果たせる」
それから、目的の物を袋に詰めて、約束を果たしに向かう。
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コンコン
「はーい」
ガチャ
ドアから出てきたのは、30代だろう女性だ。
出て来た女性に、懐かしい気持ちになりながらも挨拶をした。
「お久しぶりです」
女性も俺の姿を見て、懐かしそうに瞳を細めて、
「えぇ、お久しぶりね。それで何の用で来たの?」
挨拶を返し、用件を聞いてきた。
「親友との約束を果たしに来ました」
女性は俺の言葉に、驚きと共に悲しみを含んだ複雑な表情で、
「あの人が………あの人と貴方がどんな約束をしたのかは分かりませんが、帰ってもらえませんか?」
ハッキリと拒否をした。
だが、俺はその可能性を親友から聞いていたから驚きは無く、逆にここで押切らなくては手遅れだと知っているから、
「無理矢理でも通らせてもらいます」
女性に宣言して、押し入る。
ドン!
「やめて!それ以上、あの子を苦しませないで!」
女性の悲鳴とも取れる、叫びを無視して目的の部屋に向かって行く。
その時、後ろから、
「もうやめて!止まらない無いなら殺してでもとめ…………」
ドサッ!
殺さんと女性が迫ったので、気絶させてから、目的の部屋に向かう。
それから少しして、目的の部屋に着いた。
入る前に、部屋のドアを、
コンコン
叩いてみるが、部屋の主からの返事は無く、重症なのだと分かった。
「入らせてもらうよ」
声を掛けてから部屋に入ると、
そこには痩せこけて、カラカラになった女の子が横になっていた。
「うっ!」
とても生きてる様には見えないが、親友から聞かされている話が本当なら、この状態でも生きてる。
「今、救ってやるからな」
俺は、女の子に言葉を掛けてから近づいて行く。
だが、近付けば近づく程、親友から聞いていた以上の重症と、あれで直るのかの不安が高まって行く…………
「ふぅ…………ふぅ…………」
女の子の息づかいが聞こえる程まで、近づく頃には、不安が限界まで溜まり、手が震えていた。
しかし、その女の子の見て、親友の言葉が思い起こされた。
『はぁ…はぁ………お前に……重石を…背負わせ……るのは……辛いが!……はぁはぁ…………娘を助けてくれ………頼んだ………ぞ………………親友』
亡き親友の最後の言葉は俺に勇気をくれた。
「ああ、救ってみせる」
親友の最後の言葉に返した時と同じ言葉を言い、覚悟を決めた。
だが、その前に、あれを使うと言うことは、人間を辞めることになる。
それでも、親友との約束を果たせるなら構わないと手に入れたが、女の子の気持ちを考慮して無かったことに気付き、問おた。
「なぁ、君は人間を辞めても生きたいか?」
俺の問いに、女の子は暫くの間悩み、
「な……んで…………たすけ…………て…くれるの?」
掠れた聞き取りづらい声で、女の子は問い返した。
「親友との約束だからだよ」
俺は微笑み、女の子に答えた。
「おと……うさん………のこと?」
女の子は、聞いてきた。
「ああ、そうだよ」
俺は、女の子の問いに頷いた。
「そう……なんだ………そう…なんだ…………うぅ」
俺の肯定に、女の子は、父親との記憶を思い出たのだろう、悲しき声を上げていた。
しかし、涙は流れず、それだけで女の子の病がどれだけ酷いのか分かる。
俺も涙を流したかったが、流す資格はない。
女の子が落ち着くまで暫く待ってから、話を再開させた。
「だが、君を救う為の準備は出来たが、親友の望む結果にはならない。それでも、生きたいなら覚悟を決めてくれ」
女の子は、俺の酷とも言える言葉に、暫くの間悩み、覚悟が出来たのか、
「それ…でも…………かあさん………と…………いき、て……いける………なら」
女の子の真剣な瞳を見て、俺も真剣な瞳で見つめ返し、
「こんな手段しか用意できなくてごめんな」
「うんうん……だいじょ……うぶ」
謝罪に、女の子は僅かに首を左右に振り、微かに微笑んだ。
俺は、動けない筈の女の子の行動に驚くと同時に勇気を貰い、あれを使う本当の覚悟が出来た。
持って来た木皿に、
グシュ!トボトボ
「これが、君を治せる物だよ」
女の子は木皿に入った赤い液体を見て、若干引きながら、
「うん………のませ………て」
飲む覚悟も出来たことを伝えてくれた。
「分かった」
俺は返事をし、女の子の口に木皿を当てて、ゆっくりと飲ませた。
ゴク……ゴク…ゴクゴクゴク
飲み込む度に、ドンドン飲み込むのが早くなり、それと同時に、身体もドンドン肉が付き始めた。
飲みきる頃には、美少女がいた。
「えっ」自分の変化に気付いたのか、暫くの間、体を触って確認していたが、ふと此方を見て、
「助けてくれてありがとうございます!」
笑顔でお礼を言った女の子いや、少女はもう、先程まで重い病を患っていたとは思えないほど回復していた。
「気にしないでくれ。それよりも、体に異常はないか?」
俺の言葉に、少女は自身の体をもう一度触って異常がないか確認をし始めた。
それから暫くして、
「なんともないです」
少女の異常無しの報告に、俺は安堵した。
「ほっ、それなら良かった」
「はい!心配してくれてありがとうございます!」
笑顔でもう一度お礼を言う少女を見て、
「でも、忘れないでくれ。君は人間を辞めた事と、その原因が俺に有ることを」
俺はいつか少女に恨まれるだろう、今は良いとしても…………
「そんなことはありません!」
だが、少女は、ハッキリと違うと言った。
「それは何故だ?」
俺は少女に聞いた。
「だって、私が決めた事です!自分を恨むことはあったとしても、貴方は恨みません!」
そしたら、「俺の考えてることを分かっているのか」っと思うほどの言葉を返してきた。
「ハハ、君は人の考えが読めるのか?」
「えぇ!だから言いました!」
少女の言葉に、俺は笑うしかなかった。
「ハハハハ、君の未来は明るいな」
「そうでしょう!」
少女は胸を張って、言い切った。
俺はその姿を見て、親友の姿と重なった。
(親と子は似る、か……)
少女は、どや顔をしたまま言った、
「もう、目的は達成されたのです。だから、貴方は貴方の人生を謳歌してください」
最後は此方を見て言った少女に、暫くの間見惚れていた。
その硬直当然の状態から戻り、話し掛けようとした瞬間、
バン!
「もう無駄な…………?!」
部屋に突撃して来た女性は、殺意を俺に向けていたが、少女を見ると驚愕して固まってしまった。
「母さん……」
少女は少女で、母親を見て突撃して行った。
トン!
「えっ?」
女性は女性で、混乱から抜け出せていないながらも、少女を抱きしめた。
「今まで心配かけてごめんなざい!」
抱きついた少女は、女性の胸に顔を押し当てながら謝った。
その姿を見て、やっと、娘だと気付いた女性は、
「大丈夫、大丈夫だから………」
涙を流しながら、少女の頭を撫でた。
その光景を少し離れて見ていた俺は、親子の邪魔をしないように気配を殺して部屋を出ていく。
その時、
「娘を助けてくれてありがとうございます」
後ろから、そんな声が聞こえた。
俺は笑顔になりながらも、
「親友との約束を果たしに来ただけです」
そう返事を返した。
その後、帰路に着いてる時にふと、
『約束を果たしてくれてありがとう』
そんな親友の声が聞こえた気がした。
「ふっ、お前がお礼を言う柄かよ」
親友の言葉に、俺は懐かしさ抱きながらもそう返した。
__________________
ガチャ
「おーい!今戻ったぞー!」
俺が家に入り、帰宅した事を告げると。
部屋から、目が真っ赤になった妻が出てきて、俺に抱きついた。
「あなた、お帰りなさい!無事で良かったわ!」
涙声になりながら妻は、俺の無事に喜んでいた。
俺は、妻の頭を撫でながら言いたかったことを言った。
「サーナ、心配を掛けてすまない。これからは危ないことはしないと約束しよう」
俺の言葉にサーナはバッと顔を上げて、俺を見つめた。
「本当、な、の?」
信じられ無いような顔で聞いてきた妻に、安心させる意味を籠めながら言う。
「あぁ、やっと親友との約束を果たせたからな」
俺の表情から、嘘ではないと気が付いたサーナは、ポロポロと涙を溢しながら喜んだ。
「そう、そうなのね……」
また、顔を胸に当てて、強く抱きついて来た。
だが、その前に、俺は膝を付ける事で止めた。
妻にどうしても言いたいことがあったからだ。
「これからは周りの人を大事にしたい。その中にはサーナ、貴女もいる。寿命が尽きるその日まで、俺と一緒に居てくれませんか?」
妻の利き手に、キスをして問い掛けた。
妻は顔を真っ赤にしながらも、嬉しい答えを言ってくれた。
「ジース……もちろんよ!当たり前じゃない……」
また涙を流したが、その涙は冒険に行くときに見た、悲しさから来る涙では無く、嬉しさから来る涙だと確信できた。
いかがでしたでしょうか?
「良かった」と思って頂けたら嬉しいです。
この話は、作者の作品の中でも一位に入る程、泣ける話です。
元は、練習用に書いた話を別作品に投稿していたのですが。
泣ける話で、作者が感動してしまい。
短編として投稿しました。
たとえ、自画自讃と言われようと構わない!