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生涯の天敵!

 



 我の名はジョナトン・ノエ・ルチアーノ。

 十九世紀、ビクトリア女王に飼われていたポメラニアンの末裔だとされる、由緒正しき血統書付きのお犬様である。ぴちぴちの三歳だ。断じて庄之助などという名ではない。


 我の御主人の朝は早い。何せ我のお世話があるからな!

 御主人の朝は、我の水の容器を洗うことから始まる。新鮮な注ぎたての水は堪らなく美味しい。御主人が容器を置く前に飲むくらいには待ち遠しい。

 待て? 我にそのような概念はないが?

 さて、水を飲んだら散歩だ。高貴な我をお外へ連れ出し、三十分は思う存分わっふわふする。匂いに敏感な我は、あっちもこっちも気になるのだ。

 土筆を掻き分け、蓮華の匂いを嗅ぎ、猫と烏を追い払い、踏ん張った後始末を御主人がしている間に後ろ足で土をかける。まあ実際はアスファルトを引っ掻くだけで、物は早々に御主人が回収しているのだが。本能だ。そっとしておいてほしい。

 御主人がいつも微笑んでくれるから、我は今日もせっせとアスファルトを引っ掻く。無駄なことはないのだ。


 御主人と走り、我は朝から絶好調。超小型犬だと侮ってはいけない。我、御主人より速いから。

 ただ、そんな完璧な我にも難所はある。U字側溝の蓋・グレーチングだ。我の天敵と言っても過言ではない。奴は毎回我の行く手を阻む。何の権利があって道を分断するのか。奴は今日も今日とて我が物顔で通せんぼしている。

 自然と足が止まってしまう我を鼓舞して、御主人が五メートルほど下がった。


「大丈夫! 今日こそは越えられるよ、庄之助!」


 助走をつけて、いざ、偶蹄目のように軽やかにジャンプ! そして御主人、我は庄之助ではない!


「やったね! 綺麗なジャンプだったよ、庄之助!」


 ふふん。我は出来る子なのだ。優雅に飛び越え、美しく着地する。さらさらふわふわの毛をなびかせて、素晴らしいと絶賛されるべき優美な我。どこへ行っても可愛い、綺麗な子と称賛される我が、側溝の蓋ごときに臆するなど片腹痛い!

 そして何度も言うが、御主人! 我は庄之助ではない!


 ドヤ顔の我をわしゃわしゃと撫で、キスの雨が大量に降ってくる。

 ご、御主人、うら若き乙女である御主人! 衆目に気を付けるべきではないか!? いくら我がイケメンであろうと、屋外でそのような破廉恥な! あ、やめ、やめて御主人、我が恥ずかしいから―――っっ!


 ふう……。やれやれ、御主人は些か慎みというものを学ぶべきではなかろうか。生足なぞ出して、薄着で出歩くなど危機感が足りないのではないか? 我がいれば有象無象など我が牙で蹴散らしてくれるが、我とていろいろと忙しいのだぞ? 散歩とは、我ら犬にとって大事な情報収集の場。気もそぞろでは御主人をお守りできぬ。

 たまに御主人の彼氏とかいう雄がやって来るが、我はあれを認めてはおらぬ。我のような美しさもなく、いつもニコニコニコニコと、馬鹿の一つ覚えよろしくへらへらと笑っておるような軟弱者になど、大事な御主人を任せられると思うてか!

 我の目が黒いうちは、御主人を簡単に奪えると思うな人間の雄め!


 ま、まあ、奴がたまに持ってくる犬用ケーキとやらは貰ってやらんこともないがな! モンブランでお願いします!


 散歩から帰ったら、我のブラッシングタイムだ。御主人は相変わらずゴッドハンドよな~。善きかな善きかな。

 我に朝ごはんを食べさせ、容器を洗い終わってから、ようやく御主人の朝食時間だ。満腹感と満足感からほわほわと微睡んでいる間に、御主人はカットフルーツと蜂蜜入りヨーグルトでちゃちゃっと朝食を終える。

 我は好物のヨーグルトを、たまにだがちょっぴり頂戴する。我は毎日でも食べたいのだが、お腹が緩くなるから駄目だと言われている。我、不満。

 食事に締めに、蜂蜜漬けのレモンを一枚浮かべた柚子茶を飲み干した御主人は、平日ならばメイクして着替えて慌ただしく出掛けていく。本日は休日なので、化粧もせずゆったりと我を撫でながら庭を眺めている。


 我はこの時間が何よりも好きだ。

 御主人にべったりぴっとりくっつき、撫でてもらうのが堪らなく好きなのだ。

 御主人はよく我に話しかける。我は賢いから、御主人の言葉をたくさん覚えている。下がってと言われれば数歩下がるし、先に行ってと言われれば先導して待っている。

 御主人がお風呂やトイレから出てくるまで扉の前で待っているし、「アップ」と言われれば、御主人のベッドに前足をかけて抱き上げてくれるのを待っている。ごろんと言われれば仰向けになるし、ハーネスを差し出されれば片足ずつ上げて自分で足を入れる。「ふうして」と言われれば顎を上に向けてじっとしているし、「ハイタッチ!」と言われれば交互に差し出された手にタッチするのも吝かではない。


 そんな賢い我でも、我慢できないことが一つある。

 それは――


「はい、もしもし。ショウ君?」


 そう、こいつだ!

 御主人の彼氏だ!

 また我の幸せなひとときを邪魔したな!?

 そして名前がショウ! 漢字は知らんがショウ! 我の名前はこやつから一字貰ったとか御主人が嬉しそうに言うしぃぃぃぃぃ!!

 我は認めないから―――っっ!

 我の名はジョナトン・ノエ・ルチアーノだから―――っっ!!




挿絵(By みてみん)




短いお話でしたが、いかがだったでしょうか?


では、またいつか書けたら書きますw!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 題名で爆笑 あらすじで爆笑 本編で大爆笑でした! [一言] 克明な描写もさることながら、心理描写が秀逸ですね 個人的には第1話の食事に対する想いが大好きです (*'▽')ノ トリミングだ…
[良い点] 庄之助、頑なに名前を認めようとしないのは、もしかしてソッチの意味合いも強かったのかな? ウチの子もヨーグルト好きだったけど、食べ終わると口の周りがえらいこっちゃになるんですよね。そしてそ…
[良い点] 開幕から笑わせて頂きましたw 名前がすでに凄まじい破壊力を持っているのに、吾輩は猫である口調ですよww 三歳はぴちぴちなのかしらww 我の一日は、優雅な朝の散歩、新鮮な水、丹念なブラッ…
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