四季を味わう
○○旗や△△杯といったローカル大会に練習試合と、帰省明けはとにかく忙しかった。また大分まで合宿に来る大学もあり、その練習にも参加させられた。こういった合宿や大学が主催の大会に参加することは、進学に際して良いアピールになるが、一年生の彼にはまだ早い話だった。
「夏と冬、どっちが好きや?」
「俺は…冬やな」
「ほんまかい!あかんやろ今。春樹はどっちよ?」
「稽古がなきゃ断然冬」
「アホ。そんならどっちも天国やないか」
12月下旬、嶺越学園は学校として冬休みを迎えたが、剣道部としては地獄を迎えている。この次期は寒稽古を行っており、多くの卒業生を招いて限界まで心身をいじめ抜く稽古をする。
大晦日になると実家に帰らされて元旦を迎えるが、その翌日にはまた集合が命じられる。
ここで遠征組、すなわちレギュラー格に選ばれていれば宮崎へ行き、全国の強豪が集まる錬成会に3日間参加させられる。
選ばれざるものたちは嶺越で寒稽古を再開した。
今年の一年生は全員選ばれざるものたちで、現状を嘆きつつ夏のストーブ稽古との比較で先の会話になっていた。なんせ年末に比べて遠征で掛かり手が減ったのに加えてOBの参加者は増える一方。地獄は深淵を深めるばかりだ。
一方その頃遠征組はというと、運営が計画した一日分の試合をこなして晩飯を食う。こうしてやっと寝床につけると思ったら大間違い。
会場は終日解放されており、希望する学校同士が申し合わせて練習試合をすることができる。滝田が許可すれば申し合わせを終えられるが、嶺越が会場に残る最後の一校になるまでその言葉は聞こえなかった。