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ただいま、じゃあさよなら

 九州大会とインターハイの予選を兼ねる県総体で、嶺越がアベック優勝したのは6月頭のこと。

 どうやらスーパー一年生ではなかった水島春樹は他の一年生らとともにドリンク作りをし、応援席で優勝の瞬間に立ち会ってた。


 玉竜旗高校剣道大会が近い。高校剣道真っ盛りのこの時期、毎年厳しい暑さに見舞われる。

 滝本が当日の猛暑に対応するために考えたことは予め暑さになれておこうという、非常にシンプルなものだ。そのために行うことも至極単純で、密封した道場でストーブとヒーターを全開にして稽古をするというものだ。

「正気か?いや、正気なわけないわ。」

 春樹が思い出していたのは初めての公式戦、そのサウナのような体育館だ。しかし今、自分の身に降りかかっているのは中華まんの蒸し器同然の道場である。

 県総体では傍観者だった彼も、稽古の場で俯瞰を決め込むことは許されなかった。


 今年も福岡で例年通り玉竜旗高校剣道大会が開かれた。この大会はフリー参加の勝ち抜き戦で、参加校数が400にも500にも及ぶ、高校剣道最大規模の全国タイトルである。3日間かけて行われ、最終日に残れるのはベスト64まで。県予選では惜しくも敗れたが全国でも上位を狙える力を持つ学校が、血気盛んに博多に乗り込んでくる。

 また、九州でテレビ放送されるのもこの大会の特徴の一つだ。かくいう春樹も毎年決勝戦を観戦しており、いつかは自分もと夢見る少年の一人だった。いや、今もそうだ。


 大分から血相を変えて駆けつけた父母会やOB会の期待通り、嶺越学園は今、準々決勝を鹿児島の川内南工業と戦っている。先に相手大将を引っ張り出したが、残念。三人を抜き返されて嶺越は敗れた。

 決勝戦は川内南工業と神奈川の光成高校が争う。どちらが勝っても初優勝という対戦で、光成が栄冠を手に入れた。

 ベスト8に甘んじた嶺越だが、優秀選手賞に副将の三島、15人抜きで5回線まで先鋒を務めた木内の両三年生が表彰された。


 このあと8月2~4日まで秋田県で開かれたインターハイに出場したが、男子は千葉の短大浦安、女子は熊本の県立中央にどちらもトーナメント一回戦で敗れてベスト16に終わった。

 男子の優勝は川内南工業、女子は県立中央だった。


 春樹が驚いたのは久しぶりの鳴動館での稽古のときだ。夏休みにお盆の前後は稽古が中止となり、帰省が許された。

 春樹は鳴動館で佐山や後輩と稽古をしに行った。

「なんやお前。全然退がらなくなったな」

 稽古後、佐山にアドバイスを仰ぐと開口一番に言われた。

「退がらないというか、先生相手だと構え合ってても退がる必要を感じなくなったんです」とはさすがに口にせず、心で思うにとどめた。事実、中学生のときは正対してあれほど圧を感じていた佐山の剣先が苦しくなくなっている。これには自分自身、意外に思った。


「立ち上がりにいつも苦し紛れでコテを引っ掛けてたんがなくなった。気持ちの問題やね。お前、痩せて頬がコケたけど目ぇはギラついとる。もうちょい竹刀を振れるようになったら面白いことになるかもわからんね」


 滝田の言う立ち上がりの重要性。頭では分かっていたことが身になりつつある。佐山のみならず、後輩や春樹のように帰省してきた同期、先輩相手にも手応えのある稽古ができた。

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