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西から東へ

 七月下旬、東京の日本武道館で全日本少年剣道錬成大会が開かれた。

 各都道府県予選を潜り抜けて小学生団体の部に出場するチーム数は約400。

「東京人も県総体育館と変わらんやん」

 黒山の人だかりを見て思ったが、すぐ考え直す。この群衆の大多数は自分のように都外から参戦するものばかり。こうやって渋谷のスクランブル交差点もカッペが集まるんだなと思うと、変な緊張も解けた。


 この大会は16の試合場が設けられ、ひとまず各コートの優勝チームを決める。春樹は中堅を任された。


 最初の山場はコート準決勝。山口の強豪下松錬成会との試合は一勝一本ずつの代表戦に持ち込まれた。

 この日監督を務める館長の佐山はこの場面を春樹に託す。彼は渾身のメンでもってこの期待に応えた。


 各コートを勝ち抜いた16チームによる決勝トーナメントが始まる。鳴動館は六回戦から準決勝戦までを大将に回すことなく勝ち進んだ。いずれも春樹は勝利している。


 山の反対から上がってきたのは福岡の天斉館てんせいかん。同じ九州の強豪なので鳴動館は、天斉館とは今年すでに二度対戦している。どちらも鳴動館が敗れた。


「決勝で負けるために勝ち上がったんか?今日のお前らは勝てる!思いきっていくぞ」

 佐山館長のゲキを受けて春樹は「やることやるだけや、いつも通りに」と冷静に自分の世界で集中を研いだ。


 決勝の空気に固くなったか両チームの先鋒、次鋒ともに捨て切った技の応酬はなく二つ引き分けが続いて中堅戦になる。

 この日の春樹は相手の動きがよく見え、また読みも冴え渡っていた。相手が間合いに入る際に竹刀を上下させるので、ちょうど下がるタイミングと合わせてメンに跳んだ。

 二本目開始直後、慌てて奇襲策でドウに跳び込んできた相手を、やはりこれも読んで余してかわし、振り返り際にメンを打った。


 その後、天斉館の副将、大将は猛烈な勢いで食い下がってきた。大将戦ではあわやという当たりが何度かあって肝を冷やしたが、旗に助けられて一本負けに踏みとどまる。

 結果、両チーム一勝ずつだが本数差で上回る鳴動館が優勝した。創設50年にして初の栄冠だった。

 電光掲示板に大きく表示されるのは「優勝 鳴動館道場」の文字。佐山は男泣きに泣いた。


 飛行機、東京、全国タイトル。どれも少年たちには初めてのものだったが、館長の涙が最も強く彼らの胸を打った。

 鬼の目にもなんとやらである。

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