役割を重視します
年が明けて春樹は三年生になった。新体制で彼は副将の地位を得ていた。昨年は最上級生が主体で、下級生は控えを含めて春樹のみだった。にも関わらず彼を大将に据えなかったのは「大将じゃなくて相手の副将なら全部勝てるだろ。全部勝て」という滝田の指示によるものだった。
果たして春樹はこの言いつけをよく守り、練習試合やローカル大会でとにかく勝ちまくった。滝田は引き分けや、時に一本勝ちのときでさえ以前になく厳しく彼を叱咤した。しかし彼はへこたれることも不貞腐れることもなかった。
「期待されとる」
今やその思いとチームの一員として役割を果たす達成感とが活力の中心となっている。
玉竜旗の季節だ。副将春樹の出番が来たのは準々決勝の桜洋大第三(東京)との試合。相手が次鋒のところで回る。これを二振りで倒すと、残りの中堅から大将まで一気に破った。
嶺越はこの大会初めての窮地を乗りきると、準決勝戦は先鋒の5人抜き。さらに決勝戦は春樹が相手大将を破って初優勝した。
実はこの六ヶ月前、春の全国選抜の大分県予選で嶺越は破れている。決勝の別府農大附属戦で0-2。7年続いた選抜出場を途絶えさせた。
予選前から嶺越史上最弱世代と呼ばれていた。昨年試合に出ていたのは春樹のみで、今年のメンバーも5人中3人が二年生。
敗戦の翌日、消沈する春樹たちを集めて滝田はこう言った。
「勝ち続けていたものが負けるとどうなる?たった一度の敗戦ではない。このままでは強豪から古豪になる」
六月の大分県高校総体、嶺越学園は僅差のスコアはあれど、誰一人として負けることなく優勝。インターハイ出場を決めた。
そして今回、玉竜旗を制して自信は確信に変わった。残すはあと一つ、インターハイの頂点のみ。




