少女との出会い
列車から見た景色は、憂鬱に感じていた俺の心を一瞬、ドキッとさせた。
この村に来たのは、4日前のことだ。大したことでは無いが、ちゃんとした理由はある。
俺は、小さいときは“天才ピアニスト”と言われ、そこそこ有名だった。
でも、それは小さいときの話。過去の栄光にすがるつもりも、またピアニストになろうと思うこともない。それは、忘れたくても忘れられない俺の過去だ。
俺の過去の話は、またにして、本題に入ろう。
俺がこの村に来た理由は、大学を卒業して、家族からも知り合いからも
逃げて全ての関わりを立ちきりたかったからだ。
立ちきりたかったり理由も過去の話になってしまうので、またにしよう。
ところで、俺は今重大なミスに気づいた。
ここは・・・何処だ!?
俺は確かバイト先である駅近くのカフェに向かっていた筈だ。
だけど、何で俺は公園にいるんだろう。
回りには、小学生低学年らしき子供もお年寄りしかいない・・・。
忘れていた。
自分が方向音痴だと言うことを!
とりあえずウロウロすることにした僕はブランコに座っている
一人の少女を見つけた。
近づいていくと、少女も俺の存在に気づいたようだ。
少女の前まで行くと、その子が今にも泣きそうな顔でこちらを見つめていることに気づいた。
すると、
「あなた、誰?」
震える声で少女が言った。
「あぁ、俺か。
俺の名前は、雅人。日暮 雅人だよ。
そういうお前は?」
俺が少女に聞くと、少し体をビクつかせ、
「私は、浅間 千華。」
と、ゆっくりと話し始めた。
それから、彼女のことが少しずつ分かってきた。
それをまとめてみると、次の5つになった。
(・名前:浅間 千華 ということ。
・年齢:16歳 高校1年生 ということ。
・ピアノをやっている ということ。
・泣きそうだったのは、ピアノが関係している
ということ。
・人と話すことが苦手だ ということ。)
彼女がピアノのことを話している時の顔は、
昔の俺の顔に少し似ていた。
だからなのか、彼女に興味が湧いた。
自分でも、驚いている。
ピアノをやめて、無気力に生きていた俺がたった一人の
少女に心を動かされていることに。
だいぶ俺に慣れてきたのか、呼び捨てで呼んでも、
驚かなくなった。それに、泣きそうだったのも
治まったらしい。
治まったのはよかったのだが、千華は家に帰りたくないと言い出した。だから、俺のバイト先のカフェに連れていくことにした。
カフェに着くと、俺は店長に連れていかれた。
が、事情を分かってくれた。
千華の所へ行くと、カフェの近くの家で飼われている犬と戯れていた。
少し可愛く見えて見ていると、俺に気づいた千華は
赤面して、犬から離れてしまった。