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朝焼色の悪魔-第1部-  作者: 黒木 燐
第1章 序章
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3.一粒の種から

20XX年5月24日(金)


 翌朝、由利子は平常の朝どおり6時に起きる事が出来た。目が覚めるとにゃにゃ子が顔面に、はるさめが腹の上に乗って寝ていた。由利子が病気だったので、昨日の朝までケージに入れられてしまっていたのだから羽を伸ばすのも無理はない。しかし、顔面はないだろう、と由利子は思った。

 普段彼女は朝起きると30分ほど軽くジョギングをするのが日課である。それで、今朝は気分がだいぶよいので、久々に出かけることにした。


 昨日とはうって変わって爽やかな朝だった。5月も後半になると新緑の葉色もだいぶ濃くなってきている。

(この時間もすっかり明るくなったなあ。)

 走りながら由利子は思った。県道の横を走って川沿いに抜ける。川の土手にはさまざまな野草が色とりどりの花を咲かせており、木々や電線の上で小鳥達が口々にさえずっている。

 川の浅瀬にはアオサギが魚を狙って静かに立っていた。この時間はいつもあそこにいるので多分同じ個体だろう。コサギも数羽見かけるようになった。

「しっかし、雑草に外来種が増えたなあ。花が綺麗なのが多いから華やいではいるけど…」

 いつもの折り返し地点で、軽くストレッチをしながら由利子はつぶやいた。

 近年オレンジ色のナガミヒナゲシや薄紫のマツバウンランなどが、特に目立っている。

 可憐な紫の小さい花を沢山咲かせるマツバウンランは、愛好者が多く専用のサイトまで出来ている。しかし、その見かけの可憐さとは裏腹に、痩せた土地にもどんどん勢力を広げることの出来る頑丈な雑草だ。日当たりのよい空き地には大抵群生している。冬場にしっかり文字通りの根回しをしているからだ。

「お前達、アメリカ生まれなのにずうずうしいぞ」

 といいながら、由利子はマツバウンランの花を何本か手折ると、折り返しの道を走り出した。飾るにはヒナゲシのほうが派手でよかったが、切り口からの白い汁で手がカブれそうだからやめた。因みに、当然だがこのケシからは麻薬は取れない。まあ取れないから生え放題に放置されているのだが。

 このように、かなり勢いを増している雑草界の外来種だが、彼等とて初めからこのように蔓延っている訳ではない。

 最初は、わずかな数の種子が日本の大地に根を下ろしたに過ぎなかった。しかし、あらゆる偶然が重なり、このように日本中に広がっていったのである。

 もし、その植物の繁殖力が旺盛でさらに条件がそろったなら、たった一粒の種が芽生えたために、それが日本中に蔓延る可能性だってあるのだ。ましてや、何者かが故意に増やそうと画策したならば…。


 由利子はジョギングから帰って、トイレにマツバウンランの花を飾った。

 角部屋のため、トイレとバスルームは比較的日当たりが良く明るい。その後シャワーを浴びると、おなかすいたとまとわりつく猫達にごはんを与え、自分も朝食をとりながら由利子は昨日アップしたブログをチェックした。すると、異様にコメントが付いている。あれっと思って見てみると…。


「大丈夫ですか?熱が高かったのでひょっとして‥‥? と心配しています。大丈夫ですよね。」


「顔文字多用禁止~。きんも~☆(死語) とりあえずインフルエンザ生還乙」


「まさか・・・まさか、脳炎起こしてないでしょうね。次回からの平常運転をドキドキしながら待ってます」


「おまいは顔文字似合わないからやめれ。(´∀`)つ[快気祝い]

いや、オレはいいんだオレは(・∀・) 」


「見た瞬間、どこの女子高生のブログかと思いましたよ、もぉ!。でも回復してよかったです。しばらくお体ご自愛ください」


 顔文字と改行を多用した、昨夜の記事に対する苦情コメントがどっさり付いて、プチ炎上していた。不評だった。

 しかしながら、ほとんどの人が由利子の回復を喜ぶコメントを付け加えてくれていた。

(オバサンは顔文字を使っちゃいかんのかい!)

 由利子はすこしがっかりしたが、反面(みんなほんとうに心配してくれてたんだ)と嬉しかった。思ったより読者が多かったのも気を良くした。

 一通りざっとコメントに目を通していたら、ひとつだけ妙なコメントが付いていた


名前:アレクさん大王

「生還おめでとう。君の友人はいいカンしてるよ。僕も少し妙だと思う」


 昨日の付け加え記事へのコメントらしい。

「アレクさん大王? アレクサンダー大王のもじりよね。『生還おめでとう』って、気味悪い変なコメント・・・」

 由利子はつぶやいて一瞬消そうと思ったが、そのせいで粘着されても困るので放置を決め込み、メールチェックを始めた。

 ほとんどが購読中のメールマガジンだったが、1通友人の美葉から来ていた。ここ2年ほど連絡がなかったので気になっていたのだが、ある理由からなんとなく放置していた。

 メールには由利子が寝込んでいたことへのお見舞いと、近いうちに会いたいから、会える日を連絡くださいということが書いてあった。

(あれ? 最近連絡してないのに、何で私が病気したの知ってるんだ?)

 由利子は疑問に思ったが、ふと時計を見ると7時をとっくに過ぎていた。

「急がないと遅刻じゃん!」

 美葉への返事は会社で昼休みに書くことにして、由利子はあせって準備を始め、ギリギリの時間にマンションを飛び出した。


(「第1章 序章」 終わり)

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