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朝焼色の悪魔-第1部-  作者: 黒木 燐
第6章 暴走
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5.少年探偵団

 良夫は祐一から距離をおきながら、さりげなく後を追った。追いながら、良夫はギルフォードに相談をすべく電話をかけた。しかし、頼みの綱であるギルフォードの電話は留守録になっていた。

(ああ、授業があってるんだ)

 良夫はがっかりしたが、とにかく祐一を追うことに専念することにした。祐一は階段を上って電車の改札口まで行き、定期券を通して中に入った。

 それでも良夫は用心深く目で祐一の行き先を追っていると、祐一はホームに上がらず反対の改札口から出て行ってしまった。良夫はすぐに走ってその反対の改札口に回った。そこで祐一の姿を探すと、階段を降りる彼の後姿が見えた。

(やっぱり、なんか様子が変だ……。いったいどこに行くんやろう)

 良夫は何か嫌な予感を覚えながら、祐一が階段を下りてしまうのを見計らって駆け足で、しかし気取られないように用心深く階段を降りていった。階段を下りると、数メートル先に祐一の歩いている後姿を確認、引き続き尾行を続けた。

(なんか少年探偵になった気分やね)

 良夫は小学生の頃読んだ、江戸川乱歩のシリーズものを思い出した。しかし、しばらく歩いたところの曲がり角付近で、良夫は祐一の姿を見失った。

「しまった!!」

 良夫は小さい声で言った。タクシーにでも乗ったか、何処かのビルに入り込んだのか、いずれにしろ良夫の尾行の可能性を考えてとった行動に違いない。こうなったら良夫にはどうすることも出来ない。良夫は途方に暮れてしまった。その時、良夫の携帯電話が震えた。

「ひゃあ~!」

 良夫は相変わらず慣れない電話のバイブに驚きながら、急いでポケットから電話を出した。着信はギルフォードからだ。良夫は安堵し嬉しそうに電話に出た。

「もしもし、良夫です!」

「ハイ、ヨシオ君。さっきは悪かったですね、講義中だったので。…何かあったんですか?」

「はい、あのっ」

 良夫は祐一に電話がかかってからの経緯を話した。それを聞いたギルフォードは、う~んとうなってから言った。

「そうですか、確かに様子がヘンですね。妹サンが心配なら、家に急いで帰ったハズです。仲の良い兄妹だとお聞きしていますし」

「あのっ、ひょっとして、妹さんの誘拐って可能性はありませんか?」

「誘拐の可能性も考えられますが、それとユウイチ君の行動がどう関わるかがわかりません。いずれにしても、私の管轄外ですし、起こったコトにアドヴァイスすること以外どうすることもできません。…ヨシオ君、ユウイチ君に関しては、どう行動するか僕より君の方が推理し易いと思うのですが、彼が行きそうな場所の心当たりはありませんか?」

「西原君が行きそうな場所……?」

「はい、今、君はK駅近辺に居るのですよね。でも、ユウイチ君は電車に乗らず駅を出てどこかに行ったのでしょう? その駅近辺で彼の行きそうな場所はどこですか?」

「この辺で…、あっ」

 良夫はハッとした。自分自身忘れたいことだったので、思いもよらなかった場所があった。

「あの公園……。西原君、最近よく考え事をしていて……。多分、ボクと同じくずっとあの事件のことを考えてたと思うんです。でも、ボクは二度とあそこへは行きたくなかったから、思いもつきませんでした。ボク、今からそこへ行ってみます」

「君にとっても辛い場所です。気をつけて行ってください。もし、何かあったらすぐに110番するんですよ」

「わかりました。また電話します」

 良夫はそう言って電話を切り、一回深呼吸をして公園に向かって歩き出した。ギルフォードは電話を切ると、立ち上がり、出かける用意を始めた。紗弥が尋ねた。

「お出かけされるのですか? 今の電話、何かあったんですか?」

「いえ、まだわかりません。しかし、例の病気が発生した公園で、また何かあるかもしれないんです。取り合えず、何かあったらすぐに出かけられるようにしておきます」

「何かあったらって…気が早すぎませんか? それに、これから白水川先生のお嬢様が研究室の見学にこられる予定じゃありませんか。ひょっとして、それから逃げようとしていません?」

「見学って、あのワガママ娘のゴキゲン取りをするだけじゃないですか。そりゃあ、僕はイヤですよ。それでなくても僕は女性がニガテなんです。特にあーゆー女性にはどう接していいかわかりません。この前はヒドイ目に遭いましたし。あなたが機転をきかせてくれなかったら、僕は襲われていましたよ」

「………」

「あ、今笑いそうになりましたね。面白がっているでしょう?」

 ギルフォードは仏頂面をしながら言った。

「とにかく、それとこれとは違いますからね。じゃっ、着替えますからちょっと席を外してください」

 教授室から紗弥が出ると、待ってましたとばかり、如月が質問した。

「紗弥さん、ホンマでっか? 教授が白水川教授のお嬢さんに襲われかけたって言うんは」

「正確には、お嬢様じゃなくてお嬢様がお連れしていた犬が、牙をむいて飛びかかろうとしてたのです」

「な~~~んや、犬でっか……っていうか、その状況は却って危険やおまへんか? せやけど、教授は よう犬や猫から好かれてますやろ? 一体なんで……」

 すると、教授室からギルフォードの声がした。

「飼い主の性格が悪いと、犬の方もタチが悪くなるんですよ」

「ですって」

 紗弥は、肩をすくめて言った。

 良夫はギルフォードからヒントを得、例の公園に向かっていた。

 しかし、あの忌まわしい場所が近づくに連れだんだん気持ちが萎えてくるのがわかった。

 行きたくない……!  

 その気持ちが心の底から徐々にあふれ出してきた。とうとう良夫は気分が悪くなり、途中にあったバス停のベンチに座って休憩した。

(ボクだってこんなに行きたくないのに、西原君はどうしてあんなところに行こうとしてるんやろう……。アレは一体なんの電話やったんやろうか?)

 そう、改めて疑問に思っていると、また電話が震えた。良夫はまたギルフォードからだと思って急いで電話を取ったが、それは電話ではなくメールだった。送り主を見ると祐一である。

 良夫は急いでメールを開いた。それは長文で、びっしりとベタ打ちされていた。 


『ヨシオ、撒いてごめん。巻き込みたくなかったんだ。でも僕に何かあった時のためにメールしとく。これから1時間しても僕から連絡が無かったら警察に知らせてほしい。実は今日の電話は雅之のお母さんからで、あの公園で何があったか真実を知りたいから公園に来いといわれたんだ。何か誤解をしているみたいなんで会ってちゃんと説明して来る。それにあの人は何故か香菜を連れているんだ。ウソだと思いたかったけどさっき電話があって声を聞かされた。ひょっとしたらあのおばさんも感染しているかもしれない。おまえは危険だから絶対に来るな。頼んだことよろしくな。』


「に、西原君!!」

 メールを読み終わった良夫は、立ち上がって叫んだ。周りにいたバスを待つ人たちが一斉に彼を見た。良夫はそのままバス停から離れると、すぐにギルフォードに電話をかけた。

「ヨシオ君、彼は見つかりましたか?」

 ギルフォードは電話に出るとすぐに尋ねた。

「いえ、まだです。でも、あの公園に向かったことは間違いないみたいなんです」

 良夫はたった今受けたメールの内容を伝えた。

「なんですって? マサユキ君の母親が?」

 ギルフォードは驚いた。状況から、行方不明の美千代は、拉致され最悪殺されている可能性も考えていたからだ。何故、美千代が今頃現れて祐一を公園に呼び出そうとしているのかを考えて、ギルフォードは嫌な予感を覚えた。

「とにかく急いで公園に行って様子を見てきます。でも……」良夫は至極最もなことを尋ねた。「どうして秋山君のお母さんは、西原君を呼び出したりしたんでしょう?」

「こういう事を君に言って良いかわかりませんが、非常事態なので……。マサユキ君のお父さんから聞いたのですが、お母さんはずいぶんユウイチ君を恨んでいたようです。心当たりと言えば、これしかないですね」

「最悪だ! じゃあ、ボク、今から走って……」

「ちょっと待ってください。彼女も感染している可能性が高いです。危険ですから君が行くのは止めたほうがいい…」

「じゃあ、110番してから行きます」

「だから、行ってはダメだってば! ここは、ある程度事情を知っている人に連絡したほうがいいと思います。ジュン……いえ、葛西刑事は覚えていますね」

「はい」

「彼なら事情がわかるし、場所的にも公園にも行きやすいです。すぐに彼に連絡して状況を説明してください。電話番号は知ってますか」

「いえ、知らないです」

「わかりました、今から教えます。メモしてください」

 良夫は葛西の電話番号を控えると言った。

「ありがとうございます。今からすぐに電話しますから」

「とにかく、公園には行かないでくだs…」

 と言うギルフォードの声が終わらないうちに電話は切れた。

「Shit!」

 ギルフォードはそうつぶやいて電話を切ると、立ち上がり紗弥に言った。

「今からすぐに例の公園に行って来ます」

 そう言いながら、急いで部屋を出ようとしつつあるギルフォードに紗弥が言った。

「そこって、K市ですわよね。本当に今から行くんですの?」

「はい、なんか大変なことが起きそうなのです。道が混む時間ですが、バイクで高速を飛ばせば40分かからないかもしれません」

「私も行きますわ」

 そう言うと、紗弥はジャケットとヘルメットをさっさとロッカーから出し、靴をブーツに履き替え始めた。ギルフォードは如月に声をかけた。

「キサラギ君、出かけます。帰る時間はわかりませんので、戸締り等よろしく頼みます」

 声を残して二人は研究室を飛び出していった。

「え? あのっ、先生たち? どこに行かはるんでっか? って、もうおらへんし」

 如月はため息をついて言った。

 祐一は公園にたどり着くと、きょろきょろと周りを見回した。誰も居なかったが、トイレあたりに何かの影が見えたような気がして周囲を見て回ったが、特に異常はないようだった。念のため、男子トイレの中に入ってみた。

 かつて3K(汚い・暗い・臭い)と言われていた公衆トイレだが、最近はだいぶ綺麗に建て直されたものが増えている。この公園のトイレもそんな感じで明るく小奇麗になってはいたが、ここからも遺体が見つかったらしいというので、あまりいい気持ちがしなかった。

 それで、すぐにそこを出ると、美千代が姿を現すまで公園内を歩いてみた。あの事件以来、ほとんど人が近づかなくなったというが、それは事実らしい。

 それまでは、夜こそ一部施設がホームレスの寝場になっていたものの、昼間は子ども達の遊び場や散歩コースになっており、春には桜が満開になり花見客でにぎわうような、それなりに市民に利用されていた公園だった。一体あの事件について、流言飛語の類を含め、どれくらいの情報が流れているのだろう……と、祐一は思った。

 祐一自身、実況見分立会いのため訪れて以来この公園には来ておらず、2度と来ることもないのではないかとすら思っていたが、期せずしてまた足を運ぶことになってしまった。

 祐一はある場所で足を止めた。ホームレスの安田と出くわした場所だ。昼間なのであの時と全く雰囲気が違うが、ここから全てが始まったのである。祐一はまたしてもフラッシュバックが起きそうになり、急いでその場所から離れた。

 そう、初めてフラッシュバックが起きたのは、実況見分でここに立って説明している時だった。祐一は傍でおろおろする良夫と共に、そこから救急車で病院に連れて行かれた。祐一は自分の精神力が強いほうだと思っていたので、そこまで自分が精神的に追い込まれているとは思わなかったが、結果はASD(ストレス障害)と診断されてしまった。祐一は足早にそこから立ち去ると、ベンチに座って美千代たちを待った。

(こんなことで、おばさんに上手く説明できるのだろうか……)

 祐一は不安になっていた。そこに、香菜を連れた美千代が姿を現した。美千代の容貌は、やつれたせいかすっかり変わっており、香菜を連れていなければ誰かわからないくらいだった。

「おにいちゃん!」

 香菜が叫んだ。 

「ごっ、ごめんなさい。こんなことになるなんて思わなかったの」

 

 良夫は、公園に急ぎながら葛西に電話をかけていた。本来歩きながら電話することが苦手な良夫だが、そんなことは言っていられなかった。

「はい、葛西です」

 良夫は、葛西の声を聞くと少し安堵した。

「ボク、佐々木良夫です。ホームレスの安田さんの事件の時……」

「良夫君、覚えているよ。なんか声が焦っているようだけど、何かあったの?」

「はい、ギルフォードさんから、あなたに連絡して助けてもらうように言われて……」

 良夫は、今までのことを葛西に話した。

「わかった。今すぐ手配して、僕らもすぐに公園に向かうから、君は危ないので公園内には入らないで…」

「いえ! ボクは西原君が心配だから、行きます。もうすぐ公園なんで」

「良夫君!ダメだ、それは許可出来ない。後は僕らに任せて…」

 葛西が全部言い切らないうちに良夫は電話を切った。

「くそっ!」

 葛西は電話を切りながら言った。葛西の様子を見ていた多美山が怪訝そうに聞いた。

「どうしたとや? オマエさんらしくなかばってん、困ったことが起きたみたいやな」

「ええ、今の電話の内容を説明します」

 葛西は、横で葛西を指導していた多美山に言った。葛西はちょうど、今日逮捕した男についての書類を書いているところだった。まだ新米刑事の葛西にとって、今回の犯人逮捕が初めてで、ベテランの多美山に色々指導を受けていたのである。事情を聞いた多美山は、立ち上がって言った。

「行こう、ジュンペイ! なんだか嫌な予感がするばい。すんません、鈴木係長!」

 多美山は、ディスクワーク中の鈴木に言った。

「秋山雅之の母親、美千代が、西原祐一を例の公園に呼び出したそうです。彼女は感染者である恐れがあり、さらに、西原祐一を恨んでいて彼に害をなす可能性もあります。今からすぐに現場に向かいます。行くぞ、ジュンペイ!」

「おい、多美さん」鈴木は驚いていった。「その情報はアテになるのか?」

「呼び出された西原祐一本人からメールを受けた佐々木良夫からの知らせです。後の手配をよろしくお願いします」

 そう言うと、多美山は後ろも見ずに飛び出して行った。

「あ、ちょっと待ってください、多美さん」

 葛西は焦って後を追った。

「早いな」

 鈴木は感心して言った。

「感染している可能性があるのか……。向かわせる警官にはそれなりの装備をさせないと…」

 そう言って鈴木はハッとした。

「あいつら、全く無防備で向ってるんじゃないか?」

 外を見ると、多美山たちは既に捜査用車両で署から出ようとしていた。緊急ではあるが目立つ白黒のパトロールカーは避ける判断をしたらしい。

 近くを通りかかった少年課の堤みどりが、車中に葛西の姿をつけて車に向かって走って近づき手を振った。仕方なく葛西は車を止めて、窓を開け言った。

「ごめん、堤さん急いでるんだけど、なんか用?」

「葛西君、焦ってどうしたと?」

 葛西は簡単に事情を話した。

「わかった、私も行く! 少年が関わっているんなら私もお役に立つかもしれないし」

「わかった、乗って!」

 その様子を見て、鈴木はここぞとばかりに窓を開けると大声で言った。

「堤君! 葛西君に装備はどうしてるか聞いて!」

「装備はどうだ? っとか聞かれとぉけど……」

 堤は何だかよくわからないと言った風情で伝えた。

「時間がありません!」

 葛西が車の窓から顔を覗かせながら大声で答えた。

「気をつけろ! 無理をするんじゃないぞ!!」

「了解しました!! さっ、堤さん、早く乗って!」

 葛西にせかされてみどりは後部座席に乗り込んだ。

「途中までサイレンを鳴らして急ぎます」

 葛西はそういうと、いわゆる覆面パトカーを再発進させた。彼らを乗せた車は、緊急のサイレンを鳴らしながらK署を出て行った。


 良夫が公園に駆けつけると、公園の中ほどで祐一と女の子を連れた女性が対面している姿が見えた。祐一と女との間隔は5m弱といったところか。女の子はもちろん香菜だったが、よく見ると幼児がよくされているような腰紐がつけられて、女性が紐の先を握っているようだった。

 とりあえず傍にあった木の陰に隠れて様子を見ていたら、低木の植樹帯が作る茂みに誰か潜んでいるのを見つけた。それは彩夏あやかだった。

 思いもしなかった彼女の出現に良夫は驚いたが、そっと近づいて小声で彼女を呼んだ。

「錦織さん」

「きゃっ」

 彼女は小さい声で悲鳴を上げると振り向いた。声の主が良夫だとわかると、小声で言った。

「佐々木…クン、お、脅かさないでよ・・・」

「ーーどうしてここにおると?」

 こいつ、呼び捨てにしかかったな、と思いながら良夫もさらに小声で聞いた。彩夏は良夫の方にそっと近づくとさらに小声で一気に答えた。 

「あなた達の後を追ってたの。西原君は私には気がつかなかったから、見失わなかったのよ。それで、声をかけようかどうか悩んでたらああいうことになっちゃってて、どうしたらいいかわからなくなって、急いでここに隠れたの」

「大丈夫、警察には伝えとおけん、君は危ないからもう帰ったほうがいいよ」

 良夫はやや迷惑そうに言った。

「いいえ、私も残るわ。だって心配だもん」

「いいから帰れって」

「いいえ、帰りません」

「帰れよ!」

「嫌っ!」

 小声のつもりがだんだんヒートアップした二人の声は大きくなっていった。美千代はそれに気がついて彼らの方を見て言った。

「そこ! こそこそ隠れてないで出ていらっしゃい!」

「しまった!」

 良夫は一瞬血の気が引くのを感じた。

「いいから、出ていらっしゃい」

 二人は覚悟を決めて、茂みの陰から姿を現した。

「ヨシオ! それに、何で錦織さんまで!」

 祐一は目を丸くして言った。その後、良夫に向かって厳しい口調で怒鳴った。

「来るなと言ったろうが、ヨシオ!! それも錦織さんまで巻き込んで!!」

「ちがうわ、西原君、私が勝手にあなたについて来たの。だから、佐々木君より私の方が先だったの」

「そんなことはどうでもいいから、二人ともこっちにいらっしゃい。そして祐一君の後ろに並びなさい」

 二人は躊躇してお互い顔を見合わせ、その後に祐一の方を見た。その様子を見て祐一は言った。

「言うとおりにして、二人とも」

 二人は走って来て祐一の後ろに並んだ。

「せっかくだから、二人には祐一君の説明を聞いてもらおうかしら?」

 美千代が言うと、良夫が言った。

「何回説明してもおんなじだよ、おばさん! 秋山君はここで……」

「やめろ、ヨシオ! いいんだ、黙ってて。それに……」

 祐一は口ごもった。この母親に、ここで息子の所業を聞かせるのは酷ではなかろうか? それに、ここには錦織さんがいる。香菜もいる。雅之のやったことを彼女らにも聞かせたくない……。と祐一はとっさに思ったのだ。しかし、そんなことを口に出すわけにはいかない。

「それになによ!」

 美千代に問われ祐一は困った。説明をして、なんとか誤解は解きたい。

(どうしたらいいんだ……)

 祐一は、苛ついた表情の美千代と、兄を信頼し泣くのを必死で耐えている妹を見比べながら、追い詰められていた。


今週インフルエンザで寝込んでいました。ウイルス感染はキツイ。この小説内の発症者のきもちが少しわかりました。

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