衝冠一怒
※方言は不正確。
「隠していた事?」
「最初に俺が先輩の店で聞き取りした時も、何処か核心をぼかした様な喋りでした。中国国内の紛争に巻き込まれたらしいんですけど、具体的に何処とか、何処の組織に居たとか一切なしです」
「…マフィア?」
「でも、敵国の軍隊がどうのって言ってはいたから、裏家業ではなさそうでs」
「ふろ、あがった」
振り向くと、桂花は腰にタオルを巻いて立っていた。
***
背丈が三村とそう変わらないのが、幸いだった。
三村の寝巻を一着、貸した。
再び、タオがペンとメモ帳を手に取った。
「…じゃ、俺から洗いざらい話すぜ。到底信じて貰えないだろうが、まごう事なき事実だ。先ず、俺の『桂花』と言うのは、通り名だ。まことの名は、姓を呉、諱を三桂という…うん、その字で合っている」
自ら書き出した『呉三桂』という単語に、タオは聞き覚えのみならず、微かに見覚えがあった。
(高校の世界史の、中国の歴史にこんな名前の人が出ていなかったっけ)
「ま、今の中国人は『縁起が悪すぎて』使わない名前だと思うな。何せ、俺は明の生まれだしな」
「み…!?」
しょっぱなから冗談を飛ばし過ぎだ、としか思えなかった。
辛亥革命で清が滅びたのが1911年で、その前の明が滅びたのが1644年。
「あ、西暦で言うと17世紀な」
この時点でもう、頭が痛くなってきた。
でも、『到底信じて貰えないだろうが、まごう事なき事実だ』との言葉を信じて綴る。
「俺が産まれた頃の祖国は、皇帝は積極的に国を潰す方向に怠けるわ、長城の向こうでは満州族が建国するわでもう滅茶苦茶だったよ。俺の親父はそんな時代に武挙っていう武官用の科挙に受かって将軍になった。俺は父の様な立派な将軍になって、長城の向こうの奴らを倒したかった。その夢が叶って、俺は一軍を率いる立場になったが
――― そこで見た物は、先の無い国と、足掻いて足掻いてドツボに嵌っている皇帝陛下だった」
「皇帝陛下は、やる気の感じられなかった前任たちとは違って、やる気だけは確かにあった。
しかし、滅びに向かう中では、何もかもが逆効果だった。
臣下たちを疑う余りに、有能な奴から先に殺したり、長城の向こうに流出させたりした」
随分と、陰鬱な時代に産まれたものだ。
「それでも俺は、この俺こそが、国を救う英雄なのだと信じて疑わなかった。絶望する事も知らずに、ただそれだけを夢見てもがいた
――――北京に戻されて、また長城に戻る前の日に皇帝陛下の后のお父上の邸に呼ばれるまでは」
この男は、狂気なのだろうか。
狂気にしては、あの異形は鮮烈に過ぎる。
「―――邸に居たのは、嫦娥だった。
何でも、皇帝陛下のご機嫌を取る為に妓楼から身請けして後宮に送ったはいいが、肝心の皇帝陛下は『国政多忙の為』と称して少数の女性しか近付けない。
今思えば、その点については皇帝陛下に感謝すべきだと感じる。
陛下が彼女を近付けたら、俺はとうとう彼女に逢う事はなかったであろうからな!」
そこまで彼を引き付ける女こそが、一種の異形なのではないか。
「邸で彼女を見つけてからの記憶は―――正直、曖昧だ。
周辺からの証言によると、彼女の指が欠けていた盃で傷ついたその刹那、その指に口付けをして、血を啜ったとのことだ。
舌に感じたのは―――どんな美酒も及ばぬ甘露だった。それだけは覚えている。
それきり皇帝の舅に向かって『彼女を俺に譲ってくれ』『もし譲らなかったら俺はどういう行動に出るか自分でも解らない』とわめくばかりで、最終的に俺の財産の半分を舅殿に譲る事で決着したらしい」
血?甘露?
「しかし、彼女を連れて俺の邸に戻った途端―――俺は意識を失い、朝までそのまま。
以後、俺の躰は眠りとは別れを告げた。そして、人の食べ物を碌に口に出来なくなった。喉が干上がるばかりで、湯や茶を幾ら口にしてもキリがなかった」
え。それって。
「―――感付いたか?安心しろ、俺はお前らを取って食う気はない」
「さて、俺は長城への道中で一睡もできない。体はいつもより軽いぐらいなのに、食欲はないし、ひたすら喉が渇いた。
もうすぐ長城へ着くというその時―――北京から、伝令が届いた。それが、全ての始まりだった」
17世紀、北京から万里の長城って何日だっけ。
「地方で反乱を起こしていた農民の軍が、とうとう北京に突入したのさ。
皇帝陛下はこれが明の最期と思い定め、自らの妻と娘を斬り殺して首を吊って崩じられたとのことだった。
そして長城からは―――満州人の軍が長城に攻め寄せていると来た。
俺達に残された道は二つ。農民の建てた国の将となるか、長城を開けて祖国の仇を討つか」
妄想にしては、やけにリアルだ。
「ちょっと聞き取り中断していいですか?」
「ああ。喋り続けるのも疲れた」
タオは、三村に一旦メモを見せた。
「先輩、高校世界史の教科書って今あります?」
「そんなの卒業と同時に古本屋行きだよ!」
「じゃあ、このメモ見て、この部分の授業内容とか思い出せます?」
三村は、メモを凝視した。
「…わからん。第一、高校なんてサッカーの記憶しかないわ」
「先輩、昨日『スポーツ選手もお馬鹿ではいられないの』とか言っていませんでした?」
「俺はスポーツ推薦で大学入ったの!」
「…埒があかんわ。とにかく、聞き取り続けますよ」
タオは、再び桂花に向き直った。
「ああ、続きか。俺の決断には、北京から入ったもう一通の手紙が大きく関わっている。内容は―――『俺の家族が反乱指導者の手に落ちて、彼女は奴らの部下に略奪された』というものだった。もう、想像つくだろう。俺がどういう決断を下したかは」
「―――漢族の支配よりも、彼女一人を取ったんですね」
「そうだ。まさか部下にはそんな風に言えないから、『烏合の衆である農民軍と精鋭のお前らを一緒にしたらその内抗争になる』と納得させた」
「満州人を先導する形で、俺は北京へ向かった。―――だが、その頃はまだ自分が人間だと思っていたから、戦場で派手に暴れすぎたらしい。当時は向こうの皇帝が年齢一桁の幼児に代替わりしたばっかりでその叔父が摂政をやっていたんだが、俺の正体に俺より先に気付いたようだ」
あんた、どんな暴れ方したんですか。
「そして、北京の城門には―――彼女以外の俺の一族郎党が俺達に見えるように縛られていた。だけど、俺はそれを見てももう心が動かなかった。全員の首が飛んだ」
17世紀の中国人が、一族殺されて心が動かないのか。
「かくして、北京は満州人の手に落ちた。もう俺には彼女の在り処だけが唯一の興味事項だった。俺の家は、金目の物はあらかた奪われて、彼方此方に血糊がついている有様だった。この頃には、自らの変化も解るようになっていた。躰と得物が、それ以前より軽く感じて、周りの景色がいつもより早く流れた
――― その時、隠れていた賊によって、俺の右腕は斬り飛ばされた」
じゃあ、その腕は何?義手ではなさそうだけど?
「反撃のつもりで、もうない右腕を動かした―――ら、本当に血飛沫が飛んだ。
賊は、見た事も無い怪物の腕の爪に、胸を貫かれて動かなくなっていた。何者だ、この腕を持つのは?」
貴方以外の誰が居るんだよ。
「俺が右腕を斬られた時の呻き声を聞きつけた部下が飛んできた次の瞬間―――俺は、部下の喉笛を喰いちぎっていた」
そう言うと、桂花の右手が変化し始めた。
青っぽい鱗に覆われ、鋭い鉤爪。
ちょっと、どの動物に近いかまでは判然としない。
三村もタオも、思わず喉の奥で悲鳴をあげた。
「俺は漸く自分がもう人間ですらない事をはっきりと自覚した。同時に、あの渇きの正体を知った
―――俺は、人の血でやっと渇きを癒せたんだ」
って事は、あそこの化け物より年季の入った化け物って事ね。
「俺の家族で残っていたのは、長城に連れて行った正妻とそいつの産んだ長男だけ。彼等には真実を伏せ、信頼できる腹心にのみ、自分がもう人間ではないと話した」
全員じゃないじゃん。
「さて、俺は祖国を救う英雄候補から一転、天地開闢以来最悪の売国奴にまで評価を落とした。
最終防衛ラインの長城を自ら開けたのもさることながら、蘇州の詩人が彼女の美しさを称えつつ俺を非難する詩を公開したために、女の為に長城を開けたという事が中華全土に暴露されたんだ。
俺が西へ逃げた賊の残党をあらかた始末し、北京へいったん戻ったその時に、南京の明の残存政府の崩壊で其処に仕えていた件の詩人が北京にやって来たと聞いて、俺は早速そいつを問い詰める事にした」
どうやって真実を知った、その詩人。
「全く脅える様子もないそいつは何て言ったと思う?『俺は何もかも知っているぞ。お前が何をしに来たかも、お前の正体も、あの女の行方もな』、と。俺は『いいからあの詩を破棄しろ、金なら幾らでも出すぞ』と言ったが、相手は意に介さなかった。『俺もお前も似た様なモンだ』と言うばかりなので、業を煮やして刃を向けたが―――結論を先に言うと、そいつも俺の同類だった」
知っていたから、詩で呼び寄せたのか。
「そいつは、彼等の在り方を色々俺に伝授した。
曰く、自分は生まれた時からの詩人ではなく、既存の詩人の血を吸い上げて、姿を奪ったのだと」
じゃあ、貴方の今のお姿は?
「―――ああ、俺は俺だよ。誰かの姿を借りている訳でもない。そして、彼女は―――そいつに、匿われていた―――繭の中で、永い眠りについている状態で、な」
彼女がそもそも人外で、彼女の血を飲んだ貴方も人外になったって事でいいすか。
「そいつも、彼女の血を口にした元人間だった。元々は西洋の生まれで、戦乱の最中に彼女と出会って俺と同じ様に弾みで人をやめていた。彼女は、人と似ているが人とは別の存在で、かれこれ数百年は生きている。主な養分は、人の血。そして、彼女自身の血はある種の魔力を秘めていて、口にした者の全てを変える。変えるとはいっても、好い作用があるのは限られた人間に対してのみであり、其れ以外は人であった事も忘れ果て、本能のままに血を貪る化け物に変わり果てる」
じゃあ、朱はどういう存在だろう?
「彼女は適した男に血を与えて三年程経つと、蚕の様な繭の中で三十年程眠る。そしてまた目覚め、男から血を貰って三年程覚醒し、また三十年程眠る。そういうサイクルをそいつが産まれる遥か前から繰り返してきたらしい」
って事は、彼女は今何歳?
「でな、そいつと彼女が出会った時代は魔女狩りの時代だったからもう酷かった。彼女が眠っている最中に男を『悪魔と契約した』といって王侯貴族も民衆も総出で殺しにかかってきて、辛くも逃れたが繭の彼女とは離れ離れになり、そいつは一人きりで全世界を放浪する羽目になった」
魔女狩りとか、もうわかんねーな。
「一方、彼女はまだ目覚めぬままの、繭の状態で蘇州のある妓楼に『異国で育った、大きな蚕の繭』というオブジェとして買われた。
ある日そこから美しい女が出て来たのだから、直ぐに妓女としての教育を行って、男を取らせた。其処から皇帝陛下の舅に身請けされ、後宮で不遇をかこち、俺の元へ来たわけなのだが、男から血を貰わぬと記憶が戻らないので、それ以前の事は覚えていなかったらしい」
だから、男に血を与えてからでないと眠らぬのか。
「俺達が満州人と組んで北京で賊とやり合っていた間に、賊軍の中に紛れ込んでいたそいつが彼女を見つけ出して血を与え、彼女の記憶は戻った。
が、其処でタイムアップ。俺の名を呼びながら眠ったもんだから、そいつは酷いショックを受けていたみたいだぜ」
確かに、離れ離れで自分の知らない内に男を作っていた様なものだからなぁ。
「そいつは彼女を護衛しつつ南へ逃げ、ある詩人と入れ替わって俺を呼び寄せる為にわざとあんな詩を発表したんだと。三十年毎に目覚める彼女の側にずっといたいなら、人として生まれた頃の『自分』を棄てる覚悟が何時か必要になるぞ、とそいつは言っていた」
だろうな、同じ名前で何百年も生きられないよな。
「そして、俺とそいつは誓約をした。
《来る彼女の目覚めの日、彼女に絶対の安全を保障できるなら、そいつは俺に彼女を譲る》と。
しかし、障壁は多かった。
俺が自分の正体を自覚する前に人間の限界を超えて暴れまくった御蔭で摂政は怪しんで、陰で―――俺以外の降将に、『残党討伐の途上で、何か変わった生き物を見つけたら細大漏らさず報告する事』と命じたらしい。そして、俺につけた満州人の部下には『何か常人と違った動きをしていないか』と監視する様にとも」
「それでも、俺は上手い事やりおおせた―――と考えていた。明の皇族をこの手で根絶やしにした功績に、雲南と貴州を我が手に納め、あたかも俺の帝国の様にした。
そいつが『詩人の死』を公にした後、繭をこちらに運んできた。
俺は、彼女をいよいよ本当に手中にする日を指折り待った。
しかし、そいつはある事実を告げた。
『新しい皇帝は、俺達より賢いかも知れない』
『摂政は、俺達の仲間―――それが誰かはわからんが―――に殺された』
『死の間際に摂政は、俺達の様な種族を調査し、殲滅するための部隊の組織を先帝の母に託した』
―――要するに、俺が本当に彼女にとって安全な環境を完成させたかどうか疑問だったとさ」
17世紀にアレを駆逐する組織って、無謀すぎじゃありません?
「俺も、確かに立場上血を補給しづらくて判断を誤ったかもしれない。
彼女が目覚め次第北京の皇帝に暇乞いをしてそのまま密林の向こうへ消える手筈だったんだ。
ところが、彼女の目覚めまであと一年以上あると言う時に、広東で同じような国を築いていた同僚が暇乞いをしたら、『北京へ帰れ』と言われたらしい。
俺は方針を切り替えて、彼女が目覚めてから北京に帰り、彼女が眠ったら自分も死んだふりして消えればいいと思って、自分も暇乞いをした―――のが間違いだった」
あ、やっぱり『自分』をやめるタイミングを見計らっていたんだ。
「後に『中国史上最高の皇帝』と呼ばれる皇帝陛下は俺に何て返したと思う?
『北京に帰るならお前の宮殿のデカい繭よこせ』
それが俺の全てを知った上での勅か、あるいは単純な学術的好奇心による勅かは、今もわからん。兎に角、当時の部下によれば、勅を読んだ瞬間の俺の顔はそれはそれは酷い物だったらしい」
それ、地出しちゃっていません?
「もう、清に仕える事は出来なかった。北京にいた長男を見捨て、髪を伸ばした。
―――皮肉にも、彼女が目覚めたのは、俺が兵を挙げて直ぐだった。
生まれたままの形の彼女は、地球上で最も美しかった。その牙は、甘美な快楽を俺の内に広げた。
―――ここから先は、只の官能的惚気話になるから飛ばすぞ」
はい、そーして下さい。
「幸い、彼女は俺の妻妾の存在を知っても俺を遠ざけることは無かった。正妻に出来ないと告げても、『咎を受けるべきは私の方だもの』と寂しく笑うばかりであった
―――俺は、せめてもう彼女を戦禍に巻き込みたくなかった。
―――そして、江南を全て手中にした後は旗色は悪くなるばかりだった。
元々、俺の領地は長期戦には向かなかったんだ。
俺の下した決断は、彼女を戦禍の及ばぬ遠い所へそいつと共に送り出すというものだった。雲南から西に向かおうとすると、21世紀になろうとする今でも人間を寄せ付けぬ雪山がある。山々の民の装いをした彼女等は、西へ向かった―――今でも、あの決断は悔やんでいる」
そういえば聞いたことあるな、昔日中共同の登山隊が雪崩で全滅したって。
「俺は結局元の名を名乗っていた頃は最後まで人の世の妄執に囚われていたのよ。玉座に登りたいが為に、自らの国を棄てる事も一人ではできなかった」
他人の国は棄てられても、自分の国までは棄てられなかったんだ。
「嘗て<親を殺して国を売り、子を殺して天下を覆す>と言われ、道士に一度ならず命を狙われた赤子がいた。俺のことだ。そして、其れは全て的中していた」
それでも生きるのか。
「中秋節。俺の名の花が咲き誇る夜、度重なる味方の投降にショックを受けた俺は、月の見える部屋でそいつと対面した。
曰く、『彼女はお前の種で身籠った為、未だ眠らない』『俺も命が尽きそうだ。姿を入れ替えよう』
―――で、翌朝、***は崩御していたって寸法さ」
よく入れ替わったな。
「それから俺は彼女の所へ向かい、その出産に立ち会った。人間の産婆を一人借りたら、バラしやがったから殺すしかなかったがな。娘は独り立ちして、繭の状態の彼女と共に会いに行こうとした矢先―――繭を盗まれた」
娘ってのも相当の年だな、それ。
「それから先の話には嘘はない。俺達は、同族だけで使えるテレパシーや音波の能力がある。それを頼りに、日本までやって来た―――これで、俺の話は終わりだ」
長い長い、真実を書き留めて。
半分近く使ってしまったメモ帳を、三村に見せた。
三村は一通り目を通し、やがて恐ろしいほど冷え切った眼で桂花の方を見た。
「ここに書いてある事は、真実か?」
「ここに書いてあることは、全て事実ですか?」
タオは、三村の言葉を中国語に訳して桂花に伝えた。
「―――事実だ。何ならここで傷の高速回復を実演してみるか?」
「事実だそうです。信じないなら傷を高速回復するのを今ここで実演するそうです」
「そうじゃなくて―――お前の話を全部信じたとしたら…お前は…国を売ったのか?」
「貴方の話を全部信じるという前提での質問です。貴方は、祖国を売ったのですか?」
「――― そうだ」
「事実、だそうです」
「………こん、大日本空輸野郎!!」
「「!?」」
その剣幕に、タオも日本語の殆ど解らない桂花も驚愕した。
「お前一人のせいでみんなが裏切り者扱いなんだ!!『自分の意思でそうなった訳でもない』のに、嘗て共に歩んだ者に後ろ指ささるる事がどげなに辛いかわからないんじゃろ!!」
(先輩のトラウマほじくり返しちゃったんだな。桂花さん)
「いつだってそうだ、少数の誠意のない連中の御蔭で、多数の誠意ある人間の尊厳が踏み躙られる。
そして、謂れのない迫害を受ける。お前もその一人じゃったんだな!!」
自らの闇までも突きつけられた三村は、桂花を赦す事が出来なかった。
その慟哭に近い怒号を、タオは訳するかどうか迷っている内に、
「…わるかった」
桂花が呟いた。
「おまえ、おこるの、わかる。おれのこと、わすれろ。ひとりで、なんとか、する」
「あの軍団に、一人で立ち向かうんですか!?」
「おまえら、あしでまとい。おまえら、しなない、ため」
タオは、何も喋れなかった。
確かに、あの化け物に自分たちは太刀打ちは出来ない。
「―――わかった。精々、愛する女を死なせるなよ。俺はもう疲れたから寝る。そして、お前らの事は、忘れる」
三村は寝室へ入った。
後を追う様にタオも寝室へ入った。
そして、寝室の扉は閉じられた。
「…さあて、準備が必要だな」
桂花の姿は、洗面所に消えた。
果たして、タオは桂花のぶっちゃけが終わるまで正気を保てるのか。
ドツボの皇帝陛下、直接は出ませんがラスボスに大きくかかわっています。
三村選手(仮名)を勝手にスポーツ推薦入学にしてごめんなさい。
勅の存在は、清の政府に抹消されたそうです。