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広寒宮-横濱奇譚-  作者: はぐれイヌワシ
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悪夢

※男は日本語片言。

※Jリーガーは突然の似非九州弁。

※三村選手がかなり本気の悪夢見ているので注意。

※2000年頃の携帯ってどんなんだったっけ。




―――― いつもの空、いつもの風、そしていつもの芝。

―――― しかし空気だけは今年は違います。第78回天皇杯決勝戦。

―――― 全国に共感を巻き起こしながら、今日を最後の横浜フォーゲルス。


ああ、ここは。

元日の、国立だ。

もう、戻れない日の。


二つの会社の合同出資によって作られたチームは、一方の脚が折れた途端にもう一方の脚が逃げ出した。

そして、『鳥』は鳥籠から出される事無く、海賊によって喰われた。


白い『鳥』は、その死ぬ間際に最も美しい歌声を国中に響かせた。

されど、それで堕とされゆく運命は変わらず。


その白い翼は、国中に散った。

そして、羽根の数片は―――忌まわしき海に捕えられた。


***


頭に、凄まじいノイズが走った。

…先程の男を、勢いで車の後部座席に運び込んで、そのままマンションまで連れ帰ったまではいい。

が、こいつの正体、とんと見当がつかぬ。


人間…でいいのだろうか?それとも…


スーツを脱がせる訳にはいかないが、近くに落ちていた三村の背丈より長いバッグは、彼のものだろう。

三村が中身を調べようとした刹那――――


「さわるな!!」


声の方向を見れば、ソファに転がして置いた筈の男が、後ろから睨んでいた。


「お前、日本語喋れたのかよ」

男は首を横に振った。

「すこし。にほんご、よくわからん」


「中国人か?」

少し間があって、男は首を僅かに縦に振った。


そして、ソファから立ち上がってカバンを手にした。


「…それ、お前の?パスポート何処だよ」

男は答えず、バッグを持って外へ出ようとした。

「―――おいっ!!待て、待て!!聞きたいことがある!!お前が不法滞在かどうかは気にせんから、何者かぐらいは名乗れ!!あの化け物は何だ!!」


「おまえ、かんけいない」

と言ってドアを開けようとして―――ドアに顔をぶつけた。


「おいっ!!お前、もしかしたら眼ぇ見えてなかとっ!?」

三村は駆け寄って、男の身柄を再度ソファにぶん投げた。

随分と軽い、かなり長い期間栄養失調同然だったのではないか。


「大体、そがん見知らぬ人間の前でひっくり返る様な奴が飯も食わんと出歩くんじゃなか!!飯ぐらいおいが作るからおとなしくしろ!!」


***


こういう時の為に買っておいた冷凍のピラフを、男の前に差し出した。

「ほれ」


思わず引き留めたはいいが、相手は、(恐らく眼が殆ど見えていない状態で?)アレを簡単に真っ二つにした男だ。

という事は、即ち。

アレより強い生物だと思われるのに―――


男は、随分と無防備にスプーンを口に運ぶ。


(悪い奴じゃなさそうだ)


「なあ、さっきは何も食わずに何処へ行こうとした?」


「おんな、さがしていた」

「女…?中国人か?」

「おれにもよくわからん。ただ、そのひと、おれのこいびと」

「…騙されたんじゃないのか?」


瞬間、男の眼が光った。

先程までの憔悴具合からは想像できないぐらいに、殺気に満ちていた。


「それはない。とつぜん、いなくなった。さらわれた」


さらわれた――――?



「攫われたって…それ、ヤバいんじゃないのか!?」

「いきている。おれ、しっている」

「書置きとかあったの?犯人の」

「ない。ただ、いき、している。かんじる」


…埒が明かん。

恋人の事で電波な会話しかしないこの片言中国人?は、三村一人の手には負えなかった。


中国語が話せるタオを通訳として呼び出そうと、携帯を手に取る。


「かぞく、くに、みんな、すててきた。おれには、あいつ、ひとりだけ。なくしたら、おしまい。もう、にどとかえらない」


―――なくしたら、おしまい。もう、にどとかえらない。


タオの電話番号をプッシュする三村の手が、思わず止まった。

その携帯を持つ三村の腕を、男が見つめる。


「けが、してる」


見ると、先程男を運んだ時に何処かに擦ったのか、擦り傷があった。


「ああ…これは擦り傷だし、お前の方が傷多いs…っ!」


あるかなあ。

いくら唾液に殺菌効果があるとはいえ、だ。

いきなり野郎の腕の傷口舐めてくるかなあ、普通。


「~~~~~!!」

思わず、救急箱のマキロンを大目に振った。

もう、タオとか通訳とかそもそもなんで目が見えてないのに三村が怪我しているのが分かったのかの疑惑も吹っ飛んだ。


「俺は寝る。お前も食ったらそこで寝てろ」


***


―――日本サッカーの暦は、1月1日を前年の終点とする。

―――日本サッカー会の頂点を決める大会が、元旦、国立競技場で行われるからである。


この季節、だからだろうか。


また、この夢か。


実況の人は、空はまだ『俺達』の青に染まっているとは言ったが。


結局、その青は橙に染まり、そして暗闇に還った。


イソップ童話で『白鳥は死の間際に最も美しく歌う』という伝説があるそうで。

そのまま白鳥にするとリアルで白鳥をマスコットにしているチームから苦情が来そうなので『白い鳥(白鳥とは言ってない)』で。

フォーゲルス(ということにしておこう)は、実在の鳥だとどれに近いのだろう。


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