第九章 先が見える悲しみ
「……うっ……くっ……っ……」
ルルが見えなくなった途端、ユーマは泣き出した。
声で気づかれないように、ローブの端を噛んで……
何故か?
理由は簡単。ユーマは未来を垣間見る能力があるのだ。
その力で“見えてしまった”未来は、暗い未来。
ルルに待ち受ける、恐らく死ぬであろう未来。
昨日は見えなかった。
しかし、彼女の魔力が目覚めた今、ありありと見えてしまう。
気づいたのは先程、プレートを渡した時だった。
偶然彼女の目の中を見てしまい、偶然未来を見てしまった。
ユーマは望まずとも、この力が使えてしまう。
仕事を辞めたのも、様々な人の未来が見えてしまうからだった。
類い希なる魔法の才能を誰もが羨み、望んだが、当の本人には耐え難いものだった。
山中に住むのも、他人との接触を断つ為。
未来が、運命が見える。
いつ、どこで、どんな死に方かが見える。
ユーマには耐えられなかった。
いや、普通の人間なら耐えられないだろう
ルルに見えた暗い未来。
幾度とない苦難。
想像もできない程の……
「……わしが……ルル様を……守る……」
ユーマは、自分の命尽きようとも、彼女を守ると誓った。
小屋の入口からは、ムーンがその姿を見ていた。
ムーンは時を旅し、異世界を巡る猫。
ムーンもまた、人々の未来を知っていた。
そしてその目には、深い哀愁が刻まれていた。