第七章 境の国
暗い、闇が全てを支配する世界。
光に包まれたのがシャインならば、この世界、魔界は闇の世界。
そして闇に住まう者ですら近寄ることはおろか、そのことを口に出すことも憚られるという辺境の大地。
その中でも特に邪気が漂うその場所で、黒いローブを着たフードを深く被った一人の男が大きな大きな皿を覗き込み、微笑んでいた。
この者が男だと思われるのは、男が度々もらす、あざ笑うかのような太い声だけだった。
男が覗いている皿には水が並々と注がれ、この世の物とは思えないような魔物が、人々を惨殺する姿が映っている。
ビルが破壊され、電車が横倒しになり、粉塵が舞う。あちらこちらから火の手が上がる。
親を殺されたことを嘆く子供に近づき鉤爪で切り裂き、肉を喰らう。
それを見て、男は笑っていた。
人々が逃げ惑い、魔物に焼かれ、喰われていくのを喜んでいた。
魔物は銃をはじき飛ばし、戦車を簡単に壊していく。
『……これで、境の国は我が物となった……フフフッ……ハハハハハッ、ハァハァハッハッハ!』
男は天を仰ぐかのように両手を広げ、高笑いをした。
その笑顔は、悪魔ですら微笑ましく感じられるほど、冷酷極まりないものだった。
男が見ていた“境の国”は今や焦土と化し、目を覆いたくなるほど凄惨極まりない状態だ。
『……もうすぐだ……もうすぐお前らを殺せるぞ……光の民よ……
……そして、ルル・アーヴィング。貴様だ…せいぜい今を楽しんでおくがいいさ……フハハハハハッ!』