第二十六章 魔のなき少年
調べる事があるとだけ打ち明けると、ライアンは神妙な顔で頷いた。
「……ところでライアン。どうして俺だってわかったんだ?」
「……そのぉ……街に入ってから……」
ライアンは言いづらそうに言葉を濁す。それ故にカノンは察しがついた。
「…………監視か?」
「……申し訳ございません。チンピラが暴れていると通報を受けて……」
その時偶然カノンを見つけたらしい。
だが、この言葉にカノンは怒りを覚える。
「ライアンよ、あいつら、生きる為に罪を犯してるんだ。
あいつらの為に、何か仕事を与えてくれないか?
もしなんなら、ウィークと呼ばれる男を訪ねてくれ。それで話は通る。もちろん、俺の名前は伏せてな」
「……かしこまりました」
ライアンは手を胸に当て、深々と頭を下げる。
そして顔を上げると、カノンに一枚のカードを差し出した。
白を基調とし、縁を銀で加工されている。中央に十字とMの文字があしらわれている。
「これは魔磁カードです。このカードを持っていれば、城を自由に出入り出来ます」
「……すまないな、迷惑かけて」
カノンは素直に礼を言う。
それがライアンには嬉しいようだ。
カノンが自分の甥っ子のような存在だと思えている節もある。
「では、失礼します」
そのまま早々に部屋を出ていこうとする。
が、ドアノブにかけようとしたライアンの手がピタリと止まる。
……外に、誰かがいる!
声を出さずとも、気配でそれに気づいたカノンはハッとして、隠したナイフをすぐに取り出せる位置に手を動かす。
ライアンがカノンを見ると、カノンはゆっくり頷いた。
それを合図に、ライアンはドアを自分の側に一気に、ドア自体を楯とするように引く。
バッ…………!
ドサッ!
「いってぇ!」
シュン……カッ!
「うわぁ!」
ドアの向こうから崩れ落ちて来たの、1人の灰色の髪をした少年だった。
15歳位で、カノンと背丈もそう変わらない。
波があしらわれた赤い羽織り、その下に黄色の袴、草履を履いている。
羽織りは大きすぎて着物のようだ。
大小様々な片刃の長剣を吊っている。
「む?お前は学園の!
……確か……」
少年は大きな目に涙を浮かべながら、顔を真っ赤にしている。
ライアンが顔を覗き込むと、顔を背け、逃げ出してしまった。
「うわぁぁあぁぁぁ……!」
バタバタと走り去ったあとどこか遠くで、泣き叫ぶ声が聞こえる。
「……なんだ?今の……」
カノンの頭は全く現状についていかない。
敵だと思っていたら普通かどうかはわからないが少年で、いつの間にかいなくなっているのだ。
「……あいつはラザフォード・マインダス。学園の生徒何ですが、どうにも……魔法が使えんのです。
いわゆる落ちこぼれですな。何故まだ退学にならないのか…………」
不得手顔のカノンにライアンは説明するが、その説明にはマイナス面しかない。
「……将軍閣下!何かありましたか!?
……あ、貴様だな!?」
叫び声を聞きつけたのか、ドヤドヤと兵士達が部屋になだれ込んでくるや、カノンを捕まえようとする。
そう広くない部屋は一瞬にしてむさ苦しくなった。
兵士はカノンがナイフを持っていたのを見、飛びかかっていく。
「……止めんか!」
ライアンの腹の底から出た声は、スタングレネードのような威力を発揮する。
何故か兵士は半泣き状態、カノンは耳を押さえて顔をしかめている。
「こちらにいるのは魔法学園の交換留学生。名前は……そうカルラだ。
皆、この方は街の貴賓として扱え!」
そのままライアンは鎧をガチャつかせながら、部屋を出ていく。
カノンの横を通る時、素早くウインクしたのを、カノンは見逃さない。
「……まぁ、そういう事だ。
じゃあ、誰か上まで案内してくれないか?」
呆然とする兵士達の中で、一番早く我に帰ったのは先程の怖い役の兵士だった。
「……申し訳ございませんでしたぁ!」
土下座せん勢いで謝り始めた姿に反応し、その波が広がっていく。
「すみません」
「ごめんなさい」
「お許しを」
「失礼いたしました」
普通ならいづらさを感じるところだが、カノンの顔には、さも当然といった文字が窺える。
「いいから案内してくれないかなぁ……」
先程までの罪人扱いが一転、今は貴賓扱いだ。
将軍直々の命令とあって、兵士達はやる気が違う。
ふざける素振りを見せる事なく、地上への螺旋階段を上っていく。
古い石で作られた階段は、時代と共に、幾人の者が使ったのかという冷たさが感じられる。
「……それで……カルラ様。どちらにご案内申し上げればよろしいので?」
兵士とは思えない、えらい丁寧な口調にカノンは少々面食らう。
「……え?あぁ、うん。
そうそう、ビーズ・カトレットっていう人に会わなきゃいけないよ〜な……」
「……ビーズ・カトレット?
いえいえ、学園にはビーズ・コートヴェールか、ルリ・カトレットしかいませんよ?
どちらですか?」
……おかしいな。確かにあの女の子はカトレットって名乗ったよな?
「……あぁ、違った、違った。ビーズさんだビーズさん。
うん、図書館に来るよう言われてたんだ」
もちろん口から出任せだ。
唯一合ってるのは、図書館に行くことくらいだろうか。
「でしたら、こちらです」
兵士に案内され、カノンは二つ目の階段を上っていく。
図書館の入り口に着くや、カノンは兵士を手を振って戻した。
兵士が階段の陰に消えるのと同時に、その顔は愛想笑いから犯罪者の面構えになっていく。
「ふぅ……どうにかここまで来たな」
カノンはそういうと改めて図書館と書かれたプレートを改めて見る。
図書館とは言っても、学園と独立した建物ではなく、それに後から付随したものだ。
だからここは城の隅にあたり、生徒以外は面倒くさがってほとんど立ち入らない。
生徒ですら、放課後、宿題の資料やらを探しに来るくらいだとか。
故に授業時間には、めったに人はいないそうだ。
これを地下牢からここまでの僅かな時間でカノンは兵士から聞き出したのだ。
世が世なら、もしカノンが王族ではなかったなら、きっと天職は詐欺師か泥棒かだろう。
カノンは両開きの扉の金の取っ手に手をかけた。
そして、そのままそぉっと開き、滑り込ませるように中に侵入していった。
このワンシーンだけを目の当たりにした人物がいたとすれば、間違いなく兵士を呼んで来ただろう。
図書館の中は薄暗く、所々でランプに火が灯っている。
大きな長机にいくつか纏めて置いてあったので、カノンはそれを拝借した。
その図書館は、カノンが今まで見てきた中で間違いなく最大のものだ。
無駄な装飾は一切ない代わりに、これでもかという量の本棚、それに容れられている古書、そして数多の通路。
一般に学園に何年滞在するのかは知らないが、これほどの量は到底必要ないだろう。
カノンはそっと司書室を覗き込む。しかし、ランプはついていない。
どうやら司書は不在らしい。
ただ、やりかけの仕事、まだ暖かい消されたランプから、早々に帰ってくるのは疑いがなかった。
「……さてと……まずはシャインの歴史、それから伝説的地理、精霊、知られざる魔法、魔界……こんなところか……」
改めて口に出すと、驚く程調べる事が多い。
ルルを連れてくればと思い、止めた。
ルルがいたら、ここまで来れたか怪しい。
「……この棚だな」
ランプで照らされた通路には、主にシャインの伝説的地理を書いた物が収められていた。
カノンは魔力の近づきがないかを調べながら、本の背表紙にランプの光を当てていく。
「……シャインのグルメ……薬草生息分布、違う。……幻の精霊神殿、これだ!」
目当ての本は一段と古めかしく、しかしどこか新冊のような手触りだ。
装飾や絵は一切ない。
全ては文字で記され、途中文法が間違っていたり、綴りが違ったりしている。
……とりあえず、キープだな。後でちゃんと返しに来るから……
カノンは一応の懺悔をしたあと、インスタントウィザードを発動し、すぐ内ポケットに入れる。
「……さて、次は……」
「……おい!あんた…………」
何!?
さすがのカノンも焦っている。
マントで顔を隠し、ランプを声の主の方に突き出す。
カノンは今まで声の主から魔力を感じなかったのだ。そして今も……魔力を隠すのは、相当の手練ならば可能だ。
ただし、大半の魔力は隠せても、魔力自体は消せない。
なのに、この人物からは魔力そのものを感じないのだ。
学園の人物ならば、魔力か、それに準ずる物を持たねばはいれないのに……
「……あんた旅人だろ?」
ようやく光になれ、人物の輪郭がぼんやりと見えてくる。
「お前は……あの時の!?」
そこに立っていた声の主は、地下牢で聞き耳をたてていた少年、ラザフォード・マインダスだった。
「……お前…………ホントにここの生徒か?」
これはカノンだ。
ラザフォードに言われた事を、意味的にほとんどそのまま返している。
「……お前からは魔力を感じない。最初は歌やジェスチャーなどで、魔力に近いエネルギーを出す術者かとも考えた。
だが、それすら感じない。お前は……一体……?」
すると突然ラザフォードは半ギレ状態となった。
「わかんねぇよ!なんで俺がこの学園に受かったのか!
魔法をずっと勉強しても、羽根一枚飛ばせないし、魔具も意味がない!
今まで落第にはなんなかったけど、次で確実だ!
……頼む、お前旅人だろ?なんか知ってるんだろ?頼むよ……」
よほど焦っているのだろう。最後はほとんど泣いていた。
カノンは頷き、ニヤリと笑うと、ラザフォードに近づいていく。
「先生はなんて言ってる?」
カノンがラザフォードに1メートルというところまで近づいた。
「……校長は何で退学にしないのかって…………」
「校長には聞いたのか?」
「聞けるわけないだろ?
僕は何時退学になりますか?なんて……」
「……ふむ。俺が魔法を教えても良いが……」
もうカノンの顔に微塵の焦りもない。
あるのは、腹黒〜い考えを持つ悪人の顔だ。
「物事を教えてもらうには、それなりの態度と対価が必要だと思わないか?」
「……金か?」
「……いいや、金じゃない。
制服、魔法学園の生徒の証しを貸してくれれば十分だ。今お前は着ていないが……」
カノンの考えはこうだ。
制服さえ着ていれば誰にも怪しまれず、注目も浴びず、放課後に堂々と調べられる。
制服とはいっても、自分の服の上に羽織るだけなので、着ていない生徒もいるが、着ていた方が目立たない。
ラザフォードが従いざるをえないこの取引は成功した。
「……放課後、チェロの安らぎ亭に来い」
それだけ言うと、カノンはラザフォードの脇をすり抜け、図書館から出ていった。
…………む?
ここは……?
次第に目の焦点が合って来ます。
えっと……あぁ、そうでしたそうでした。
確かカノンにいきなり殴られたんでしたね。
「……で、ここはどこですか?」
私は誰かに聞きますが、あいにくながら、この部屋には誰もいないようです。
ふかふかのベッド、明るい窓、それっぽいランプ。
これらから推察すると……
「宿ですかね?いえ宿じゃなきゃ嫌ですが……」
コンコン
「……失礼いたします」
ノックのあと、優しそうな男性が部屋に入って来ました。
この人を形容するのに一番適する言葉は……そう、ダンディー!
真面目です。変な人想像しちゃいけません。
ダンディーさんはティーカップとポットの載ったお盆を持っていました。
湯気が立ち上り、離れているのに、ふんわりと良い香りが漂ってきます。
ダンディーさんは褐色のお茶をカップにたっぷりと注ぎいれると、私に差し出してくれました。
「……カルラ様は街に出ました。ルー様はどうなさいますか?」
カルラは……カノンの事ですか。
たぶん学園に行ったんでしょう。
「……えと、ご主人、私は私で街を見て周りたいと思います」
宿のご主人はニコッと笑うと、そうですかと言い、部屋を出て行きました。
ああいうお父さんに、小さい頃憧れましたっけ……
「……さて、出かけますか……
……もう一杯お茶飲んでから……」
ここのお茶は本当に美味しいです。
ふんわりとした香り、ちょうど良い苦味、ほのかな甘味。
それがベストに絡み合い、絶妙なハーモニーです。
芸術品です。
これ位にしておきます。語れば長くなりそうですから。
「さて、行きますか……」
私はふかふかのベッドから降り、荷物を纏めます。
魔具はある。短剣も……ある。あとは……一応、魔札も持って行きますか……
いつもの黒のロングコートを羽織り、魔札を内ポケット、短刀を腰に装備します。
実はもう短刀はいらないんですが、念の為。
さぁ、どこかへ向かいましょう。
宿を出ると、そこは全くわからない場所でした。
う〜ん、どこへ行きましょう?
とりあえず、街の様子を観察しますか……
たぶんカノンは伝説の神殿について調べてるでしょうから……
「……で、街はどっちに行けば?」
ここは明らかに街って雰囲気じゃないです。どっちかって言えば、落ち着いた緑溢れる住宅地ですか。
む〜…………
決めた!こっちに行きましょう。
私が選んだ道は、木々が生い茂る細い土の道。
そりゃ太く石畳の道も有りますけどね。
それっぽくない方が正解って事は多々ありますからね。
きっと今回もその筈。
おかしいですね……?
もはや道ではない道になってきています。
もう森っていう形容が一番あうんですよ、風景が。
途中立て札に書いてあったのは冗談じゃなかったんですか?
“これよりヴィオルの森。熊に注意”
思いだすと、サァーっと血の気が引いていくのがわかります。
う、なんか気持ち悪くなってきました……
「……あれ?あなたは……」
茂みからの突然の声に驚き、私はいつの間にか腰の短剣の柄に手を持っていっていました。
そこにいたのは、亜麻色の長い髪をもつ、白のワンピースを着た女の子。
背丈は私と同じ位。
「……あなたは?」
ホッとした私は剣から手を離し、質問を返しました。
「私はルリ・カトレット。ルリって呼んで下さい。ここヴィオルの森を管理しています」
ルリ?どこかで聞いたような…………
どこだっけ?あ〜出てこない!イラつきますね。
「……それで、あなたは?」
「え……あ、はい。私はルル…………じゃなくてルーって言います」
バレましたかね?いやルルってちゃんと発音しなかったから大丈夫……のはずですけど……
「……ルル?へぇー“あの”ルル様と同じ名前なんですかぁ。
隠そうとしても、私は学園の生徒の端くれなんですよ?
幼なじみが音魔法をやっているので、耳は良いんです」
ルリさんとは仲良くやれそうですね。
学園の上着を私に見せようと茂みから取り出してく…………
学園ですと!?
「……ルリさん、ビーズさんをご存知ですよね?彼女が必死にあなたを探しています。
それから……私の名前はルーで通して下さいませんか?」
ルルの名前が街にバレると今後色々とやりづらくなるでしょう。
それだけなら良いですが、魔具やら翼やらが見られても隠し通せないかもしれませんからね。
「え?ビーズが?一体何で…………あ!」
ルリさんは何かを思いだしたのか、急にそわそわし始めました。
「……あの……ルーさん、教えていただいてありがとうございます!
では、行かなければいけないので!」
そう言うとルリさんは私の横を風のように駆け抜けて行きます。
数秒後には、森に再びの静寂が訪れました。
でもさっきとは違い、風に揺れる木々の枝の音や小さな小さな虫の音。森の声が囁いてきている、そんな静寂です。
「……あ!」
ふと茂みを見ると、そこにはルリさんの制服が……
きっと忘れてたんですね……届けてあげましょう。
「……で、学園はどこですか?」
緑溢れるヴィオルの森に私の無粋な声だけがよく通ります。
はぁ……
ピクッ……
ん?
何か変な感じです。うーん、なんて言うんでしょう?
見られてるというか……うーん……
私はとりあえず再び腰に手を伸ばし、柄を握りしめます。
「誰?そこにいるのは」
そのなんとなくだった気配は徐々に強く、大きくなっていきます。
それと同時に殺気というか……
鋭い針で肌をチクチク刺されているような……研磨された力を感じます。
「……あれ?バレちゃった?」
どこからか少年のような声が返ってきました。その出どころは全く掴めませんが……
その声のあどけなさが、逆に恐ろしい。
喜びの感情以外が欠落したようで、殺気を放っているのに……その声は喜びに満ち溢れています。
「……誰?姿を見せて?」
「まだだよ〜?まだまだ全然。アハハ!
ねぇボーっとしてていいの?早くしないと人がいっぱい死んじゃうよ?ねぇねぇ……」
いったい……どこから?
まるで森そのものから聞こえてくるようです。
「……ブリュタースル・ラ・ナリマナシル・ド・ヘクタス」
姿無き声の主は訳のわからない言葉を囁くように言いました。
すると……
シュッ……
森の木々が枝を次々と私に向け放ってきます。
まるで数多の敵を倒してきた熟練の兵士のようで、それが数百といるのです!
「ウ、ウインドカーテン!」
とっさに魔札を発動させ、初撃は免れましたが……
大気の幕のすぐ向こうでは枝についていた葉が風に吹き飛び、枝が削られ尖っていきます。
「そ……のむ…だよ」
よく聞こえませんが、そんなの無駄だよと言っているようです。
……なんとか逃げないと……
敵は強い。倒すのは時間がかかるし、何より私はもう殺さない。
この勝負、明らかに敵に分があります。今回、敵の勝ちはわかりませんが、私の勝ちは逃げ切る事。
ならば……仕方ないですね……
足を肩幅に開き、肩の力を抜き、一語一語しっかりと発音します。
「……我、契約者の名の下に命ず。我が古の頃よりの具をここに。出よ、蓮扇華!」
すると、どこから現れたのか、薄ピンクの扇が両手に収まっています。
……使うのは、2度目ですね……
私の真の武器、蓮扇華。
強すぎる力は逆に身を滅ぼしますから使いたくありませんが……
仕方ありません。
もうウインドカーテンも効果が切れるでしょう。それと同時に……空へ逃げます。木々が届かない、高みへと。
バシュッ……
唐突にウインドカーテンが破られます。弱りきった風は枝を簡単に通してしまったようです。
……スパッ
私はツーステップでそれを避け、体を反転させながら枝を切断します。
と、同時にもう片方の手でルリさんの上着をひっつかみ、今は見えない翼を思いっきり羽ばたかせます。
がしかし、木々に被われた森はすぐに反応し、これを遮り、退路を塞いでしまいました……
「無駄だよぉ?早くしないと……死んじゃうよぉ?」
またも姿無き声。
今度は四方八方、隙間無く枝が串刺しにしようと迫ってきます。
……右……次は左……くっ……こっち……はやいっ……
真正面から一本の鋭く巨大な枝が唸りをあげて突っ込んできます。
「……くっ!……蓮上風位、疾瞬舞風」
ジュジュジュジュジュン……
私を超スローで見れば古舞踊を踊っているように見えるこの疾瞬舞風。
自分の目にもとまらぬ超高速技です。
この技で相手を倒す事はできません。動きにより風の円を作り出し、攻撃をただ弾き返すだけ。
故に強く、絶対なる防御壁となるのです。
ピース先生の魔法指南書には、魔法だけでなく、体術についても書かれていました。
“人間で最も大切な知覚とは何か。多くの者は視覚と言うだろう。またそれに続いて聴覚という者も少なくないはずだ。
しかし、一番大切なのは触覚だ。音の振動を皮膚で感じろ。空気の流れを絶えず読め。さすればそれが心の目となる。”
この技は、この教えを持ってしなければ使いこなせません。
高速で弾き返し続けているため、音が連なり、コンクリートを金属が穿っているかのように聞こえます。
「……やるね。じゃあこれは?
マナリ・ア・ステル・ピクトナヤリム」
……ん?あれは……
声の主は油断したのか、ちらりと姿を現しました。
本当に一瞬でしたが……
その姿はどこかで見たことのある出で立ちで、私の心をざわつかせます。
一瞬なので確信は持てませんし、服装もこの国の紺の服。
しかし…………顔は境の国の者だと主張していました。
それも私が知っている……
ズザッ!
突如地面から突き出されたいくつもの木の根。
「キャッ……」
それを辛うじて避けましたが、左脚は……
太ももを鋭い槍のような根が貫通し、黒のズボンに血を染み込ませています。
「……こんな物っ!」
地面と繋がったままの根を真空の刃で切断。
しかしそれと同時に上からは枝、下からは根が一斉に……
逃げろ!今しかない!
頭の中で何かが必死に呼びかけてきます。頭蓋骨の内側を叩いているのです。
逃げろ!逃げろ!逃げろ!逃げろ!
激しい頭痛が私を襲い、脚の痛みを消し去ると、“何か”はドンドン強くなっていきます。
苦し紛れに、私は弱々しくも、ただ一言唱えました。
「……光よ」
唱えると、なんだか体がふわふわします。
体が軽くなったというより、体から重さがなくなったと言いますか……
でも……確認のために目を開けることすらできません。
瞼が重い……
血が抜けすぎたんですかね……
全身の力を瞼に込め、なんとか薄く瞼を開ける事に……成功。
うっすら見える緑色。
まぶしい程の白い光。
それらが凄まじいスピードで眼下を流れていきます。
なんだ……飛んでたんですね……
逃げ……切ったんでしょうか……
先ほどまで頭蓋骨の内側を叩いていた声は止み、ドン!ドン!と圧迫しています。
あぁ……これ……私の心臓の音だぁ…………
酸素吸ってないからかなぁ…………
あぁ……眠い…………
その瞬間、全身に強い衝撃を感じましたが、私の意識は落ちていきました…………
―――――――――――――――
ドサッ……
「ん?」
ラザフォードがヒョイッと窓から首を出す。
するとベランダには、一人の少女が倒れていた。
「な、なんだぁ!?」
ラザフォードの焦った声が薄暗い部屋に木霊する。
それも無理はない。倒れていただけでなく、着ている黒の服はズタズタのボロ雑巾のようで、顔にはいくつもの傷があったのだ。
ほんのり赤く染まった頬からは、鮮血が今なお垂れ続けている。
よく見ればジワジワとベランダの床が赤くなっていく。どこかに大きな傷があるのだろう。
「……と、とにかく誰か呼ばないと!」
ラザフォードは自分の魔法センスを自覚している。
普通の生徒なら、止血の魔法等を用いるだろうが、彼にはそれが出来ない。
彼は魔法自体が使えないのだ。
この学園に合格したのは何かの手違いでは、という噂も流れ、教師の大半は彼の退学を叫んでいる。
日に日にそれも強まってきているのだが、し数名の教師と、学園長は首を縦にふらない。
理由はわからないが、学園長は彼に何かを期待しているようだ。
「……えっと……ソフィー先生か、スワリス先生が良いな」
この二人は、先ほどのラザフォードの味方についている先生達だ。
ソフィー先生は精魔学を、スワリス先生は実戦訓練対魔法対武術の先生だ。
ラザフォードは二枚の赤い紙を取り出すと、せっせと折っていく。
数秒後に完成したのは、二機の紙飛行機だった。
「ソフィー先生、スワリス先生の下へ!」
ラザフォードは声を張り上げながら紙飛行機を飛ばす。
すると通常有り得ない速度、向きを目指して飛んでいく。どうやら紙に、もともと魔法がかけられていたようだ。
一機は窓を出ると垂直に地面を目指し、もう一機はすぐに反転して上階を目指す。
残ったラザフォードは、彼女を部屋に抱き入れた。
体に僅かに触れただけなのに、ラザフォードの手は血にまみれている。
「はやく来てくれよ……」
ラザフォードの願いの小さな呟きが、窓からの風にかき消されていく。
窓から突如強い風が吹く。
数枚の葉と共に茶髪のメイクをしっかりとしたスーツ姿の女が部屋に出現した。
名前はソフィー・ブロッサム。
まだまだ若いが、教える能力が卓越している。
と、同時に扉が轟音をあげ、蝶番ごと蹴破られる。
そのまま飛び込んできたのは、ネコミミが生えたピンクの服で全身を包んだ獣人族。
名前をスワリス・キャトルという。
「バカ!呼ぶなら鍵くらい開けとけ!」
容姿は女っぽい。いや女なのだが、男勝りの口調が特徴だ。
「まぁまぁスワリス。今はそんな事より……」
ソフィーはスワリスを諌めつつも、ラザフォードを見やる。
状況が良くわからないようだ。
「スワリス、あの子を医務室へお願い」
スワリスはソフィーに頷くと、ルルに手をかざす。
一瞬手から緑色の光がこぼれると、ルルの傷は綺麗に消え、僅かに赤くなっただけだった。
スワリスはルルを抱きかかえると、獣人の力をフルに発揮して目にも留まらぬスピードで駆けていく。
「……さてラザフォード。一体どういう事か説明してくれますか?」
ソフィーの顔は複雑だ。どこか悲しげですらある。
ラザフォードは視線を落とした。
「……この部屋にいたら、急にベランダから音がしたんです。で、見たら女の子が血まみれで……」
「そうじゃありません。あなたは何故こんなところに居たんですか?ここは生徒は立ち入りを禁じられた場所です。そこに鍵までかけて……状況証拠だけでは、あなたは処罰されますよ」
ラザフォードは納得がいかないと食い下がる。自分が気づかなければどうなっていたか、と……
「……では何をしていたんですか?」
ソフィーの鋭い質問が飛ぶ。
ソフィーはラザフォードを退学させたくないし、処罰もしたくない。ラザフォードの言葉を信じるつもりだった。
「……魔法の…………練習……
次で落ちたら、俺退学なんだろ?でも周りの奴らにバレたくないから……」
消え入るような声は、静かな教室でも聞き取りづらい。
ラザフォードは周りの者に魔法が全く使えない事を隠していた。
ものすごく下手だけど、一応使えるよう振る舞っていたのだ。
「……わかりました。あの少女のことは学園長に報告します。あなたの事は善処しますよ。
潔い風よ、彼の者を清めよ」
ラザフォードの言葉にソフィーは微笑みを浮かべる。
呪文を唱え、ラザフォードの血にまみれた手を綺麗にするとスーツのシワをただす。
「……ではラザフォード。また会いましょう」
「はい、先生」
ソフィーは挨拶もそこそこに、両の手でつむじ風をおこし、それに飛び込んだ。
バシュッという音とともに、その姿は消え、微風がラザフォードの髪を撫でる。
「……医務室いくか……
いや、いいか。今は……」
一人残ったラザフォードは何とか自分の中の魔力を見つけようと瞑想を始める。
本当は今すぐカノンのところに行き、色々教えを請いたいのだが、魔力がなくては話にならない、そう思ってずっとこの教室にいるのだ。
「…………」
サンサンと降り注いでいた日差しも雲に遮られ、暗鬱とした天気に。
まるで誰かの心中を表しているかのようだ。
―――――――――――――――
「……学園長、失礼します」
ソフィーは、巨大な絵画の前にたっていた。
夕日に映えるこの街の全貌を描いたもので、縦は3メートルはあるだろう。
一見ただの絵画だが、実はこれが学園長室の隠し通路だ。
教師と極一部の生徒にしか知られていない。
「……ソフィーか。入りなさい」
赤い絨毯が敷き詰められた静かな廊下に老人の囁きが流れる。
すると絵画の中の学園のある一部がうっすらと輝きを放つ。
それを目掛け、ソフィーは手を伸ばし、吸い込まれる。
空間移転魔術だ。
この絵は学園長が作った他の空間が圧縮され入っている。
だから城の中に学園長室はなく、絵画の中にあるのだ。
そしてソフィーはまた絵画の前にいた。この絵画は扉だが……
ここは絵の中。すべてが忠実に再現され、もちろん平面ではなく立体だ。
ただしこの空間には人は学園長と来客、つまりソフィーしかいない。
それ以外は完全に城を再現している。
「……失礼します」
ソフィーが手をかざすと、絵画はスライドし、真の学園長室が開かれた。
部屋の壁は本がぎっしり詰まった古めかしい本棚で埋め尽くされ、その上に何枚もの歴代学園長の肖像画が飾られてある。床には雑多な道具が所狭しと置かれ、槍やらクレイモア、蒼の楯やらが無造作に横たわっている。
そして明るい大きな窓を背景に、歴史の重みを感じる机が置かれている。
その革張りの椅子に座るのが学園長、レイス・マトナドだ。
白の柔らかなローブに身を包み、長い白髪白髭、顔に刻まれた深い皺は今までの苦労が伺える。
「……学園長、既にお聞きと思いますが、“侵入者”です。城の警備に引っかかる事なく南塔三階のベラムの部屋のベランダまで……
発見者はラザフォード、あのラザフォードです」
ソフィーの真剣な口調表情が、レイスの柔和な微笑みを消し去る。
「ふむ…………その侵入者を見たままに聞かせてくれるかの?」
レイスは組んだ手に顎を乗せ、考え込みながらソフィーに頼む。
「血だらけでした。……強い魔力を感じましたが、その体に生気はなく、死にかけていました」
「……ソフィーや、そうではない。
その者の姿形、雰囲気やら特徴を教えて欲しいのじゃ」
「あ、はい。
えと……14歳くらいの少女で黒いロングコートを着ていました。雰囲気としては……庶民の子ですかね?
そのコートはボロボロになり、砂埃が血で固まっていました。
髪は黒いサラサラショート。顔は軽く日焼けしていました」
事細かに覚えているのはソフィーの頭の良さもあるだろうが、ファッションに関しては彼女はうるさい。
元々はそっちの道に進もうとしていたのだが、レイスが直々に頼みこんだのだ。
レイスはソフィーの言葉に満足したようで、何やら指を回し考え込んでいる。
「う〜む。その少女は……恐らく侵入者ではない。
何かの事件に巻き込まれて逃げてきたのじゃろう。
3階というのも、風属性ならば有り得ない高さではない。
第一、風属性の君が一番良くわかっているのではないかな?」
レイスの安心させるような声も、ソフィーには今一つ届かない。
「でも!3階なんて相当の力がないと。
あんな少女に……
例え、彼女にその力が有ったとして、何であんな傷だらけに?」
「……それはあの少女にしかわからないじゃろう」
レイスはソフィーのこの態度を理解していた。
彼女はラザフォードを信じたいのだ。
侵入者を手引きしたのがラザフォードではないかと一瞬でも疑いたくないから。
「医務室にいるのじゃな?あとで赴くとしよう。
さぁさぁ、ソフィー。授業が始まるぞ?」
レイスは、この話は終わりと言わんばかりに立ち上がる。
そのまま机の脇にある羽ペンを摘み、姿をくらましてしまった。
彼が作った空間だから出来る技だ。
「……」
ソフィーも黙ったまま来た道を引き返す。
「ラザフォード……彼はそんな事しないわ……第一なんの得があるというの?
そう、教師が生徒を信じなければ誰が信じるというの?」
独り言のように言い聞かせると、ソフィーは再び風にのり、消えていった。
ドサッ……
僅かな風が棚を揺らし、一冊のファイルが落ちた。
タイトルは、魔のなき少年。
そこにはラザフォードの顔写真と事細かなデータが書き込まれていた。
―――――――――――――――
チェロの安らぎ亭前の道。
ラザフォードはここにいた。
カノンに言われた通り、来たのだが、今は授業時間中。
コソコソ隠れながら中の様子をうかがっている。
「……ったく。今日は色々起こり過ぎだぞ」
ここに来て早15分。ラザフォードはバレてないつもりらしいが、道行く人はその存在感に全員気がついている。
「……あ、いたな」
ようやく受け付け付近にカノンがいるのを確認すると、小走りに宿へ入っていく。
ガチャ……キィー…………
ギシギシなる木の階段を登り、そっと扉を開いたつもりだが、派手な音が出てしまい、中にいた人はみんな気がついた。
「なんだ、遅かったな」
そう言いながらカノンはラザフォードに近づき、外に出るよう促す。
「……色々あったんだよ」
「そうか。てっきり誰かに見つかるのが怖くて隠れているんだと思ってた」
……あんなバレバレな隠れ方じゃ、むしろ気づいて下さいと言っているようなもんだ。
「……あぁ」
ラザフォードはうなだれている。
「まぁお前がそんな力を使う事はないから。
どこかに静かで人が来ない、ある程度騒いでも迷惑のかからない場所ないか?」
さらりとカノンは酷いことを言う。
だがラザフォードはそれに気がつかない。
「……静かな場所……う〜ん。
あ、そうだ。俺んちの地下室は?」
ラザフォードに曰わく、彼は一人暮らしで、けっこう広い地下室を持っているらしい。
「うーん、まぁいいかな。じゃ急ぐぞ」
言うやカノンは音もなく、あの階段を降りていく。
「……?音ならないのかな?」
その様子をみたラザフォードはソッと階段に足を延ばす。すると……
ギィー……
一人悲しみを浮かべるラザフォードだった。
「……おい、速くしろよ」
カノンはといえば、腕を組み、イライラと足をタップしている。
「悪い悪い。じゃぁ、行くか。
結構近いけど、道が複雑だから迷うなよ」
もう日も落ちる。
路地裏は危険だと言いたかったんだろうが、カノンには要らぬ心配だった。
歩くこと10分。
赤い屋根を持つ煉瓦造りの大きな家に到着。
この大きさに一人暮らしとは……
「お前ホントはお偉いさん?」
実はカノンもだが、ラザフォードは知らない。
「いや、親に捨てられたんだけど、拾ってくれた二人とも実験中に死んじゃってさ」
……遺産全部受け継いだのか……
ここは上流階級の家が立ち並んでいる。拾ってくれた親は相当高位な人だったのだろう。
「……じゃぁ入ってくれ」
そういうとラザフォードは今までで一番自信を持って歩きだした。
自分の家だから当然だが……
「こっちだ。暗いから足元気をつけろよ」
「あぁ」
玄関横の地下への階段は暗く、とても急だ。
ラザフォードが壁につけられていたボタンを押す。
するとボーっと明るくなっていった。
階段は数メートル下で終わっている。
明るくなったおかげで視界が開け、上から見ただけでもかなり広そうな空間が広がっているのがわかる。
「始めるぞ……」
カノンはポケットから白のチョークを取り出し、躊躇なく石の床に円を書いていく。
他人の家だということはお構いなしだ。
「……すぐ終わるから」
ラザフォードが黙っているのを、違う意味で勘違いしているようだ。
そのまま黙々と幾何学的図形を円の中に書いていき、外側によくわからない象形文字を書いていく。
「……よし、できた」
最後にきちんと確認をしたカノンは満足そうに頷いた。
出来た円は直径5メートル。全てが点対称で描かれている。
カノンはチョークをしまい、手を叩きながらラザフォードを見上げた。
「……終わったらちゃんと消せよ?」
ラザフォードは落胆しつつ念を押した。
「大丈夫。終わったら自動で消えるから。
んな事より時間がない。さっさとこの円に入れ。
強制的に魔力を引き出すから」
ニヤリと悪魔の笑みを浮かべる。
その笑みに絶対に何か裏があると、ラザフォードですら思った。
「はぁ……」
ラザフォードはしぶしぶながら円に入る。
「……んじゃ、そのまま動くなよ?」
カノンはおもむろに袖を捲り上げ、一本の鋭利なナイフを取り出した。
白い肌にナイフを当てる。
そしてそのまま顔をしかめながら、スッと3センチほど切り裂いた。
赤い血がタラタラと伝い、指先から血が落ちる。
「……あ〜痛かった」
「おい!大丈夫か?」
ラザフォードは恐れるように血を見ている。血が怖いのだろうか?
「あぁ?いいんだよ。
ほら始めるから」
カノンの魔力結晶は血だ。
生命の象徴であり、最も希なる水。
カノンがわざわざ血を出したのは魔力をより強化するため。
カノンは手を円の中に入れ、体だけ外にだした。
「……迷える少年のため、我が血を捧げます。
水よ、深海に生きる者の力を。
力の御加護をお恵み下さい」
血が円の中に落ちる。
と、同時に蒼い輝きが生まれた。
「……なにか感じるか?」
カノンは円の中にいるラザフォードに問う。
だが、ラザフォードは平然と、先ほどと変わらない顔でキョトンとしている。
「……マジで?」
カノンは半分呆れている。
今カノンが使用している呪文は強制的に魔力を引き出すもの。
それで魔力が感じられないのは……魔力がない境の国の者か……もう一つ。
それは限り無く0に近い可能性だ。
だが、全ての結果がその可能性だと証言している。
「……お前は魔法使いじゃないな」
これにはラザフォードも呆然としている。
一応の自覚はあっただろうが、はっきり言われたのは初めてらしい。
「でも俺に会ったのは人生最高の幸運だ。
お前が使えるのは魔力じゃない。“気”だ」
ラザフォードが魔法を使えないのは魔力とは相反する気が働いているからだ。
そもそも陰の力を陽の力しか持たぬ者が使えるわけがない。
つまり、ラザフォードの根源は魔力ではないのだ。
魔力が精神の力だとすれば、気は身体の力。
ラザフォードは魔法使いではないということだ。
「……じゃ……俺はどうすれば…………」
話を聞いたラザフォードは膝をついた。「だから俺に会ったのは運が良かったって言っただろ?
俺はかなりレアな能力でな。魔力も気も扱えるんだ」
「じゃぁ、気の使い方学べば……」
ラザフォードは顔をほころばせている。
その様子にカノンは微笑みながら頷いた。
「……俺……まだ終わっちゃいないんだ!」
今までの苦労から解き放たれたように、ラザフォードからは力強いパワーが感じられる。
きっと魔力にばかりが頭がいき、知らず知らず気を封印していたのだろう。
結果何も出来ない少年になってしまったのだ。
……もし校長が知っててコイツを入学させたとしたら…………一度会っとくべきだな。
「喜ぶのはここまで。さっさと気の扱い方を教える。
ただし、俺も我流だ。つーか身体はみんな違うから、それぞれ感覚も違うんだ。
ほとんどお前も我流になると思う。
だが、やれるべき所まで教えるから」
「よろしくお願いします、師匠!」
ラザフォードは格闘家のようなノリだ。
あながち間違いではないが……